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無能召喚士、追放先で『呼んではいけない存在』を呼んでしまい辺境最強になる  作者: 怪人卒塔婆庵


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第17話 始まりの地


始まりの地は、世界の果てにあった。


七日間、俺たちは旅を続けた。道中、各地で解き放たれた厄災と幾度も遭遇したが、そのたびに、羅睺の業火が、ヴァナの牙が、フレアの炎が、それを鎮めた。苦しみのまま暴れる同胞たちを、せめて安らかに送りながら、俺たちは進んだ。


そして、七日目の朝。


俺たちは、ついに、それを目にした。


世界の中心。大地が大きく抉れ、その底に、古代の遺跡が広がっていた。円形に並んだ、巨大な石柱。中央には、天を衝くような、巨大な祭壇。そのすべてに、見覚えのある呪――梵字に似た文字が、びっしりと刻まれ、禍々しく輝いていた。


そして、空を見上げると――。


世界中の綻びを繋いだ、巨大な円が、頭上に浮かんでいた。赤い光の輪。それが、ゆっくりと、閉じようとしている。あと、わずか。あの円が完全に閉じれば、封印陣が起動し、世界は終わる。


「……間に合った、のか」


「ええ。でも、ぎりぎりですわ」エルザが、闇御目を凝らした。「円が閉じるまで、あと、半日もありません。それまでに、アルカを止めなければ……!」


その時。


祭壇の上に、ゆらりと、黒衣の存在が現れた。


アルカ。世界の秩序の化身。俺の、もう一人の半身。


『……来たか、ミスト』アルカの声が、遺跡に響いた。『来てしまったか。来なければ、君だけは、最後まで、安らかでいられたものを』



「アルカ!」俺は、叫んだ。「やめろ! 世界を、終わらせるな!」


『止められるものなら、止めてみるといい』アルカは、静かに、両腕を広げた。『だが――ここまでだ。この始まりの地には、私が解き放った"綻び"が、すべて集っている。それらが、君を、阻むだろう』


