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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十二章 北へ行こう! 北へ!
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第295話 この兄妹、何かちょっとおかしいよ…

 王太子セーヒに新たな『魔王』を生み出すための糧になってもらうと告げると。

 猛烈に反発した王子セーオンだけど。

 何をとち狂ったか、おいらに嫁になれなんて寝惚けたことを言い出したよ。


 『キモブタ』なんか願い下げだよと思っていると、セーオンの妹ヨーセイがセーオンを責め始めたの。

 何でも、夜な夜なセーオンはヨーセイをお嫁さんにすると言ってるらしいよ。

 セーオンがおいらを嫁にすると言ったもんだから、約束が違うと怒ったみたい。


「この泥棒ネコ!

 何処の誰かは知りませんが。

 平民の分際で私だけのお兄様に色目を使うなんて、決して赦しませんよ。」


 おいらを指差したヨーセイは、つり目がちな目をいっそう吊り上げて、噛みついて来たよ。

 事情を呑み込めていないヨーセイは、服装を見ておいらをただの平民だと思ってるみたい。

 別に、ヨーセイに赦してもらわなくてもかまわないけど…。

 これだけは、おいらの名誉のためにも言っておかないとね。


「そんな、豚みたいに締まりのないデブはこっちから願い下げだよ。

 平気で人を殺せる狂犬みたい性格もダメダメだね。」


 おいらの方から言い寄ったみたいな言われ方は、途轍もなく不本意だよ。


「お兄様を侮辱するなんて無礼な。

 お兄様の魅力が理解できぬとは、やはり下賤な民ですこと。

 ふくよかなそのお体は、世に在る美食の限りを尽くせる富の象徴ですわ。

 お兄様だけではなく、お爺様も、お父様も世の人々の羨望の的だと言ってましたわ。」


 蓼食う虫も好き好きというから、ヨーセイの美醜の感覚がおいらと違っても一向にかまわないけど…。

 世の人々の羨望の的ってのは言い過ぎだと思うよ、それだけは絶対ないと断言できるから。

 きっと、三人共、自分の醜い容姿に劣等感を持っていたんだろうね。

 その裏返しで、自分達の姿が魅力的なのだと、小さい頃からヨーセイを洗脳していたんだね。


 更に、ヨーセイの言葉は続き…。


「それに、狂犬などとは誤解も甚だしいですわ。

 お兄様は、害虫駆除をしてくださっているのです。

 この国やキーン一族に仇なす害虫を駆除し。

 来るべくお兄様の治世が安定するよう、日夜尽力してくださってます。

 アブラ虫やハエなどの害虫駆除は、誰しもがする事でしょう。

 お兄様が狂犬でない証拠に、お兄様はいつでも慕ってくる臣下に囲まれてますわ。

 お兄様がとても人望がある証です。」


 セーオンの奴、目障りな人間を容赦なく殺しておいて、そんな風に正当化しているんだ。

 しかも、自分の行いがさも立派な事であるかのように、妹を洗脳しているし…。

 セーオンを囲んでいる連中って、どうせセーナン兄ちゃんを襲ってきたならず者みたいな奴でしょう。

 どんな奴らに囲まれているのか目に浮かぶようだよ。

 類友で、ならず者みたいな貴族の子弟を集めて、サル山のボスザルを気取ってるんだろうね。


 そこままで聞いただけでも、いい加減ゲンナリしてたんだけど…。

 ヨーセイのトンデモ話はそれで終わりじゃなかったよ。


「何よりも、お兄様はとても私に優しくしてくださるの。

 私が寂しくないようにと、毎夜褥を共にしてくださいますし。

 勿体なくも、その舌を使って全身余すことなく清めてくださいますの。

 私が寒くないようにと、きつく抱きしめてくださいますし…。

 お兄様と一つになると、天にも昇る心地良さなのですよ。

 とっても幸せな気分で、朝までぐっすり眠れますの。」


 うっとりとした表情で、セーオンが如何に自分に優しいかを説くヨーセイ。

 おいら、思わず引いちゃったよ。

 あの脂性でベタベタした『キモブタ』と一緒に寝ると想像しただけで怖気が走るのに…。

 舌を使って清めるってなんなの、それって要は舐め回すってことだよね、キモっ。


「そいつ、さっき、マロンくらいの歳の娘が大好物って言ってたけど…。

 既に実の妹にまで手を出していやがったのか。

 ロリコンの上に近親だなんて、筋金入りのド変態だな!」


 タロウが、汚物を見るような目でセーオンを見ながら、心底呆れったって感じの声を上げてたよ。

 セーオンは幼女に欲情するド変態だって聞いてたけど、…そう言うことなんだ。


「うるせい! でっかいお世話だ!

 俺がどんな女が好みでもかまわねえだろうが、ほっといてくれ!

