第281話 セーナン兄ちゃんのビックリな特技
今の国王一族の血生臭い内幕を聞かせてくれたセーナン兄ちゃんはヤレヤレって顔でため息を吐いてたよ。
「セーナン兄ちゃんは、王様になりたくないの?」
まあ、セーナン兄ちゃんが王様になるのもどうかと思うけど。
ハテノ男爵領騎士団の姉ちゃん達の姿絵を眺めてニヤニヤしている王様なんて、なんか嫌、キモいよ。
「拙者、王様なんて面倒な立場はゴメン被るでござるよ。
出来得ることなら、拙者は自分の好きな事をしてのんびり暮らしたいでござる。」
「セーナン兄ちゃん、何かやりたいことがあるの?」
まさか、やりたいことって、ペンネ姉ちゃんの追っかけとかじゃないよね。
セーナン兄ちゃん、『働きたくないでござる。』とか言いそうな雰囲気だもの。
「拙者、生まれてこのかた、この屋敷に軟禁されてござるがゆえ。
もうすぐ二十歳になるものの、今まで働いたことがないでござる。
なので、お金が稼げるかは分らぬでござるが…。
一つ、趣味がござって、それでお金が稼げれば有り難いと思うのでござる。
丁度良い機会なので、拙者の趣味を披露しようではござらんか。」
そう言うと、セーナン兄ちゃんは嬉々として私室に通してくれたんだ。
どうやら、軟禁状態で友人がいないセーナン兄ちゃんは、誰かに自分の趣味を自慢したかった様子だったよ。
そして、部屋の中には…。
「見て欲しいでござる。
これが、拙者、渾身の作品。
ライム領主と八十一人の騎士、八分の一モデルでござる。
これだけ作るのに苦労したでござるよ。」
得意気な言葉を口にしたセーナン兄ちゃんの後ろには、ずらっと人形が並んでいたの。
丁寧に棚に陳列された人形は、一目でハテノ男爵領騎士団の面々だと分かったよ。
最上段の真ん中に、アルトより少し小さな大きさに縮尺されたライム姉ちゃんの人形が椅子に腰かけていて。
その両脇にクッころさんとペンネ姉ちゃんが立っていたよ。
騎士団のお姉ちゃん全員の人形が、横一列に並んで棚四段に渡って陳列されてるんだけど。
その一つ一つが騎士のお姉ちゃんそれぞれの特徴を良く捉えていて、誰の人形なのかはっきりと識別できるの。
「これは、フィギュアか。
すげえな、『海〇堂』も真っ青なくらいリアルじゃねえか。
しかし、こんな精巧なモノ、何で出来てるんだ…。
この世界にプラスチックはねえだろう。」
タロウがその精巧さに感心していたよ。
タロウの故郷にも、こんな精巧な人形を作る職人集団がいるんだって。
『〇洋堂』ってのはその名前みたい。
「これでござるか?
