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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十一章 小さな王子の冒険記
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第249話 街の広場でお披露目したよ

 翌朝、オラン達と中庭でラビを遊ばせていると。


「シーリンの支度が出来たから、こっちへいらっしゃい。」


 アルトがおいら達を呼びに来たんだ。

 今日はシトラス兄ちゃんに嫁ぐ耳長族のシーリン姉ちゃんのお披露目をする予定になっているの。


 タロウの所にシフォン姉ちゃんがお嫁に来た時がそうだったけど。

 おいら達平民の結婚は、ただ一緒に住み始めるだけ。

 役場に届け出る必要も無ければ、お披露目なんかも特にもやらないの。


 親しくご近所付き合いをしている人がいれば、結婚をしたと挨拶回りをするくらいかな。

 大商人やお金持ちは親類縁者を集めて大宴会をするらしいけど、辺境の町じゃそんなのは見たこと無いよ。


 でも、王侯貴族の場合はそうはいかないみたい。

 この国の王族の場合、謁見の間に貴族を集めて王様が王子や王女が結婚したことを披露するらしいの。

 その後、盛大にパーティをして、翌日は馬車で王都を巡回して民に知らしめるんだって。


 でも、今回は謁見の間でのお披露目も盛大なパーティもやらないの。

 アルトは貴族を集めてのお披露目やパーティなんか時間の無駄だと言ってるし。

 人の王侯貴族のマナーを学んでいない耳長族のシーリン姉ちゃんには、どっちも苦痛なだけだものね。


 一方で、アルトは言っていたの。

 王家に耳長族の娘が嫁いだことは広く民に知らしめておく必要があるって。

 それは、二百年程前にあった耳長族の悲劇を繰り返さないためにね。


 前回、この国に来て王様に『耳長族に対して手出し無用』とする勅令を出してもらったけど。

 実際に耳長族のお姉ちゃんを目にしたら、つまらない欲を出す者が出て来るかも知れないからね。

 特に、二百年程に前耳長族狩りの中心となった冒険者。

 あいつらは、欲深くて言っても聞かない愚か者が多いからね。


 シーリン姉ちゃんが王家に嫁いできたことを披露すると同時に。

 王様が、王家が耳長族の庇護者となることを民に宣言するんだって。


 王家が庇護すると公言した上に、王家に嫁ぐ者までいることを知らしめておけば。

 いかな愚かな冒険者と言えども、耳長族に手出しする者は出てこないだろうとアルトは言ってたよ。


 ということで、王都の民に対するお披露目だけはする事にしたんだ。


     **********


「素敵なドレスですわ。

 『妖精絹』を使った透明感のある純白のドレス。

 しかも、今まで目にした事のない美しいデザインですわ。」


 ドレスの着付けが終ったシーリン姉ちゃんを目にしたネーブル姫は大絶賛だった。

 肩から裾にかけてゆるやかに広がっていくシルエットのドレスで。

 レースがあしらわれたとっても長い引き裾が特徴的だったよ。


「えへへ、素敵なドレスでしょう。

 これ、タロウ君の故郷で花嫁さんが婚礼に使うドレスなんですって。

 お爺ちゃんがデザイン画を提供してくれたんだけど、作るのが凄く大変だったのよ。」


 シーリン姉ちゃんの髪を梳きながら、シフォン姉ちゃんが自慢気に説明してくれたよ。

 今回、シーリン姉ちゃんが身に着ける衣装は、全部シフォン姉ちゃんの手作りなんだ。

 アルトが相当無理を言って大急ぎで作らせたらしいよ。


 今日も着付けから、髪の毛のセットまで全部シフォン姉ちゃんがお世話しているんの。

 あとは、肘上まである白の長手袋を腕に着け、『妖精絹』で作られたベールを頭から垂らしたら準備万端だって。


 準備が整うと、アルトは新郎新婦と王族のみんなを『積載庫』の中に放り込んだの。

 そして、やって来たのは王都トマリの港にある広場。


 王都トマリは海運により栄えた町で、港の周辺が一番の繁華街になっているの。

 中でも、港に面した大きな広場は市が立っていて、何時でも賑わいを見せているんだ。


 そんな広場だけど、今日はその一画を王宮の騎士によって開けさせてもらったんだ。

 広場を往く人は何事かと思ってはいるようだけど、大して気にも留めてない様子で通り過ぎてたよ。


 そんな一画に、アルトがいきなり舞台を出現させたんだ、『STD四十八』の興行で使っているヤツを。

 何も無い空間にいきなり巨大な舞台が出現したものだから、広場にいる人達もギョッとしてたよ。


「みなさーん、驚かしちゃってゴメンねー!

