第300話 これが近衛騎士団だなんて…
トシゾー団長が率いる騎士団を味方に付けたおいら達。
アルトは、王太子セーヒ等地面に転がした三人を『積載庫』に収納すると。
「それで、何処から制圧すれば効率的かしら。
制圧はマロン達がするから、あなたには案内を任せるわ。」
集合を掛けた騎士団員を前に、ドシゾー団長に依頼をしたんだ。
「へっ? マロン殿下、御自ら手を下されるので?
私は、案内するだけで良いのですか?
それでは、マロン殿下の身が危険に晒されるのではございませんか。
ここに居る騎士、三百余名。
マロン殿下のご下命があれば、その身を盾にしてでも反逆者共を制圧しますが。」
トシゾー団長の言葉通り、目の前に居並ぶ騎士達は、反逆者を赦すまじと鼻息を荒くしてたよ。
冷や飯を食わされて、よっぽど、鬱憤が溜まっていたんだね。
「良いのよ、愚か者共に格の違いを見せつけてあげるのだから。
マロンの手にかかれば、ロクに鍛錬もしていない騎士など赤子の手をひねるようなモノよ。
私達は、ヒーナルやセーヒの後ろ盾となっている騎士団の事情に疎いから。
効率的に潰していくための情報が欲しいだけ。」
おいらの身を案じてくれるトシゾー団長に、アルトはカラカラと笑って返答していたよ。
おいらとしても、あんまり事を荒立てたくないしね。
ここに集まる騎士団を総動員してキーン一族派の騎士団にカチ込むなんて。
そんな大騒動にはしたくないよ。
アルトに言葉に頷いて、なるべく穏便に済ませたいというおいらの気持ちも告げると。
「マロン殿下の仰せであれば、従わせて頂きますが。
せめて、御身の護衛を付けさせてはくださいませんか。
私と信頼できる者二名で、身を盾にしてでも殿下をお守りして見せます。」
おいらを心配して護衛を付けようとの申し出だからね、好意を無にすることも無かろうとのことで。
おいら達は、トシゾー団長が信頼する腕利きの騎士二名を護衛に加えて行動することになったの。
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「で、最初は何処へ案内してくれのかしら。」
さっそく、おいら達を先導して歩き始めたトシゾー団長にアルトが尋ねると。
「それは、やはり近衛騎士団の駐屯所でしょう。
偽王ヒーナルの直属で、八年前に簒奪を行った時の中心メンバーで構成されてますから。
近衛騎士団は、ヒーナルに逆らう者を粛清するこの国最大の暴力集団です。
その数、百名、全員がレベル四十以上の狂犬たちです。」
「うん? レベル四十と言っても、ロクに鍛錬もしてない付け焼刃でしょう。
魔物に村を襲わせ、村人を捕食するのに夢中の魔物を後ろから倒してレベルを上げただけの。
近衛騎士団長も、副団長も、捕縛してあるけど、全然強くなかったよ。」
まあ、アルトの『積載庫』からその二人の背後に降りて急襲した訳だから。
不意を突かれて抵抗する間も無かったんだけどね。
「これはまた耳が痛いですな、仰せの通りです。
それにしても、殿下はお強いのですな、それに大変な博識であられる。
ヒーナル麾下の騎士達がレベルを上げた方法までご存じとは。」
スタンピードの絡繰りは、民の反発を恐れて外部に漏れないようにしていたみたいだものね。
おいらが、それを知っていたことにトシゾー団長は驚いていたよ。
そうこうしている間に、トシゾー団長は重厚な木の扉の前で立ち止まったの。
扉には精緻な彫刻が施されていて、よく見ると建物自体も他の騎士団より豪華な感じだよ。
トシゾー団長は、おいら達の方を振り返り言ったの。
「ここが、近衛騎士団の駐屯所です。
普段、王と王太子の護衛に就いている者以外は、大概ここでゴロゴロしてます。
今時分なら、ロビーに集まって昼食でも取っているか、昼寝でもしている事でしょう。」
お昼時だから、昼食は分かるけど、昼寝って…、それ、完全に仕事する気ないよね。
「そう、じゃあ、早速、ドブ攫いと生きますかね。」
その言葉と共に、アルトの前に浮かび上がったのは青白い光の玉。
その玉は、パチパチと音を立てながら、青白い火花を飛ばしていたよ。
そして、アルトはその玉を目の前の扉に向けて放ったの。
フヨフヨと漂って、ゆっくり扉に向かって飛んで行く光の玉。
初見の人だと、その挙動からは誰も思わないだろうね、それが特大の危険物なんて。
でも、それが扉に吸い込まれると…。
グァッシャーン!
耳をつんざくような破砕音と共に、重厚な木の扉が砕け散ったの。
破砕された分厚い扉の周りでは、白い煙に混じってもの凄い埃が舞い上がっていたよ。
「何だ、一体何事だ!」
すぐに、慌ただしく駆け回る足音に混じって、そんな声があちこちで聞こえたの。
建物の中はもの凄いパニックになっているようだった。
「少しは落ち着きなさい。
大の大人がこれしきの事で慌てふためいて情けない。
それでも、あんた達、騎士の端くれなの。」
おいら達を先導するように、建物の中に入って行ったアルトが一喝したんだ。
「ああん? なんだ、テメエらは?
これをやったのはテメエらか?
よもや、ここが近衛騎士団の駐屯所と知っての狼藉じゃねえだろうな。」
建物の中に足を踏み入れたおいら達に気付いた騎士が、苛立たしさを露わにして怒声を吐いたよ。
「おいらは、マロン。前王の第三王子の娘なんだ。
この国の王位に居座っていたキーン一族を駆除しちゃったから。
おいらが王位に就くことになったの。
それで、今までおイタが過ぎた騎士団にお仕置きするために来たんだ。」
「アァーーー!
