アリだー!
「くくく…殺してやるぞ…」
人影が、コンテナを食い破りのそのそと這い出てくる。
顔の半分が機械化されている。
「マズハ腹ごしらえだな」
二人の兵士を生で食らう。
「何処にいる…殺してやる…」
「殺すううううううううううううううううううう!!!!!!!」
「どうもーこんにちゃ。
いい匂いしてますよねー。
定食屋ですか?
朝食サービスやってます?」
「…」
目に生気のない店員。
客もうつろな目で二人を見ている。
「あー、朝だからおねむっすか?
んじゃまた出直しま…」
「シャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
エプロン姿のまま、人間の表皮が突き破られアリ頭が露出する。
「は、ハンター!?」
ドン
眉間に穴が開き、アリハンターが倒れる。
「離れてユウサクさん!」
両手で拳銃を構えるアオイ。
ゆっくりと操り人形のように起き上がるハンター。
客たちも、バリバリと人間を捨ててアリに変化する。
「うわあああああああ!!!」
目の前の店員をへっぴり腰で斬りつける。
頭が割れ、体液を吹き流して倒れる。
店内のアリ達が怒りに吠える。
「うげっ」
ユウサクが吐く。
テーブルの皿の上には、人間の破片。
恐らく運が悪ければ、二人もこうなっていたのだろう。
『アオイ!ユウサク!町から離れろ!
ここはアリの巣だ!!』
「どういうことですか!?」
『すまんな。城にいる女王を殴ったらガキどもがキレたらしい。
早くジェノサイダーのある郊外に戻れ!』
「なに軽率なことしてんだよ!
まったく…こいつはやばい…」
『女王アリを殺れば、雑魚どもの動きも止まるはずだ。
それまで死ぬんじゃねえぞ。』
「簡単に言いやがって!」
急いで定食屋から出る。
町中で既にアリがうろついている。
不気味に首を傾けて、牛歩で向かってくる。
「動きはのろいらしいな!
逃げるだけならなんとでもなりそうだ。
だが…」
『俺の心配より自分が死なない心配しろ!
今はまだ寝起きなだけだろう!
覚醒したら非じゃないぞ!』
「アオイちゃん、こいつら多分人間がハンターに寄生された奴だ。
つらいと思うが、倒しながら逃げられるか?」
「…やるしかないです。
死にたくないから。
傲慢だけど。」
「よく言った!
このユウサク、騎士の名にかけて…」
「いいから逃げますよ!!」
アオイが手を引いて出口まで誘導する。
「ちょっと待って!
俺ちょっと考えたんだよね…
アオイちゃんはバイクまで戻ってて!!」
絡みつく手を引きはがし、出口の反対側まで走る!
「あっ!
シゲルさぁん!
ユウサクさんが!ユウサクさんが!」
『なんだ、死んだのか!』
「出口の反対側に走ってっちゃいました!」
『…あの馬鹿!
何か考えがあんだろう。
外の奴らは覚醒して間もないはずだ。
絶対に捕まらずお前だけ逃げてろ!!
うおおおおおおお!!!!!』
「…シゲルさん。
ユウサクさん!」
アオイは走る。
そこに首筋に向かって、噛みつき攻撃がかする。
「ち!」
拳銃を撃って威嚇する。
「二人とも絶対生きて…!
私もだけど…」
場内。
「はー、はー」
シゲルは肩で息をしている。
一度隙を突かれて肩を噛まれただけなのに。
「なんだ…こりゃあ…」
「貴様がクラゲを斃したという報告は聞いている。
あのおそろしい毒からどうやって生き延びたのか。」
「そんな事、おれが知るか!」
「だが毒自体は効かないと仮定しよう。
だが副産物に耐性はあるのかな?」
「ヒアリか?」
「おお。流石は科学者の孫よ。」
「じじいは学者だッ!」
心臓を狙った一撃はガードされる。
「焦っておるな。よいよい。
このまま防御し続ければ、わらわの勝ちじゃからのう」
(この熱は流石にまずい…
フル放電なんかしたら体中がオーバーヒートしちまう…
どうにかしねえとな…)
「ここは元々お前の領地なのか?
それとも侵略しに来たのか?」
「時間稼ぎか?命とりなことを…
まぁええ。
コウモリからキサンの話を聞いてのう。
迎え撃つ為にここを新たな巣としたのじゃ。
ウィリアム様からいただいた鉱山には正直飽き飽きしていたからのう」
「ここは使徒の統治していない、帝国の食料生産地のひとつだったようだが?
