表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能召喚士、追放先で『呼んではいけない存在』を呼んでしまい辺境最強になる  作者: 怪人卒塔婆庵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/17

第1話 安物の触媒


「ミスト、お前はもうこのパーティに要らない」


勇者アレクのその一言を、俺はダンジョンの最深部で聞いた。


松明の火が、湿った石壁にゆらゆらと影を落としている。背後には討伐したばかりの魔物の死骸。本来なら勝利の余韻に浸る場面で、リーダーは俺に追放を告げた。


「召喚士のくせに、出てくるのは毎回ゴブリン以下の雑魚ばかり。荷物持ちにもなりゃしねえ。なあ、みんなもそう思うだろ?」


仲間たちは目をそらした。誰も庇わない。その中に、幼馴染の聖女ミラもいた。


「ミラ」


名を呼ぶと、彼女は一瞬だけこちらを見て、すぐに俯いた。


「……ごめんね、ミスト。でも、アレクの言う通りだと思う。あなたといても、私たち、先に進めないから」


ああ、と思った。怒りよりも先に、妙に乾いた納得が胸に落ちてくる。幼い頃、一緒に冒険者になろうと約束した相手の口から出たにしては、ずいぶん軽い言葉だった。けれど不思議と、未練は湧かなかった。


たぶん俺は、とっくに諦めていたのだ。このパーティに、自分の居場所があるなんてことを。


「分かった。出ていくよ」


「物分かりが良くて助かるぜ」アレクが鼻で笑う。「ああ、報酬は要らねえよな? お前、大して働いてねえし」


そうして俺は、ろくな路銀も持たされないまま、パーティを抜けた。


ダンジョンの外に出ると、夕暮れだった。茜色の空を見上げながら、俺はぼんやりと考える。


——本当に、俺の召喚はそんなに無能なんだろうか。


召喚士のスキルは、呼び出す存在の格がそのまま召喚士の格とされる。強い存在を呼べる者ほど評価される。だから雑魚しか呼べない俺は、ずっと「ハズレ召喚士」と蔑まれてきた。


けれど——心当たりが、ないわけじゃなかった。


召喚には触媒が要る。魔石や供物の質が、呼び出せる存在の質を左右する。そして俺がパーティで渡されていたのは、いつだって市場で一番安い、ひび割れた粗悪な魔石ばかりだった。


「良い触媒を使えば、何が呼べるんだろうな」


誰にともなく呟いて、俺は歩き出した。行く当てはない。ただ、中央から見捨てられた辺境の方角へ、足が向いていた。あそこなら、無能の召喚士でも食い扶持くらいは見つかるかもしれない。


そう思っていた。


——その辺境で、「呼んではいけないもの」に出会うなんて、知りもしないで。



辺境にたどり着くまで、三日かかった。


道中の小銭仕事でなんとか食いつなぎ、たどり着いたのは、地図の端にあるような寂れた町だった。だがその近くに、妙な遺跡があると聞いた。


「やめときな、兄ちゃん」宿の主人が顔をしかめた。「あそこは"呼んじゃいけない"祭壇があるって、昔から言い伝えられてる。封印された化け物が眠ってるってな。近づいた奴は、何人も帰ってこねえ」


普通の人間なら、引き返す話だ。


だが俺は、召喚士だった。「封印」「祭壇」——その単語に、抑えきれない好奇心が疼いた。封印されているということは、そこに"呼べる何か"がいるということだ。それも、町の人間が代々恐れるほどの格の存在が。


俺は翌朝、こっそり遺跡に向かった。


苔むした石段を下りた先、地下の最奥に、それはあった。


黒い石でできた祭壇。中央に、古びた数珠のようなものが安置されている。玉の一つひとつに、見たこともない文字——梵字のような、異国の呪が刻まれていた。西洋風のこの世界には、ありえない意匠だった。


近づくと、頭の奥で声がした気がした。


『……呼ぶか』


低い、面白がるような声。気のせいだと思った。


俺はその場にしゃがみ、懐から取り出した触媒を握りしめた。道中の稼ぎを全部はたいて、一つだけ買った上等な魔石だ。今まで一度も、まともな触媒で召喚したことがなかった。


「……試してやる」


魔石を祭壇に捧げ、俺は召喚の詠唱を唱えた。


いつもなら、安物の魔石は詠唱の途中で熱を持ち、ぱきりと割れて、せいぜいゴブリン一匹を吐き出して終わる。


だが今回は、違った。


魔石は割れなかった。代わりに、祭壇の数珠が一斉に光を放ち、地下空間が震えた。刻まれた梵字が宙に浮かび、渦を巻く。


『ほう』


声が、今度ははっきりと響いた。


光の中から、影が立ち上がる。背丈は俺の二倍。肌は夜空のような濃紺。額に第三の目を持ち、口元には牙。背には、燃えるような赤い光輪。腕は四本あり、それぞれが何かを掴むように虚空をなぞった。


人ではない。魔物でもない。この世界の理から外れた、まったく別の系統の存在。


それが、俺を見下ろして——笑った。


『何百年ぶりだろうな、我を"呼べた"者は』


「……お前は」


羅睺(ラゴウ)、とでも呼ぶがいい。かつて人を喰らい、日月を喰らい、そうして封じられた夜叉よ』


俺は、息をするのも忘れて、そいつを見上げていた。


呼べた。封印されていた、町の人間が代々恐れた存在を、俺は本当に呼び出してしまった。


『面白い。安物の供物しか持たぬくせに、その器だけは本物だ』羅睺はゆっくりと俺の周りを歩いた。観察するように。『お前、自分が何者か、分かっておらぬな』


「……どういう、意味だ」


『お前の召喚は、格を選ばぬ。禁忌とされた我のような存在すら、引きずり出せる。——そんな召喚士は、千年に一人いるかどうかよ』


笑いを含んだその声が、地下に反響する。


『気に入った。これも縁か。しばし、お前についていってやろう。縁の子よ』


夕暮れに追放された俺が、辺境の闇の中で、最初の"呼んではいけないもの"を手に入れた瞬間だった。


——あいつらが俺を無能と笑ったことを、いずれ心の底から後悔させてやる。


そんな大それた気持ちは、まだ無かった。


ただ、初めて。


自分のスキルが、「無能」じゃないかもしれないと——そう思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