これは、蝋人形でござるよ。
型を作って、溶かした蝋を流し込んで作ったでござる。」
この手法、型を作るまでに大分手間がかかるらしいけど。
一度型を作ってしまえば、何度でも同じものを複製することが出来るんだって。
今のところ、完成して並べてあるのは騎士服姿の人形だけなんだけど。
次は、八十二人全員のステージ衣装バージョン人形を作るって息巻いていたよ。
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騎士団の人形を自慢気について説明するセーナン兄ちゃんだけど。
おいらの目を引いたのは台座の上に置かれた大きな像の方だったの。
「やや、それに目を付けるとはお目が高い。
それは、ハテノ男爵領のマスコット、ウサギに乗ったスフレちゃんでござるよ。
この絵を描いた絵師さんは素晴らしいでござるな。
愛らしく二頭身にデフォルメしているのに一目でスフレちゃんとわかるでござる。
是非とも、これを描いた絵師さんの教えを請いたいでござるよ。」
そう、台座に置かれた大きな像はペンネ姉ちゃんが描いた二頭身のスフレ姉ちゃん。
ちゃんと、ウサギに跨って、片手を天に向かって突き上げているの。
ペンネ姉ちゃんの絵の愛らしさを損ねることなく立体化されていて感心したよ。
これを騎士団の詰め所の前とかに飾ったら、親しみが感じられてすごく良いと思う。
別の場所では…。
「あら、こっちのベッドの上にあるのはペンネちゃんの人形かしら。
ずいぶん大きいのね。
このステージ衣装、買ってくれたの? 嬉しいわ。
この衣装、私が作って売っているのよ。」
シフォン姉ちゃんがベッドに横たえてあるペンネ姉ちゃんの大きな人形を見つけたの。
その人形には、興行にあわせてシフォン姉ちゃんが露店で販売した服が着せてあったよ。
ペンネ姉ちゃんが当日ステージで来てた衣装と同じ服だね。
「それは、実物大のペンネちゃんの人形でござる。
拙者、抱いて眠ることを目的に、そのペンネちゃん人形を作った故。
抱き心地が人体に近い感触の素材を探すのに随分と苦労したでござるよ。
でも、苦労した甲斐があって、完璧な実用性を備えているでござる。」
人形に実用性って…。
おいらが理解不能なフレーズに首を傾げていると、…、
シフォン姉ちゃんは、何かにピンと来たみたいで、人形のスカートを捲ったの。
そして。
「あら、ホント、こんな所まで精巧に再現しているんだ…。
ここ、実際に使えるの?」
シフォン姉ちゃんはそんなことを尋ねていたよ。
使うって…、何に?
「もちろんでござる。
拙者、寂しい独り身ゆえ。
実用性に重きを置いて念入りに作ったでござるよ。」
驚いたことに、ペンネ姉ちゃんの姿そっくりのその人形は、膝や腕の関節を曲げることが出来たの。
実際に膝を曲げて見せてくれたセーナン兄ちゃんの説明では、芯に太くて柔らかい針金が入っているみたい。
おいらの隣で、シフォン姉ちゃんとセーナン兄ちゃんの会話を聞いていたタロウが呟きをもらしてたよ。
「この世界にも『南〇二号』を開発する奴がいるとは思わなかった。」って。
『〇極二号』って、なんなの?
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おいら達は、人形を見ながらそんな会話を交わしていたんだけど。
アルトは一人、部屋に置かれた沢山の人形を丹念に見ていたんだ。
何か、アルトの琴線に触れるモノがあるのかなと思っていたら。
「セーナン、あんた、本当に王座には未練は無いのかしら。
あんたの作ったこの人形、どれも完成度が高くて良いと思うわ。
あんたが望むのなら、私がその能力を活かせる場を与えてあげる。
ハテノ男爵領のマスコットキャラを描いた絵師も紹介してあげるわよ。
良かったら、ハテノ男爵領に来ない?
もちろん、あんたのお母さんも連れて。」
なんと、アルトはセーナン兄ちゃんを引き抜きにかかったの。
どうやら、騎士団のお姉ちゃん達の人形の出来が気に入ったみたい。
きっと、騎士団の姉ちゃんの人気に便乗して、お土産品として売り出そうという魂胆だね。
セーナン兄ちゃんは自由に暮らせる環境を手に入れ、同時にハテノ男爵領の復興に貢献するなら損する人はいないもんね。
「それは、真でござるか?
拙者とお袋を、ここから解き放ってくれると言うのでござるか?
それが叶うのであれば、拙者、喜んでハテノ男爵領に行くでござるよ。
もとより、王位などに就くつもりはござらぬし。
第一、オタク等がここにいるということは。
今の王家ももう終わりなのでござろう。
拙者はあのような王家と一蓮托生は勘弁でござるよ。」
セーナン兄ちゃんは、二つ返事でアルトの誘いを受けたんだけど…。
それよりも、聞き捨てならないことを言ったよ。
セーナン兄ちゃん、もしかしておいら達の目的に気付いている?
お読み頂き有り難うございます。




