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冒険者組合の鼓動



時は少し遡り、本太城で海賊から冒険者という名前にすることにした数日後、

年の瀬

冒険者会議を改めてデカ木島でやることになった


木の香りが満ちる応接室。

壁には健司が伸ばした枝が自然の装飾のように絡み、

天井には小さな虫たちが静かに待機している。


弥九郎は緊張した面持ちで座り、ほたるは隣で腕を組んでいる。


入口の戸が静かに開き、恵瓊と問田が入ってきた。

恵瓊は僧衣を整えながら、しなやかな手つきで扇を開く。


「あらぁ、今日は随分と濃い顔ぶれが揃ってるじゃないの……」


問田は元吉の後ろに控えていたお勝に気づくとお勝の前に膝をついた。

問田の喉が震える。

「……お勝様……」


お勝は大内義孝の娘であり、毛利家によって滅ぼされている


お勝は毅然とした表情のまま、ほんのわずかに頷いた。

「問田。久しいな。」

声は揺れていない。

だが、その瞳の奥だけが、かすかに震えていた。


問田は深く頭を下げる。

「大内の御血筋……まだ、この地に……」


お勝は目を伏せ、すぐに顔を上げた。

「過ぎたことだ。だが、忘れたことはない。」


しばしの静寂が部屋を支配した


その静寂を破ったのは、豪快な声だった。

「おう、揃っとるか!」

村上武吉が襖を乱暴に開けて入ってくる。

その瞬間、張り詰めていた空気が一気に崩れた。


鹿之助は時間があったらすぐ筋トレをする習性があり、

すでに空気椅子でプルプル震えている。


凪は天井を見上げて

「魔力……今日も見えん……」

とぼそぼそ呟いていて


健太郎は机の上の虫と相談している。


恵瓊は扇で口元を隠し、ため息をひとつ。

「……ほんと、あなたたちって落ち着きがないのねぇ。

まあいいわ、始めましょうか。」


扇をパチンと閉じ、恵瓊は場を見渡す。

「まずは“冒険者”って何なのか。

健太郎さん、あなたから説明してくださる?」


健太郎は静かに頷いた。

その瞬間、彼の周囲の魔力がふっと澄み、

小さな虫たちが気配だけで応じた。

「冒険者とは──危険を冒し、人のために働く者です。」


武吉が首を傾げる。

「海賊以外も冒険者に入れるんか?」


「はい。登録すれば誰でもなれます。

すでに下津井に派遣している獣人たちにも登録をお願いしました。」


「ふむ……それでは冒険者の格が上がらんではないか。」


「そこで階級をつけます。

貢献度に応じて試験を受け、合格すれば階級が上がるという仕組みです。」


武吉が腕を組む。

「なれば一目でわかるようにせねばのう。どのようにするつもりじゃ?」


弥九郎が口を開く。

「普通は認識票とかかなあ。

その代わりを短刀にするって話だったけど……色を付けるとか?」


健太郎が頷く。

「それは良い考えです。

魔法を付与すると刀身の色が変わるんです。」


凪が身を乗り出す。

「えー、どんな魔法でどんな色になるん?」

健太郎は一本の短刀を手に取った。


「まずは初級。

何も付与していないと木剣と変わらず魅力が落ちるので、水魔法を付与します。

刀身は薄い水色。“ムナ”と唱えると椀一杯の水が出ます。

魔力の補給は、この木──健司くんに刺せばしてくれます。」


凪が目を丸くする。

「それって海鬼丸の補給と同じじゃね?」


ほたるが感心したように言う。

「水を持ち運ばなくていいなら、それだけで冒険者になる価値があるなぁ。」


「一度の補給で十リットルほど水が作れます。」


「……じゅ、十りっとる? なんじゃそれは。」

武吉は意味がわからない


健太郎もハッとした表情で答える

「あ、手桶一杯ぶんです。」



