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その旅の果てに 〜世界を巡る彩色録〜  作者: 浦島 晴次郎
1章 同泥の国編

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14/14

14.火を灯す3週間前

14話です。楽しんで頂けたら幸いです。


 時は、1日前のツガーフ家商館への到着後に遡る。


 この召喚の支配人であるハーパラと次期当主候補であるフラーテは、商隊の一員が宴を催している間にラドミニシアの現状について協議していた。


 「なるほど。やはり、未だ権力の大部分は宰相のスレブ・スティンクスが握っているのか。」


 フラーテは椅子に座り、机の上に置かれている、この商館が独自に集めた情報を書き留めた物をペラペラとめくる。旅の疲れが残っているのか、時折カップから沸き立つ湯気を見つめている。


 「ええ、その通りです。若様。ただ、少しばかり細かい訂正をするのならほ(・)と(・)ん(・)ど(・)の権力を握っております。」


 フラーテの机越しに、前髪をかきあげ、片側の肩へと流したミルクティベージュ色のロングヘアの丸眼鏡をかけた女が対面していた。


 「はぁー、そうか。そして、以前より増して、王族やその蜜を吸い取る輩の浪費で財政難となり、国民の税負担も増すばかり、と。」


 「はい、全くその通りです。」


 「加えて、国の正規軍を王宮及び、宰相の在宅警護にしか使っていないため、治安も悪化している上に、巨大化している自警団と正規軍がよく衝突をしている、と。」


 「流石です。若様。よく把握しておりますね。」


 「はぁーー、戦争をしていないのが、唯一、評価できるところだな。」


 ハーパラとの会話中、フラーテは背もたれに深く寄り掛かり、天井を見つめ、何度も大きく息を吐く。


 「ふぅ。それで、この国の主だった勢力は、特権階級が属する王宮側、過激であるのに未だその全容が掴めない反乱軍、構成員の全てが平民である自警団の3つという認識で変わりはないか?」


 「そうですね。数ある中で特に力が大きいのがその3つです。」


 「なるほど。他には・・・・。」


 フラーテが椅子に寄りかかった上体を起こし、再び資料に目を通そうとすると、疲れを労ったのか、ハーパラが歩み寄り、要点の場所までレイド紙をめくる。


 「...ああ、有難う。ん?これは・・・・?」


 「3週間ほど前に起こったことなので存じ上げ無いかと思いまして。これは、この国の税問題のために、各身分の代表者が集まった『3階(・)級(・)評議会』です。ここで、特権身分と第3身分(平民)の代表者が激しく対立しました。」


 「余計に溝が深まったわけか。」


 「はい。そして・・・。」


 ハーパラは机上にある資料の最後尾のレイド紙を引き抜く。そこに書き連ねられていたのは、直近三年間における主要食料品の価格推移である。平均的な物価上昇の波を僅かに突き抜け、緩やかだが確実な右肩上がりを描く数字の列。


