プロローグ『その名はブレイズ』
赤く燃える空の下、烈火・シュナイダーの故郷は炎に飲まれていた。
轟音が大気を裂き、爆風が幼い烈火の赤い髪を乱暴に揺らす。
目の前で、家が崩れ落ちる。
木材が燃え、鉄が溶け、家族の笑顔が灰に変わる。
「怖いよ、烈火……!」
年の割に豊満な胸を震わせ、幼なじみの兎歌・ハーニッシュが烈火の腕にしがみつく。
桜色の髪は煤に汚れ、涙で濡れた桜色の瞳が恐怖に揺れていた。
ズドォオン!
遠くで爆発が響き、夜が昼のように明るくなる。
空を切り裂くのは、巨大な戦艦の影と、巨人のようなコマンドスーツ。
鋼の残骸が火花を散らし、飛んできて地面に突き刺さる。
その瞬間、烈火の家も、兎歌の家も、瓦礫の山と化した。
戦争だった。
東武連邦、シグマ帝国、ノヴァ・ドミニオン───巨大国家が世界の覇権を奪い合うその余波は、小さな国の小さな街を無慈悲に飲み込んでいた。
烈火は大国に生まれなかった。
踏みつぶされ、焼かれる側に生まれたのだ。
科学は進化を遂げ、無尽蔵のエネルギーと資源を生み出した。
コマンドスーツは大地を踏み砕き、空を支配した。
だが、どれだけ技術が進もうとも、人間の欲望は変わらない。
領土、資源、支配――そのために血が流れ、命が散った。
「烈火……ッ」
「逃げるぞ!」
兎歌の声が震える中、烈火は小さな手を握り、走った。
焼け焦げた大地を、爆音と悲鳴を背に、ただひたすらに走った。
バキッ!
その時、兎歌が何かに躓き、転ぶ。
烈火が振り返ると、兎歌の足元に転がっていたのは、血に塗れた腕。
見覚えのある服……それは、いつも「対話こそが大事だ」と笑っていた隣人のもの。
「……」
烈火の瞳が燃えた。怒りと憎しみが、心の奥底で渦を巻く。
───もう、こんな目に遭うのはイヤだ。
───巨人の足元で這いつくばるのは、踏み潰されるだけの人生は、もうイヤだ。
「戦ってやる……!」
幼い声が、炎と煙の中で響いた。
~~~
ガバッ!
烈火は目を開けた。
汗が額を伝い、荒い息がコックピットに響く。
「ハァ……ッ、ハァ……ッ」
18歳になった烈火・シュナイダーは、かつての無力な少年ではなかった。
目の前には、炎じみて赤いコマンドスーツ『ブレイズ・ザ・ビースト』のコンソール。
かつてあれほどに願った力が、今、彼の手の中にある。
と、電子音が耳に届いた。
『作戦区域に反応、3機確認。東武連邦、シェンチアンと推定』
やけに可愛らしい音声が、コックピットの静寂を破る。
烈火の唇が、獰猛に吊り上がった。
「さぁて、やろうぜ、相棒」
烈火の指が操縦桿を握り、ブレイズのプラズマリアクターが低く唸りを上げる。
『システム正常。アニムスキャナー接続良好。ブレイズ、起動します』
キィイイイ───ッ!
赤い機体が目を覚まし、灰色の空の下で輝きを放つ。烈火の瞳に、かつての炎が宿る。
世界を相手に挑む戦いが、ここから始まる。
ロボの外観を文字で伝えるのが難しすぎるので、ガンダムブレイカー4で再現したものを載せています。
(完全に再現できてるわけではない)