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その旅の果てに 〜世界を巡る彩色録〜  作者: 浦島 晴次郎
序章 旅立ち

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1/14

1.旅の始まり

 初めまして。浦島です。初投稿です。まだ拙いところが目立つかと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。

 

 

 手の中にある古びた"それ"を眺めると、決まって思い出す匂いがある。

 

 油と、鉄と、淀んだ泥の匂い。


 窓の外に広がるこの美しい世界を眺めるに至るまでの日々を思い出す。

  

 かつて、何色にも染まっていなかった少年は、哀しみを知り、世界を巡った。


 男は、皺(しわ)がついた目を細め、愛おしむように笑う。


「..ああ。そういえば、あの日から始まったのだな・・・・・」


_________________________



 廃材や古びた石材、木材などを組み合わせてできた簡易住宅から軋むような音と怒号が聞こえる。


 「おい!アルバ!!こ(・)れ(・)はなんだ!!」

 

 長身痩躯で白髪の男が、宝飾品で着飾ったネックレスに指を指している。


 大男にアルバと言われた黒髪の少年は、そのネックレスを見て驚いていた。


 「今回は見つからない場所に隠したのに!!」


 白髪の男はその言葉を意に返さず続ける


 「お前、また盗んできたのか?」


 「盗んでなんかねーよ!!」


 「じゃあ、これはどうやって手に入れたんだ?」

 

 アルバは少しだけ口籠もり、下を向く。


 「王都まで行ったら、いろんな人がでかい入れ物から、たくさんの物を運んでたんだ。」


 「行った?王都まで?あそこはこの街の人間の排除に躍起になってるから、王都に行くなとあれほど言っただろうが!」


 「あー、分かってるよ。大丈夫。大丈夫。」


 絶対に分かっていないアルバに、白髪の男はため息をつく。

 

 「それでその人達がどうしたんだ?」


 「そうそう。それで、その人達の隙をついて、そのでかい入れ物に入って、中に落ちてた物を拾ったんだ。」

 

 「盗んでんじゃねーか!!!!」

 

 「違う!入れ物の中に落ちてる物を拾ったから、これは盗みじゃない!!」


 謎理論を展開するアルバに対して白髪の男は、アルバの顔を真剣な眼差しで見つめる。


 「なぜ盗んだ?」


 「・・・・」


 その理由を言いたくないのであろう。アルバは口を噤(つぐ)んでいた。

 白髪の男がアルバと同じ目線になる様にしゃがみ込む。


 「アルバ、理由を言いたくないならそれでいい。これを盗むことで、お前のどんな夢が叶うかは分からない。だが、これを盗んだことで起きる現実は考えたか?」


 「なんだよ、現実って。」


 「王都に住んでいる人は、この街に住んでいる人を良く思っていない奴が大部分を占めている。それで、盗んだ原因がこの街の人だと判明したらどうする?奴らはありとあらゆる手でこれを取り返すだろう。そうしたら、お前だけじゃない。トーマやエルレも被害を被るかもしれないんだ。」


 国の法律では、彼らが住んでいる貧民街はただのゴミ捨て場だ。ゴミに群がり生きる彼ら自身もまた法的にはゴミに過ぎず、何をされようと加害者が裁かれることは決してない


 「じゃあなんだよ!あいつらにビビって何もするなってことかよ!!」


 「違うッ!!ここまで考えた上で、盗みを行ったかどうかを聞いてるんだッッ!!」


 アルバが無意識に後退りをしてしまうほどに、白髪の男の声には力が籠っていた。

 

 「アルバ、いつも言っているだろう。『誇り』を大切にしろ、と。現実を知り、打ちのめされてもなお、どうしても大切にしたい"何か"がある。それを『誇り』と言うんだ。アルバ、お前に・・・・ゴホッガハッゴホッ」

 

 白髪の男の話した内容なのか、最後に出た咳が原因なのか分からないが、アルバは白髪の男の咳が出た途端、怒りの表情になる。


 「なんだよ!!現実とか!!誇りとか!!あんたはそうやって生きてきた結果、昔より痩せこけて、病気にもなってるじゃねーか!!誇りだなんだ言って、それで死んじまったらなんも意味ねーだろ!!!こっちの気も知らないで、分かったような口、聞いてくんなよ!」


