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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十二章 北へ行こう! 北へ!
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第291話 服を剥ぎ取られて、晒し者になったよ…

 王太子セーヒとその取り巻きを『積載庫』の中に放り込んだアルト。

 この一件の後始末をすると言うけど、いったいどうするつもりなんだろう。


「アルト、後始末をすると言うけど、何処で何をするつもり?」


 すると、アルトは。


「ああ、マロン達がここで愚か者共を退治している間に少し仕込みをしてたのよ。

 グラッセお爺ちゃんに協力してもらってね。」


 それだけ言うと、おいらとオランも『特別席』に乗せたんだ。

 何か準備をしていた様子だけど、何をするのかは教えてくれなかったの。

 

 それから、アルトは最初に行った王宮の方に向かって飛んだの。

 王宮に着くと、アルトは一つの部屋の前で静止しておいらとオラン、それにグラッセ爺ちゃんを降ろしたんだ。


「じゃあ、グラッセお爺ちゃん、頼んだわよ。」


 予めグラッセ爺ちゃんとは段取りを打ち合わせ済みの様子で、アルトはそう告げると…。


 バリ!バリ!バリッ!


 目の前の扉を粉砕したんだ。


「なっ、一体何事だ!

 ここが、選ばれた貴族だけが立ち入れるサロンと知っての狼藉か!」


 部屋の中から、そんな怒声が響いて来たよ。

 どうやらここは、最初に覗いた貴族がたむろってお酒を飲んでいた部屋みたい。

 

 そんな、不機嫌な声に答えることなくサロンに入って行くグラッセ爺ちゃん。

 おいら達も後に続くと、案の定、部屋の中にはほろ酔い気分で顔を赤くした貴族ばかりだったよ。


「そなたたち、ここで一体何をしている。

 まだ、執務時間中ではないか。

 酒など飲んでおったら、まともな執務なんぞ出来んではないか。」


 グラッセ爺ちゃんはサロンにいる貴族達を窘めたんだけど。


「ああっ? 誰かと思えばグラッセの耄碌爺じゃねえか。

 爺、生きてたんか。

 俺たちゃ、てっきりテメエが海の藻屑になったモンと思ってたよ。

 だが、残念だったな、テメエがいなくなってから、陛下からお許しが出たんだよ。

 このサロンに立ち入りを許された者は、いつ何時でも酒を飲んで良いとな。」


「そうだぜ、俺たち陛下のシンパは仕事などしなくても俸禄がもらえるのだからな。

 王宮の仕事なんて、しち面倒くさい事はよ。

 旧王家に与したテメエみたいな連中に奴隷働きさせて、やらしときゃ良いんだよ。」


 サロンにいる連中は、はなから仕事をしようなんて気はさらさらない様子だったの。

 連中の話しぶりじゃ、ここにいる貴族は八年前の簒奪騒動の時にキーン伯爵家を支持した貴族達みたい。

 一応、ここにいる連中も官職に就いている様子で、元々勤務態度は良くなかったみたいだけど。

 グラッセ爺ちゃんが睨みを利かせている時は、あからさまに仕事をサボって飲んでることは無かったようなの。

 どうやら、煩く意見するグラッセ爺ちゃんがいなくなったもんだから、これ幸いと国王ヒーナルの許可を取ったみたい。


 元々、質素倹約を奨励する王族を疎み、贅沢したいって動機で簒奪をした男だもんね、ヒーナルって。

 自分の支持者も似たようなモノだと分かっていたのか、サボって飲んでいても良いとあっさり許可したみたい。


 大事な仕事は、グラッセ爺ちゃんと同じように、暴力で脅して旧王家派の貴族に押し付けていたみたいだね。


「この大うつけ共が何をしている。

 貴様らが飲んでいるその酒も、貴様らの俸禄も、元は民の血税なのだぞ。

 民のために働かずしてどうする。

 いいか、王を僭称する簒奪者ヒーナルは既にこの世にはいない。

 そして、ヒーナルを殺めた、セーヒも捕らえた。

 そなたらも、今後処罰の対象となる故、心しておくのだな。」


 普段に温厚な様子からは想像もつかない厳しい言葉で、グラッセ爺ちゃんは貴族達を叱責したんだ。


「はあ? 陛下が王太子殿下に弑された?

