第298話 えっ、それって、そう言う意味だったの
おいらに対して王様になれだなんて提案してきたオランとアルト。
いきなり風向きが変わっちゃったけど、おいら、そんなこと聞いてないよ。
オランなんか、何時でもおいらの隣にいて支えるなんて、アルトの前で誓約しちゃった。
勝手にそんな事言って良いんかい、そろそろ国に帰らないと王様に怒られるよっ。
でも、アルトはオランの言葉がとてもお気に召した様子でニコニコしてたの。
おいらの返事も聞かずに、勝手に二人で盛り上がってた。
「ムリ、ムリ、おいらに王様なんてできないよ。
おいら、確かに王家の血を引いてるかもしれないけど…。
ずっと辺境で普通の民として暮らして来たんだよ。
王族として育ったオランが、おいらを支えると言ってくれるのは嬉しいけど。
オランだって、何時までも一緒にいる訳にはいかないでしょう。
国へ帰らないといけないんだから。」
水を差すようで悪いけど、無理なモノは無理とはっきり言わないとね。
迂闊に流されたら、ロクな事にならない予感がひしひしとするよ。
「マロンはいったい何を言っておるのじゃ。
マロンが王になるのであれば、私は一生涯隣で支えていくと言ったのじゃ。
マロンの伴侶になると申し出れば、父上は賛成こそすれ、反対はしないじゃろう。
それにじゃ、市井の民の中で育ったマロンにこそ王になる資格があるのじゃ。
護るべき民の事情を肌身に感じておるのじゃから。
一人では無理でも、私と二人で力をあわせればきっと何とかなるのじゃ。」
「オランはマロンの旦那さんになると言ってるのよ。
この子は、掘り出し物よ。
年も近いし、容姿も綺麗だわ。
何よりも、王族としてとても良く躾けられている。
こんな優良物件、滅多にないわよ。
貰っておきなさい。」
貰っておきなさいって…、お土産物じゃないんだから。
「旦那さんなんて言われも、おいら、良く分かんないよ。
結婚なんて、まだずっと先のことだと思ってたから。」
「そうね、それも無理ないわね。
市井の民が結婚するのは、二十歳前後ですもね。
じゃあ、マロン。
今まで半年以上、オランと一緒に暮らしてみてどうだったかしら。
嫌だったかしら? 楽しくなかった?
その延長で、オランと家族となった十年後、二十年後を想像してみて。
どんな、家庭が思い浮かぶかしら?
それが、望まない未来の姿なら、断れば良いわ。」
ふむ、ふむ、オランと一緒に暮らしてみてどうだったかと…。
考えてみれば、この半年、楽しいことばかりだったよ。
一緒に狩りに行って、一緒にお風呂に行って、一緒に草原でラビを乗り回して。
家では一緒にご飯を食べて、ラビを挟んで一緒に寝て。
オランは王族なのに全然偉ぶってなくて、お人形のように可愛くて…。
うん、ずっと一緒に居られたら楽しいかも。
いずれは、オランとの間に子供を授かって、そしたら三人でラビに乗って野山を駆け回るの。
オランとなら、笑いの絶えない、とっても暖かい家庭が作れそうだ。
…って、違う、違う、何でオランと結婚する話になっているの。
問題は、結婚じゃなくて、王位を継ぐかどうかってことでしょう。
危うく問題をすり替えられるところだった。
先にそっちを決めないといけないのに、王位を継ぐことを前提に話が進む所だったよ。
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「オランの気持は嬉しいけど…。
おいら、やっぱり、あの辺境の町での暮らしを捨てられないよ。
やっと、父ちゃんと一緒に暮らせるようになったんだし。
あそこには、お世話になった人も沢山いるんだよ。」
おいら達が今ここにいる理由はと言えば。
国王ヒーナルに命じられてやって来た連中が、おいらやミンメイを誘拐しようとしたから。
二度と同じことをしないように、ヒーナルをとっちめてやろうと思ってここまで来たんだ。
王位なんて欲しくも無いし、キーン一族から取り戻そうなんて思ってもいなかったよ。
それが、まさか、こんなことになるなんて。
おいらが、アルトやオランの提案に逡巡していると…。
「マロン姫様、何卒、王となりこの国を救ってくださいませ。
現在、この国はキーン一族が行った愚かな施政により民は疲弊し、国は乱れております。
今、国王不在のまま、ここにいるような欲深い愚物共を放置しようなら。
権力争いに明け暮れ、第二、第三のキーン一族が現れるのは必定。
愚か者共を国政から排し、正しく国を導く王がこの国には必要なのです。
マロン姫様も、そちらの殿下も、心清く、慈悲深い気質とお見受け致します。
何卒、お二人でこの国を正しき道へお導きください。」
一人のおばさんがおいらの前に跪いて、王になって欲しいと懇願してきたの。
さっき、おいらのへその下に刻まれた、王家の証を確認したおばさん達の一人だね。
「マロン、そのご婦人の言う通りなのじゃ。
今の王族を根絶やしにしてしまって、後は勝手にやってくれは無責任なのじゃ。
ここにいる愚か者共を放置すると、玉座を巡って醜い争いが起こるのは目に見えるのじゃ。
その点、マロンには血統として玉座を継ぐ資格を有しておるし。
アルト殿の後ろ盾を含めて、この愚か者共を抑える力も持っておるのじゃ。
皆が納得し、民に歓迎される王はマロンしかいないのじゃ。」
オランが、おばさんの請願を擁護する言葉を口にすると。
「お前ら、何勝手な事を言ってるんだ。
俺達、現王族派の貴族はその娘が王位に就くことなんて絶対に認めんぞ。
前王の治世のような、貴族に質素倹約を求める施政にはうんざりなんだよ。
何が、『民たちが豊かになることが最優先だ』だ。
なんで俺達が、愚民共のために慎ましい生活しなくちゃならないんだ。
そんなの、真っ平御免なんだよ。」
くだんの『勇者』がおいらに食って掛かったの。
この広いサロンで、昼間から酒をかっ食らっていた貴族は百人近く。
でも、これって氷山の一角だよね。
こんなのが他にも沢山いるのかと思うと、オランの言葉通り、放っておくのも気が引けるね。
第一、こんな連中に耳長族に手出ししないと誓わせても、その場しのぎの言葉だけで。
ほとぼりが冷めた頃に、耳長族狩りをしでかそうって輩がいても不思議じゃないもんね。
「おいら、決めたよ。この国の王になる。
だから、オラン、助けてくれるって約束はちゃんと守ってよ。
こんな面倒な仕事を一人でするなんて、冗談じゃないから。
一生手伝ってもらうからね、頼んだよ。」
オランやアルトの説得よりも、旧王族派のおばさんの請願よりも。
目の前の『勇者』の言葉の方が心に響いたよ。 こんな輩を放置したらいけないってね。
「マロン、良く決心したのじゃ。
任せておくのじゃ、私はこの命尽きるまでマロンを支えるのじゃ。
妖精の前で口にした誓約に、時効は無いそうじゃから。」
躊躇なく肯定の言葉を返してくれたオラン。
そんなおいらとオランを見詰めて、アルトはご機嫌そうに微笑んでいたよ。
結局、火中の栗を拾うことになっちゃった、トホホ…。
オラン、本当に頼むよ…。
お読み頂き有り難うございます。
 




