友達の距離
俺も学校が忙しく、集中治療室に居ると聞いたあの日から病院へ行けたのは一週間後だった。
その間、学校の時も家にいる時もソワソワしながらこの日を待っていた。
今日はいるのかと心配になりながらも部屋の前に行くと、壁のフダに名前が記載されているのを見た俺は、急いでカーテンを開けた。
「...うるさいなー 静かにしろよ」
「ーーよかった! 生きてた...!」
正人君は眠っていたらしく、目を擦りながらいつも通りの態度をみせた。
久しぶりに見る正人君は、前よりも痩せ細っていた。
「勝手に殺すなよ。生きてるっつーの」
「もう大丈夫なの?」
前より痩せ細っている姿を見て、俺の不安は拭いきれない。なんならもっと不安が増したが、俺の心配する姿に、正人君は目をパチクリさせ首を傾げた。
「なんでお前が心配してるんだ? 親しくもないのに」
「え⁉︎ もう俺たち友達じゃん」
「...友達? おれとお前が?」
「そうだよ! 正人君がなんと言おうと友達だよ俺たち!」
自分で言っておきながら、『友達』という言葉に違和感を覚えるが、俺はその違和感の正体にまだ気づけずにいた。
「ーーふっ 仕方ないな 友達になってやるよ」
「笑った... 初めて見た! 正人君の笑った顔!」
「うるさいっ 笑ってない!」
いつも眉をひそめるか、不機嫌な顔をしている正人君が、意地悪な笑顔を見せてくれた。その顔が新鮮で可愛かった。
身を乗り出して顔をじっと見ると、色白の正人君は、わかりやすく顔を真っ赤にし布団へ潜り込んだ。
「ちょっと! 顔が見えないよ〜!」
布団を引っ張って顔を見せるようお願いするが、細い腕からは想像できない強い力で阻止される。
「見なくていい! これ以上やると出禁にするぞ!」
「それはやだ! もう言わないから顔見せて」
「...ほんとだな? 信じるぞ?」
隙間から小さく疑いの目を向けられ、信じてくれるよう首を大きく縦に頷く。
すると、正人君はゆっくりと布団から顔を出し座り直す。
♢
一週間分を埋めるように話し込んでいると、正人君の昼食の時間になり、俺は食べているところを隣で見ていた。四〜五口食べたぐらいでお箸を置く正人君に、目を丸くする。
「もう食べないの?」
「お腹いっぱいだ」
「え!? 全然減ってないよ」
本当に満腹そうにしている正人君に戸惑っていると、病院食を俺の方へと寄せてきた。
「食べるか?」
「俺病院食苦手...」
苦い顔をしながら首を振って断る俺を見て、正人君も納得したような顔をした。
「たしかに味とか薄いよな。もう慣れたけど」
俺の方へと寄せられた病院食を、もう一度正人君の方へと寄せ、食べてくれるよう諭す。
「ほら! もうちょっと食べよう? 身長大きくならないよ?」
「...ほら、食べさせろ」
冗談で言ったつもりだったが、正人君自身身長のことを気にしていたのか、俺の言葉を素直に聞き入れ口を開けながら食べさせてくれるのを待っている。
「自分で食べなよー」
なんて困りながら言うが、俺の手は素直に口元へと動いていた。
今思えば、俺は焦っていたかもしれない。
どんどん痩せ細っていく君が、いつの間にか俺の前から、消えていなくなってしまうんじゃないかって。