 「これは、我々が独自に調べた食料品の価格推移のグラフです。因みにここ数年、不作であったという訳ではないです。」


 「なるほど。だが、こういった話はまた後にして欲しい。今じゃ、、、、ああ、そ(・)う(・)い(・)う(・)事(・)か(・)」


 「ええ、そういう事です。」


 そのグラフは、食料品の値段が直近3年程、緩やかに値上がりしており、そして、『3階級評議会』が行われてからの3週間では異常なほどの値上がり幅を示していた。

 それは、この値上がり幅が続くと、2週間後には1日食うものがない者が出てくるほどの異常な値上がり幅。


 「買い占めか?だが、買い占めだけではここまでの上がり幅は見せないだろう。」


 「報告によると、幾つもの補給ルートが反乱軍に襲われているようです。」


 「なるほど、反乱軍か。とすれば、買い占めも反乱軍が行っているのか?資金はどこから出ている?」


 「それは分かりませんが、例え、反乱軍でなかったとしても、"誰か"によって、買い占めが行われているのは事実ではあると思います。」


 「確かに。そうだな。」


 "食"とは、今日を生き抜くために、そして、明日への活力を養う根幹のエネルギー。


 権力者への不信感が募り、未来への希望が薄れていく中、生活が不安定になり、その上"食"すらも失われるのなら、行き着く先は必然、


 「....暴動、、、秩序の崩壊だな。」


 フラーテの呟きは、窓の隙間から差し込む冷気の中へと白く消えた。


 人は、希望があれば、空腹に耐えられるかもしれない。尊厳があれば、希望を失っても前を向けるかもしれない。腹が満たされているならば、尊厳がなくとも生きていけるかもしない。


 しかし、希望や尊厳すらも奪われ、飢えに直面した群衆から奪うモノが消え去った時、その場所に留まる理由はどこにもない。


 「それで、どうなさいますか?」

 

 「ああ、万が一に備えて、この館の資産と商品は異次元袋(マジック・バッグ)に入れておいて欲しい。」


 「承知しました。それにしても、大変な時に来られましたね・・・・。」


 フラーテは生えかけの顎髭を指先で触りがら、不思議そうに首を傾げる。


 「大変?それは違うな、ハーパラ。逆だよ、つ(・)い(・)て(・)る(・)んだ、僕は。」


 「はあ?ついてる、、ですか。」


 理解不能といった様子にある部下の視線を浴びながら、フラーテの瞳には獰猛な光が宿り、口角が僅かに上がる。


 「これはチャンスなんだ。崩壊の後には、必ず次の指導者が現れる。その指導者に恩を高く売れたのなら、必ず大きな利益となる。」


 彼(フラーテ)は知っている。破滅の先にしか咲かない花があることを。人は常にしがみつく柱を欲することを。


 「それは、、確かにそうなのですが、その指導者が無能でしたらどうするのですか?それに、暴動に巻き込まれるのはとても危険かと。」


 「見極める時間なら、まだそこそこ残されているだろう。これでも、人を見る目には自信がある。」


 フラーテは、カップに注がれた茶を一口啜り、静かに杯を置いた。その毅然とした態度に毒気を抜かれつつもハーパラは必死に食い下がる。


 「暴動に関してはどうなのですか?この館の倉庫は民衆が真っ先に狙う標的の一つであると思います!そうなれば、幾ら要塞化しようと被害は出ます!ならば、ここは撤退かと!」


 「暴動に関しての心配は無用だ。ここには、護衛《彼ら》がいる。」


 「確かに、当主様や次期当主候補の御二人には特別優秀な護衛が付けられている事は存じ上げています!」


 拳を固くして、身を乗り出すようにしてハーパラは言葉を続けた。


 「ですが、私は詳しくありませんが、理外の力を持つ者がいる事は存じております!!もし、そのような者が相手になったらと考えると、、やはりとても危険です!!」


 商館には、巨額の資産や商品また、政府との契約による縛りがあり、撤退に関しては本館の指示を仰がなければならない。


 そのため、その指示が届くまでの数ヶ月間、商館を要塞化して暴動から守り抜くのが一般的である。


 しかし、ハーパラがここまで撤退を押すのには理由がある。


 それは、言うまでもなく、フラーテがこの場にいるからである。フラーテは当主の実子であり、かつ次期当主候補でもある。撤退を指示しても、謂れのない権力をツガーフ家においては有している。

 

 また、フラーテが異次元袋(マジック・バッグ)を持ち込んだのも大きい。この法具のおかげで、商館にある大体の資産や商品はこの袋に入れることで難を逃れる。


 そして、彼女はこうも思っている。


 「(若様は実績作りのために焦っているに違いない)」


 故に彼女はは、"命令"が下される前に、自身、ひいてはこの館の部下の安全を守るために、声を上げる。


 必死な面持ちで食い下がるハーパラに対して、フラーテは動じることなく、もう一度、茶を啜る。


 「美味しいな、この茶は。どこの物だ?」


 「・・ッッ!!デリティーのものです、、若様!今はお茶ではなく、撤退に関しての再考を!!」


 また、ハーパラが食い下がる理由は、もう一つある。


 それは、フラーテの性質によるものである。フラーテは、もう一人の次期当主候補とは違い、安全と商機を天秤に掛けた時、危険(リスク)が商機を僅かでも上回っているのなら、安全を取る人間であると言うこと。

