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転生したら後宮妃!? ―料理で陛下の胃袋を掴んだら、寵妃になってしまいました―  作者: 島崎紗都子
第4章 陛下と朝を迎える? いや、ほんとに何もなかったから!
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7 強気な陛下

 燕鶯の真剣な目が間近に迫る。見つめられて一心はうろたえる。

「オレは一人でのんびり過ごしたい。そうだ。皇后のところへ行け。正妻の機嫌をとるのは夫の役目だ。夫婦円満が、しいては後宮の平和にも繋がる」

「相変わらずつれない。私はこの国の皇帝だ。私が誰と一緒に過ごそうと勝手だ」

 今日の燕鶯はいつもと違って強気だ。


「権力をかさにきるのは卑怯だ!」

「こんなにも凜花のことを大切にしているというのに、私のどこがダメなのだ」

「ダメじゃないけど、ダメなんだ!」

「意味がわからない。これまで冷遇してきたことに対する仕返しか? まだ私を恨んでいるのか? だとしたら、どうすれば許してくれる」

「仕返し、恨む? オレはそんな陰険な真似はしねえよ!」

「コホン!」

 うっかり、飛び出したオレ発言を注意するように、林杏が盛大に咳払いをする。


 燕鶯の腕が伸びた。瞬く間にお姫様抱っこをされる。一心はじたばたと激しく手足を動かし抵抗した。振り回した腕が燕鶯のあごを直撃する。

 皇帝陛下を殴るという妃としてあり得ない暴挙に、林杏は悲鳴をあげ、今にも卒倒しそうな勢いであった。だが燕鶯は動じない。そのまま寝所に連れて行かれた。

「貴様、何しやがる。スッポン食って血気ついたか。降ろせ降ろせ! 降ろせーっ!」

 皇帝をとうとう貴様呼ばわりだ。


 激しく暴れる一心の体がどんとベッドの上に放り出された。

「おまえ……っ!」

 心臓がどきりと鳴った。燕鶯が覆い被さってきたからだ。

 林杏と詩夏がそっと視線を床に落とし、部屋から退出しようとする。

「待て、林杏、詩夏! オレを見捨てるな。行かないでくれー!」

 無情にも侍女二人は消えてしまう。


 これはまじでヤバい。冗談じゃなくヤバい。


「おい貴様、何かしたらただじゃおかないからな。おまえのことを嫌いになる!」

 覆い被さっている燕鶯がくつくつと肩を震わせながら笑う。

「本当におかしな女人だ」

 と、言って燕鶯は体を起こし、再び椅子に座り酒を飲み始めた。


 とりあえず、凜花としてのオレの貞操の危機は免れたのか?

「一緒に過ごしたいと言っても凜花は私を追い返す。贈り物をしても喜ばない。贈った装飾品は身につけてくれない。どうすれば凜花は私の気持ちをわかってくれる? 何をすれば喜んでくれる?」

「アクセサリー類なんて興味ないよ。女じゃあるまいし」

 燕鶯は首を傾げる。


 おっと。


「何かくれるっていうなら、うまいものがいい」

「本当に凜花は愉快だな。私を楽しませてくれる。凜花と一緒にいると飽きない」

「別におまえを楽しませているわけじゃない」

「いいだろう」

 燕鶯の顔が真剣なものに変わった。

「何がいいんだよ」

「寧貴妃の禁足を解くことはできないが、会いに行くことは許してやろう」

 一心はベッドから飛び降り、ずいっと身を乗り出した。

「いいのか? 食事も届けたい。菓子もだ。それと琵琶も聞かせたい」

 わかったわかったというように、燕鶯は何度も頷く。

「それも許す。その代わり」

 燕鶯は目を細めて一心を見据えた。


 キタキタキターっ! 交換条件だぞ。


「飯作りでも労働でも、私にできることなら何でもやる。私にできることだぞ」

 無理な要求をされたら困るから念を押す。

「簡単だ。私に香り袋を作って欲しい。もちろん、凜花の手作りだ。刺繍いりで」

「香り袋? 刺繍?」

 聞き返す一心に、燕鶯はそうだと頷く。


「参ったな。料理は得意だけど裁縫はからっきしなんだよ。刺繍もやったことがない」

「やったことがない?」

 燕鶯はすっと目を細めた。

 刺繍は女人のたしなみだ。やったことがないといっては怪しまれる。もっとも、これまで十分怪しい言動をとっているが。


「川で溺れて以来、私って記憶がアレだろ? とにかく、やったことはあるかもしれないけど覚えてないんだ。他の誰かに作ってもらえ。その方が見栄えがいいものができる」

 刺繍なんて、そんなめんどーなことやってられるか。

「そうか、では寧貴妃の件は……」

「やります! 頑張らせてください!」

 変わり身の早さに燕鶯は苦笑いだ。

「楽しみにしているぞ」

「お、おう!」

 一心はおかわりしたスッポン鍋を、やけくそ気味に一気に男食いで平らげた。

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