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悪役令嬢ですが、原作の男主人公と寝てしまいました~どうして私が愛されてるんですか?~  作者: 春乃りぜ


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1 転生先は悪役令嬢でした

エレニア・キルパトリックは、今まさに窮地に陥っていた。

すぐ横では、見目麗しい銀色の髪の男性が微笑んでいる。



彼女は広いベッドの上にいた。

素っ裸で、上半身裸の男性と。



彫刻のように美しい鍛え上げられた腹筋。エレニアの顔が真っ赤に染まった。

彼女はできるだけ直視しないように布団で顔を隠した。



そんなエレニアの反応を、彼は面白がるように口角を上げた。



「何を恥ずかしがっている?昨日あんなに深く愛し合っただろう?」



愛し合ったと言われても、記憶にございません。

エレニアを言葉を返すことができず、黙り込んで俯いた。

なぜ、このような反応になるのか。



彼の名前は、レイモンド・パーシヴァル。

名門パーシヴァル公爵家の当主であり、前世で読んだ小説の男主人公。



しかし、ヒロインは私ではない。

私はヒロインどころか、彼らの恋路を邪魔する悪役令嬢だ。



男主人公が悪役令嬢と一夜を共にするとは、一体どういうことですか―――!?




***




───エレニア・キルパトリック。

名門キルパトリック公爵家の長女であり、別名社交界の華と呼ばれるほどの美しさを持つ女性。キルパトリック公爵家といえば、北に広大な土地を保有する家門だ。



しかし、そんな麗しい見た目とは対照的に性格はお世辞にも良いとは言えなかった。

幼い頃から我儘で周囲の人間を困らせ、気に入らないことがあるとすぐに八つ当たりする。

彼女の横柄に耐えかねて辞めていった使用人もいたほどである。



だが、エレニアは自分の性格のことなど気にもしていなかった。

自分は公爵家の令嬢なのだから、どれだけ我儘を言ってもいいと、そう思っていた。



───悪役令嬢に転生したことに気が付いたのは、十五歳の頃だった。



「あれ……ここどこ……?私、車に轢かれて死んだはずじゃ……」



ある日の正午のこと。

エレニアはいつものように外の庭を散歩していた。



今日の彼女はいつもと違う靴を履いていた。かつてお気に入りだった、今はもうサイズの合わない靴。

侍女に足が痛くなると言われて反対されたものだったが、エレニアは聞き入れなかった。



そんなふうに傲慢な態度を取り続けていたのがいけなかったのだろうか。

まるで天罰が下ったとでもいうかのように、足の痛みでふらついていたエレニアはそのまま庭の池に落ちてしまった。



「キャー!お嬢様!」



沈み行く彼女に、侍女が慌てて手を伸ばす。

薄れゆく意識の中で、彼女は死を覚悟した。



そのとき、エレニアの中に知らない記憶が流れた。



(何これ……私……?いや、違う、そんなはずは……)



こことは全く別の世界で暮らす一人の女性。

彼女の顔には、なぜか見覚えがあった。



友達もいない、彼氏もいない。親兄弟とも疎遠。

毎日のように朝早くに出勤しては、夜遅くに家に帰る。仕事漬けの日々。趣味と呼べるものも存在せず、唯一あるとすれば寝る前の数十分、アプリでライトノベルを読んでいるくらい。



仕事ばかりしていた彼女の最期は、あまりにも呆気なかった。

激務で疲れ果てていた彼女は、車が自分に向かって来ていることに気が付かなかった。



相手のドライバーは無免許の飲酒運転だった。



「キャー!!!人が轢かれたわ!!!」



気が付けば数メートル跳ね飛ばされ、意識が朦朧としていた。

目の前に広がる真っ赤な鮮血と、こちらに駆け寄ってくる人々を最期に、彼女はゆっくりと目を閉じた。



あぁ、私を気にかけてくれる人はいたんだなと、僅かながらに人の温かみを感じながら。



(……どうして胸が痛むの?)



