第273話 いや、いや、畑じゃ取れないって!
村人ごと村を焼き払うと悪びれることなく口にする騎士達に、おいらが呆れていると。
「おぬしら、国の礎である農民の命を何だと思っておるのじゃ。
おぬしらが日々口にしている食べ物の多くは農民が額に汗して作っておる物じゃ。
農民が減ってしまえば、作れる食べ物も減ってしまうのじゃぞ。
農民を粗末に扱うことは国を傾けることになると言うことを、おぬしらは分かっておらんのか。」
オランも呆れたみたいで、騎士達を諭していたよ。
「なんだ、生意気な口を利くガキだな…。
親の受け売りかなんか知らんが、ガキが知った風な口を利きおって。
いいか、農民なんてものは放っておけば幾らでも増えるもんなんだ。
てめえの国ではどうか知らんが、この国では農民は畑で採れると言うんだぞ。」
騎士のオッチャンはイラついた顔で、オランに返答していたよ。
おいら達のような幼子に本気で怒るのは大人気ないと思ったのか。
流石に、いきなり殴り掛かってくるようなことは無かったけど。
その後、流行り病が発生した村の住民全員を殺してしまうがこの国の流儀だとも、騎士は言ってたんだ。
流行り病が広がるのを防ぐのには、手っ取り早くて一番確実な方法だとか自慢してた。
農民が畑で採れると本気で言っている訳じゃないと思うけど、そのくらい農民を軽視しているのは分かったよ。
「マロン、この騎士共、このようなたわけたことを言っておるのじゃ。
この国は、もう末期症状だと思うのじゃ。」
騎士のセリフにオランは呆れ果てた様子で、本音を隠そうともしなかったよ。
「そうだね、流行り病の原因を作ったのはバカな王様だもんね。
そのツケが、罪も無い村の人達に押し付けられてると言うのに。
本来なら民を護らないといけない騎士がこの態度じゃ、お先真っ暗だね。」
おいらがオランの言葉に相槌を入れると、一人の騎士が顔を強張らせて言ったの。
「おい、そっちのガキ、今なんて言った。
我らが偉大なる将軍様を馬鹿な王と愚弄するか。
しかも、偉大なる将軍様が原因で流行り病が起こったなどとの言い掛かり。
何たる無礼、幼子の戯言と目を瞑るにも限度があるぞ。」
「うん? 何も無礼じゃないでしょう、本当のことだもの。
今の王様が『シマリスの魔王』を倒しちゃったんでしょう。
そのせいで、配下の魔物が暴れ始めたんだもん。
魔王が配下に置いてたのは主にげっ歯類系の魔物で。
『黒死病』って流行り病をまき散らしているのはネズミの魔物だよ。」
おいらが王様をバカだと言った理由を口にすると、血相を変えた騎士が剣に手を掛けたの。
「おい、隣国の平民のガキがなんでそのことを知っているんだ。
それは、我が国でも一握りの者しか知らされていないことだぞ。」
そうだよね、今の王様が簒奪を図るために、『魔王』を倒してレベルを上げたとか。
それによって、人為的にスタンピードを引き起こして辺境の村を襲わせたとか。
辺境の村で人を襲っている最中の魔物を、背後から倒すことで騎士のレベルを上げたとか。
『魔王』の枷が外れて魔物が暴れるようになり、結果として流行り病が広がるようになったとか。
どれも、民に知られたら反乱が起こっちゃいそうなことばかりだもんね。
「ふーん、一握りの偉い人しか知らないんだ…。
オッチャン、あんまり偉そうに見えないのに知っているってことは。
オッチャンも『魔王』討伐に参戦していて、村人を餌にレベルを上げた口かな。」
こんな所にいるんだもんね、精々が小隊長だから国の秘密を知らされる立場じゃないよね。
知っているということは現場にいた騎士なんだと思うよ。
「子供とは言え、そこまで知られているからには、生かしておく訳にはいかんな。
そうともよ、冥途の土産に聞かせてやらぁ。
俺は、愚民共に食らい付いている魔物を一人で百体以上倒して、今やレベル三十オーバーだぜ。
魔物なんてモノは頭がねえから、餌に食らい付いてる時は全く無防備だ。
後ろからズブリとやれば、幾らでも狩り放題だったぜ。
魔物に食われた愚民共も、俺のレベルの肥やしになれたと思えば本望だろうよ。」
反吐が出そうなほど下衆な言葉を吐きながら、その騎士はおいらに向かって剣を振り下ろしてきたんだ。
でも、その騎士は、日頃鍛錬なんかしていないみたいだった。
その騎士の振る剣は、騎士になりたてのスフレ姉ちゃんよりヘロヘロの剣筋だったの。
おいらは、スキル『回避』に頼るまでもなく剣を躱すと、騎士の踏み込んだ足の向う脛を蹴り抜いたよ。
その瞬間、バキっと言う破砕音と共に脛の辺りから騎士の足が砕けて…。
体を支えられなくなった騎士は、剣を前に突き出したまま地面に激突しちゃった。
思いっ切り、顔から地面に倒れ込んですっごく痛そうだった。
「たっ、隊長!
