第243話 ラビの反抗期?
さて、我が家にやって来た愛らしくて臆病なラビだけど…。
魔物の成長って恐ろしく早くて、ほんの数ヵ月で人の大人ほどの背丈になっちゃったんだ。
しかも、人と違って丸っこくて横幅があるからね。
人よりも大分大きく見えるよ。
一つのベッドで、ラビを挟んでおいらとオランが眠るのは難しくなってきたの。
仕方がないので、モフモフの抱き枕は泣く泣く諦めたんだ。
ラビにはベッドの横で眠ってもらっているの。
でも、それ以上に困ったことが…。
「ウキュ!」
声だけ聞いたら愛らしく感じるけど…。
その実、目を血走らせておいらに噛み付こうとするラビ。
「襲い掛かってきたらダメでしょう!」
おいらは、ラビを躱すとその頭を地面に押さえ付けてたんだ。
「ウキュキュ!」
おいらに手も足も出ず、情けない鳴き声を上げるラビ。
彼我の実力差を思い知り、命乞いをしているように見えたよ。
アルトが懸念した通り、ラビは成長するに従い獰猛さを表に出してきたんだ。
おいらやオランが油断していると、後から襲い掛かってくるようになったの。
後から襲い掛かるのは卑怯だなんて言っちゃダメだよ。
そんなクレームは野生の魔物には通用しないから。
こっそりと後ろから近づいて、獲物を確実に仕留めるのが狩りのコツだからね。
「最近、ちょくちょく襲ってくるのじゃ。
私もさっき、寝起きを襲われたのじゃ。
反抗期じゃろうか?」
幸いなことにウサギは夜行性じゃなくて助かったよ。
おいら達より睡眠時間が長いんで、寝ている間に襲われることは無いからね。
おいらのスキル『完全回避』が寝ている間も働くなら、心配する必要ないけど。
試すような機会が無かったから、スキルが働くか分からないし…。
第一、オランはそんな訳にはいかないからね。寝込みを襲われたら惨劇だよ。
「反抗期と言うより、魔物の本能なんじゃないかな。
こうやって、撃退するとしばらくは大人しくなるし。」
おいら達はそんな風に思っていたんだ。。
ラビがおいら達に襲い掛かる様子を見て、アルトは言ってたの。
今成長期のラビは、自分が力強くなってきているのを感じて、おいら達を従えようとしているみたいだって。
サル山のボスザルよろしく、この三人の群れのボスになるべく挑んでだろうって。
魔物の世界って弱肉強食だからね、本能的に強い者が上に立つと感じているじゃないかとアルトは言ってた。
うーん、でも、ウサギって普通群れを作らないよね。それでもボスになろうとするのかな。
ラビは基本臆病なので、絶対に敵わないと分かればそのうちまた従順になるだろうとアルトは言ってたよ。
下剋上を狙うよりおいら達の庇護下にいる方が生き延びられると、本能的に感じ取るんじゃないかって。
オランは基本、ラビが襲って来たら拳骨を頭に落とすんだ。
でも、おいらが拳骨で殴ると『クリティカル』が出って殺っちゃうかも知れないからね。
デコピンですらヤバいかもしれないし…。
だから、片手でラビの頭を地面に押さえつけることにしているの。
「ウキュ!ウキュ!」
しばらく頭を押さえ付けていると、ラビは涙目になって鳴き声を上げてきたの。
そのつぶらな瞳は、もう暴れないから赦してって懇願しているように見えるよ。
それで、ラビに襲われては撃退するというのを一月ほど繰り返すことになったの。
そしたらアルトの言う通り、すっかり元通りの従順で愛らしいラビに戻ったよ。
何度も撃退されて、いくら体格が良くなってもおいら達には敵わないとやっとわかったみたい。
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元通りの従順で愛らしいラビに戻ったというものの。
その頃には熊ほどに育って、とても愛らしいという大きさでは無くなっていたよ。
でも、オランはそれを凄く喜んだの。
何故かと言うと…。
「おお、速いのじゃ。
マロンも一緒に乗るのじゃ。」
純白のラビの背に乗って、おいらに手を振るオラン。
ラビがお腹をおいら達に見せ、完全服従のポーズを取ると。
オランが最初にやってみたいと言ったのは、ラビの背に乗る事だったの。
なので、草原に出てラビに乗ってみることにしたの。
オランって、女の子みたいな姿をしているけど、やっぱり男の子だったんだね。
ウサギのラビは後ろ足で跳ねて前に進むから、乗り心地は良くないと思うんだ。
今もピョンピョン跳ねてるけど、あんなのに乗ったら気分が悪くなりそうだよ。
でもね、背中に乗ったオランは凄く楽しそうなの。
キレイな金髪を振り乱してラビの背に乗るオランは、何処から見てもヤンチャな男の子だよ。
「おいら、気分が悪くなりそうだから遠慮しとくよ。」
オランの誘いを謹んで辞退していると…。
「そんなこと無いのじゃ、とっても楽しいのじゃ。
騙されたと思って、一度乗ってみるのじゃ。」
「ウキュ!ウキュ!」
時々感じるけど、オランって結構押しが強いよね。
おいらが辞退しても、ラビに乗るように重ねて誘って来たよ。
心なしか、ラビまで背中に乗れって催促しているように見えるし…。
で、結局…。
「うわっ! 速い!
景色が後ろに飛んで行くみたい。
それに、思ったよりも乗り心地も良いね。」
「そうじゃろう、頬に当たる風が心地いいのじゃ。」
オランに押し切られて、二人一緒にラビに乗ることにしたんだ。
跳ねて進むのだから上下に揺れるのは仕方ないけど、思ったほど乗り心地は悪くなかったよ。
それよりも、オランが言う通り風を切って進むのがとても気持ちいいの。
ただ、おいらはラビが乗り物にされるのを嫌がるかと思ったんだけど。
ラビはラビで、おいら達が背に乗っているのを遊んでもらっていると思っているようでね。
おいら達を乗せている間中、終始ご機嫌そうな鳴き声を上げていたよ。
この日から、おいら達はラビに乗って移動することが多くなったんだ。
ラビに乗ったまま町に戻ったら、門番の兄ちゃんは目を丸くしてた。
それと、広場を通り掛かった時には、小さな子供達に乗せて欲しいとせがまれたの。
もちろん、時間が許す限り、子供達を乗せて広場の中を跳ね回ったよ。
それ以降、時間に余裕がある時は、広場で子供達をラビに乗せてあげることにしているの。
おかげで、ラビはますます町の人気者になったんだ。
お読み頂き有り難うございます。