 また、部下の進言にも真正面から聴く耳も持っている。

 

 だからこそハーパラが、感じるのは"違和感"。


 初めは、実績作りの焦りから来る居座りであると思っていたが、フラーテはこの会話中、余りにも動じていない。


 これは、焦りというより、そもそも、『危険(リスク)を思っているより感じていないのではないか』という感じ方の違い。


 「ハーパラ、もう一度言うぞ?暴動に関しては心配しなくても良い。僕が連れてきた護衛がいるのだからな。だが、、、」


 「ッ!しかしーーーーー」


 『なぜ?』ハーパラは食い下がりながら思考する。彼女は、フラーテが自身よりとても優秀な人物であると彼女自身が自覚している。


 ならば、辿り着くものは当然、フラーテの言葉は彼女を安心させるための方便ではなく、フラーテ自信が本心から生じている言葉という思考。


 しかし、彼女はフラーテが連れてきた護衛の実力を知らない。頭では理解ができても、感情がその肯定をしない。


 「(信頼?焦ってはいないの?でも私は見たとこがない!!どうすれば私たちは安全でいられる?若は優秀!言ってることはわかる。納得ができない!どうすればいい?)」


 何かを逡巡しているハーパラにフラーテが見かねて、椅子から立ち上がって、近づき、優しく肩を叩く。


 「ハーパラ、焦っているのは分かるが、人の話は最後まで聞いた方がいい。」


 「!?私は若様の話を遮ったのでしょうか?」


 「ふむ。まあ一旦落ち着いて、深呼吸をしろ。」


 ハーパラは、フラーテの言葉通りに、1度大きな深呼吸をし、会話を思い返すと、確かにフラーテの言葉を遮っていたような気がし(・)な(・)く(・)も(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。


 明確に思い出せないということは、自信が焦っていた証拠。彼女は己が正しいと信じ込む、浅はかな思い上がりの中にいたと気付き、俯いて、頬を赤面させた。


 「冷静になったのなら良かった。それで続きだが、僕の言葉に納得が出来ないことは理解している。だからこそ、近いうちにこの事を話し、撤退を希望する者を募ろうと思う。」

  

 もう一度深く深呼吸をし、ハーパラは顔を上げる。その顔はいつもの冷静な表情に戻っていた。


 「撤退希望者を募るですか。とてもいい案だと思います。ただ、出てきますかね・・・・?」


 「さあな、分からん。僕の言葉を信用するか否かなんて。ただ、僕は情報を与え、選択肢を示すだけ。その先は僕が関与するとかじゃない。それで、ハーパラはどうするんだ?」


 「私、、ですか。私は・・・・」


 彼女は、フラーテを自身が幼い頃から知っている。

 若くして、商館の支配人として大抜擢されてから、会う機会は失くなり、忙しさの中で忘れていたが、先のやり取りでとある事を思い出す。それは、


 「私は、ここに残って若様について行きます。」


 「そうか、先程の話ぶりからして、ハーパラは撤退を選ぶと思っていたよ。ハーパラは優秀だからね。僕としても残ってくれるのはありがたい。」


 それは、彼が自身の発言の重みを知っている信用に足る人間であるという事。


 フラーテは、もう一度、机上にある資料を持ち、目を通していた。


 「なら、早速仕事を頼みたい。ここでは、あえて革命という言葉を使うが、革命がなされた後、指導者となり得る可能性のある人物を何人でもいい、リストアップしてくれ。」


 「承知しました。それであるならば、すでに何人か候補はおります。」


 「誰だ?」


 ハーパラは迷いなく視線を上げ、頭の中に整理された名簿を手繰り寄せた。


 「筆頭は、自警団を束ねるトルキナという男です。先の『3階級評議会』において、平民の代表として、特権階級と揉めた張本人です。ただ、むそu、、いえ・・・。ただ、経歴が謎に包まれております。本人曰く、デプレアル領出身だそうですが、証明出来るものはありません。」