アルバはそう言い、家から飛び出した。


 「おい!待て!」


 白髪の男はすぐに追いかけるも、アルバの背中はすでに見えなかった。

 

 「くそっ、どうしていつもこうなっちまうんだ、、、俺が本当の父親じゃないからか、、はぁ。もうすぐ、、ガハッゴホッゴホッ」


 白髪の男は口を手で押さえながら咳をして、その手には血がついていたが、白髪の男は手より別のところに目がいく。


 「....やべ、ネックレスに血がかかっちまった。」



________________________



 「ほら、やっぱりここにいた。」


 「ほんと、分かりやす〜い。」


 そんな会話をしながら、アルバの元に2人の癖毛で薄茶色の髪の少年とショートボブで藍色の髪の少女が駆け寄ってきた。


 少年は名をトーマ、少女の名はエルレと言い、2人ともアルバと共に暮らしている。


 「トーマ!エルレ!...何しにきたの?2人は今仕事中でしょ?休みはまだ当分先のはずだけど、、」


 「2人の喧嘩が僕たちがいるところまで聞こえたから、親方が『早く仲直りさせて来い』って、休憩をもらったんだ。」


 「落ち込んでるとき、いつもここに来るもんね〜」


 いつもならここで、『うるせーよ!お前らに関係ないだろ!』とか言いそうなものだが、そんな素振りも見せず、下を向いているので、余計に心配になり、トーマから話を切り出す。


 「ねぇ?アルバ、何があったの?」


 「話の内容は聞こえてたんだろ」


 「うん。聞こえてたよ。確かアルバが盗みをしたとかだっけ?」


 「盗んでねーよ!.....いやまぁ盗んだんだけど、、」


 ここまで萎れてるのは珍しい。

 トーマとエルレは顔を見合わせて困惑している。


 「前も、王都に行って盗みをしたことがバレて、グレイさんに、こってり絞られてたのに、懲りないね〜」


 「いや、それで、そのときのあいつの顔を見て、もう盗みはやらねーって思ったんだ。けど、、、」


 「「けど?」」

 

 「お前らも知ってると思うが、グレイのやつ病気にかかっているだろ。しかも、結構ひどいっぽいんだ。この前だって口から血が出てたし、、、それで飯をいっぱい食えば、治るかなって、、あいつ、いつも全然食べねーし、、、」


 「確かに、グレイさんいつも僕たちにご飯を優先してくれるしね。」


 「それで、たくさんのお金が必要になって盗んだんだ〜」


 「...まぁ。そういうことだ。」


 トーマ達はアルバが落ち込んでいる理由が分かり、安心する。だが、トーマは語気を強めながら、アルバに向かって話す。

 

 「...そういう事なら僕たちにも相談して欲しかったな。」

 

 「え、、」


 エルレは相変わらず、気怠そうにしている。


 「あたし達だって、グレイさんにはお世話になってるんだよ〜。ねぇ、なんで1人で突っ走ったの?。」


 いや、少し怒っているかもしれない。


 そんな話を2人から聞いて、アルバはさらに落ち込んでしまった。


 「...ああ。確かに、、そっか、そうだよな、、、2人に話をした方が、、ごめん、、、」

 

 トーマがそんなアルバを見て、手を叩きながら提案する。


 「うん!分かってくれたなら、この話は終わりにして、どうしたらご飯をたくさん手に入れれるかをみんなで考えようよ!」


 「..ああ!そうだな!できれば、次の誕生日までには手に入れたいんだ!」


 「え〜、次の誕生日までって、どのくらい先〜?」


 「グレイがソワソワしてたからもうすぐだと思う。」


 「ハハハっ、確かにそれはもうすぐだね!」


 白髪の男もといグレイと一緒に住んでいる3人は、同い年だがグレイの実子ではない。

 そのため、彼の家に来た日を誕生日として、普段とは少しだけ違う食事とささやかなプレゼントでお祝いをしている。

 

