第7話 突き刺さる視線が痛いです
目的地である服屋は、立ち並ぶ住宅とは違う点がいくつか見られた。
まず一つに、木造建築。
焦げ茶色の外壁に赤と青の布による装飾が施さている。
そして何より規模がでかい。
この町だと冒険者ギルドに次ぐ大きさだろう。
「ここでリオネーラの服を買う。好きなものを選んでいいよ」
服屋の前でリオネーラと並び、建物を眺めながらそう言った。
「……本当によろしいのですか?」
「うん、欲しいのを選んでいいよ」
「私が、好きなものを選んでもよろしいのですか?」
「……き、金貨一枚以内にしてね」
現在の全所持金は五〇〇〇〇レギン弱。
金貨一枚……つまり、一人一〇〇〇〇レギン使えば残りは三〇〇〇〇レギン。
少しは持つだろうが、それも片手で数えられる程度の日数だ。
とか、そんな理由で明日にはもう行動を開始しなければいけないのだ。
リオネーラの魔術指南にしろ、金稼ぎにしろ。
「……、」
ふと横を見れば、これで何度目かもわからないリオネーラの探るような眼差しが向けられていた。
きっとこれは、本当に良いのかを確認しているのだと思う。
ニコリと笑い返すと、やがてリオネーラは小さく呟いた。
「……ありがとうございます」
「うん」
小さく礼をするリオネーラを連れて服屋の中へと足を踏み込む。
中は男性着と女性着がコーナー別に分かれており、配置等で見た目より広く感じる工夫が見られた。
「……なるほど」
どうやた店自体が大きいのには別の理由があったらしい。
この店、防具店も中に入ってる。
服が並ぶコーナーの別に、防具転用のカウンターがひとつ存在した。
それを囲う様に様々な種類の装備品が置かれている。
服屋兼防具店って訳だ。
「じゃあ好きなの選んで来て。僕も自分のを選ぶから」
「はい」
そう言って再び彼女は礼をすると、ゆっくりとした足取りで女性着コーナーへと向かっていった。
少し楽しそうに見えるのは気のせいじゃないはずだ。
そんな彼女を可愛いと思ってしまうのは不可抗力以外のなにものでもないだろう。
ナニモノデモナイヨ?
子供好きだとは自分でも思っているけれど、ロリコンとかそういう訳じゃない。
異議異論は認めない。絶対だ。
「さて」
小さな背中を見送った僕もさっそく選び始める。
何かと黒色を好んでいる僕の足は自然と黒色の服が多く並ぶ場所へと向かっていった。
髪の色も黒、瞳の色も黒、肌は結構白いけど、上も下も黒づくしだと全身真っ黒に見えてしまうが、黒好きな僕はそんな事は気にしない。
この世界において、黒髪黒瞳と言うのはかなり珍しい。
と言うのも、全くいないというわけではないのだ。
ただ奇異の目で視線を向けられるくらいの存在というだけである。
僕は別世界からの転生者だからか、元々髪が黒かったからか理由は知らないが、この世界でも同じように黒い髪を持って生まれてきた。
姉さんは水色だったから、遺伝子事情は全く絡んでいないらしい。
そういった諸々の事情があり、視線をたくさん向けられるのがあまり心地よくないため、僕は普段着ているコートのフードを被っている。
まあそれが理由で別の意味での視線を向けられたりはしたが。
……そう言えば『獣』との戦いでこのコートにもかなりボロが来ているな。
近い内に新しいものに買い換えたほうがいいかもしれない。
結構良い魔法具だったのだが、仕方がないだろう。
なんてことを考えながら服を選び終えた僕は、リオネーラを探して移動する。
「ヴァル様」
振り向いたリオネーラが僕を見つけてそう言った。
そしてそれは同時に、周囲で物色する女性逹の目を僕へと誘導させる。
……なんだ、この視線は?
心の中でそう呟いてすぐに、この痛々しい視線の意味を理解して頭を抱えたくなった。
今の状況は簡単に説明してこんな感じだ。
全身真っ黒でフードを被った素顔の見えない怪しい男が、まだ年端もいかない十四歳の可愛い女の子に様付けで名前を呼ばせ、さらに女性服売り場の方へと足を踏み入れようとしている。
……違うんです。
弁解させてください、違うんです。
僕が様付けを命じた訳じゃないんです神に誓ってもそうではありません。
これは彼女の奴隷としての本分が働いてしまって――……、
……。
「分かったよ……奴隷商店で奴隷の売れ行きが悪い理由。この町の人自体、奴隷のこと良く思っていないのな」
奴隷という存在をあまり好ましく思っていない人が多いのなら、必然的に奴隷購入者も減っていく。
そりゃあ移転させようとも思うはずだ。
もしかすれば閉店も視野に入れているかもしれない。
僕がリオネーラを買う事が出来たのもタイミング的にはギリギリだったのだろう。
なんて冷静な判断をしている間にも、突き刺すような視線は僕に目掛けて一斉投射されています。
視線が痛いです。
沢山の視線を向けられるという経験は過去に何度もありましたが、今回のが一番堪えますね。
リオネーラは針のむしろ状態の僕には全く気が付かず、無表情のままこちらへと寄ってきます。
僕の表情を見た彼女は小さく首を傾げ、
「どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもないよ」
両手を振って否定の意志を示す。
リオネーラは疑問符を浮かべていたが、すぐにそれを取り払って手に持っていたものを掲げた。
「……こんな服はどうでしょうか?」
彼女が手に持っていたのは水色のワンピース。
地味過ぎず派手過ぎず、シンプルな作りをされていた。
水色の地に白い花の模様が描かれていて、裾には花と同色のフリルが付いている。
――やっぱり、無表情がデフォルトなリオネーラにとっては少し派手なのかもしれない。
でも、なるほど確かに。
リオネーラの髪の色とも相まってよく似合うと思う。
「凄く似合うと思うよ」
「そうですか」
「ああそれと、いちいち僕に言わなくても自分で選んで決めて良いんだよ」
僕は無造作にリオネーラの頭に手を伸ばすと、その頭を優しく撫でる。
きっと彼女が僕に選んだ服を見せるのは、僕に評価されたり似合う服を選んでほしかったり、そういう理由では無いはずだ。
僕に言葉を仰ぐことで自分の行為に対して安心を持ちたい。
端的に言えばそう、本当に自分だけで選ぶのは不安だから主人の言葉を貰おう。そんな感じだ。
少なくとも彼女から、好意のある異性に何かを言って貰いたい、そんな雰囲気は捉えられない。
「……はい」
面倒だ、とは思わない。
仕方がない事だろうし、何とかしてあげたい事でもある。
リオネーラは普段――とは言ってもまだ出会って二日目だが――無表情でクールビューティなため大人びて感じる部分もあるが、事実彼女はまだ一四歳。
小さな女の子なのだ。
「ほら、あと数着選んで買ってしまおう」
「分かりました」
僕はそう言いながらリオネーラの背中を押して、彼女の服選びに付き添った。
十数分掛けて選んだのは、これまたシンプルな白いシャツとチュニック等。
一四歳、宵中夕夜としての価値観ではオシャレをしたい年頃なのではとも思うが、リオネーラなら派手なものを選ばないのも容易く納得できる。
自分のものと合わせてカウンターへと持っていくと、さっきの事の顛末を見ていた受付さん(女性)にも白い目で見られました。理不尽。
そんな感じで肩を落としたまま服屋を出た僕等は、その後すぐに宿へと戻った。