約束を交わす
「ーーあれ? 寝てる」
カーテンを開けると、正人君は座ったまま机に寝ており、その下に手紙みたいなものがあった。誰に書いているのか気になった俺は手を飛ばすと、気配を察した正人君は、ゆっくりと頭を上げ俺に気づく。
「...ん? 誠?」
初めて名前で呼ばれ驚きながらも喜びを感じた。
目を擦りながら俺の存在を徐々に確認し、俺の目線の先にある手紙に気づいた正人君は、慌ててテレビ下の引き出しに入れた。
「誰に手紙書いてたの?」
「あ、ああ。ちょっとな」
目を泳がせながら誤魔化す正人君を、不思議に思いながらも話題を変えた。
「ふーん。ね、さっき俺の名前呼び捨てにしてたこと気づいてた?」
「え!?」
「そのまま俺のこと誠って呼んでよ。俺も、正人って呼んでいい?」
「...好きにしろ」
ダメだと言われると思ったが、予想外の言葉に嬉しくなり、遠慮なく正人と呼ぶことにした。
そして今日は、俺の好きな海の話をした。
「海ってさ〜 波が日によって高さが違うし、天気が良ければキラキラしててね」
「...へぇー」
また外を眺めながら、聞いているのかわからない返事をした正人だったが、沈黙の後続けて言った。
「海...もう一度見てみたいな」
窓の外を見ながら遠くを見つめ、瞳がゆらゆらと揺れていた。俺にはその姿が悲しく映ってしまい、なんとか元気づけようと未来の話をする。
「病気が治ったら一緒に行こう! 俺のお気に入りの海連れてってあげる」
「...誠と一緒に行ったら楽しそうだな」
俺との未来の話に正人は無邪気に笑う。今日はやけに素直だし良く笑うなと俺は喜びに満ちた。
「俺も正人と一緒に行けたら楽しいだろうな〜。 もうそろそろ夏になるから泳げるし、花火もできるよ」
「絶対連れて行けよな」
「もちろん! 約束するよ」
俺達は強く...強く約束を交わした。