 「ていうか、グレイさんの誕生日がもうすぐなら、アルバもすぐにあるじゃん!」


 「あ!確かに!グレイのことで頭いっぱいで忘れてた!」


 この一家ではグレイとアルバの誕生日は同じ日にあり、2人は約11年の間一緒に暮らしており、アルバは次の誕生日で11歳となる。ちなみに、トーマは7年、エルレは4年の間、共に暮らしている。


 「去年は、グレイがゴミ山に捨てられてた靴をピカピカになるまで磨いてくれたんだよな!」


 「話脱線しすぎー。」


 そんなたわいもない会話を、時間を忘れてしていた。

 ...ふと街を見ると、大きな火(・)と(・)煙(・)が上がっているのが見えた。

 

 トーマが驚愕し、立ちすくむ。


 「え、なんで、、だって前回の大掃討から、まだ1年しか経っていないじゃないか!」


 大掃討とはこの国が3年ごとに、この街に火をつけて、ゴ(・)ミ(・)を一掃する行為のことであり、この日にトーマとエルレは家族を亡くし、グレイに迎え入れられた。


 「ねえ、火がある場所ってあたしたちの家の方じゃない....?」


 「グレイ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、アルバは駆け出していた。



 無我夢中で家に向かっていると、多勢の人が叫びながら、逃げている姿がアルバの目に映る。


 「火だ!火がついてる!」

 「なんなんだよあいつら!」

 

 そんな事を叫びながら逃げる人をかき分け、家があった場所に着いたとき、アルバは見た。


 炎が燃え盛り、ゴミの様なものが散らばる中で、見知らぬ大男が剣でグレイを貫(・)い(・)て(・)い(・)る(・)ところを。


 ・・・え、なんで?なんで??どうして?どうしてグレイが刺されているの?血・・・血がたくさん出てる、あれじゃ死んじゃうよ、、死?死ぬ??グレイが???


 「あああぁぁアアあぁあああああぁァぁああぁあァああァァぁぁあ!!!!!」


 アルバが初めて抱いた感情は、容易に彼の心を塗りつぶした。


_________________________

 


 時は少し前に遡り、グレイの視点へと移る。


 「ネックレスに血がついちまった、、どうする、、泥水でもいいから洗っちまった方がいいか、、? 」


 そんなことを、考えていると、とても懐かしく、それでいて聞きたくない声が聞こえた。

 

 「ネックレスを探すなどというしょうもない命令が来たかと思えば、こんなところで、まさか、死んだはずの貴方に出会えるとは!」


 案の定奴だった。俺が、この国の騎士団団長のようなものをしていた時に、副官だった男。


 とりあえず、おとぼけ顔を作る。これは、この街での俺の必殺技の一つ。この顔を見せれば、大抵の奴は呆れてどこかに行く。


 「あの、、どちら様でしょうか?随分身なりが良い様ですが、そんなお方がこの貧民街に何か御用がお有りでしょうか?」


 「とぼけたって無駄ですよ。あの頃に比べて、随分と老けて痩せている様ですが、私が人を・・・特に貴方を間違えるはずがありません。」


 あー、そうだった。長い間顔を合わせてないから忘れていたが、こいつの"目"は特別だった。


 「なぜ、死の偽装が成功したはずなのに、こんな所にいるのですか?もしかして、まだ『革命』を起こすことを諦めていないのですか?グ(・)レ(・)ン(・)さん。」


 「...さあな。俺がどう言ったって、お前は俺を殺すつもりだろ。それに前の名前は捨てた。今は"グレイ"だ。」


 「...そうですか。グレイさん。私はここの"残穢"を見て、貴方が『戦士』を育てていると思っています。これは、貴方がまだ革命を諦めていないことを示している・・・!ならば、貴方を始末することが私の役目です。貴方を裏切った私が・・・・!!」


