第254話 アルトに誘われて行ったのは…
「マロン、ちょっとついてらっしゃい。
面白いものを見せてあげるわ。」
庭でラビを遊ばせていたら、アルトがやって来ておいらを誘ったの。
「何処へ?」と目的地を尋ねようと思ったら…。
「何じゃか知らんが、楽しそうなのじゃ。
アルト殿が面白いというモノを私も見てみたいのじゃ。」
尋ねる間もなく、自分も行きたいとオランがせがんだの。
「別にかまわないわよ。
秘密にしないといけないモノでもないし。」
「なら、さっそく行くのじゃ!」
おいらの意思に関係なく、何処かへ行くことは決定みたいだったよ…。
そんな訳で、おいら達は行く先も知らされずアルトの『積載庫』に乗り込んだの。
「ふむ、アルト殿は山脈の方へ向かっているようなのじゃ。
目的地は、イナッカ辺境伯領であろうか?」
『積載庫』にある窓の外を見ながらオランが言ってたの。
「オラン、何で最初に目的地を尋ねなかったの。
おいら、聞こうと思ってたのに。
勝手に話を進めちゃったんで、尋ねる暇が無かったよ。」
「それは、すまなかったのじゃ。
だが、アルト殿がマロンを危険な場所に連れて行くとは思えんし。
面白いものを見せてくれると言っておるのじゃ。
事前に目的地を聞いてしまうより。
着いて知る方がワクワク感があって良かろう。」
オランはすっかりアルトのことを信頼しているみたいだね。
あえて目的地を聞かずに、何処へ連れてってもらえるのかを楽しみにしてる様子だよ。
イナッカ辺境伯領が目的地じゃないかというオランの予想は外れたみたいで。
山脈に入ってから間もなく、アルトは高度を下げ始めたんだ。
目的地は近いみたいで、アルトは大人の背丈位の高度まで降下すると森の中を進み始めたの。
やがて、森を抜けて視界が開けると…。
「何なのじゃ、ここは。
魔物だらけで、まるで魔物の領域のようなのじゃ。
いかなアルト殿の速さと言えども、ここは町からそう離れておるまい。
町の近くにこんな怖ろし気な場所があるとは…。」
オランが驚くのも無理は無いよ。
目の前には岩だらけの荒野が広がり、そこにはいかにも狂暴そうな魔物が闊歩していたんだ。
「オランもアルトから聞いたでしょう、ダイヤモンド鉱山の奪還計画。
ここはおそらく、ダイヤモンド鉱山のある辺りだと思うよ。
多分アルトは、ダイヤモンド鉱山の奪還に向けて下見に来たんだと思う。」
おいらがオランの疑問に答えると…。
「正解よ、マロン。
色々と必要な物が揃ったから。
そろそろ、ここを魔物から取り戻そうかと思ってね。」
丁度、アルトが『積載庫』の中に入ってきて、おいらの予想を肯定したんだ。
**********
父ちゃんが鉱山跡地を見に来て魔物に襲われたと言ってたから、今でも魔物がいることは分かっていたの。
アルトも父ちゃんにダイヤモンド鉱山周辺の様子を尋ねたみたいなんだけど。
父ちゃんは、鉱山に近付いたらあっという間に魔物に気付かれちゃったみたいでね。
周囲の様子を細かく観察してる暇が無かったらしいんだ。
それで、今日、アルトが直接下見に来たそうなの。
どんな魔物がどのくらい生息していているのとか、アルトの準備したモノが活かせる地形があるかどうかとかをね。
「じゃあ、もう少しこの辺りを飛んでみるから。
あなた達も、どんな魔物がいるのかを良く見ておくのよ。」
そう告げたアルトは部屋を出て行き、また窓から見える風景が動き始めたの。
どうやら、開けた空き地は鉱山の入り口の前にあった広場のようで、そこで鉱石を荷馬車に積み込んだみたい。
他にも鉱山に付属した建物が建っていたようで、そこかしこに朽ちた建物の残骸が残ってたよ。
けっこうな広さがあるその広場には、サルやイノシシを巨大にしたような魔物や『バォロン』までいたよ。
バォロンって、二足歩行するドラゴンの一種でレベル五十くらいあるみたい。