弥九郎がワクワクした表情で

「なら、次は火かな?」


「火は火事が増えてもいけませんので、もっと上の階級にしましょう。」


「うーん……でも火があれば遭難した時とかには便利なんよな。」


「では、刀身が温まる魔法にしましょう。

寒さをしのげますし、魔力の消費も少ない。

刀身は橙色になります。

ここからは魔力の強弱を調節できなければいけませんが……

もちろん水魔法の上に付与しますので、水も使えます。」


こうして階級が決まっていった。


初級(水色):椀一杯の水を出す


橙級(橙):刀身を温める


赤級(赤):火を纏わせる


黄級(黄):電撃で気絶させる


健太郎は短刀を卓に置健太郎が短刀を置き、静かに言った。

「残りの階級は……おいおい決めていきましょう。」


その言葉を遮るように、武吉が身を乗り出す。

「では元海賊は橙からにしてくれ。そのくらいのアレはよかろう!」


どうやら“海賊の面子”を守りたいらしい。

健太郎は苦笑しつつも首を振る。


「いいですが、試験に合格した者とします。試験はいつでも受けて構いません。」


「ぬー、もう一声!」


恵瓊が扇で口元を隠し、面白そうに目を細めた。

健太郎は少し考え、提案する。


「では……試験に合格できるよう、講習を受けられるようにしましょう。

魔力の扱い方や基礎訓練を、誰でも学べるように。」

武吉は腕を組み、しばし沈黙したのち、満足げに頷いた。


「……それでよい。まあ、そこまでして落ちるやつは仕方がなかろう。」


しかし現実は厳しかった。

魔力の“感覚”が掴めるまで試験には合格できない。

結果として、武吉自身もしばらく橙級には上がれなかった。


恵瓊が筆を走らせながら問いかけた。

「他には? 冒険者として大事なことはある?」


健太郎はしばらく考え、ふと顔を上げた。

「……あ、そうだ。報酬です。」


その一言で、室内の空気がわずかに変わった。

海賊も獣人も、そして問田でさえ、自然と健太郎へ視線を向ける。


報酬──

それは、この乱世で最も現実的で、最も重い言葉だった。


健太郎は短刀を指で軽く叩きながら続ける。


「冒険者の働きに応じて報酬を支払う仕組みが必要です。

ただ……文や貫は土地によって価値が違いすぎます。

海の者も、山の獣人も、堺の商人も、同じ基準で扱える“共通の価値”が必要です。」


問田が静かに顔を上げた。

その目には、大内家滅亡を見届けた者だけが持つ“現実の重さ”が宿っている。

「……確かに。文も貫も、乱世では揺らぎます。」


健太郎は頷き、短刀を卓に置いた。

「そこで、冒険者組合だけで使える“円”という単位を作ります。

円は貨幣ではなく、魔力で記録される“点数”のようなものです。

この短刀に刻まれ、偽造はできません。」


弥九郎が息を呑む。

「……短刀が、通帳になるのか。」


「はい。依頼を達成すれば円が増え、

組合の施設で食事や装備、宿泊、船の利用などに使える。

文や貫とは別の、冒険者のための経済圏です。」


武吉が目を丸くする。

「ほう……海賊も獣人も、皆が同じ“価値”で動けるわけか。」


健太郎はさらに続けた。

「そして──円は米と交換できるようにします。」


その瞬間、問田の表情がわずかに揺れた。

彼は深く息を吸い、静かに言葉を紡ぐ。


「……米と換えられるのなら、

この“円”は乱世でも揺らがぬ価値となりましょう。」


大内家の滅亡を知る者がそう言ったのだ。

室内の空気が、ひとつ重みを増した。


恵瓊は扇をゆっくり閉じ、満足げに微笑む。

「面白いわねぇ。

米と換えられるなら、円は“生きる力”になる。

海賊でも獣人でも、皆が安心して働けるわ。」


武吉は豪快に笑った。

「よし! 円を貯めりゃ飯に困らんのじゃな!

