4 企み
深夜。
しんと静まり帰った部屋に、数名の男たちが集まり深刻な顔で会話をしていた。
「皇后さまを禁足処分にするとは、あの男め、どういうつもりだ!」
「だが、今回の失態はかなりの痛手だ。今までは皇后という立場もあり多少のことは多めに見て貰えたが、今回のことで陛下も皇后とは距離を置くようになるだろう」
皇后の父である蘇琴哲は、腕を組み難しい顔をする。
これまで皇后は、慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、裏では多くの妃や、その妃たちが産んだ皇子たちを陥れるなど悪行の限りを尽くした。正妻という立場もあり些細なことは陛下も目をつむってきたが、これまでの悪行が明らかになれば、さすがに皇后の立場も危うい。これまで権力をかさに、思いのまま朝廷を牛耳っていた蘇一族も危うくなる。
「やはり、陛下には玉座を退いていただくしかないようだ」
「そのようですな」
「ところで、国境の町啓安で、盗賊が暴れているという話はどうなった?」
一人の男がぽつりと呟く。
いきなり何の話をし出したのか、とその場にいる者たちがぽかんとした顔をしていたが、やがてなるほどと頷いた。彼らは互いに顔を見合わせ、口元に意味ありげな笑いを刻んだ。
その夜、一心はベッドの上に座り、腕を組みながら考え事に没頭していた。
あの毒……。
少し前にも一心は皇后に殺されかけた。殺される理由は、てっきり陛下の寵妃となったせいで妬まれたと思っていた。しかし、それは勘違いだったようだ。
燕鶯を助けるため、川に飛び込み溺れた李凜花の記憶が教えてくれた。
皇后が刺客を雇い、燕鶯を船で殺そうとしたのを凜花に見られた。だから、皇后は林杏に近づき毒を盛って凜花を殺そうとした。だが、ことごとく殺害計画は失敗し、今回皇后自ら月明宮にやって来て鍋に毒を入れるという強行手段にでた。
慎刑司に連れられた侍女は尋問に、皇后は無関係、すべて自分一人でやったことだと自供している。それゆえ、皇后を罪に問うことはできない。
だが、よくよく考えてみると皇后はオレだけでなく、燕鶯をも殺そうとしていた。あの鍋が燕鶯に出されることを皇后は知っていた。それを知っていながら毒を盛ったということは、燕鶯も毒殺しようと思った。
皇后は自分の息子を皇帝にしたいと船の上で言っていた。いつまでも皇太子に立ててくれない燕鶯に業を煮やし殺したと。
たとえ後宮の主である皇后という地位についても、いつその地位から引きずり落とされるかわからない。自分の息子が皇太子となり、いずれ皇帝の座につけば、皇后は皇帝の母となりその地位は盤石なものになる。
皇太后になってようやく、本当の後宮の真の主となるのだ。
そのために夫を殺すとは、
このままでは、またいつか皇后の手の者が襲ってくるか分からない。今回は無事だったが、次も運良く助かるとも限らない。
考え込むように一心はひたいに手をあてた。
うーん、と唸る一心の脳裏に、ふっと、ひたいにキスをしてきた燕鶯の顔が浮かんだ。
こんな時に、なんであいつの顔が浮かんでくるんだよ!
「消えろ、消えろ!」
頭の中に浮かぶ燕鶯の姿をかき消すように、一心は両手を振り回した。