 奴が話し終えた瞬間、突然、半径500mほどの周囲の家屋やゴミが動き出し、俺の背後で、それらが一つにまとまり、巨大なゴミ山が出来た。


 「安心してください。人は巻き込んでいません。こうでもしないと、貴方との戦いで、ここの人を巻き込んでしまう。」


 「ハッ!相変わらずだな!お前は!そんなお前だからこそ志は共にあると思ってたんだかな!後、こうした方がここから人は遠ざかるぜ!」


 俺はそう言って、そのゴミ山に自らの能(・)力(・)で火を放った。こいつが周囲一体のものをまとめたおかげで、この火が燃え広がることはないだろう。

 それにこいつと戦うなら、これは邪魔だ。


 「私の志は昔からずっと変わりませんよ。」


 そう言って奴が微笑んだ瞬間、俺の体が強い力で、奴に引っ張られる。


 「ふんッッ」


 俺は、その力に抵抗して解除すると同時に、炎の柱を奴の足元から出す。

 

 「灰だけが残る(The•burn)!!」


 そして間髪入れずに、炎の大波を繰り出し、幾重もの燃え盛る波が奴を飲み込む。



 だが、奴はそれを諸共せず、俺の方に突っ込んでくる。

 どうやら、俺の攻撃はあまり効いていないらしい。

 

 それと同時に後ろのゴミ山の燃やしきれなかった数多のもの一つ一つが風切り音を立て、俺に向かって飛んでくる。


 ...俺も落ちぶれたもんだな、そう思いながら次の技を出そうとすると、

 

 「葬龍・・・ガハッゴボッ」


 ・・・クソっ、こんな時に!!


 すぐに切り替え、奴に向かって炎で纏った拳を突き、奴の拳と相打った。

 

 瞬間、横から飛んできた奴の剣先が俺の腹を刺した。

 ...俺の攻撃を受けている時に、剣を俺の視界外に飛ばし、引き寄せたのか。


 「昔よりも、、更に化け物になりやがっ・・・て、、」


 「貴方が衰えたんですよ。昔の貴方なら、こうも簡単にはいきませんでした。」


 奴の声は少し震えていた。


 俺の腹から剣が抜かれ、口と腹からコポコポと血が流れる。


 ...ああ、これはダメだ。俺はここで死ぬのか・・最後にせめて、あいつらに、、、


 意識が朦朧とし倒れそうになる瞬間、ここにはいないはずのアルバの声が聞こえる。

 

 「あああぁぁアアあぁあああああぁァぁああぁあァああァァぁぁあ!!!!!」

 

 その絶叫が聞こえ、かろうじて意識を保つが、アルバの方から感じる力の波動で倒れそうになる。


 俺と相対した男が、死にかけの俺を罵る。


 「なぜ!!子供に!"魂力(こんりき)"の扱い方を教えたッッ!!年端もいかぬ子供が覚醒したら、暴走し、そのまま身を滅ぼすことが多々ある事なんぞあなたは知っているはずだ!!!そこまでして、革命を起こしたかったのかッッ!!!!」

 

 俺には奴の問いに答える力はもう残っていない。だが、頭の中で奴の問いを反芻(はんすう)する。


 『俺があいつに特別な力の扱い方を教えた理由?』

 ・・・決まっている。革命のためだ。特別な力を持つ子供は神輿にしやすい。だから、教えた。


 「どうする?私の力を使って気絶させるか?....いやだめだ。子供に使うには威力が高すぎる、それとも・・・」


 奴が何かを呟いていた。聞き取る事はできなかったが、アルバの救い方を考えているのだろう。

 ...相変わらず優しい奴だ。なのにどうして、、


 俺は腹(・)を(・)焼(・)き(・)、僅かにでも延命しながら、アルバに近づく。声を出そうにも微かな声しか出ない。


 『なぜ、子供を巻き込んでまで革命を成したかったかって?』

 ・・・大掃討や悪辣な法令(差別や悪政)を無くし、皆が幸せに生きれる国を作るためだ。それが、俺の悲願だった。そして、最も信頼してた者に裏切られ、地位も友も失った俺に残った最後の灯でもあった。


 発狂しているアルバから出る力に気押され、よろけながらもなんとかアルバの元へ辿り着いた。

 

 あいつに伝えなくてはならないことがある。

 

 焼いて塞いだはずの傷口から、どす黒い何かが流れるのを感じる。痛みはとうになく、凍りつくような寒気を感じる。

 俺は、最後の力を振り絞る。

 