なら海賊……いや、冒険者はますます増えるど!」


健太郎は静かに頷いた。

「はい。

ここから先は、皆で作っていきましょう。」


弥九郎はふと天井を見上げた。

絡み合った健司の枝が、まるで新しい世界の根を張るように広がっている。

「でも……そうしたら、この健司くんの近くでないと活動しにくいなぁ。」


健太郎は少し考え、頷いた。

「そうですね。それでも、ここを中心に大きくしていくしかないでしょう。」


その瞬間、弥九郎の脳裏に“前世”の記憶がよみがえった。

庭木の生産者として生きた、あの世界の知識。


種から育てれば時間がかかる。

親の性質も受け継がれないことがある。

だが──


「……接ぎ木をしてみたらどうかな?」


健太郎が目を瞬かせる。

「接ぎ木、ですか?」


弥九郎は身を乗り出した。

「健司くんとは意思が通じるんでしょ?

挿し木用に枝を出してもらえば、成長も早いし、

親木の性質もそのまま引き継げる。

それを各地に植えれば……どこでも魔力補給ができるようになる!」


室内の空気が一気に変わった。

健太郎はしばらく黙り、やがて健司へ意識を向ける。

枝がわずかに揺れ、葉が震えた。


「……やってみたことは無いですが、

健司くんは“できるかもしれない”と言っています。

明日から試してみましょう!」


恵瓊が扇を軽く叩き、話題を切り替えた。

「後は、そうね……冒険者の頭領はどうするの?」


その瞬間、武吉が勢いよく手を挙げた。

「わしがなるか!? わしが頭領でよかろう!」


恵瓊はため息をつき、扇で武吉の額を軽く叩いた。

「あなたは能島村上の頭領でしょうが。

二つも頭領を兼ねてどうするのよ。」


武吉は「むぅ」と唸り、腕を組む。

「じゃあ誰がやるんじゃ……?」


その問いに、室内が静まり返る。

誰もが顔を見合わせたが、名乗り出る者はいない。


その沈黙を破ったのは、健太郎だった。

「……弥九郎さんが良いと思います。」


弥九郎は思わず目を見開いた。

「ぼ、僕が……? なんで?」


健太郎は静かに言葉を続ける。

「魔力が“見える”のは、今ここにいる中で弥九郎さんだけです。

それに……海賊でも獣人でもない。

どの勢力にも偏らず、誰もが話しかけやすい。」


問田が頷く。

「確かに。

いずれ誰かが不満を抱く時、

中立の者が長である方が、組合は長く続きましょう。」


武吉も腕を組んだまま、しぶしぶ頷いた。

「まあ……確かにのう。

わしら海の者が長になれば、山の者が文句を言うじゃろうし……

逆もまた然りじゃ。」


凪がぼそりと呟く。

「弥九郎、魔力見えるし……ちょうどええ感じじゃなぁ。」


ほたるは腕を組んだまま、にやりと笑った。

「責任、取ってもらうわよぉ。

あんたが“冒険者”って言い出したんだからぁ。」


弥九郎はしばらく黙り、

短刀を握りしめ、深く息を吸った。

「……わかった。

僕が、冒険者組合の組合長をやる。」


その瞬間、室内にどっと歓声が広がった。


健太郎が続ける。

「そして──冒険者は四人以上で“組”を作れるようにしましょう。

いわゆる……冒険者組です。」


武吉が目を輝かせる。

「おお! それを海賊衆にそのまま当てはめるんじゃの!

 ならばうちは能島村上組っちゅうこっちゃな!」


恵瓊は満足げに頷いた。

「ええ。組同士で競い合い、助け合い、

冒険者組合はもっと強くなるわ。」


弥九郎は天井の枝を見上げた。

健司の葉が、まるで祝福するように揺れている。


「……本当に、新しい世が始まるんや。」

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