その言葉と同時に、遺跡の各所から、無数の影が、湧き上がった。


解き放たれ、苦しみのまま、アルカに使役された厄災たち。溶け崩れた者、歪んだ者、暴れ狂う者。それらが、おびただしい数で、俺たちに襲いかかってきた。


「……数が、多すぎる」


見渡す限りの、厄災の群れ。これを突破しなければ、祭壇のアルカには、辿り着けない。


『縁の子』羅睺が、前に出た。『ここは、我らに任せよ』


「羅睺……!」


『お前は、アルカのもとへ。世界の秩序と決着をつけられるのは、その半身たる、お前だけだ』羅睺が、振り返り、笑った。『道は、我らが、切り拓く。――行け、縁の子!』



そこからは、総力戦だった。


羅睺が、忿怒の相を纏い、業火を撒き散らした。四本の腕が、炎の刃を振るうたびに、厄災の群れが、薙ぎ払われていく。


『来い! 我が同胞たちよ! せめて、この我が、お前たちを、安らかに送ってやろう!』


ヴァナが、巨狼の姿で、駆けた。家屋ほどの巨躯が、厄災の群れの中を疾走し、その牙が、爪が、次々と敵を切り裂いていく。


『邪魔をするな! 我が縁の子の、行く手を阻むこと、許さぬ!』


フレアが、空を舞った。カルラの金色の炎を纏い、火焔の鳥のように、厄災たちを焼き払っていく。


「あたしは、もう、出来損ないじゃない! みんなを守れる、炎だもん!」


エルザが、闇御目の力で、戦場のすべてを見通した。


「右から三体、来ますわ! ヴァナ、伏せて! フレア、頭上! 羅睺、左の塊が、核ですわ!」


万の目が、戦場を支配する。誰がどこから来るか、どこを討てば終わるか――エルザの導きが、仲間たちの動きを、完璧に噛み合わせた。


四体が、一つになって、戦っていた。


封じられ、忘れられ、捨てられた者たち。勝手に決められた価値を覆し合った、仲間たち。その絆が、今、世界の終わりに、抗っていた。


「みんな……!」


俺は、その姿に、胸が熱くなった。そして、駆け出した。仲間が切り拓いた道を。祭壇の、アルカのもとへ。


「ありがとう……! 後は、任せろ!」



祭壇への階段を、俺は駆け上がった。


背後で、仲間たちの戦う声が、響いている。羅睺の哄笑。ヴァナの咆哮。フレアの気合。エルザの指示。その一つひとつが、俺の背中を、押してくれる。


そして、俺は、祭壇の頂に、辿り着いた。


アルカが、静かに、俺を待っていた。


『……よく、ここまで来たね、ミスト』


「アルカ」俺は、息を整えた。「もう一度、言う。やめろ。世界を、終わらせるな」


『何度でも、答えよう。――できない』アルカは、首を振った。『この世界は、もう、限界だ。歪み、綻び、苦しみに満ちている。終わらせることが、唯一の、慈悲なのだ』


「違う」


俺は、首を振った。


「世界は、苦しみだけじゃない。確かに、理不尽もある。歪みもある。でも――その中でも、人は、生きてる。封じられた連中だって、もう一度、居場所を見つけて、生きようとしてる。それを、お前が、勝手に終わらせる権利は、ない」


『権利、か』アルカが、自嘲した。『私は、世界の秩序そのものだ。世界を律することこそ、私の役目。その私が、世界を終わらせると決めた。これ以上の、権利が、どこにある』


「役目なんて、知るか」


俺は、まっすぐ、アルカを見据えた。


「お前は、世界の秩序かもしれない。でも、お前だって――独りだったんだろ。封じる力として生まれて、ずっと、世界を律することだけを、背負わされて。誰にも、寄り添われることなく」


アルカの、フードの奥の虚無が、わずかに、揺れた。


「お前は、世界に絶望した。だから、終わらせようとしてる。でも、それは――お前自身が、救われたかったからじゃないのか」


『……黙れ』


初めて、アルカの声が、震えた。


「俺には、分かる。お前は、俺の半身だからだ」俺は、静かに言った。「お前の孤独も、絶望も、痛いほど、分かる。だから――俺は、お前を、倒すんじゃない。お前を、救いたい」



『……黙れ、と言っている!』


アルカが、咆哮した。


その瞬間、祭壇全体が、震えた。アルカの体から、凄まじい力が、溢れ出す。封じる力。世界の秩序そのもの。それが、純粋な圧力となって、俺を襲った。


「ぐ……っ!」


膝が、折れそうになる。空気が、重い。封印の呪が、俺の体を、押し潰そうとする。さすが、世界の秩序の化身。羅睺やヴァナが手も足も出なかった力が、今、俺一人に、向けられている。


『救う、だと? 笑わせるな!』アルカが、叫んだ。『私は、世界の秩序だ! 救われる必要など、ない! 私は、ただ、役目を、果たすだけだ! 世界を、終わらせ、すべてを、無に還す! それが、私の、存在意義なのだ!』


アルカの力が、さらに膨れ上がる。


俺は、押し潰されそうになりながら、必死で、立っていた。だが――このままでは、勝てない。アルカの力は、あまりに、大きすぎる。


(まだ、足りない……。アルカに対抗するには、俺の力が、まだ、目覚めきってない……!)


俺の中の、封じる力と、解き放つ力。それは、まだ、眠ったままだった。俺は、自分の力の、本当の使い方を、知らない。


そして――影の中の、イア。あの、最古の混沌。あれを、本当に、使いこなせれば。だが、俺は、まだ、あれの名すら――。


その時。


「ミスト――――!」


背後から、仲間たちの声が、響いた。


厄災の群れを、ほぼ片付けた羅睺、ヴァナ、フレア、エルザが、祭壇の下に、駆けつけていた。


「ミスト! 諦めないで!」フレアが、叫んだ。


「あなたなら、できますわ! あなたは、独りじゃ、ありませんもの!」エルザが、叫んだ。


『縁の子! お前の、本当の力を、思い出せ!』羅睺が、叫んだ。


『お前は、我らに、居場所をくれた! 今度は、我らが、お前を、支える番だ!』ヴァナが、咆哮した。


その声が――俺の中の、何かを、揺さぶった。


封じられ、忘れられ、捨てられた者たちの、声。俺が、居場所を与え、そして、俺に、居場所をくれた者たちの、声。


その絆が、俺の奥底で眠る、何かに、火を灯した。


俺の足元の影が、ぞわりと、蠢いた。


「……そうだ」俺は、呟いた。「俺は、独りじゃない。だから――思い出せる。お前の、名前を」


影の中の、最古の混沌が、応えるように、揺れた。


その名が、喉まで、出かかっていた。


決戦は、まだ、終わらない。


俺の、本当の力が――今、目覚めようとしていた。


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