 今日は、王様から大事なお知らせが有りまーす!

 御用とお急ぎでない方は是非とも見て行ってくださいねー!」


 舞台の上から透き通った元気な声で町往く人々に声を掛けたのはシフォン姉ちゃん。

 舞台とセットで一緒に現れたの、勿論、身に纏っているのは色々アブナイ『きゃんぎゃる』の衣装だよ。


「何だ、何だ、あの娼婦みたいな格好の姉ちゃんは?」


「えらいベッピンだな、もちッと舞台によればスカートの中が覗けるんじゃないか。」


「俺はそれより、あのはち切れそうな胸がポロリしねえか気になるぜ。」


 広場にいた人からそんな声が聞こえ、舞台の前に人が集まってきたんだ。

 シフォン姉ちゃんは、舞台の前に十分な人だかりができたのを確認すると。


「はーい! みんな、注目!

 この国の王様、ザボン陛下の登場でーす!」


 『登場でーす!』って、普通、そこは『御成りです。』じゃないの…。

 シフォン姉ちゃんったら、微塵も威厳を感じさせない口調で王様の登場をアナウンスしたよ。


 それと共に舞台に上に王様が現れると…。


「おいおい、あれは本当に陛下じゃないか。」


「陛下が前触れもなくお出ましになるとは、いったいどうなっているんだ。」


「いや、それ以前にいったい何処から出て来られたのだ?」


 何処からともなく現れた王様に広場に集まった人達は戸惑っていたよ。


      **********


「私は、この町に住まう民たちが皆息災にしていることを喜ばしく思う。

 今日はこの場を借りて、王家にとって喜ばしい報告をさせてもらいに参った。

 この度、第三王子のシトラスが妃を迎えることとなった。

 紹介しよう、第三王子のシトラスとその妃シーリンだ。」


 舞台上の王様が街中に現れた目的を告げ、新郎新婦の名を呼んだの。

 その声を合図にアルトが二人を舞台上に立たせたんだ。


 王様と同じようの突如として現れたのは、礼装のシトラス兄ちゃと純白のドレスを纏ったシーリン姉ちゃん。


「キャア! あのドレス素敵!

 流石、王族ね、あんな輝くような布、見たこと無いわ。」


「生地もキラキラして綺麗だけど。

 あのドレス、とっても優雅なデザインね、さすが王族って感じ。」


 若い女の人は真っ先にシーリン姉ちゃんのドレスが目に留まったみたい。

 でも、男の人の方はと言うと。


「おい、あのお妃様、えらい美人だけど…。

 なんだか、いやに耳が長くないか?」


 陽の光に透けてベールはほとんど素通しだったんで、目敏い人は気付いたみたい。


「どれどれ、おお本当だな。

 って、おい、ありゃ、幻の民と言われている耳長族じゃないか。」


 他にも良く目を凝らしてみた人がいて、シーリン姉ちゃんが耳長族だと気付いたの。

 二百年もの間、絶滅したと思われていた耳長族が姿を現したものだから集まった人達が騒然としたよ。


「はーい!みんな、静かに、静かに!

 これから、王様が大事な話をするから、よーく聞いてね。」


 ざわついた人々に向かって、シフォン姉ちゃんが良く通る声でアナウンスしたの。

 王様のお言葉があると聞き、すぐさま広場に静寂が戻ったよ。


「皆、もう気付いたと思うが、妃シーリンは『森の民』、いわゆる耳長族である。

 およそ二百年前、愚かな冒険者を中心とした痛ましい耳長族狩りがあり。

 それにより、耳長族は数を減らし、文字通り『森』に潜むことを余儀なくされたのだ。

 この度縁あって、耳長族と誼を結ぶことと相成った。

 先般、耳長族に対して危害を加えることを禁じる勅令を出したところであるが。

 私はこの場で、耳長族の庇護者となる事を宣言する。

 耳長族に危害を加えることは、王家に弓引くことだと心して欲しい。」


 打ち合わせ通り、王様は民衆の前で、耳長族の庇護者となる事を宣言したの。

 それに続けて、広場にいる冒険者たちに向かって、耳長族狩りなどは厳しく取り締まると言ってたよ。

 勅令を厳格に適用して、耳長族に手出しした者はすべからく死罪だと脅していた。

 広場の一画に集まっていた冒険者たちは、王様に睨まれて縮こまっていたよ。

 冒険者って基本ならず者だからね、このくらい厳しく言っておいた方が良いかも。

お読み頂き有り難うございます。

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