以前、ノーム爺に依頼して作ってもらった大弓の試射で狩ったドラゴンだね。
その時狩ったバォロンの『生命の欠片』だけど、クッころさんが報酬としてもらったんだ。
『生命の欠片』を取り込んだらレベル五十まで上がったと、クッころさんが言ってたよ。
「強そうな魔物がウジャウジャいるのじゃ。
私達は、こんな凶暴な魔物が生息する場所の近くに住んでおるのじゃな。」
鉱山付近にいる魔物を見て、オランがあの町が寂れていたのも頷けると言ってたよ。
ダイヤモンド鉱山が閉鎖されて仕事が無くなったことに加えて、近くに魔物が沢山巣くっているんだもの。
好き好んで住もうとする人は少ないってね。
住民をつなぎ止めるために、領主が町の住民に対する税を免除しているのも納得だって。
オランの言葉通り、この辺を跋扈している魔物を見ちゃうとあの町に住むのを躊躇しちゃうよね。
魔物が、何時町を襲ってくるかと思うと気が気じゃないもん。
スタンピードがあった当時を知っているハテノ男爵家の家宰セバスおじいちゃんも言ってたね。
実際に、鉱山の仕事を失った人以外にも、魔物を恐れて町を去った人も多かったって。
今、町に住に住んでいる皆は、そんな恐怖心が薄れちゃってるみたい。
ここにいる魔物たちを目にしたことは無いし、この五十年、幸いにして町が魔物に襲われたことが無いからね。
皆、近くに魔物の巣窟があることなんて、気にせずに生活しているよ。
「しかし、町のこんな近くに魔物の巣窟があって良く今まで無事じゃったモノじゃ。
なんかの拍子にまた魔物が暴走しようものなら、ひとたまりもないじゃろうが。」
オランが、魔物を眺めながらそんな感想を漏らしてたよ。
そんなオランの言葉に…。
「そうね、魔物の習性って謎が多くてね。
何百年も生きている私でも理解できないことは多いの。
魔物って、何故か自分達の領域を決めるとそこから出てこないのよ。
五十年前のスタンピードだって、本当はあの町まで押し寄せても不思議じゃなかったの。
でも、この場所のどこが気に入ったのかは知らないけど、ここで止まったのよ。
いずれにしても、魔物の巣窟なんて無い方があなた達も安心でしょう。
ここは、魔物達には退いてもらいましょう。」
いつの間にかアルトが隣にいて、そんなことを言ってたよ。
そこで、おいらは尋ねてみたの。
「アルト、お帰りなさい。
それでどう? アルトの計画って上手く行きそう。」
「そうね、それを答える前にマロンの意見を聞かせてもらえるかしら。
ここにいる魔物達、マロンだったら討伐出来そうかしら。」
おいらの問い掛けに、アルトは質問で返してきたの。
「うんと、見る限り一番強いのが『バォロン』だよね。
まとめて掛かって来るんじゃ無ければ、なんとか倒せるかな。
バォロンなら、クッころさんでも平気でしょう。
それに、あの大弓があるものね、意外と簡単に討伐出来るかも。」
レベル五十のクッころさんなら、剣を使っても『バォロン』を倒せるはずだし。
アルトが作らせた大弓は二射で、バォロンを倒してた。
バォロンより、強い魔物はいないみたいだから大弓が沢山あれば鉱山の奪還が出来るんじゃないかな。
「そうね、上手く設置すれば大弓をずらっと並べられるだけの広さはあるみたいね。
今目についた魔物しかいないのなら、討伐出来そうだけど…。
今日下見に来てわかったわ。
私は、少し甘く見過ぎたかもしれないわ。」
そう言ってアルトは、坑道の入り口を指差したの。
そこにあったのは、堆く積まれた何かの骨、一つ一つの骨が大きいから魔物の骨だと思う。
「ええっと、坑道の入り口に積み上げられているということは…。
坑道の中に、魔物を捕食しているもっと強い魔物がいるかもしれないってこと?」
おいらが尋ねると…。
「そうね、ことによると手強いモノがいるかもしれないわね。」
アルトは、浮かない顔で言ったんだ。
お読み頂き有り難うございます。