 「アルバ、大丈夫だ。落ち着け、そんな感情に飲まれるな。お前なら出来る。俺と違って出来のいい奴だからな。」


 アルバの発狂が小さくなってきてる。少なくとも俺の声は届いているようだ。


 頭の中の問いが続く。


 『本当にそうなのかって?』

 ・・・本当さ。教えた理由に嘘はない。だが、あいつと、、あいつらと過ごしていくうちに、そんな事はどうでも良くなった。


 『じゃあなんでずっと教え続けてたかって?』

 ・・・なんでって?そんなもん決まってるだろ。

 俺はあいつらに、、、


 俺は今できる目一杯の笑顔を作った。


 「アルバ。お前が、お前達そのものが俺の『誇り』だ。その力を使って、人生を幸せに生きるんだ。トーマやエルレに・・・も、、」


 体の力という力が抜け落ちていくのを感じる。アルバの発狂はもう聞こえなかった。


 安堵しながら体が地面に伏す最中、思い出したのは、過去の30年ではなく、あいつらとの10年間だった。

 

 思えば、何一つ親らしい事はしてやれず、親として何を教えるにも、人生と同じく失敗続きだった。だがそれでも、あいつは、あいつらは元気に育った。それで十分だ。それで、、、


 意識が消える中、アルバから声が聞こえる。


 「死なねえでくれよ!!親(・)父(・)ィィ!!!」


 ...親父・・・そうか・・・・そうか、、おれは、、、、


 アルバの言葉に応える事なく、グレイは息絶えた。


 彼は最期に何を思ったのだろう。それは誰にも分からない。

 だが、少なくとも彼の死に際の表情を見ると、誰も彼の最期が不幸であったとは思わないだろう。

 

_________________________



 ・・・声が聞こえる。グレイの声だ。


 グレイの言葉や仕草が、彼には、微かに、だが深く届いていた。

 数滴の紅が、黒く染まったアルバの心に広がっていく。

 

 彼は、自分が拾い子だという事は知っていた。彼がもっと幼い時に、グレイに教えられたから。

 だが、そんな事は彼にとってどうだってよかった。みんなと暮らす毎日が厳しくても、幸せだったから。



 気がつくと、グレイが死んでいた。何を言ったかは覚えていないが本心であったことに間違いはない。


 アルバの目にグレイとの毎日や大男がグレイを刺した瞬間、グレイの最期といった色々な景色が浮かぶ。


 彼の心には様々な感情が宿って、ぐちゃぐちゃになっていた。

 

 そんな中、グレイを殺した大男がアルバに向かって話しかけて来る。


 「私の名は、ヴィクトル•カンディドゥス。たった今伏した、グレン•イゼルベーテを殺した者だ。」


 「・・・・・・・・・・・・・」


 「今の光景を見て、君には・・・私が彼を殺した理由を話さなければならないと思った。」


 ヴィクトルは決意を持った目でアルバを見て話し始める。


 「グレn・・・いやグレイさんは、彼なりにこの国を良くする為に革命を起こそうとしていた。そして、その事を初めに私に話してくれた。....嬉しかった。尊敬していた人に信頼されていたから。そして、彼が語る夢は素晴らしいものだった。」


 ヴィクトルの声に段々と力がこもり始める。

 

 「だが、その夢とは対照的に、革命の中身は、大気に色を塗るが如く荒唐無稽な絵空事だった。このままでは、たとえ革命を成功したとしても、ただ不幸になる人が大勢増えるだけ。だから、、、」


 話をするヴィクトルの声が大きく震える。


 「だから、、何度も、何度も何度も何度もッ!!彼を説得した。だが、彼は自分の夢を絶対のものと信じ聞く耳を持たなかった。そのまま幾許かの時が経ち、彼は仲間を集め、彼の言う革命を実行しようとした。....だから、裏切った。」


