FILE82『優雅な戦場と影の味』
『競技祭の生徒の皆様に向けたルール説明です』G線上のアリアのBGMと共に、さくらの無機質な読み上げの声が響く。
動画は白文字に黒いテロップで少々不気味な仕上がりだ。
『競技祭は一年生の皆さんと二年生の皆さんに分かれ、ポーカーでの対戦を行うのが基本のルールです。二年生が勝利した場合は、一年生は必ず所属クラスの【自分以外】を選択し、二年生の皆さんが指定した額の全額の負債を背負います。二年生が一年生に負けた場合は、一年生の決めた額を全額、二年生が直接。お支払いを約束します。資産に合わせて一括・分割の支払いを希望できます。勝てばトーナメントに進み、負ければ期間中の参加権をはく奪。ですが、参加権をはく奪された方も【救済措置】として、観客の皆さんに混じって【競技券】の購入によるギャンブルは許されています。また、最後まで生き残った場合には、特別なステージで 生徒会の三人との勝負まで進んでもらいます。我々生徒会に勝利した方は最低でも一人一千万のお支払いはお約束します。ですがこれは【最低値】。生徒会は三人合わせて大体一等地に数十億の家を建てられるぐらいには資金に現在余裕があります故…。まあ冗談ですけどね♡』
無機質な声が生徒会長の可愛らしい声に変わり、黒子の長谷部によって再びスクリーンが上がれば生徒会長のさくら本人の姿が現れる。
ピンク髪、ハーフアップ、ブレザーの制服。網タイツに赤いハイヒール。
だが表情はキツイわけでは無く、むしろ高校生らしい幼さを併せ持った顔立ちで、腕には【生徒会長】と付いた赤い腕章が目立つ。
《さくらさまあああああああ!》
会場の二年生や、観客からも歓声があがる人気っぷりだ。
(まあ、二年は兎も角、観客の大半はあの気味の悪い生徒会長様に賭けてるだろうからな)
本田はその豪勢な生徒会の一同を見つめ苦笑いしつつ、長谷部が黒子の面を外し生徒会の三人が『競技の開催まで…十!九!』とカウントダウンをはじめると、二年や観客も純粋に楽しみながら声を揃える。
これでも盛り上がりを忘れない高校生らしさを持つ二年生と、一組だけでは無く全体で緊張や不安が入り混じったような表情で俯いている一年生。
盛田はカウントダウンの声を聞きながら考える。
(私にとってこの競技祭は、二年生から多くの情報を持ち帰る事)
(そして笹井さんに伝え二年生の情報を共有する事 これは二年生とお話でっきる貴重な機会)
だが震える盛田の手。
(でも私)(賭けなんて)(やったことない‼)
ほとんど一年の全員がそうなのには違いないのだが、特段秘密を抱える盛田は極端に恐れていた。
秘密が露呈する事、自分が一組に迷惑をかけてしまうかもしれない事。この場で自分一人だけが、高校生という枠組みに収まる人間ではない事。
さらに盛田は思い出す。
自分がかつて神庭総理が運営していた小児施設で暮らしていた日を。
(彼女が総理になる前から私は…私は知っている。彼女が世間であれほど叩かれる人間じゃない事を。子供にとにかく優しい人だった事を。あんな方が光道教と関係?あんな方が過去のいじめに関与?ありえない…私が絶対…)
競技祭のはじまるクラッカーの音が響けば、二年生が席に座りに行く。
席に座った二年生たちを見ながら、品定めをしたり、話しかけられた席へと向かう一年生。
盛田は足を組みながらノンアルコールの缶を持っている勝ち気そうな女子生徒に話しかけられる。
「アンタ、弱そうだな。相手してよ」挑発的な彼女の態度にもむっとすることは無く、盛田は「…私ですか」と振り向きながら席へ座る。
「そんなオドオドオドオドしてたらアタシみたいな強者に目ェ付けられちゃうよ?ほら、座った座った」
舐め腐った女子生徒に誘われた盛田は、「強者…。お強い方なんですね?では、お手合わせ失礼いたします」と見かけによらず物怖じもせずお辞儀をし、横にいるディーラーが用意するのを待つ。
一方の笹井は、席をウロウロ。ウロウロ。誰と戦うか。で悩んでいた。
(なんだか二年生って全体的に柄が悪い)
周囲を観察して、二年生の雰囲気に真っ先に違和感を覚える。
「そこの凛々しいお方」黒のロングヘア、暗い赤目、姫カットの先輩に呼び止められては振り返る。
「その歩き方、姿勢。鍛錬されてますね。ひょっとして…何かされてましたか。【芸事】でも」
見破られてしまえば、その先輩の前の席に座りつつ。
「相手をしていただけるのかしら」と強く、迷いのない視線を送る。
「ええ。勿論。弦の音色の如く雅で軽やかな私の戦い。その特等席で見せて差し上げますわ」
先輩のお淑やかでありながらも狂気を孕んだ言い回しに、ゴクリ、と息を呑みつつ、「はじめましょうか。先輩。私はこういう前座が苦手ですから」と薄ら笑みを浮かべた。
一年生も二年生もドリンクなどを各々頼みつつ、次第に席が埋まっていく一方で、ボーっと本田が歩いていれば、一際目立つドレッドヘアーの先輩に話しかけられる。
「お前、まだ相手見つからねえのか」手招きされ呼び止められた本田は「…」と先輩の方に視線をやりつつ、「不運ですね、あなたも…よりによって俺ですか」と振り返る。
本田を手招きした帝王風の明らかに強そうな男は、舌で自分の唇を一舐めして、良い獲物が捕まったと言わんばかりに高揚に浸る。
本田は席に座った。
「俺ァ二年三組の木部大介。名前ぐらいキチンと覚えてくれな」
木部が名乗っては本田は何処かに流し目を向けながら、「…本田…湊…です」と最初強がったわりに自信無さげな様子を見せた。
ハッキリ言って、ダサい。
「自信ねぇのか坊主」
木部も少し心配するような優しさを見せる。本田はなかなか木部に視線を合わせず、「正直…無い…です」とぎこちなく答えた。
「ふはははははははは‼」
両手を叩き気持ちよさそうに爆笑する木部は本田を気に入りつつ、ディーラーに「オイ、はじめろ」と指示を出した。
ディーラーは無言で頷く。
一般的なポーカーのルールとはあまり変わらない。
強いて言えばドローポーカーだと言うところだろうか。
一試合終了までのタイマーが表示される。
手慣れた動きでカードを配るディーラー。
(…ワンペアか)
強くはないがいきなり交換する必要も無いだろう。
だが木部は強気に全交換。
一試合終了のタイマーがなったところでより強い役を揃えた回数が多い方が一回目の勝利…。
本田は木部の表情に注目する。カードではない、人間の方だ。
後攻の本田は悩んだ末、結局少しだけカードを交換することにした。