エレニアは不思議な感情に支配されていた。

他人を気にかけることなんて滅多になかったはずの彼女だったが、なぜか今見た人のことはなかなか頭から離れなかった。

変だな、知らないはずなのにどうして他人とは思えないんだろう。



しばらく長い夢を見ていた彼女は、ようやく現実に引き戻された。



「───エレニアお嬢様!」

「……ッ!」



そこで、エレニアは目を覚ました。

彼女は広い部屋のベッドに寝かされていた。



(あれ……?ここどこ……?私、何してたんだっけ……?)



大きなシャンデリア、アンティーク調の豪華な家具、壁に飾られた貴婦人の絵画。

少なくとも、自宅でないことは一目瞭然だ。



そしてすぐ傍では、メイド服を着た女性たちが、慌てた顔で自身を見下ろしている。

彼女たちはおそるおそるエレニアに尋ねた。



「エレニアお嬢様……大丈夫ですか……?」

「え、エレニア?」



私のこと?と彼女はきょとんとした。

なぜか侍女たちがビクリと肩を上げた。

その反応は何?喋っただけで失礼では?



エレニアは今自分が置かれている状況に理解が追い付かなかった。

ここは夢の中か、それとも天国か。



あれだけの出血量だから、きっと無事ではいられないだろう。

神様が不遇な私を憐れに思って夢の中に連れてきてくれたのかな。



そう思っていたエレニアは、窓ガラスに映る自分を見て絶句した。



「え!?誰あれ!?」



そこに映っていたのは、金髪碧眼の超絶美少女。

ロマンスファンタジーもののヒロインでもやっていそうな見た目。

腰まで伸びた美しい金色の髪に、宝石のような赤色の瞳。真っ白できめ細かい肌、ぷるんとした薄紅色の唇。

年の割には背が高く、胸も大きい。



まだ成長段階ではあるが、あと数年もすればとんでもない美人になるであろうことが目に見えている。



(見たことあるわ、前世で読んだラノベの表紙でこういう子!)



まさに異世界恋愛物語に出てくるヒロインの姿だ。



「わ、私…………転生してる!?」

「お、お嬢様!?何を言ってるのですか!?」



少しずつエレニア時代の記憶を取り戻した彼女は、ようやく今の状況を把握することができた。



(やっぱり、神様はちゃんと存在していたんだわ!)



エレニアは転生を素直に喜ぶことができた。

自分がこんな超絶美少女に転生しただなんて、なんて運が良いのか。



絶世の美女とも呼べるほどの見た目に加え、裕福な家庭のお嬢様。

なんて恵まれた身分なのだろう。



前世では縁がなかった恋愛も、今世では良い出会いがあるかもしれない。

エレニアは少しずつ記憶を取り戻していった。

たしかにここで、エレニアとして過ごした記憶が残っていた。



「そうよ、そうだわ!私はエレニア・キルパトリックよ!キルパトリック公爵家の一人娘で……一(・)人(・)娘(・)?」



そこまで言いかけ、エレニアは固まった。

一人娘?本当に?

幻聴か、前世の彼女の声が脳裏に響いた。



公爵家に子供はエレニアただ一人。

他に娘なんていないはずだが、なぜそんなありもしないことを考えたのか。



(他の娘?)



なぜか、妙な違和感を感じてならない。

それにキルパトリック公爵家という家名、どこかで聞き覚えがある。

エレニアという名前も……。



そのとき、雷に打たれたかのようにエレニアはあることに気が付いた。

そうだ、キルパトリック公爵家のエレニア……。



「もしかして……ここって私が前世で読んだ小説の中の世界!?」



全てを悟ったエレニアは、天国から地獄へと堕ちた。



───なぜなら、彼女が転生したのがヒロインの異母妹ではなく、男主人公との恋路を邪魔して処刑される悪役令嬢だったからだ。



「ウソでしょ……!?せっかく転生できたと思ったら、死亡エンドの悪役令嬢!?」



目覚めたばかりのエレニアは、顔を真っ青にして仰向けに倒れた。

部屋にいた侍女たちが、大慌てで彼女を支えた。



やっぱり神様はいません。




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