第一話『初の訪問』
☆★☆ 仮装 ☆★☆
文化祭での仮装大会の結果は、全学年を通して、まさかの準優勝だった。
学年別では1位。大満足の結果だった。
俺は、今日の自分の演技を学童で子供たちに見せる。
その事を友人たちに話したら、何故かみんなも一緒にやりたいと言い出して、文化祭で演じた内容を変えることなく、そのまま学童たちに再現して見せる事になった。
俺以外にも4人も中学生が来たことで、学童たちは一瞬固まったが、仮装演技が始まると大喜びしながら観てくれた。
本番のような緊張感が無かったからか、俺たちは文化祭の時よりも上手く演じられたような気がする。
終了後友人たちが
「お前が楽しいって言ってた意味が分かったよ。子供たちって素直だしめちゃめちゃ可愛いな」
そう言ってくれて、俺は嬉しかった。
「楽しかった」
友人たちとの絆が少し強くなった。
☆★☆ じいちゃんの策略 ☆★☆
最近は、じいちゃん主導で学童保育が進められている。
収穫の秋が来た。
稲刈りから脱穀・精米まで、じいちゃんの解説付きで見学した。
週末の金曜日「お母さんへのお土産だ」と言って、とれたての新米をそれぞれ3合ずつ持ち帰らせた。
昔、自主流通米を個人販売する為に用意した試供品用の紙袋。
『野村農園』のマーク付き。
さらには我が家の住所と電話番語がプリントされている。
わざわざその紙袋を使う所に、何となくじいちゃんの商売っ気を感じた。
☆★☆ じいちゃんの学童 ☆★☆
冬休みだから、THE5人組がまた、当たり前のようにここにいる。
今年から、じいちゃんの強い希望で、質素ながらも『クリスマス会』をやる事になった。
空手の稽古も今後は15分ほどで終わる初心者用の『型』を日課に組み込んで、強制はしないが毎日行う事になった。
☆
そして12月30日。
この日は、今年最後の学童保育。と言う事で『学童忘年会』と銘打った行事を行った。
今年一番面白かった事や楽しかった事などを発表してもらう。
他にも、好きな野菜や嫌いな野菜。
好きな食べ物と嫌いな食べ物。
好きな動物、好きな色、好きな遊び。
最後に「好きな人は?」
みんなが『先生!』と俺の事を好きだと言い、冬子ちゃんも『おにいちゃん』と言ってくれた。
じいちゃんは「やはりまだ冬二には及ばんか……」と渋い顔で呟いていた。
☆★☆ 初の訪問 ☆★☆
12月31日、大晦日。
今年の学童保育はもう終わった筈なのだが……
午前中の我が家、しかも母屋の居間に、冬子ちゃんと母親の雪子さんがいる。
「この地に親類がいない『野村雪子』さんと娘の『冬子』ちゃんだ」
父と兄に冬子ちゃん母娘を引き合わせたのは、じいちゃんの差し金だ。
「おう。冬二から話は度々聞いている。ゆっくりしていけ」
ぶっきらぼうな父、夏樹は特に変わらず平常運転だ。
だが、兄秋一は落ち着かないのか、台所に避難してしまった。
二人とも、おもてなしと言うか接客にはこれっぽっちも向いていない。
じいちゃんは一体何を考えているのだろうか?
☆★☆ 俺の部屋に ☆★☆
「冬子ちゃんや、冬二の部屋を見たくはないか?」
突然じいちゃんがそんなことを言い出した。
「夏樹、雪子さんの事で、ちと真面目な話がしたい」
父と何か話がある?
つまり、ただ遊びに来ただけではないと?
「わかった。冬子ちゃん、俺の部屋で遊ぼ?」
「いいの? やったー」
冬子ちゃんが喜んでくれるなら、俺の部屋がたとえ穴だらけにされたとしても文句はない。
まあ、冬子ちゃんはコーギーやシベリアンハスキーなんかじゃないし、女の子としても大人しい方だから、全くそんな心配はないのだが……
見られてやばいものとかちゃんと片付けてたっけ?
☆★☆ 探検からの日常 ☆★☆
「あ、ぱそこん!」
「冬子ちゃん、パソコンを知ってるの?」
「うん、うちにもあるよー、ピンクののーとぱそこん」
なんだか馬小屋探検の時を思い出すな。
「じゃあ、冬子ちゃんの気になるものを探検して、探し出して見て」
こうして俺の部屋探検が始まった。
「これはなあに?」
「鉄アレイだよ」
「重いね~」
「体を鍛えて腕や肩の力を強くするための道具なんだ」
「じゃあこれは?」
「ハンドグリップだよ。手の握る力を鍛える道具なんだ」
「おにいちゃんって力が強くなりたいの?」
「そうだな~、うん。弱いよりは強い方がカッコいいからな、強くなりたいかな?」
俺の部屋は広いわりに物が少ない。
だから探検はすぐに終わる。
「お兄ちゃんはすごく強いよー」
だからだろう。
学童にいた時のようないつもの雰囲気になって、冬子ちゃんが俺に抱き着いてくる。
俺は俺でちょっとはしゃいでるのだろう。
「高い高~い」
普段はやらないような、体力を使うコミュニケーションまでして、
「天井に手が届く~」
冬子ちゃんと遊んだ。
☆★☆ 自首をするなら ☆★☆
高い高い。
肩車。
おんぶ。
お姫様抱っこ。
一通りスキンシップを楽しんでいると
「おにいちゃん大好き~」
そう言って冬子ちゃんは俺に頬ずりしてきた。
そんな冬子ちゃんを俺も抱きしめて、ギュウギュウと頬ずりしていたところに兄が入って来た。
「冬二ちょっといいか……」
兄が、俺たちを見て目を丸くした。
兄は父に似てイケメンである。
美人な母親の遺伝子も受け継いでいるためか、父よりもちょっとだけイケメンだ。
身体だって大きく頑丈で、気も強いし喧嘩だって強い。
そんな兄が俺たちを見て固まった。
俺たちは、普段よりもちょっとだけはしゃいではいるが平常運転である。
だが、兄にはどう見えたのだろうか。
「……自首するならついて行くぞ。今ならまだ間に合うから、な?」
俺は少しだけ恥ずかしくなったが、冬子ちゃんは兄を見て人見知りモードを発動。
絶対に離れない!というオーラを出して、俺にしがみつく力を強くした。
さて、兄にはどう説明したら分かってもらえるかなあ……




