01 ルーンの大穴
「黒龍との出会い編」が本日よりスタートします
「ゴール騒乱編」を前編とするなら「黒龍との出会い編」が後編になります
これからのナナシとルーンとの関係が微妙になって行く切っ掛けとなる出来事を中心に、これからの物語の重要人物が多数登場する章になります
もしナナシとルーン総本山の出会いがモエナやキースとの出会いのように自然なものであったなら、この物語は変わっていたかもしれない
ナナシはエミューに右足を握られたまま一条の光となって空を飛んでいた
「貴様も龍剣に選ばれし者なら魔に連なる者のはず
なぜ魔王様のご意志に従わぬ」
マミューは世間話でもするような軽口でナナシに話しかける
「僕は魔族じゃない」
ナナシは何とか剣でマミューの右腕を切断しようとするが剣が届かない
余りの高速で身動きも取れない
最悪自分の右足を切るかとも思うが、切った所でこの高さとスピードで地上に激突すれば、如何に龍の鎧とて結果は見えている
「ヒヒヒヒィ
魔族以外で龍剣を使うか
だとしたら貴様は【龍族】とでもいうのか」
エミューは皮肉を込めて薄ら笑う
龍族 長寿を生きる知恵ある龍 魔王に繋がらない最強種族
もちろんナナシは【龍族】などではない
ナナシの体には龍族独特のうろこも角もない
何よりも龍族は100年前の人魔戦争の時でさえ姿を見せていない幻の種族
やがて光の矢となって飛んでいたナナシ達は徐々に地上へ向かって高度を下げ始める
「どうやら終点が近づいてきたようだね
もっとも僕は途中下車させてもらうよ」
そう言うとマミューは空いている左腕を伸ばしてナナシの剣を持つ右腕を拘束する
「騎士もどき君
悪いが君の体をしばらく借りるよ
なあにこの魔法陣から抜け出して地上に激突するまでだ
その後は死人兵として龍剣共々僕がちゃんと君の面倒は見させてもらうよ」
マミューはナナシを引き寄せると自らの口を大きく開ける
ナナシの腰の鞘が解け全身鎧に変化する
その時、龍の骨によってマミューの両手首が切断されマミューのみが更に加速する
「●△〇✕✕◎。。。。」
ナナシは最後にマミューが何を言ったか聞き取ることはできなかったが
たぶん聞かなくてもいい恨み言だろう
何とか体を制御しようと地上を見る
そこには天の星が地上で輝いているかのような幾多の明かりが煌めいていた
さらにその先には・・・山が見える
ナナシはその山の火口へまっすぐに飛んでいる
加速したマミューが山の頂上から火口へ吸い寄せられるように消える
ナナシは剣を振り空中でインパクトスラッシュを放つ
衝撃は起こらず中空にスラッシュは消える
今度は時間差をつけて続け様にインパクトスラッシュを放つ
衝撃同士がぶつかりナナシの軌道を少しだけ変える
もう火口は目の前に迫っている
再度時間差でインパクトスラッシュを放つ
火口の奥は暗くどこまでも暗く底が見えない
ナナシはそれを見た瞬間、魂を吸い取られるような恐怖を全身で感じた
ほとんどパニック気味にインパクトスラッシュを放つ
火口内の側壁にぶつかり弾き飛ばされそうになるのを一瞬の判断で剣を内壁に突き立てる
かろうじて火口に飲み込まれる事を止めたナナシだが龍の鎧を着ていなかったらどうなっていたかと思うと・・・今更に体が震えだす
それにしてもこの内壁なんて頑丈なんだ
結構な速度でぶつかったにもかかわらず内壁は壊れていない
ナナシは火口内の中腹当りの内壁に龍剣を突き刺してぶら下がっている
上を見ればゆうに100メトルは超える
とても剣を突き刺しながら上がっていける距離ではない
下は・・・・どこまでも深い闇
魂さえも飲み込んでしまう闇が広がっている
では左右はどうか
ナナシが空から相当なスピードでぶつかったにも関わらず側壁は壊れていない
更になぜかこの火口は下へ行くほど緩やかに広がっていて体を預ける場所もない
火口の反対側は遠く靄が掛かっているようではっきりと見ることさえできない
万事休す 絶体絶命
いつまでも剣に掴まっていれる訳もなく限界が近づくばかり
ナナシは鎧を紐状の鞘に戻し剣の上に上がって一息つく
マミューの引き千切られた両手首が鎧の下から現れクモのように指を動かせて内壁を登っていく
「ここはどこなんだろう
山の側に大きな街が見えたが」
助けが来るとは到底思えない
誰にともなく独り言を言うナナシ
『ふふふふふ
珍しい客が来るものだ』
どこからともなく低くくぐもった声が聞こえた
内壁が黒くうねるように流れる
ルーン教総本山
ホムラ枢機卿は聖具【言霊の手鏡】に映し出されるゴーラットの街の様子に愕然としていた
それは至る所から現れる怪植物と逃げ惑うルーンの民
高さは5メトルから7メトルくらいか
球根のような胴体に細長い幹が1本伸びて花が咲いている
だがその花の中心には人族の顔
悲しみと怒りと苦しみ・・・ありとあらゆる絶望の表情をした顔
ホムラ枢機卿はその人面花の涙を見た時、体中から怒りが沸き上がる
「マリノス
キース聖騎士長と接触できないのか」
ホムラ枢機卿からマリノスと呼ばれた吟遊詩人の恰好をした青年は首を横に振りながら
「聖騎士長は大公館の中です
この混乱の中心地ですよ枢機卿」
「民を一人でも多く西外教会へ避難させろ
何としてもオロロン司祭かキース聖騎士長と連絡を取れ」
マリノスはおどけた雰囲気を一変させて
「判りました
一人でも多くの民を避難させます」と答える
「自分も避難するんだろ」とホムラは心の中で調査員として密かにゴーラットに派遣した吟遊詩人マリノスに突っ込みを入れる
「3アワー毎に連絡を入れろ」とマリノスに念を押し通信を切ると、ホムラは急ぎ隣室で控えている従者を呼ぶ為に呼び鈴を鳴らす
「急便だ
ダンズウェルス卿とゴーランド帝国のバチス司祭に」
取り急ぎメモを従者に渡し二人に一報を入れる
ゴールへ投げ込んだドでかい石は思った以上に大きな水しぶきを上げたようだ
だがこちらも不意を突かれた訳じゃない
すでにバレンシア王国にはダンズウェルス卿が入り、ゴーランド帝国もマリーラットの港へ兵を進める準備はできている
その上、バレンシア王国国境を守っているゴール選帝侯ブライアンとマリーラットを預かる選帝侯オークスは法王ルゥイ3世の呼び掛けに答えてこちら側だ
ゴール大公国への介入には何の支障もない
今大事なのは正確な情報だ
そうだ西外地区第18教会のナニガシ司祭にも急便をと、ホムラは再度従者を呼ぼうと呼び鈴に手を伸ばした時、先ほどダンズウェルス卿へ急便を頼んだ従者が駆け込んでくる
ホムラには嫌な予感しかしなかった
聖具【言霊の手鏡】
対に成った合わせ鏡
テレビカメラのように鏡に映した状況を、遠く離れたもう一つの手鏡に映し出す事ができる
相互に声も送れるが使用時間が5分程しか使用できない
1度使用すると次に使用する為に3アワー待たなければならない
読んでいただきありがとうございます。
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