中(参)メールの内容
泉水 大輔(いずみ だいすけ)|先輩から、メアドをもらった、紅。
ウキウキ気分で、家に帰宅したー。
ああ。
やっとできた・・・。
私は四つ折りにされた真っ白な正方形の紙を広げた。
そこにはある人のメアド・・。
スマホのホームボタンを押して、メールの形をしたアプリを押した。
★☆☆★★★☆
『先輩っよろしくお願いします』
新しくできた「大輔先輩」のチャートにメッセージを加える。
さっき、本を落とした私を助けてくれた泉水大輔先輩にメアドを渡された。
ー「今夜じゃなくていいよ、いつでもいいから」
なんて言われたけれど、もうそんなことできない。居ても立っても居られない。
返事来るかなあ・・もう寝たかな・・・
トゥリン
「あっ」
この音はー。
スマホを慌てて開いた。
やっぱり。
ロック画面には大輔先輩の返事が来たことを知らせるものがあった。
「なんだろう」
その通知をスライドする。
『え、本当に今夜登録しちゃったんだ』
『はいっ本当です』
いつの間にか指をそう動かしていた。
私は、大輔先輩とメールでやり取り、会話をするようになった。
それはメールでやり取りをしたことがない私にとって、とても新鮮なことだった。
両親は
「ねえ、聞いて」
と言って、学校であったことを話そうとすると
「ごめんね、もう明日仕事だから」
と、話させてくれない。
いつもそう。小さいころだって、たくさん話したかった。でもいつだって聞いてもらえなかった。
一人っ子の私にとって、それは苦痛だった。
だからどうしても自分の両親を「親」と認識できなかった。
私はいつも一人だった。
なんでお母さんはメールをよく思ってないんだろう・・・・。
『先輩、今日なんか理科のところがよく分かりませんでした』
もちろん、敬語は欠かせない。
『何?どういうところ?』
『う~ん・・・・化学ですかね・・?なんかいろいろ複雑で分かりません・・』
『ああ、大丈夫。』
何が大丈夫か分からないが、勇気が持てた。
翌日
『先輩』
『何?』
『なんかたばことか、お酒のお誘いは断れって言われました』
『そうだよ、未成年だからねえ』
『そんなことしないでくださいよ』
『なあに、するもんか。何がいいんだよ、あんなの』
『そうですよね・・』
『それがなにか?』
『あっ、いえ・・』
さらに翌日
『ああっ、部活、疲れたあああ』
『ふうん』
『あっ、ごめんなさい、つい敬語が欠けてしまいました・・・』
『大丈夫だよ、ここでは敬語なしでも』
『あっ、本当ですか?』
先輩の機転がとても驚きだった。
『それより』
『?』
『部活、何に入ってるの??』
『ええっと、バレーボールに』
『バレーボール・・・へえ、レシーブとか打てるの?』
『・・・・まあ、打てますが弱いですよ?』
あっ・・・、
敬語にしてしまった・・。
先輩からの敬語はいきなりでは直せない。
『いやあでもすごいじゃん』
先輩は気が付かなかったようだ。
『そうでも・・・私はちっぽけですから』
「あっ、そうだ」
私は思いついてさらにそこに付け足した。
『それに私は補欠だから』
『そ、そうなの?』
『いや、そんな驚かなくても・・・私の練習風景見たこともないのに・・・』
『じゃあ、見に行くよ』
「・・・・え?」
おかしい。
私はとても下手くそなのに。そんなの誰にも見せたくない。
『え・・?でも部活はどうするんですか?』
『放棄』
「え?」
部活は放棄してはダメ。それにそうやって自覚して行うのもするのもよくない・・・。
『いや、ちょっと待って下さい、大輔先輩って何部・・・?』
『陸上』
『陸上部・・・』
いや、それこそダメではないか?
同じ体育館部活、バスケットボールならひょっこりのぞいて見るのは可能だが、外の部活なら、不可能。
姿を消してのんびり後輩を見に行ったというと、大輔先輩は叱られるのではないか?
しかも・・・私なんかで。
もっと注目するだろう、私に・・・。
そして注目したところで気が付く。あの人はなぜ赤髪なのかって・・・。
そしたら、クラスだけがからかいの敵ではなくなってしまう。
そんなの嫌だ・・・・・・。
今のだって嫌だというのに・・・嫌ずくしに・・・。
『放棄しないで』
『なぜ?』
『だって心配するじゃないですか』
『いいじゃん』
『今はやめてください。まだ心の準備ができていないので』
『心の準備とかあるの?』
『ありますっ!いいからやめてくださいっ!』
やっぱり敬語が抜けない私だった。
さらに翌日
『ねえ、紅っていうんだよね』
「え・・・・」
なぜ今更・・・?
私はもっとずっと前からそう言っていたのに。
『は・・はい』
『これから紅って呼んでいい?』
『はい』
これは躊躇なく指が動いた。
紅と呼ばれているのは、友達くらいしかいない。
たとえその名前が赤髪を意味することだとしても、とても誇らしかった。
『そういえばきれいな赤髪だよね、紅って』
「・・・・・」
その後に赤髪が来るとは思わなかった。
・・・・好きな人だった瞬に何度も何度も赤髪のことをからかわれ、
この前、切ったばかりである。
初めてだったから、とても不器用な切り方になってしまったが、赤髪のことを忘れることができて、せいせいした。
このメールだけはどうやって返信したらよいのか分からなかった。
『そうですねええ』と打つべきなのか、『その髪のことはやめてください』と打つべきなのか。
そしたら向こうからメールが追加された。
『なんでそういえば、髪切ったの?』
とてもとても純粋な質問だったに違いない。
でもちゅうちょなく私はもう返信していた。
『そのことはもう触れないでください。もうそのことは思い出したくないです。』
その後、けっこうな時間が経った。
私は何か悪いことをしてしまっただろうか・・?
「あっ・・・」
『そうなんだ・・・・。もう寝た方がいいよ』
私はお言葉どうり、寝ることにした・・・。