第256話 ダイヤモンド鉱山の奪還作戦開始だよ!
クッころさんの指揮で、騎士の姉ちゃん達が割り当てられた大弓のもとにスタンバイすると。
アルトは、坑道の入り口前広場の中でも大弓からなるべく離れた位置まで飛んで行ったの。
そしてアルトは、その場所に緑色のモノを大量にぶちまけたんだ。
すると、程なくして大小様々な魔物がそこへ集まって来て、アルトが撒いたモノを食べ始めたよ。
その時、おいらはオランと一緒にライム姉ちゃんの側にいたんだけど。
オランが、おいらの袖を引っ張ったかと思うと。
「アルト殿があそこに撒いたモノは、何か食べ物なのじゃろうか?
余程、魔物を惹き付けるモノのようじゃのう、沢山集まって来たのじゃ。」
魔物達が夢中でそれを貪る様子を見て驚いたようで、そんなことを尋ねてきたの。
「あれ、『ゴムの実』の果肉の部分なんだ。
オランが履いているトランクスに使っているゴムを採った残り。
ゼリー状で、キウイみたいな味がして美味しいらしいよ。
ただね…。
おいらには良く分からないんだけど、アブナイものなんだって。
その辺に捨てる訳にはいかないんで、アルトが有効な使い道を探ってたの。」
「それが、魔物に餌を与える事なのか?
何が有効なのか、サッパリなのじゃ…。」
魔物に餌を与えてどうなるのかと、オラン首を傾げてたけど…。
しばらく見ていると、一匹の大きな猪の魔物がフラフラと別の猪に近寄って行ったんだ。
そして、組み敷くように後ろから襲い掛かったよ。
「何じゃ、あの猪、突然、取っ組み合いを始めおったぞ。
しかし、まあ、後から襲い掛かるとは…。
魔物だとしても卑怯な闘い方なのじゃ。
うん? そう言えば…。
猪同士の喧嘩というのは、正面から牙をぶつけ合うと聞いたがことがあるのじゃ。
猪の形をしておっても、魔物と動物では喧嘩の仕方が違うのであるかのう。」
別の猪に後ろから覆い被さり、激しく腰を打ち付ける猪の魔物。
その様子を見て、オランはそんなことを言ってたの。
丁度そこへアルトが戻って来たんだけど。
「アルト様、あれって…。」
ライム姉ちゃんが、顔を赤らめて恥ずかしそうな表情で、アルトに尋ねたの。
「ああ、ライムは知らなかったわね。
さっきばら撒いたのは、『ゴムの実』の果肉よ。
強烈な発情作用があって、ライムの国ではご禁制の品なのよ。
自制が利かなくなって、風紀が乱れるってね。
あれって、人間だけじゃなくて、雌雄で番う生き物全てに効くようでね。
魔物もあの通り、貪るように交尾に没頭するようになるわ。
ホント、無防備な姿を曝け出しているでしょ。」
さっきオランが口にした疑問をアルトを全部説明してくれたよ。
「あれは、喧嘩している訳ではないのか。
良く分からんが…。
ああなってしまったのは、アルト殿が撒いたモノの効果なのじゃな。」
オランも、おいらと同様に『交尾』と『喧嘩』がどう違うのかが分からないみたい。
まあ、あの状態が『ゴムの実』の果肉によって引き起こされたということだけ分かってれば良いからね。
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おいら達がそんな話をしている間にも、目の前にある広場は取っ組み合いをする魔物でいっぱいになったの。
そこへ…。
「あの状態になれば、こちらから手を出しても見向きもしませんわ。
さあ、みんな、一斉に攻撃しますわよ!
