FILE80『あの子の裏階級』
出海奈の指示を聞いた後で、男女二列に分かれて行く一組の生徒たち。
本田と笹井を先頭とし、走る事になるのだが…校庭は見ての通り監視役大集合だ。
「はーッ、はーッ」後列で息を零す佐田と飛鳥の二人。
クラス委員以外は整列の順番は【来た順】でまだあまり決まりが無い。「本田ッ!早い!」後ろの男子生徒が声をあげるが、本田はマイペースゆえさらにスピードをあげていく。『 はやいって言ってんだよ!! 』 男子たちの総ツッコミ。
二年のほうからも『潰すぞ一年!』『よっしゃオルァ一年!』あまり適切ではない凄まじく対抗心を燃やしている掛け声が響く。
鈴木も「負けてらんねえな!」と布田と顔を合わせた。
後ろの方で『ぶんぶんちゃ!』『ぶんぶんちゃ!』と男子たちの洗練された掛け声が聞こえる。
何も知らない本田は、「え?」と振り向きつつも、後列や笹井と距離を置いて走って行ってしまう。
「みんなお待ちかね!」
『競技祭!』
「準備はできている?」
『めんどくさい!』
「一組もついに成長!身体検査をどうぞ!」
「俺たち男子生徒だぜ!詐欺師にされたガキしゅうだ…」
などと即興でラップをしながら生徒たちが走って行くが、出海奈にメガホンで『 ちゃんとやれェェェェェェェェぇ! 』と叫ばれる。
笹井なんてもう下を向いて笑いを堪えている。
全員が、笑顔だ。
これから競技祭でとんでもない地獄を経験していくと言うのに、笑顔である。
本来、あるべきは普通の高校で。こうやってマラソンなんかをしていたであろう学生たちだ。
「あと、あと何分だ」と時計を見る鈴木。ギブアップしてきた生徒たちが徐々に捌けて自分の監視役に記録されていく。
「もっと行けると思った」
「きつー」ジャージの首をパタパタと動かす一組の生徒の二人。一方の盛田も、ベンチへ捌けて行く。
「ゼェー…」と白い息を吐きながら。
「ちょっと盛田さん大丈夫?」と黄色髪の女子生徒に心配されては、盛田は「大丈夫ですッ!」とメガネを白く曇らせ驚きながら両手を前に出して少し困るような仕草をした。茅野も余裕そうではあるものの、なぜかベンチ側へ捌けて行く。
「盛田さんッ!」盛田の隣に座る茅野。
盛田は「茅野さん…」疲れから俯きながらその顔を振り向く。
「競技祭の日来ちゃったね」茅野が水筒で水を飲みながら言っては、盛田は同じ動作をしながら、「そうですね…やっぱり今からでも、《Ⅹ》のいう事…背いた方が」と倫理的に指示に従ってもいいのか悩む。
「…ダメだと…私は思うよ。集団で一人を追い込む事なんて」
「そうです…よね」
茅野と盛田は出来れば従いたくないという気持ちを二人で共有するが、「何人が《Ⅹ》の言う事を聞くんでしょう」と盛田が問いかければ、茅野は「過半数。いや。それ以上だろうね」と一組のマラソンの状態を見ながら分析する。
「…皆さん…笹井さんは兎も角、あまり本田くんが委員をやること、賛成されていなかったはずなのではずなので…委員よりも響きが格好良い陰の支配者のいう事を…聞きますよね」盛田の評価に、茅野は「ここだけの話」と切り出す。
「私はさ、委員のどっちかが《Ⅹ》の標的または側近で、本体は違うと思っているの。だって《Ⅹ=本田くんか笹井さん》って考えた時。あれほど本田くんや笹井さんの二人を気にしてる理事長が《Ⅹ》の捜査に切り替えて執着するの。なんだか違うって思ったり…思わなかったり。」
「…理事長が執着しているのはクラス委員のお二人じゃなくて《Ⅹ》探しなんですか?でも、理事長は彼らを疑っているからああやってクラス全員に討論させたと…勝手に思ってましたけど」
茅野の説明に目をパチパチさせながら驚いてしまう盛田。
