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病室のすみで  作者: 高美
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仲良くなる一歩手前

 葬式を済ませた数日後、俺は正人君に会いに病院へと来ていた。五階のボタンを押し、緊張しながら部屋まで歩いていく。


 カーテンの前まで行き、緊張を吹き飛ばそうとゆっくりと深呼吸しカーテンを開けた。

 

「こんにちわ! 正人君!」


「...何でいるんだよ 

 もう来る予定もないだろ」


 緊張を隠すように出来るだけ明るい声で挨拶すると、正人君は俺の顔を見て、すぐに不機嫌な顔になった。それでも構わず、俺はベットの横にある椅子へと座った。


「正人君のお見舞いに来た!」


「いらねー帰れ」


 すぐさまそう突き放して、窓から見える外を眺め直した。正人君の視界に入るよう、窓の方へと席を立って移動する。


「そんなこと言わずにさー! 何か食べたいものある? 買ってくるよ」


 突然視界に入ってきた俺に、また目を背けるかと思いきや、綺麗な茶色い瞳に俺の顔が映し出され、目を真っ直ぐ見つめてきた。


「お前、お爺さんとしつこさ似てるな」


 真っ直ぐ見られたことで心臓がドキッとしたが、もうこんな機会二度と訪れないんじゃないかと思った俺は、意地でも目をそらさなかった。


「お爺ちゃんの血も流れてるからね」


 目を逸らさない俺に居心地が悪くなったのか、先に正人君が目線を下にさげ、テーブルの上に肘をつきため息をつく。


「嫌な部分似やがって。解放されたと思ったら次はお前かよ」


ーー綺麗な顔して口が悪いな。


 なんて心の中で呟きながら椅子の方へと戻った。

そして俺は、一番知りたかった事を切り出した。


「...ねぇ 正人君はどんな病気なの?」


「絶対に教えない」


 はっきりと断られるが、教えてくれないだろうと予想はしていたのですぐ話題を変えた。

 

「そんな〜! じゃあ、誕生日は?」


「...7月21日」


 俺のしつこさが勝ったのか、渋々血液型や、出身地、家族のことなどを教えてくれた。年齢は俺より一個下の15歳の高校一年生。三ヶ月後に16歳の誕生日がくることが分かった。正人君からは俺のことを聞いてくれないので、自ら自分の話を事細かく話すが、聞いてるのか聞いてないのか、ずっと外を見たまま一度も顔を合わせなかった。

 たまに、『へぇー』という上っ面だけの返事をするぐらいだ。

 

 空がオレンジ色に染まった頃、もう帰らなきゃと席を立つ。


「じゃあまたくるね!」


「もう来んな」


 なんて言ってシッシッと手であしらわれるが、その言葉に本気さは感じられず、俺は次の日も、そのまた次の日もお見舞いに行った。






 

 そんなある日、五回目のお見舞いに行った時だった。


「あれ? 正人君がいない」


 部屋に入り、窓際のベットへと目を移すと、いつもは閉まっているカーテンが、今日は全開に開いていた。そしてそこに正人君の姿はなかった。

 すると、近くでベットのシーツ交換をしていた看護師が俺の方へと向いた。


「あら? 正人君のお友達? 正人君なら集中治療室にいるわよ」


「え...そんな悪いんですか?」


 集中治療室って、そこは重病患者が行くところだ。もう生きられないんだろうかと不安に襲われる。


「そうね...今は様子見ってところだけど良くなればまた戻って来られるわよ」


「面会ってできるんですか?」


「ごめんなさいね 面会できるのはご家族だけなの」


「そうですか...わかりました」


 申し訳なさそうにする看護師に軽く頭を下げ、正人君の事が心配になりながらも家に帰った。


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