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転生したら後宮妃!? ―料理で陛下の胃袋を掴んだら、寵妃になってしまいました―  作者: 島崎紗都子
第4章 陛下と朝を迎える? いや、ほんとに何もなかったから!
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10 まだまだ自分は甘かった

 寧貴妃の禁足を解くには、皇后に危害を加えたのは彼女ではない、むしろ皇后に嵌められたのだという動かない証拠が必要だ。そうでなければ皇帝は動かない。宮中では真実を突き止めることがすべてではないから。

 厨房に立ち、一心は料理の下ごしらえをしていた。

「姉姉、今日の料理はなんですか?」

 詩夏が手元を覗き込んできた。

「鴛鴦鍋ってことは、火鍋(フオグオ)ですね!」

 鴛鴦鍋とは、中央を太極の陰陽に見立てて仕切られた丸鍋のことである。

 火鍋の味の決め手は、スープの味付けでもある鍋底(グオディ)だ。


 一心は二日前に仕込んでいた鍋底を取り出す。

 これは大量の唐辛子を熱湯に漬け、さらに菜種油に香辛料を漬ける。菜種油にナツメ、枸杞の実、松の実、蓮の実、陳皮、桂皮、ナツメグ、八角、花椒などの香辛料を漬ける。

 一心はニンニクの塊を手に取る。それを砕き生姜を刻む。先程、湯に漬け込んでいた唐辛子をざるにあげ、二本の包丁を交互に叩いて細かく刻む。

 鍋に油を熱して葱を入れる。香りがたってきたら、葱を取り出し牛脂をと大蒜、生姜を投入。さらに豆豉と刻んだ唐辛子、豆瓣醬も入れてしばらく炒める。

 炒めたそれらに、氷砂糖、残りの香辛料、泡椒、さらに唐辛子、湯円を作った時に使った酒醸を入れゆっくりと炒めたものだ。鍋底を鴛鴦鍋に入れ、豚肉と牛骨でとった出汁をそそぐ。瞬く間にスープが赤色に染まった。


「出汁の色が赤くなってきましたね。辛そう~」

 食欲を誘う色と香りに、詩夏はごっくんと唾を飲み込む。

 火鍋は辛いだけの鍋と敬遠されがちだが、さまざまな薬膳素材を使っているため美容と健康にもよいのだ。

 枸杞の実は滋養強壮、糖尿病予防。蓮の実には、精神を安定させる作用。松の実は美肌効果や眼精疲労などなど。どれも、健康に効果のある食材ばかり。

 さらにもう片方のしきりに白湯スープをそそぐ。

 後は鍋に入れたいお好みの具材を用意して、できあがりだ。


 一心は腕を組みうん、と頷いた。

「薬膳たっぷりのこいつを食べれば、少しは気力体力を補えるだろう」

 一心の言葉に詩夏はくすりと笑う。

「なんだかんだ言っても、やっぱり姉姉は陛下のことを気づかっているんですね」

「誰があいつのことを気づかうんだよ。少しでも寧貴妃に元気を出してもらおうと思って作ってんだ。昨日会ったけど、かなりやつれていたからな」

 詩夏ははいはい、と相づちを打っている。

 いくら一心が愛する寧貴妃のためと言っても信じようとしない。それどころか、燕鶯のためと正直に言えなくて、照れ隠しにそう言っていると思われている。

「皇后さまのおなり」

 そこへ、皇后が月明宮にやって来たことを告げる声が響いた。


「皇后がなんでここに?」

 一心は慌てて厨房から出て皇后を迎えた。

「皇后娘娘、ご挨拶いたします」

「楽にしてちょうだい」

「感謝いたします」

 皇后は月明宮を見渡した。

「相変わらず、月明宮は賑やかね。陛下が毎日通いたくなるのも頷けるわ」

 ここ最近燕鶯は凜嬪以外の妃のところへは通わず、それこそ毎日月明宮で食事をとるようになった。皇后に言わせれば、凜嬪が寵愛をいいことに我が儘を言い、陛下を独り占めしていると他の妃にも言いふらしているらしい。

 独り占めするつもりは全くないからいい迷惑だ。むしろ、連れ返って欲しいくらいだ。

 皇后はちらりと厨房を見やった。


「陛下の夕餉の膳を作っているのね。最近、陛下の顔色がよいのも、凜嬪が食事に気を遣ってくれているおかげね。少し厨房を見てもいいかしら」

 嫌だとは言えない。

「もちろんです。どうぞ、こちらへ」

 一心は皇后とお付きの侍女を厨房へと案内する。

「これは?」

 皇后は竈でぐつぐつ煮えている鴛鴦鍋を見る。

「今日の夕餉に火鍋を作りました」


 一心は火鍋の効果を説明する。しかし、皇后はろくに一心の話を聞かず、周りをさっと見て回っただけで、すぐに出て行ってしまう。

「もういいわ。凜嬪の作る料理が見てみたかっただけよ」

 凜妃の料理を見たかったというわりには、あまり興味も示さず、皇后は月明宮から去って行く。

 何しに来たんだ?

 首を傾げながら再び厨房に戻る。

 寧貴妃の分も先程届けたが、もう一度味見をしようと、おたまを手に、一心は鍋のスープをすくい味を確かめる。

「さすがオレ! やっぱうまいぜ」

 腰に手をあて一心は満足そうに頷く。


 さて、そろそろあいつが来る頃だ、来たらすぐ料理を出せるよう準備しておくか。

 一心はいったん正殿に戻るため厨房を出る。外に出た途端、傾き駆けた陽がまぶたに刺さり一心は手で目元を覆った。

 眩しいなあ。あれ? 目がぐるぐる回る。立っていられない。体に力が入らない。

 うう……吐き気がする。気持ちが悪い。

 一心は胸のあたりを押さえた。そこに小さな小袋の感触。

「姉姉!」

 一心の様子がおかしいことに気づいた詩夏が、駆け寄ってきた。

「しっかりしてください姉姉! 誰か侍医を呼んで、早く!」

 薄れていく意識の中で、まだまだ自分は甘かった。もっと警戒するべきだったと後悔するのであった。

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