勝手なことをして…粛清の可能性は考えなかったのか?」
「ほほほ。ウィリアム様は大局を見る御方。
生産奴隷などあとで調達すればよい。
まずは貴様のような邪魔者を排除してナンバー2にのし上がる。
そうすればこの程度の犠牲など、帳消しものじゃ。
お釣りがたんまりくるぞ。
ウィリアム様亡きあとはわらわの天下!」
「クラゲ野郎の話だと、13使徒のトップは不老不死を得るらしいが?
ずっとアリ兵士を生み続けてウィリアムの心変わりを待つつもりか」
「あくまで噂にすぎぬ。確かにウィリアム様は
帝国建国以来ずっと姿が変わらぬが…
改造手術でも施しておるのじゃろう。
さて、そろそろよいか?」
女王が戦闘態勢を取る。
「天が呼ぶ地が呼ぶ…」
「パララニードル!!」
毒針がばら撒かれる。
「人が呼ぶッ!」
とっさに変身が完了し、窓を破って飛び出す。
「ふん…ギリギリまでハンター態をとっておくとはの。
おい!町中しらみつぶしで探せ!
逃がして返すな!」
「ギー!」
アリ兵達は動き出した。
「うおおおおお!きやがれ!」
武器屋に数匹いたアリを切り伏せ、在庫置き場奥に陣取っている。
「おらおらおらおらぁ!」
侵入者に売り物のショットガンをぶっ放す。
「アリにされた人たちの恨みを思い知れ!
おかげさまで武器ならいっぱいあるんだぜ!!」
町中をうろついているのは元民間人な為、防具がなく容易に銃撃で体組織が吹き飛ぶ。
しかしぞろぞろと入ってくる。
ありったけの銃弾をリロードしつつ、様子を見る。
「アオイちゃん…君は生き残れ…。
俺が生き残れたら、ありったけの銃を土産にするからな。」
「ハァ…は…」
垣根に隠れた噴水の中に落ちたのが幸いだった。
ヒアリ熱が少し引く。
「くそったれが…コウモリ野郎絶対ぶっ殺す…」
水をガブガブと飲む。
「ふー。
こちらシゲル。
そっちどうなってる」
『うひょー!片手でショットガン撃てるなんて!
俺天才かも!?』
「…何やってんだお前は」
『せっかくだから武器屋に籠城してんの!
結構楽しくなってきたぜ!?』
「…逃げろって言っただろ。
おれ一人ならなんとかなる。
お前が死んでも知らんからな。
せめてアオイは逃がせ」
『大丈夫!アオイちゃんはちゃんと逃げるよう言ったから!
男たるもの!』
「ふー…
親父?
悪いけどジェノサイダーのマスター権の移行を…」
「わあ…」
かじりついてくるアリにひたすらレーザー銃を撃ち灰にするジェノサイダーの姿があった。
『アオイさんだね?ジェノサイダーのところまでついたみたいだね。
カブだよ。
隙を見てサイドカーに乗りなおしてね。
カプセル状のガードで守ってくれるはずだから。
あとはシゲルが使徒を倒すのを待っててね』
「はい…」
「どうどうとお邪魔しまーす」
もはやアリに食い破られた正門を蹴り飛ばす。
金属のたわむ音がする。
武器庫に向かい、むき身の剣をひたすらベルトに刺す。
向かってくる敵は切り刻み、刃こぼれしたら新手の心臓に刺して使い潰す。
「ちーす。
あ、ユウサクの口癖がうつったかな」
「おやおや。おうちに帰って療養しに行くのではなかったのか?」
「貴様らみたいな迷惑な使徒をほっとくほど、おれはお人好しじゃないんでね。
ここでケリつけさせてもらうぜ」
「ほほほ。ええだろう。
わらわはクラゲのようにおぬしを部下にしようとか、塀にしようとは思わん。
ここで溶かしつくしてくれるわ。」
「やりあう前に聞いておきたい。
ここで全滅した住民はどうやって補填する気だ?」
「どこかの町から攫ってきて移民にすればよかろう。
死と天秤にかければ、命がけで働く愚民などはいて捨てるほどおるからの。」
「そうかい…」
─
「生き残りの方ですか?