 意味わかんねえぜ。

 確かに、あんまり仲の良い親子じゃねえけど。

 王太子は待ってれば玉座が回ってくるんだ。

 何も焦って簒奪する必要は無いじゃねえか。

 それに殿下も捕らえられたって?

 誰にそんなことが出来るって言うんだ。

 陛下はこの国で一番高レベルなんだぜ。」


 そんな風に、サロンにいた連中から、グラッセ爺ちゃんの言葉を疑う声が上がっていたの。

 セーヒがヒーナルを殺したなら、そのレベルを引き継いでるはずで誰も敵わないだろうって。


「グラッセ爺ちゃんの言葉が信じられないなら証拠を見せてあげるよ。

 ヒーナルも、セーヒもおイタが過ぎたから、おいらがちょっとお仕置きしたんだ。

 セーヒがヒーナルを殺しちゃうのは予定外だったけどね。」


 こんな連中の言葉に一々答えるのも面倒なので、おいらがそう告げると。

 アルトが『積載庫』から放り出してくれたよ。


 ヒーナルの遺体とずぶ濡れのセーヒをね。


「へっ、陛下!」


 驚愕する声が上がり、ヒーナルの遺体の周りに貴族連中が集まったの。


「信じられない…、陛下が崩御なされておられる。」


「おい、こっちにおられるのは確かに王太子殿下だ。

 腕が変な方向に曲がって、気を失っておられるぞ。」

 

「おい、そこのガキ!

 信じられねえが、テメエが陛下や殿下にこんな無礼を働いたとなると。

 覚悟してるんだろうな、平民が王族に手を上げることは万死に値するぞ。」


 見るも無残なヒーナルとセーヒの姿に驚く声、それにおいらを糾弾する声も上がっていたよ。

 まあ、おいら、どこからどう見ても平民だもね。王族に危害を加えたら普通は死罪だよね。


「無礼者は、おまえらだ! このうつけ者共め!

 こちらにおわす方こそ、正統なるこの国の王の血を継ぐお方。

 先の第三王子殿下が一女、マロン姫様なるぞ。

 マロン姫様が、王を僭称する不遜な簒奪者ヒーナル及びその子セーヒを成敗されたのだ。」


 えっ、ここでおいらのことをバラしちゃうの? おいら、聞いてないよ。

 それじゃ、おいらが簒奪者を打ち倒して、王位奪還を図っているみたいに聞こえちゃうじゃん。


 でも、グラッセ爺ちゃんのこの一言は効果覿面だったみたいよ。

 不平不満を漏らしていた貴族が一人もいなくなった。

 それに、みんな一様に酔いが醒めて素面に戻った様子なの。

 一部に、顔を真っ青にして悪酔いしているのかってオッチャンもいるけど。


 こいつら、簒奪騒動の時、ヒーナルに与した連中だものね。

 どんな報復を受けるかと考えると気が気でないと思うよ。


      **********


 さて、一度は静まった貴族達だけど、往生際の悪い連中というのはいるもので…。


「おい、爺、その娘が、旧王族の生き残りマロン姫だと言う証拠はあるのか!

 てめえら、旧王族派が陛下や今の王家の方々を貶めようと偽物を担ぎ出したんじゃねえのか。」


 まあ、この八年間、散々甘い汁を吸ってきたんだろうから、おいそれとは特権的地位を手放せないわな。


「そう言うと思ったわ。

 おバカさんって、何で素直に恭順出来ないのかしら。

 大人しく従っておけば、浮かぶ瀬もあろうと言うのに…。」


 そんな言葉と共に姿を現したアルトは、タロウと父ちゃんを『積載庫』から出したの。

 そして、…。


「今、マロンが王女であると証明して来るから。

 この愚か者共を部屋から出さないように見張っていてちょうだい。

 無視して出て行こうとしたら、少し痛い目に遭わせても良いからね。」


 父ちゃん、タロウ、オランの三人にそう指示すると、おいらを再び『積載庫』に乗せたんだ。


 そのまま連れて行かれたのは、ベッドやソファーなどが置かれた部屋だった。

 さっきまでの執務をする部屋ではなく、住むための部屋みたい。


 そこで『積載庫』から出されたのは、おいらとパターツさん。

 それに加えて、見知らぬ女の人が十人降ろされたよ。

 身に着けた服装から、全員貴族のご婦人のようだよ。


 おいらがいつの間に乗せたんだろうと考えていると。


「マロンを偽物だと疑う者がいるのは予想できたからね。

 マロンが騎士団の連中を退治している間に証人を連れて来たのよ。

 パターツさんに、ご婦人方がお茶会で使う場所を案内してもらったの。」


 アルトはおいらが王女だと信じない人が出ることを予想して、お茶会の席からこの人達を連れて来たみたい。


 だけど、…。


「いったい、ここは何処なのですか?