そいつ、この壁に貼ってあるお触れ書きの尋ね人じゃねえすか。
栗毛色の髪の八歳の娘ってありやすぜ。」
おいらが名乗ると、壁の貼り紙を見た騎士がおいらを指差して叫んだの。
「おい、滅んだ王家の血を引く娘が今頃のこのこやって来てどんな了見だ。
だいたい、駆除したって言いぐさは何だ、不敬極まるぞ。
畏れ多くも偉大なる我等が将軍様のご一族を害虫のように言いおって。」
「キーン一族って、国に巣食う害虫だから駆除したって言葉が正しいでしょう。
でも、良いの? 言葉遣いなんて些末なことにこだわっていて。
冗談じゃなくて、おいら達は本当にキーン一族を駆除しちゃったんだよ。
おいらは、この騎士団に恭順を命じに来たんだ。
もし、恭順するなら命だけは助けてあげるけど…。」
おいらが近衛騎士団の連中に恭順を呼びかけると。
アルトが国王ヒーナルの亡骸を騎士達の目の前に転がしたの。
「しっ、将軍様! このクソガキ!
将軍様の仇! 地獄に落ちやがれ!」
ヒーナルの躯を目にした途端、怒りで顔を真っ赤に染めた騎士が剣を振りかざして突進してきたよ。
おいら、まだ話の途中なのに…、ホント、血の気の多い人だね。
「だから、そんな大振りじゃ簡単に躱せるって…。
ダメだよ、騎士ってのはそんな簡単に激昂したら。
もっと冷静にならないと、幼女にも負けちゃうよ。」
そもそも、丸腰のおいらに剥き身の剣で襲い掛かって来た時点で騎士失格だけどね。
スキル『完全回避』が発動するまでも無く、おいらは騎士の剣を躱すと。
おいらの目の前を通り過ぎる騎士の膝をめがけて蹴りを入れたんだ。
きっちり『クリティカル』が働いて、膝を粉砕され前のめりに倒れ込む騎士。
床に倒れ込んだところで剣を握る手の甲を踵で踏み抜いたよ。
「ウガァーーー!」
広いホールに耳障りな中年騎士の悲鳴が響いて、騎士は白目をむいて気絶しちゃった。
「げっ、アニキがやられちまったぜ。
アニキは、偉大なる将軍様のおかげで高レベル騎士になれたと感謝してたんだ。
下っ端騎士の時から陛下に目を掛けてもらったらしくて…。
近衛に引き立てられた時から、将軍様に一生ついていくと崇拝してた。
そんな忠義の騎士に向かって何て酷えことしやがる。」
誰に向かって言ってるのか知らないけど、説明有り難う。
要は、こいつも『魔王』討伐に参加したロクでなしの一人なんだね。
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「ちょっと、落ち着いてよ。
おいら、弱い者イジメは嫌いだし。
人殺しは恨みをかうからダメって躾けられてるの、例え相手がどんな悪党でもね。
おいら、別に王になりたくてキーン一族を駆除した訳じゃないよ。
あいつらが、民を顧みず酷いことばかりしてたからお仕置きしただけなんだ。
記憶にも残ってないおいらの肉親の仇を討とうなんて思ってないから。
民を虐げたことを反省して、今後、民の為に真面目に働くと誓うなら赦してあげるよ。」
アニキと呼ばれた騎士が倒されて殺気立っている騎士達に向かって、おいらは呼びかけたんだ。
まあ、赦してあげる条件として、いくつか上げさせたもらったけどね。
最下級の騎士に降格の上、辺境で魔物退治と盗賊退治をしてもらうとか。
今後一切、民から金品を巻き上げたり、民に危害を加えることは禁止だとか。
罪状の重い者には、貴族の地位をはく奪の上、辺境部の再興のため屯田兵になってもらうとか。
どれも、『魔王』を倒したことで、周囲に与えた損害を考えると甘い気がするけど。
まあ何千人も死罪にする訳にもいかないし、厳しくするだけじゃなくて温情も必要だものね。
おいらとしてはとても慈悲に満ちた沙汰を考えたつもりなんだけど…。
「俺達を相手に弱い者イジメだと!
ガキの癖に、調子こきやがって!
絶対に赦さねえ!」
人間、図星を差されると逆上すると聞いたことがあるけど、ここにもいたよ…。
「ふざけるな! 最下級の騎士に降格だ? 魔物退治だ?
そんな、安い俸禄で、魔物退治何て危ねえマネが出来るかってんだ。
だいたい、魔物退治何て面倒な事は冒険者にでもやらしときゃ良いだろうが。」
おいらが出した条件が、今までやって来た悪事に対する罰だと理解してない連中もいるし。
更には…。
「愚民共からカツアゲしちゃあ駄目だと?
それじゃ、ロクに酒も飲めなきゃ、博打も打てねえじゃねえか。
愚民共から搾り取るのは俺達貴族の権利だろうが。」
どこの冒険者だとツッコみたくなることを言ってる輩がいたのには呆れたよ。
仮にも、これが国王直属の近衛騎士だって、まんま、ならず者じゃない。
子は親の鑑と言うけど、臣下は王の鑑だね。
国王がならず者だと、一番近くにいる近衛騎士もならず者になるみたいだよ。
「マロン、こ奴らには何を言っても無駄のようじゃ。
マロンの口にした事が、こ奴らに対する温情だと誰一人気付いてないのじゃ。
こんな愚か者共は世の中の害悪でしかないのじゃ。」
騎士達の言葉を聞いていたオランがうんざりした表情でおいらに囁いたの。
うん、おいらも、今、そう思っていたよ。
お読み頂き有り難うございます。