 俺はこの国の王族なんだ、何をしようが文句言われる筋合いはねぇぞ!」


 おいらやタロウの言葉が耳に入ったようで、セーオンが声を荒げていたよ。


 王族だからどうとかの前に、…。

 人間として守らないといけない最低限のモラルってあると思うよ、おいら。


       **********


 さて、困ったよ。

 セーオンはどう考えても王位に就かせちゃいけない類の人間だし…。

 妹ヨーセイは、セーオンに施された質の悪い洗脳を解くのが難しそうだよ。

 今のキーン一族に王位継承権があるのは、この二人とセーナン兄ちゃんだけ。

 この二人が不適格となると、残りはセーナン兄ちゃんだけど…。


 セーナン兄ちゃんはハテノ男爵領に行くのを楽しみにしているし。

 今のところ善良そうだけど、ヒーナルやセーヒの血を引いているからね。

 王位に就いたら性格が豹変するかも知れない。

 何よりも、フィギュアオタク(?)のセーナン兄ちゃんに国王が務まるのかという心配が…。


「ねえ、セーオン、一応聞くだけ聞くけど。

 セーヒの『生命の欠片』抜きで王位を継ぐ気はある?

 条件は、耳長族とおいらに今後一切手出ししないと誓うこと。

 それから、民に課した税をおいらの一族が王様だった時の水準に戻すこと。

 そして、職務に不真面目な貴族や騎士を処分して、真面目に働かせること。

 その三つを約束するなら、これで手打ちにするけど。」


 望み薄だとは思うけど、念のために聞いてみたんだ。

 改心して真面目に働くなら、おいらがしゃしゃり出る必要もないしね。


「ふざけるな!

 そんな条件、飲める訳ねえだろう。

 親父からレベルを引き継げなきゃ、俺はレベル十一だぞ。

 国王がこんなレベルじゃ、周りの国に舐められるだろうが。

 他の条件だって、ウンと言える訳ねえだろう。

 あんな軽い税じゃ、俺達が贅沢できねえし。

 貴族が額に汗して働くなんて、バカ言ってんじゃねえ。

 労働なんてものは、愚民共にやらせておきゃ良いんだ。

 王侯貴族ってのはな、愚民共から搾り上げた税で優雅に暮らすもんなんだよ。」


 うん、聞いたおいらがバカだったよ。

 予想通りのダメダメの答えが返って来た。


「ヨーセイは、今おいらが言った条件で女王になるつもりはある?」


 今度はヨーセイに尋ねると。


「お兄様を差し置いて私が玉座に就くなんて有り得ませんわ。

 もとより、玉座は、キーン一族の嫡男たるセーオンお兄様のもの。

 泥棒ネコ如きに指図される筋合いはありませんわ。」


 だから、泥棒ネコは止めてって、おいらがキモいセーオンに言い寄ってるみたいじゃん。

 まあ、セーオン絶対の信念を持ってるみたいだし、こんなのを王位に就ける訳にはいかないね。


「おい、小娘。

 王族の皆様の身柄を抑えたからといって、いい気になるなよ。

 我ら現王族派の貴族は、お前など認めはしないぞ。

 早晩、王宮の不穏な様子に気付いた騎士団がお前等を始末しに来るはずだ。」


 部屋にいる貴族の中からそんな声が上がったけど…。


「うん? 騎士団が何とかって、この連中のことかしら?」


 アルトはそう尋ねると、会議室でヒーナルとセーヒを警護していた四人の騎士を放り出したの。

 おいらとオランが、不意打ちで両足の骨を粉砕して、無力化した騎士達だね。


「近衛騎士団長! 副団長も! 他の二人も近衛の中隊長か。」


 会議の席で国王、王太子の護衛についてるから大物だとは思ったけど、幹部中の幹部だったよ。


「他にも、さっき第一騎士団ってところで百人ほどの騎士を捕えたし。

 この国に入ってから、南西から北西にかけての辺境で千人程の騎士を捕えてあるわ。

 これでも、私達を始末するなんて言う?

 なんなら、この国の騎士団を壊滅させちゃっても良いのよ。

 あんた達が選べる選択肢は、恭順するか、死ぬかだけよ。」


 今まで、おいらを前面に立てていたけど、ここでアルトが前に出て来たよ。

 現王族派の貴族達は、頼みとする騎士団の幹部の無様な姿を目にして顔面蒼白だったよ。


「さっきから気になっていたんだが。

 おい、そこの羽虫、お前一体何なのだ。

 その小娘やグラッセの爺に助力をしているみたいだが。

 何の関係があって、我が国の事情に口を出す。」


 今頃になってそれを聞く?

 目立たないようにしてたけど、最初からいるんだから気にしようよ。


「私は、トアール国の辺境に面した妖精の森の長、アルトローゼンよ。

 一時、身寄りを失ったマロンを庇護してきたの。

 それと、耳長族は私の庇護下にあるのよ。

 あろうことか、そのマロンと耳長族に、この国の王が手を出したからね。

 国王にキツイお仕置きをしに来たのよ。

 王族の生き残りのマロンを前面に出した方が嫌がらせになると思って。

 なるべく、目立たないようにしてたの。」


「妖精だと…。

 そんな子供騙しのお伽話に出て来るモノが本当にいたのか。

 辺境で騎士団が行方不明になっているという噂を耳にしてたが。

 本当に貴様が捕らえているのか。」


 アルトが何処からともなく騎士団の幹部を出したことで、貴族達は辺境の騎士団失踪の絡繰りに気付いたみたい。


「そうよ、証拠を見せてあげましょうか。」


 アルトはそう告げると、その場に辺境で捕らえた騎士を十人ほど出して見せたの。

 その場にいた貴族達は息を飲んでたよ。

 そして、その全員が青褪めた顔でアルトを見詰めてたよ。


 目の前にいる小さなアルトが決して逆らってはいけない存在だと気付いたみたい。

お読み頂き有り難うございます。

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