「だってクラス委員疑うより《Ⅹ》の情報調べていくほうが先でしょう?裏切り者かもしれないんだよ」
「学園裁判…。今年は特例で一学期の最後に必ず決行され一クラスの代表が疑い合わなければならない場が設けられる…そして処刑が全校生徒から決められる…普通の処刑よりも重たい罰…やっぱり、茅野さん!」
盛田は茅野の両手を取る。
「誰かを冤罪にかけないように、本物、早めに見つけないとダメなのでは?競技祭期間中に、できれば」
「で、でも…その《Ⅹ》って私たちに作戦与えることはあったけどさ?六月なって今回はじめてこういう志田さんに実害がちゃんと出るような事指示したんだし…もっとエスカレートするのか様子見でいいんじゃない」
茅野に止められては、校庭を見ながら「そう…ですかね…」と呟く盛田。
バタバタと男子生徒たちも限界を迎えテント下の椅子に座る。
「木島くんお疲れ様です!」「おかえりー」と茅野と盛田が木島に話しかけては、木島は「あぢぃ…まだ六月だぜ」と白い息を吐きながらプリントが挟まった出海奈のボードを手に持ち、うちわのように仰ぐ。
本田も佐田や飛鳥を連れテント下に。
飛鳥が、「我が使い魔…ホンダ・ジュネリック・ジュリアス…肩貸せ」とその肩に手を乗せながら靴を履き替える。
「お前ちょっと棒立ちしてるだけで爽やかオーラ出すなよ」木島にツッコまれた本田は、「…出てるか?」なんて佐田と飛鳥の二人を見ながら首を傾げる。
「…お前…ただでさえ相当美形だぞ…」と頭を抱える佐田。飛鳥も「本当、お前普通の学校ならスクールカースト最上位だってのに」と溜息を吐きながら同じ仕草をする。
本田は完全になにもわかっていない様子で「…」と思考停止させていた。
一方の闘技場では、続々と賭け券売り場に人が集まって行く。
チケットを束にしたように持っている者や同じ人物のチケットを複数枚購入し一回の勝利に全てを賭ける者。
【部外者】と言えど、誰も彼も、八咫鏡の指輪を付けている。言わば、学園の身内ばかりだ。
保護者が来るなんて事は無く。
次々入るステータスが映像に大きく映し出される。その情報は入り口のモニターでも確認が可能で…。
ある観客の男はモニターでニンマリと笑いながら生徒会全員分のステータスを眺めていた。
性別は問わず。全ての身体のデータから。今日の体調面・精神面を【HP】とゲームのように数値化し、誰がどの面に強いか。なんて情報を調べ…映画館の券売機のように、【発券】。
生徒たちが入場する前にもかかわらず、この大盛況だ。ある一人の生徒のステータスの映像が映れば、会場がザワザワとどよめく。
青ざめたような顔で言葉を詰まらせる勝ち気そうな金髪の女や、ピンクのツインテールを高い位置から揺らし地雷系の服に身を包んだ若く可愛らしさを重視するような男まで、明らかに【裏社会】と関わりがありそうな全員が近場の人とコソコソ話をはじめていた。
陰口などでは無く、「ウソでしょ?あの子が…」と純粋な衝撃。その画面に映っていたのは─────。
【笹井のぞみ】だった…。ここでもまた、一躍スポットライトを浴びてしまう彼女。
容姿端麗、成績優秀。観客の発券用アプリにだけ報じられる現時点での裏階級…一年生にして、最高峰の【SSS】だ。
観客の一人がその下の本田の学生証のデータを見て首を傾げる。
「…あれ…こいつどこかで」その画面に表示されている本田の裏階級は…現時点では【B-】という微妙な評価だった。
一年一組の裏階級で【SSS】なのは笹井そして茅野だけだ。
だけと言えど、六月時点の一年生でクラスに二人も【SSS】がいるのが、充分おかしいのだが。