広場にいる全ての魔物を打ち倒すまで、矢を射続けるのです。
撃ち方、始め!」
クッころさんが、弓を射るように号令を掛けたんだ。
「朝っぱらから盛ってんじゃないわよ!」
そう叫んだペンネ姉ちゃんの大弓から最初の矢が放たれると、残りの大弓からも次々と矢が放たれたんだ。
大弓には二人一組で配置され、一人が弓の弦を引く間に、もう一人が太い槍のような矢をセットするの。
そんな要領で、二十基の大弓から休むことなく矢が放たれていたよ。
『バォロン』を倒した実績があるから、心配はしていなかったけど。
大弓の威力は大したもので、槍のように太い矢は次々と魔物を葬っていったの。
しばらくすると、広場は倒れた魔物で埋め尽くされ、動いている魔物は一匹もいなくなった。
そして、倒れ伏す魔物の横には金色に光り輝くモノが小さな山を形作って現れたの。
金色のそれは、もちろん『生命の欠片』、魔物がこと切れた証だね。
アルトはすかさず、倒れ伏した魔物ごと『生命の欠片』を『積載庫』に回収していたよ。
『生命の欠片』は騎士団のお姉ちゃん達に分配する予定らしいけど。
今、魔物が倒れ伏している辺りは『ゴムの実』の果肉が散乱しているからね。
人が近付いたらその発情作用にやられちゃうんで、アルトがまとめて全部回収しているんだ。
もちろん、槍のような矢も回収するよ、使い回さないといけないからね。
魔物の死骸と『生命の欠片』の回収が終ると…。
「この辺りにはまだまだ魔物はいるわよ。
みんな、気を抜くんじゃないわよ。
第二弾をいくから、気を抜かないでね。」
そう告げて、アルトは再び広場に『ゴムの実』の果肉をばら撒いたの。
アルトはこの日のために、妖精の森の一画でゴムの木を大量に栽培していたんだ。
一年とちょっと前、にっぽん爺の案内で出向いた『ゴムの実』が生るサルナシトレントの自生地。
サルナシトレントの成木を根絶やしにすると共に、栽培目的で若木を根こそぎ持って来たのは良いのだけど。
何せご禁制の品だから、若木を何処に植えれば良いかという問題があったんだ。
ご禁制の『ゴムの実』が盗まれて外に漏れると大事になっちゃうもんね。
結局、盗難の心配が要らないということで、アルトが妖精の森で栽培することになったの。
妖精の森ならアルトの許可のない人間は立ち入れないもんね。
それに、精霊の森の方が、サルナシトレントを倒して木炭にする時にも都合が良いからね。
どの道、トレントを木炭に加工できるのは、おいらか、一部の妖精族だけだもん。
『積載庫』の機能を使って、最高品質の木炭を量産するのだから。
アルトは『積載庫』のレベル二の機能で、すぐに『ゴムの実』をつける大きさにまで若木を成育させて森に植えたらしいの。
そこから、一年間、せっせと『ゴムの実』を収穫して果肉を蓄えてきたんだ。
そのおかげで、何度でもばら撒けるくらいに『ゴムの実』の果肉は潤沢みたいだよ。
ダイヤモンド鉱山の周辺はほとんど魔物の領域と言って良いほど魔物が溢れていたみたいでね
『ゴムの実』の果肉をばら撒く度に、大量の魔物が集まって来たよ。
アルトが『ゴムの実』の果肉をばら撒いて、騎士団のお姉ちゃんが大弓で倒すという作業。
その日は、それを朝から晩まで繰り返したの。
そして、夕暮れ時になって…。
「これは、まだまだ狩り尽くしていないようね。
みんなも疲れたでしょう。
今日はここまでにして、また明日にしましょう。」
結局、ダイヤモンド鉱山周辺の魔物討伐は一日じゃ終わらないで継続となったんだ。
で、問題のワームだけど、嗅覚が無いのか、坑道の中まで匂いが届いていないのか、姿を現す気配はなかったよ。
先日現れたのが日没後だったから、夜行性かも知れないってアルトは言ってよ。
だとしたら、やっぱり騎士団には討伐させられないね。
夜、目視が利かない所で戦うのは危ないもん。
お読み頂き有り難うございます。




