プロローグ
ドワイプ山麓に
迷路のように張り巡らされた塹壕。
その中に、僕はいた。
五年前――
世界の半分以上を手中に収めた
魔王アムダ率いる『魔王軍』は、
人類史上最大の脅威となった。
これに対し、
世界は初めて一つになる。
世界創世の時代から続く魔法国家にして、
人々の信仰を集める聖地
『聖都フィーラ』。
その聖地を守護し、世界最強の騎士団を擁する『ヴァルクラント王国』。
エルフ、ドワーフ、獣人
源祖の大陸に暮らす諸部族を束ねた
『ダ・ギヴ山林連合』。
飛空艦をはじめとする
魔導機械を生み出し続ける工業大国
『エリクシル』。
他国との交流を絶ち、独自の発展を遂げた島国『ヒノモト』。
そして数多の国家が連合を結成し、
人類は魔王軍へ最後の反攻を開始した。
激戦の末、五人の英雄は魔王を討ち取る。
求心力を失った魔王軍は各地で崩壊し、
人類は勝利した。
荒れ果てた大地には再び緑が芽吹き、
瓦礫と化した街には人々の営みが戻る。
国々は貿易を再開し、交流を始める。
誰もが信じていた。
これで平和が訪れるのだと。
……最初の三年間は。
ーーーー
「それなのに……」
後方で砲撃音が轟く。
続いて、大地を揺るがす着弾音。
その瞬間、指揮官の笛が戦場に響き渡った。
「突撃ッ!!」
兵たちが一斉に塹壕を飛び出す。
怒号を上げ、小高い丘の敵陣へ駆け上がる。
敵陣から無数の矢が降り注いだ。
隣を走っていた戦友が喉を射抜かれ、
その場に崩れ落ちる。
それでも誰も立ち止まらない。
丘へ飛び込み、
最初に目に入った兵へ槍を突き出す。
弓を置き、槍を掴もうとしていた兵士だった。
鎧を貫く感触。
弾け飛んだ兜の下から、金色の髪がこぼれる。
そして――尖った耳。
「ダ・ギヴの森人……!?」
そう思ったのも束の間。
乱戦が始まれば、
生き残ることだけで精一杯だった。
弓の名手である森人も、
至近距離では思うように戦えない。
戦況は、こちらが押し始めていた。
だが――
ヒュンッ。
ヒュンッ。
複数の魔導機関のマナが折り重なる重低音。
戦場が静まり返る。
丘の向こうから、
巨大な影がゆっくりと姿を現した。
純白の船体。
黄金の装飾。
雲を押し分けるように浮上する、
一隻の大型飛空艦。
敵も味方も、誰もが息を呑む。
隣にいた指揮官は震える手から軍刀を落とし、
青ざめた顔で呟いた。
「ヴァ……ヴァルクラント王国……
勇者騎士団旗艦――『エクスカリバー』……」
巨大な船体各所に並ぶ砲門が、
一斉にこちらを向く。
「総員退避ィィーーッ!!」
次の瞬間。
轟音。
大地が吹き飛ぶ。
敵も味方も関係なく、
森人も人間も爆炎に飲み込まれていく。
その地獄を見上げながら、僕は叫んだ。
「人間同士で……
何をやってるんだぁぁぁーーッ!!」