 アルバは黙って聞いていた。まだ子供であり、また教養のないアルバにはヴィクトルの言っていることの半分も理解できなかった。


 そんな事は分かっていながらもヴィクトルは続ける。


 「そして、彼は犯罪者となり、死んだ。そう思っていた。今日この目で見るまでは。私は、革命なんぞ諦めていてくれと望んだが、彼は諦めていなかった。なぜなら・・・」


 『なぜなら君と言う子供の戦士を育てていたから』と言いそうになる言葉をヴィクトルはぐっと堪えた。


 事実として、グレイは死を偽装した上で、国のすぐ近くに潜み、幼い子供に特別な力の扱い方を教えるという禁忌を犯していた。

 そのため、グレイが革命にかける情熱を間近で見ていたヴィクトルが、彼の心に革命の炎が消えていないと判断するのも無理はない。


 元々、ここにはネックレスを探しに来ていたヴィクトルは、しれっと回収していたネックレスをアルバに向かって投げる。

 

 「君が、この話を聞いて私を恨むのか、はたまた何か別のことを思うのかは私には分からない。だが、生きていくには金がいる。そのネックレスについている宝飾品を売れば、豪勢な生活ができるほどの金が手に入る。それが、君の親を殺した私のせめてもの罪滅ぼしだ。」


 今日ここで起きたことを内密にするには激しくなりすぎた為、何が起こったのかをこの国の王にヴィクトルは説明しなければならない。その証拠のため、ヴィクトルはグレイの死体を持ち去ろうとする。


 「ねぇ、なんで、グレイを持っていっちゃうの・・・?」


 「・・・・・・すまない。決して悪いようにはしないと誓う。」


 そうして、ヴィクトルは去った。呆然とした少年とキラキラと輝くネックレスのみを残して。


 貧民街を騒がせた炎はもう消えていた。


_________________________



 知らなかった。知らないことだらけだった。


 ヴィクトルとか言う男の話も

 自分を暗く埋め尽くした感情も

 そして、グレイの本当の名さえも


 「グレン•イゼルベーテ、、略してグレイ、、はは、ずっと、変わらない、、単純な奴。」


 そこに、トーマとエルレが遅れてやってくる。


 「炎を見たトエルレを連れ出すのに時間かかっちゃって、遅くなっちゃった。どういう状況?」


 「ごめん、あたしのせいで。炎を見ると昔を思い出しちゃって、、」


 アルバは2人の方を振り返る事なく、聞く。


 「ねえ、2人は『かくめい』って何か分かる?」


 「...僕は分からないな。」

 

 「革命のこと?それなら、今まであった仕組みとかものを根本からガラッと変えることだよ〜。どうしたの急に〜?」

 

 「そっか、、ありがとう、、」


 ヴィクトルの話によると、グレイはこの国を『かくめい』しようとしていたらしい。なぜ?

 

 なぜ?なぜ?なぜ?彼の頭に様々な疑問が浮かぶ。

 

 知りたい。もっと、いろんなことを。


 知ればきっと、今自分を覆っているこのぐちゃぐちゃしたものが無くなる。その時にやっとグレイの死と向き合える気がする。


 でも、どうやって?


 すると遠くから、恰幅の良い男と、刀を携える老人が歩いてくる。


 「本当にこのあたりなんですか?」


 「うーむ。この辺りのはずなんじゃが」


 老人の方は知らないが、恰幅の良い男の方をアルバは見たことがある。なぜなら、アルバがネックレスを盗ったときにその場で積荷を下ろしていた張本人であるからだ。


 アルバはそれを思い出し、2人に近づいていく。それに気づいた老人の殺気で肌がピリつくが関係ない。


 「おい!このネックレスを見ろ!!!」


 「あれは、坊が持ってきたこの国の王妃への献上品じゃのう。なぜあやつが持っておる?」


 アルバは声を張る。


 「このネックレスを返して欲しかったら、俺を、いや俺たちをお前の旅に連れてけ!!!!!」


 「「「「は!?」」」」


 アルバ以外の4人の声が空に響いた。


 

 これは、何色でもないスラムの少年が、世界を旅し、様々な人の想いに触れ、己を知ることで、何者かになる物語。

 1話どうだったでしょうか?ご感想のほどよろしくお願いします。面白いと思っていただけたなら、是非とも知り合いの方に共有して欲しいです。


 文字を書いていると止まらなくなり、1話1話で書こうと思っている文字の2倍の量を書いてしまいました。これからの話は、この量では書かないよう自制しますので、気軽に見にきてください。


 

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