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レジェンドオブシルヴェリア――Ⅳ伝説記~そして農夫の息子は伝説となった  作者: 永礼経


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『伝説記』エピローグ~つなぐ希望~ 

 聖暦《《386》》年3月――。

 人族世界シルヴェリア王国北部領ソードウェーブ、冒険者ギルド『木の短剣(WSS)』本部冒険者養成所大講堂――。



「――200年前のダーンウェル遺跡決戦後、人類は一つになりました。そして、今もまだ魔物との戦いは続いているのです。あなた方冒険者は人類を魔物から護る最後の「盾」です。先人から受け継がれたその希望を後世にまた繋がなくてはなりません。そうなるために、ここを卒業したあとは世界中を駆け巡り、様々な経験を積んでください。あなたたちの今後の活躍に期待しています」


 メルリアは式典の最後をそう締めくくった。


 壇上を降りようと式台から離れようとした時、卒業生の中から一人の青年が叫んだ。


「メルリアさま! アルバート・テルドールはどんな方だったんですか!?」


 声を上げた青年には見覚えがある。この一年間、いろいろな噂を聞かされている。それも仕方が無いことだろう。何と言っても、彼は、「テルドール」なのだから。


「お前が聞くかぁ?」

「でも、私も知りたい!」

「俺も知りたい!」

「どんな人だったんだ? すげぇ厳しい人なんじゃないか?」


 卒業生たちが口々に声を上げる。その青年が「テルドール」だということはすでに皆知っていることだ。


 メルリアはふぅと一息ついて、もう一度式台の前に立ち卒業生の方を見下ろした。


「そうね――。私にとっては、とても優しい『お兄ちゃん』だったわ。《《アル》》と《《ケイティ》》はその後、仲間たちと共に、ひたすらに世界を駆けまわった。人族世界だけじゃなく、この五属世界を本当に目まぐるしく。でも、ここに戻ってきている時の二人はとても穏やかだった。とても厳しい戦場を駆けまわってるとは見えなかった。だから、私はいつも『希望』を見失うことはなかった。――アリアンロッド・テルドール。あなたの御先祖様はそんな方々よ――」


 メルリアはそう言うと式台をあとにした。




 4月になればまた新しい冒険者見習いがやってくる。

 そうしてまた一年が始まるのだ。


 メルリアは今年で201歳になる。

 アルやケイティたちと別れたのはもう150年ほども前の話だ。


 父ルシアスがこの世を去った後は、この地を|レイノルド・フレイジャ《レイおじさま》が引き継いだ。しかし、レイおじさまは父の意思を引き継ぎ何も変えることはなかった。

 母アリアーデはそもそも領主などと言うものに興味はない。父と一緒の時を生きることだけが彼女の全てだった。そして、父が居なくなった後は、竜人族世界へと戻って行った。彼女は今もまだ、竜人族世界で余生を送っている。


 メルリア・ユルハ・ヴィント。

 今の彼女は冒険者ギルド『木の短剣(WSS)』冒険者養成所の所長である。

 この立場になってからもう160年は経っている。

 

 メルリア自身はアリアーデの血を濃く受け継いだようで、成長速度は母のそれとほぼ同じだ。むしろ、混血であることからなのか、アリアーデよりもさらに基本寿命が長い傾向にある。

 現在の容姿としては人族の20代後半と言ったあたりだろうか。


 母が私を産んだのが幾つの時だったのか、一度聞いたことがあったのだが、母は、

「メルちゃん、女性に年齢を訊ねるのは、マナー違反なのよ?」

とふわりと笑って結局答えてくれなかった。

 なので、今もまだ母が幾つなのかをメルリアは知らない。



 メルリアがこの役目を受けるようになったのは、エリシアとの邂逅があったからだ。今となっては当時のことを知るものはそう多くない。竜人族のものたちは総じて長寿なので、ゼーデ伯父おじ様やリュシエル様などは今もご健在だし、それに、ミュルシーナ伯母おば様もいまだ健在だ。精霊族の方はと言えば、ユーフェリア(ユフィねぇ)がまだ健在である。皆、見た目的にはそれほど昔と変わらないようにも見える。


 しかし、もう別れた者もいる。


 アルお兄ちゃん、ケイティさま、チュリねぇ、レイのおじさま、そしてモフモフのクアンにぃ、ゲンシンさん、魔人族の《《セルジ》》さん。ジークおうさまに、ダジムおじさんとメイファおばさん。英雄王さまにイレーナ様、神殿長アナスタシアさま――。


 ほかにもたくさんの人と別れを経験してきた。

 しかしそのどれもが厳かで尊いものだった。



 メルリアは一時期、どうして自分はみんなに置いて行かれるのだろうと自身のせいを呪ったことがあった。

 

 そんな時にエリシアさまと会うことがあったのだ。


 エリシアさまはこうおっしゃられた。


「メルリア、私はかつてこの地に二つの『希望』の種を落としました。その種は別々の人の手によって育てられ、やがて出会いました。そして、この人類を『闇』の陰謀から護ったのです。ですが、私はもうその種を持っていません。ですから、あなたが『希望』を育てて、つむいでください。それが「ヴィント」であるあなたが、生きている理由となるでしょう――」


 こうしてメルリア・ユルハ・ヴィントは冒険者ギルド『木の短剣(WSS)』の最高指導者になったのだった。

 言うまでもないが、一応断っておくと、彼女はまだ独身である。その人生の大半を冒険とギルドの仕事に費やしている彼女には、《《まだ》》「そういう心」は芽生えていないらしい――。


 彼女の中にはまぎれもなくあの『黒き大剣』ルシアス・ヴォルト・ヴィントの血が流れている。そんな彼女が、一つ所に納まるだけのたちでないことは周知の事実だ。

 現在唯一の金剛石アダマンタイト級冒険者であり、養成所所長でもある彼女だが、ほぼ毎日のように「漆黒の大剣」を背に担ぎ、師匠から授かった「短杖タクト」を腰に差し、脅威となる魔巣の攻略を行っている。


 そんな彼女の人生はこれからもまだまだ続くのだろう。





『伝説記』 完


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