【第三十四話】 -悩み-
あのフェアリアムから数日が経った。
フェアリアムでワットと戦ってから俺の学園生活はある意味悪い方に転じた。
「おはようございますミランさん」
「ひっ…あぁうん、おはようジェイク」
一つは最上位クラスの奴らが皆んな余所余所しくなった。
と言っても、しっかりと表に出しているのはミランただ一人で、シュートは顔には出していないが避けられているような気がするのだ。
「おうジェイク、今日はお前が行けよ?」
そんな中、グリムだけは前と同じように接してくれる。
俺のことを何とも思っていないわけではないだろうが、俺からすればとてもありがたい。
「分かってますよ、じゃあ行ってきます」
教室の扉を開けて廊下に出る。
他の教室達を見ると、どの教室も基本的に朝の挨拶全員でしている所、すでに終わって廊下で話している者とまちまちだ。
「おい…あれ」
「目合わせんな、何されるかわからないぞ」
二つ目は、よく怯えられるようになったと言うことだ。
廊下に出ている生徒たちが俺を見つけると、一気に静まり返り、その場を離れるとまた騒がしくなる。
目を合わせないようにと言っていたが、俺がそいつらの前を通ったら後ろから怯えるような視線が突き刺される。
少なくとも今までの俺の事を可愛いものを見ているかのような、そんな視線では全くなくなっていた。
だから、たまに俺が注意をしたりすると、その場から消えるように生徒たちが逃げ出してしまうのだ。
まぁそれはそれで、これからの見回り活動に良い影響を及ぼすので、この状況は多めに見ることにする。
「ジェイクさん!!おはようございます!!」
しかし、一人だけ違った。
何より俺と会うのが嫌になるはずのワットが、意気揚々に俺に話しかけてくる。
「おはようございます、では失礼します」
「はい!失礼します!」
ワットの横を早歩きで通り過ぎる。
三つ目はワットの頭がおかしくなったこと。
恐怖に駆られた時も、媚を売るような真似はしていなかった。
この数日で何が起こったら俺の傘下のような奴になる?
得体の知れない怖さを感じるのだ。
「……はぁ」
ワットに嫌気がさしたため息では無い。
俺の少し後ろを歩いてくる足音に対してだ。
ここ数日間、俺は同じ最上位クラスのクォーツ・ホワイトに尾けられているのだ。
「……何かしてしまったか」
尾行してくると言う事は、俺に何か言いたいことでもあると言うことになる。
何かを言われるようなことは特にしてないと思うが、気になってしまう。
「……次は三階か」
三階はこのガレット学園の最上階。
ここが終わればもう今日はする事はない、終わったら書庫に出向き本を読むとしよう。
────
──
「……違ったか」
三階の見回りが終わり、書庫にある本を数個手に取り机の上に並べる。
二冊同時でもいいが、あんな思いはもう懲り懲りだ。
落ち着いて一冊ずつ読む、これは本に対する尊敬だ。
今読んでいるこの本、これにも俺のことについての本ではなかった。
俺の本があれば、ジルク・リージョン時代からどれほど経過しているかわかると思っていたのだが、肝心の俺が乗っていない本ばかり当たってしまう。
考えたくはないが、ジルク・リージョンの本がないという可能性だ。
本当に小さな可能性…俺は世界の魔法を大きく発展させてきた、これは目に見えている実績であり、決して自惚れているわけではない。
「と、隣座ってもいいですか?」
最近俺の事を尾行していたクォーツが、本を二冊持って俺の隣まで来ていた。
「いいですよ、どうぞ」
座りやすい様に席を引いてあげる。
クォーツは俺の引いた席に座り、本を開いて読み始めた。
気まずいなんて思ってはいけない。
書庫など人が読書をしているところは静かに一人の時間に鳴ることが大切なのだ。
……気まずい。