 突然、見知らぬ部屋にいたと思えば、また別の部屋。

 いったい、これはどういうことですか。」


 どうやら、アルトは問答無用で拉致ってきた様子で、ヒステリックの喚くおばさんもいたよ。


「何も説明せずに、拉致するようにお連れして、失礼しました。

 少々、皆さんに見て頂きたいモノがございまして。」


 パターツさんが、十人に向かって謝罪も兼ねた言葉を掛けると。


「あら、パターツじゃないの。

 あなた、無事だったのね。心配していたのよ。」


「パターツ、私達をここへ連れて来たのはあなたの仕業なの。

 旧王家に与した者が、私達に何の用かしら。

 私達王族派に危害を加えるようなことがあれば赦しませんよ。」


 よく見ると、十人のご婦人は五人ずつグループに分かれて集まっているよ。

 相互に敵視するような視線を送っていて、多分、旧王族派と現王族派のご婦人方なんだと思う。


「皆さん、そんなに険悪にならないでください。

 一緒に確認して頂きたいだけなのですから。」


 パターツさんがそう言うと、その横にいきなりバスタブが現れたの。

 しかも、ちゃんとお湯が張られていて、湯気が立っているし。

 何時の間にそんなモノを用意したんだと感心していると…。 


「さあ、マロン様、お召し物を脱ぎましょうね。」


 そんな言葉と共に、手慣れた様子でパターツさんがおいらの服を剥ぎ取ったの。

 そのまま、おいらはバスタブの中に入れられたよ。


 少しの間、お湯に浸かっていると。


「さあ、皆さん、こちらにお越し頂けますか?

 先ずは、そちらのグループの方からどうぞ。」


 パターツさんは、最初に今の王族を支持する派閥のご婦人達に声を掛けたんだ。


「いったい、何なのよ?」


 五人のおばさんが、不平を漏らしながら寄って来たよ。

 気付かないうちに拉致された不気味さからか、不満を漏らしながらもパターツさんの指示に従ってた。


「別に皆さんに危害は加えませんよ。

 これを一緒に確認して頂きたいだけです。」


 パターツさんはその言葉と共に、スッポンポンのおいらを立たせるとおへその下を指差したの。

 なるほど、アレを確認させるために女の人を集めたんだ。

 そうだよね、おいらの裸を男の人の目に晒す訳にはいかないもんね。


「あら、綺麗、素敵なバラの模様…。

 これ、何かしら? 絵だと水に濡れたら滲んじゃうわよね。」


「私、知っているわ。

 これ、入れ墨よ。

 おしろい彫りって言う特殊なモノなの。

 普段は見えなくて、体が温まると浮き出てくるのよ。」


 王家の証たる文様の事は一般には知られていないって聞いてたけど。

 貴族であっても、王家と親しくなかった派閥のおばさん達は知らなかったみたい。

 図らずも、おいらが王族の生き残りだってことをこの人達は証言しちゃったね。


「「「「「わーっ!」」」」」


 その言葉を耳にして、まだ目にしていないグループの人の方から歓喜の声が上がってたよ。

 旧王族派の人達は、王家に伝わる正統な一族の識別方法を知ってたみたい。


 旧王族派から上がった歓声に、現王族派のおばさん達は怪訝な顔をしてたけど。

 アルトは、現王族派がおいらがマロン姫だと言うことを知る前に『積載庫』へ戻しちゃった。


 アルトは、おいらの文様が王家の証だと知らせずに、現王族派に文様があったことを証言させるつもりだね。

 知られちゃうと、「そんな文様なかった。」と言われるかも知れないから。


 でも、これって、おいらにとっては拙くない…。

 なし崩し的に王位を押し付けられそうなんだけど。 

お読み頂き有り難うございます。

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