 ハーパラは一瞬、私意を交えた評価を口にしそうになったが、それがフラーテの眼を曇らせるノイズになり兼ねないと察し、言葉を呑み込んだ。


 「次に、反乱軍の長です。こちらは殆ど謎に包まれていますが、反乱軍の全貌を掴まさせず、巨大化させた手腕は見事です。そして、2ヶ月前に姿を現したそうで、どうやら女性のようです。」


 「なるほど。続けてくれ」


 「そして、最後は、、」


 ハーパラが言葉を言いかけたところで、ドアが激しくノックされ、言葉が遮られる。


 「ハーパラ、ドアを開けてくれ。」


 ハーパラがドアを開けるとそこには、ハーパラの部下が扉の前立っていた。


 「お忙しいところ失礼します!たった今、商人ギルドから至急、面会をしたいとの要請が届きました!」


 その言葉を聞き、フラーテは茶を一気に飲み干すと家紋が入ったコートを装着する。


 「ハーパラ、仕事が入った。この話はまた後にしよう。」


 「承知しました。では、商人ギルドへの"贈り物"はすでにご用意しております。こちらに来てください。」


 「ありがとう。相変わらず気が利くな。」


 こうして、彼らは仕事へと向かう。幾ばくかの緊張と未来への期待と共に。

 

___________________________



 ここは、とある領のとある巨(・)大(・)な(・)廃屋。


 その一室の扉とある男がノックする。


 「どうぞ、お入り下さい。」


 中から聞こえるは女性の柔らかく少し高い声。


 「失礼します。ユイラさん。例の計画なんですが、"虚"から報告が、、」


 「ここではボスと呼んでください」


 「申し訳ありません。ボス。」


 部屋の中では、フードが付いた薄汚れているローブを纏った女が窓から見える景色を眺めていた。


 その光景を男が不思議そうに見つめる。


 「私が景色を眺める事が不思議ですか?フープさん。」


 そう言いながらユイラと呼ばれた女は振り返る。

 その両目を覆い隠すように、黒の布が巻き付けられており、フードの内側からは白く、所々にラベンダー色が入ったロングヘアが顔を覗かせる。


 「い、いえ!そういうわけでは!ただ、見えるのかと思いまして!」


 「ふふふ、どういう訳か分かりませんが、見えませんよ。なにも。この布をしていなくても。」


 「え、、、それはどういう、、」


 「"運命"が私に教えてくれるのです。見えない私に代わって、ありとあらゆる事を。」


 「なるほど?」


 ユイラはまたもや不思議がる男を眺めて、僅かな微笑みを浮かべる。


 「それで、計画がどうのと聞こえましたが、、」


 「ああ、そうです。"虚"によると、計画は万事滞りなく、順調であると。そのため、変わらず決戦は3週間後の建国日に行うと、連絡が入りました。」


 「分かりました。では、こちらも計画通りに事を進めていると、"虚"に連絡を入れてください。」


 「承知しました。では失礼します。」


 男が部屋から出ていくところをユイラは手を振り見届ける。


 「"運命"は言っております。来る日、3週間後にラドミニシアは業火の中、混乱に陥ると。私はただその流れに身を投じるだけ。」


 革命のを灯す火は、すでに足元まで迫っている。その炎がこの国と人々の未来をどう焼き尽くし、何を遺すのかは、まだ誰も知らない。


 14話どうだったでしょうか?面白いと思っていただけると幸いです。。面白いと思っていただけたなら、是非とも次も見に来て欲しいです。


 先週、初めてpvを見たのですが、自分が思っているより見てくださる方が多くて驚きました。

 そのため、文章表現にもきちんと気を使わないとなぁと思って、頭を使って書きました。拙いかと思いますが読みやすくなっていると嬉しいです。

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