02 聖なる地
港町ユンにて怪植物出現
住民が多数怪植物に変化している
電信室よりナニガシ司祭からホムラ枢機卿へ送られてきた急便は、ゴール大公国全土で異変が起きていると告げている
ホムラは重い気持ちで電信メモを閉じる
だとするとブライアン選帝侯やオークス選帝侯の所も・・・
ホムラは再度ダンズウェルス枢機卿らへ急を知らせる為メモを走り書く
聖具【言霊の手鏡】は便利な道具ではあるが燃費が悪い
短時間しか使えない上に、一度使うと3アワーの時間を空けなければ再使用できなかった
となると残る連絡手段は【電信】だが
これは商業ギルド経由となる
各地の商業ギルドに設置されている【電信】の魔道具を使って短い文章を送り合う
今現在ゴーラットの商業ギルドは音信不通
【言霊の手鏡】からの映像を見ればそれも当然か
ホムラは私室の天井を見上げ【言霊の手鏡】が再使用できる時間を待つしかなかった
ゴール大公館はキース聖騎士長が何とかする
最悪どのような魔族がゴール大公館に潜んでいようとゴーラットを塵と化すとキースが覚悟すれば魔族も怪植物も何とかなる
問題はゴーラットの民の避難とゴール大公国全土の把握
速やかに情報を各方面へ流し、方針は現地の判断に任せる
結局ホムラの結論は現地丸投げとなった
日が暮れしばらくして【言霊の手鏡】が再使用できるようになり、ホムラの元に朗報が届けられる
オロロン司祭
民を率いて大公館から西外教会本部に帰還
西外教会本部はその時点で3千人を超える避難者で溢れていた
もともとゴーラットは市民や今回の選抜参加者など市民以外の者も含めて2万人程がいる街だ
日が暮れて移動が困難になった為、これ以上避難民が増える可能性は低くなったとしても、明日は確実に西外教会の結界に収まりきらないくらいの民が押し寄せる
だからと言って町の外へ避難するのは怪植物の数を考えれば相当な犠牲者が伴う
最悪女子供と一部の大人を残して、体力のある成人男性だけでも街外へ避難させないと
食料備蓄も心もとない
さらにオロロン司祭の報告によれば
大公の魔道具【龍の剣】が、臨時雇いの下級神官によって鞘から抜かれ怪植物の異変が始まったことになっていた
これはキースやモエナの報告がルーン教総本山に届けられるまで訂正されず、ナナシとルーンとの関係を決定づける遠因となる
「オロロン殿
ハンター組合や商人ギルドは使えないのですか」
「それがホムラ様
避難して来たハンターたちの話では
組合の幹部連中も多数怪植物になっているらしく
今ここにいるハンターを確認中です・役に立ちそう・・は
10人いるか・・・かだ」
「一刻も早くゴーラット救援にルーンの槍は送る
だが明日の朝には到底間に合わない・・・・」
通信が切れた
ホムラ枢機卿は苛立つ気持ちを抑え、次の連絡がさらなる吉報であると祈るしかなかった
ホムラは各所に指示を出し冷静になろうと、窓を開けゴール大公国の方向を見る
その時一筋の流星が西の方からルーンの大穴に向かって流れる
流星は途中から二つに分かれ小さいほうは大穴の界壁に衝突する
ドドドドドドゥゥゥゥン(ナナシのインパクトスラッシュの音)
総本部からルーンの大穴まで直線で4キョロ
ここまで音が響いてくるからには、それなりの魔物がルーンの大穴に落ちたのだろうとホムラは想像する
しかし日常とまでは言わないがよくある事だ
ルーンに近づく魔物(悪しき者)はことごとくルーンの大穴に吸い込まれる
千年前
ターネシア大陸東部に住んでいた人族は救世主の予言により大陸中央部へ進出する
その時代、大陸中央部は人外の地
魔物や魔族が跋扈する地
大陸中央で魔物に追われ、たどり着いた予言の地こそ後に【ルーンの大穴】と呼ばれる場所
そこからルーン教は始まる
ルーン教総本山に近づく魔物は大穴からの強い引力を受ける
近づけば近づくほど引力は増し、いよいよとなると大穴の中に吸い込まれて二度と戻れない
もちろん大穴の中がどうなっているかは伝説でしかなく誰も知る由もない
大穴があるルーン山から東へ歩いて半アワーの地にルーン総本山がある
それほど高い山(標高500メトル)ではないがルーン山をぐるりと一周するように総本山は作られている
ゆえにルーン教総本山を【ルーンの輪】と呼ぶ者もいる
如何なる魔物も近づくことのできない聖地なれど、それは人族もまたしかり
ルーンの輪より内側へただ人が踏み込めば、たちまち頭痛・吐き気に見舞われる
さらに山に登ろうとすれば意識を失う
ただし例外がある。聖威である
聖威を強く持つ者はより神に愛された者とされるルーンにおいて、ルーン山に一歩でも高く登る事はより神に近づく事になる
よって法王も枢機卿の中から、より高くルーン山に登った者が選ばれる
現状ルーン山に登った最上位者は始祖法王イチロゥ
43階段
それ以降10階段を超えた者は誰ひとりいない
ちなみにルーン山頂上にたどり着くには600階段を超える
その階段は、もはや誰によって作られたかも不明であり【神へいたる道】と呼ばれている
側壁が黒くうねるように流れる
大きな影が壁を流れるように泳ぎ
クモのように動いて壁を登るマミューの手首を一口で飲み込む
影に食われた
今ナナシには未知の脅威に対抗する手段がない
龍剣は壁に刺した状態で足場とせざる得ない
となれば鞘を・・・ナナシは左手で鞘を握る
黒い影は側壁を泳ぐように引き返してくる
影の長さは30メトルを優に超えている
一見蛇のように見えるが・・・顔の先に髭がある・・・龍か
動く影ははっきりと見えるが本体は見えない
ナナシに鞘を試している余裕はない
鞘を鎧に変え、龍剣を壁から引き抜く
普通なら火口へ真っ逆さまに落ちる
だがナナシは死人兵と戦った時、空中を駆け上がって戦った
上空に駆け上がろうとしたが、逆に下方へ引力以上に引っ張られる
ならばと側壁に両足をつけ走ってみる、なんと走れるのである
鎧となった龍の鞘が側壁とナナシの足元をしっかり繋いでいる
龍剣は貴様の願いに答える
黒騎士の言葉がナナシの心に蘇る
ナナシは側壁を駆け上がる
このまま走れば火口から脱出できる
龍の影がスピードを上げナナシに迫る
聖具【水鏡】
聖水が張られた丸い皿
聖威を流し込むと同じデザイン画の皿同士であればどんなに離れていても会話ができる
ただし水面が濁っていたり揺れていると使用できない為、携帯には適さない
長時間双方向会話が可能
魔道具【電信】
電報のようなもの
ハンター組合が管理し、各ハンター支部や重要施設に設置されている魔道具
100文字以下の短い文章を送る事ができる
送られてきた文章をハンターが指定先に届ける
別途料金で【急便】指定もできる