このガキ、やりやがったな!
おい、このガキをぶっ殺せ!
ガキだからと言って、手加減するんじゃねえぞ。」
激昂した騎士が号令をかけると、手にした槍で一斉に突いて来たんだ。
そうだね、こっちは丸腰だから、間合いの取れる得物で攻撃してくるのは賢いね。
「いや、私もいるのじゃが…。
頭に血がのぼって、周りが見えなくなるのは騎士としてどうかと思うのじゃ。」
そんな呑気な言葉を口にしながら、オランは騎士達の後ろに回り込み、…。
片っ端から騎士の足を蹴り砕いていったの。
槍を突き出したまま、前のめりに倒れ込んでくる騎士達。
おいらは倒れ込んできた騎士が這い蹲ったところで、槍を持つ手の甲を踵で踏み抜くことにしたよ。
オランが蹴り倒しおいらが手を踏み砕く、そんな単純作業を繰り返すことしばし。
「おぬしら、本当に口ほどにも無いのじゃ。
民を護る騎士なのだから、少しは鍛錬をしたらどうなのじゃ。
特に、隊長と呼ばれていたおぬし、レベル三十とか豪語しておったが…。
全くもって宝の持ち腐れなのじゃ。
まあ、この先、長くは無いと思うが、良く反省することじゃ。」
手足を砕かれて目の間に転がる騎士達に、オランはそんな言葉を投げかけていたよ。
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おいらはオランと二人で、騎士達を縄で拘束し終えると村の門を開放したの。
そして村の中に足を踏み入れて。
「村のみんな! もう村から自由に出入りして大丈夫だよ!
村を閉鎖していた不良騎士共は退治したから!」
出来る限り大きな声で、何度もそう呼びかけながら村の中を歩き回ったの。
すると、何事かと思ったんだろうね。
何人もの人が、窓や扉から顔を覗かせていたよ。
一通り村の中を歩き終えて門のところまで戻ってくると…。
村の人達がもう集まっていて、縄を打って転がされている騎士を眺めていたんだ。
「お嬢ちゃん、騎士様をこんな目に遭わせたのはあんた達かい?」
おいら達に気付いた一人のお爺ちゃんが尋ねてきたの。
「そうだよ、騎士はこの通り退治したから、もう村の外に出ても平気だよ。」
「いや、平気だよと言われても…。
正直、余計な事をしてくれた。
騎士をこんな目に遭わせてしまったら、この村が騎士達に仕返しされてしまう。
それに、疫病が発生した村の近隣の村は閉鎖され外に出ることが禁じられているんだ。
村の外に出て歩いているところを見つかったら、即刻斬り捨てられてしまうぞ。」
おいら達がした事はあまり歓迎されなかったみたいだね。
こんな見掛け倒しの騎士でも、村の人達には恐怖の対象のようだから。
「そうだ、その小娘にそそのかされて村を出歩いて見ろ。
この村の連中、全員を斬り殺してやるからな。」
お爺ちゃんの言葉に頷いた騎士の一人が、村の人達を恫喝したの。
だから、おいら、その騎士の無事な方の足をその場で砕いて見せたんだ。
「ギャアーーーー! 痛でぇー!
もう止めてくれ! もう逆らわねえから、勘弁してくれ!」
全く、弱い者にはとことん威張るのに、不甲斐ない…。
「ねえ、騎士なんて見掛け倒しでちっとも怖くないよ。
それにね、これから、この近辺に駐留している騎士を全員こんな目に遭わせていくつもりだから。
この村から出て歩いたところで、誰も取り締まる人はいないよ。
村の外を自由に出歩いても、これからは誰も咎めないから安心して。」
おいらが自信満々に告げると、お爺ちゃんはホッとした表情を見せていたよ。
どうやら、少しは安心してくれたみたい。
と同時に。
「お嬢ちゃん、助かったぜ。」
「ああ、俺達、村から出れねえで色々と困ってたんだよ。」
集まっていた村の人達からそんな声が上がったよ。
「ここに転がっている騎士達はおいらが連れて行くね。
誰かに聞かれたら、騎士は何処かへ行っちゃったと惚けといて。
それから、今までの迷惑料をこいつらから巻き上げれば良いよ。
剣や槍みたいな武器と財布や金目の物、全部取りあげちゃって。
どうせ、誰にもバレないし、こいつらすぐにこの世を去るんだから。」
おいらが騎士達にも聞こえるように言うと。
「悪かった、金はやる、武器も持って行って良い。
何なら、身ぐるみはがしても良いから、命だけは勘弁してくれ。」
命乞いしつつ、騎士は金目の物とかを持って行って良いって言ってくれたんだ。
その言葉を聞いた村の人達は、遠慮することなく武器や金品を巻き上げていたよ。
村の人達の追剥タイムが終ると。
それまで隠れていたアルトが姿を現して、騎士達を『積載庫』にしまったくれたの。
騎士達がいきなり消えたんで、集まっていた村の人達は目を丸くしてたよ。
お読み頂き有り難うございます。