こちらへ、早く…」
「誰だお前は」
突如現れた少年に導かれて訪れたのは、地下の洞穴だった。
数十人の土で薄汚れた人々が、甲斐甲斐しくシゲルの手当てをする。
「すまん。ここはどこだか、教えてくれないか」
「あなたは運がよかったです。噴水の地下の防空壕です。
ここの騎士団は弱いので、住人が必死に穴を掘って避難所にしてるんです」
「生き残りがいたんだな。
ああ、包帯はいい。すぐ治る」
「じゃあ、せめてこれを」
解毒剤を渡される。
流石に無碍にはできず、水で飲みこむ。
「あいつら表のアリが現れたのはいつからだ」
「昨日の昼に急にです。
キレイな女の人が城に助けを求めてきたんです。
そうしたら数時間後にハンターが城から出てきて…」
おばさんが泣く。
「うちの旦那もみんな、何か管みたいなのを刺されて。
ぼーっとするようになっちまって…
近くにいた人に嚙みついて襲うようになっちまったのだ!」
シゲルは苦い顔をした。
恐らくコウモリが自分とクラゲの交戦を見ていて、女王に進言したのだろう。
そして万が一クラゲが敗れた時のため、兵を作っていたに違いない。
「…あいつらを元に戻したいか。」
「馬鹿でもわかるよ!もうハンターになったら戻れないんだろ!?」
だったらいっそ、楽にしてやって欲しいもんさ…」
「そうか。わかった」
「どこに行くんだい!?ここにいた方が安全だよ!
他所から騎士団が助けに来てくれるはずさ!」
「他人に頼りきりじゃ、何も始まらない。
それどころか、あんたらもいずれ見つかるぞ。
世話になったな。」
─
「…さん」
「どうした?虫のさえずりかえ?」
「きさまだけは…
ゆ゛る゛さ゛ん゛!!!!!!!!」
ボッと蒸気が噴出する。
女王はたじろいだ。
鳥の意匠のハンターが肉薄する。
隙を与えず殴る、殴る。
「ぐ、ぐっ!」
「町民の味わった苦しみはこんなんじゃ軽い!!」
頭をつぶそうと拳を振り上げた時、脇腹に鋭い痛みが走る。
「ものども!押しつぶしてしまえ!」
多数のアリの伏兵達がシゲルを押さえつける。
「小細工だな」
「まだまだ行くぜ…あらら!?」
鎧を着たアリが入って来た。
ショットガンが弾かれる。
「うそーん!?シゲルは何やってんのよん!?」
次々と進撃し、バリケードを潰していくヨロイアリ達。
そしてカウンターも潰され、死を覚悟したとき。
「伏せて!!」
「ひい!いわれなくても!!」
レーザーの照射で、アリ達の頭がどろりと溶ける。
「あ…アオイちゃぁん!?
なんでここにいるのぉ!?」
「いや…カブ博士の言う通りにバイクで待機してたら急に動き出して…」
「まぁとにかく助かった!
ほらたんまり銃があるぜ!乗るかな!?」
「ユウサクさん…銃の心配ですか…」
「な!?」
「サンダーフェザークラッシュ!!」
シゲルが筋肉を震わせると、
帯電した羽根が散らばり雑魚を一掃する。
思わぬ反撃に狼狽えた女王の滅茶苦茶な攻撃を
冷静に受け流す。
カウンターに雷の拳を堅実に一撃一撃と入れていく。
「ぐ、が
やるのお」
シゲルは違和感を感じた。
確かにヒットしているはずだ。
だがなんだ、相手のこの余裕は。
「何笑ってやがる。
これで終わりだ!」
「決着をつけようぞ!!」
ヒアリ毒のエキスが噴出される。
電撃を全身にまといはじく。
左胸に手刀を差し込む。
心臓がない。
「!?」
「ならこれだ!!」
電撃を心臓に集中させ、超スピードで四肢をもぎ取り
首をはねる。
「ハァ…ハァ…」
「ははは。」
「何笑ってやがる!」
「わらわの肉体はここにあってここにあらず。
貴様の最期じゃ!!」
女王が爆発すると同時に、城が崩壊していく。
脚に電撃をまとわせ、必死に地に墜ちまいとする。
しかし何かに引きずり込まれてむなしく落ちた。
「ここは…」
「ほほほ!これぞ我が本体じゃ!
この空洞で朽ちるがいい!」
巨大なシロアリハンターが歯をカチカチさせ鎮座していた。
クイックタイムは効きません。