「えぇっと、ジェイクさんは何の本を読んでいるんですか?」
クォーツが気まずいこの空間を断ち切った。
「これは魔法の歴史についての本です、少々気になったので」
「魔法の歴史と言えば、がエルリ・フレンドリーと言う人がいるんですよね」
「……ガエルリ・フレンドリー」
「そうです、ガエルリ・フレンドリー、この世界の魔法を発展させた魔法研究家なんですよ」
ガエルリ・フレンドリー。
五年ぶりに聞くその名前が頭の中で反復する。
俺には届かなかったものの、奴の確かに優秀な魔法研究家だった。
と言うよりも、ガエルリ・フレンドリーの事を知っているのならば、何年前かもわかるはずだ。
「そんな人がいたんですね、言ったいつ頃の話だったか分かりますか?」
「えぇっと、今から千年ぐらい前の出来事ですね」
「千年前ですか…それは相当昔の話ですね」
判明した、俺ジルク・リージョン時代から実に千年の時が経過している。
実感がわかない、俺からすれば一瞬だったからだ。
そのほかにも、俺の調べないといけない事が分かりそうだ。
「ガエルリ・フレンドリーさんのほかにも、何か有名な人はいたんですか、例えば世の中の魔法を大きく発展させた凄い魔法研究家とかは」
「えぇっと…すいません、出てきませんねってちょっと大丈夫ですか!?体調がすぐれないですか!?」
「あぁ…はい、大丈夫です、本当に」
奴は人と話す能力に長けていた。
魔法の知識は明らかに俺の方が多い、しかしそんな俺をよそにガエルリは魔法についての多くの相談を受けていた。
その差がこれか…千年越しに恨みがわいたぞガエルリ・フレンドリー。
そしてそれが歴史の中にも…いや、俺が見つけていないだけだ。
「あ、あの!!」
「うおって…どうしたんですか?」
クォーツが突然顔を近づけてきたので少し後ろにのけぞる。
俺がタジタジとしている態度を取っていると、クォーツは最後の一撃とばかりに言った。
「魔法を私に教えてください!!」
────
──
「……なるほど」
彼女の話を聞くとこう言うことらしい。
彼女、クォーツ・ホワイトは俺と同じ、弱いという認識をされていた。
いや、彼女は本当に弱い。
話によれば、クォーツはどの魔法も普通に使う事はできる。
しかしミラン、シュート、グリムのような一角がない。
俺も同じ部類なのではないかとクォーツは親近感を沸かせていたらしいが、俺がワットを圧倒した事で孤独感が生まれたクォーツは俺に助けてを求めてきたらしい。
「すいません、こんなこと言っちゃって…やっぱり何でもないです」
「いえ、待って下さい、それなら何故クリラ先生はクォーツさんを最上位クラスに?何かあるんじゃないですか?」
「それが分かったら苦労しませんよぉ…はぁ、何で私が」
クォーツがぶつぶつと何かを呟き始める。
「だ、大丈夫ですよ、クリラ先生も何か意図があって入れたんだと思いますし」
「思います…ですかぁ」
クォーツの周りの空気がさらに重々しくなった。
しかしクリラ…一体どう言う意図だ?
原則魔法の火、水、風のどれにも飛び抜けた才能がないクォーツを入れる理由…
「すいません、俺には何とも…」
「そうですか……ありがとうございました」
そう言ってクォーツは本を持って席を立った。
空気だけでなくその足音一つ一つに鉛が付けられたようだ。
「あぁでも、卑屈になることではないと思います…その、自分が知らない秘められた才能があるんだと思います」
「そ、そうですか…では失礼します」
書庫を出ていく最後にクォーツに笑顔が生まれた。
ひとまずは元気つけられてよかった。
書庫に完全に一人の空間になり、本を手に取り机に向かう。
題名『強い魔法使いのなり方』当てにはしないが、ないよりはマシだ。
俺は本を開いて、中の内容を読み始めた。




