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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十一章 小さな王子の冒険記
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第239話 ウサギ狩りに出掛けたら…

 その日、おいらはオランと共に草原を歩いてたんだ。

 日課のトレント狩りをした後、『妖精の森』からの帰り道だったの。


「オラン、まだ日も高いし少しだけ狩りをして良いかな?

 ウサギの肉がそろそろ無くなりそうなんだ。」


 一年ほど前にクッころさんが追いかけられていたウサギの魔物。

 おいらが倒したんだけど、熊くらいの大きさがあったからね。

 肉の塊を町の肉屋に持ち込んで、お金を払って調理してもらっていたんだけど。

 一人暮らしのおいらじゃ、そんなに食べられるはずも無く。

 一年がかりでようやく食べ終わりそうなの。


 この間、オランがウサギの魔物を見てみたいと言っていたし。

 ちょうど良いから、ウサギ狩りをして帰ろうかと思ったんだ。


「おお、ウサギであるか。

 それは、是非見てみたいのじゃ。

 小動物のウサギは見たことがあるのじゃが。

 魔物のウサギはまだ見たことが無いのじゃ。」


 そんな訳でウサギの巣穴がありそうな場所にやって来たの。

 ウサギの魔物って、レベルゼロが標準の人間にとっては手強い相手だけど。

 魔物の中では最弱に近くて、弱肉強食の魔物の中では捕食される立場らしいの。

 その裏返しだろうと父ちゃんが言ってたけど、種の維持のためにとても繁殖力が強いんだ。


 だから、人の通る道から外れて草原の中に入り込むとそこかしこにウサギの巣穴があるの。


 その日も草原に踏み込んですぐに巣穴を見つけたよ。


「じゃあ、ちょっと下がっていてね。」


 オランを巣穴の近くから退かせると、おいらはこぶし大の石ころを拾って巣穴に放ったの。


 すると…。


「ウキュ!」


 巣穴の中から、愛嬌のある鳴き声がして…。

 その愛らしい声からは想像もつかない、怒りの形相でウサギが飛び出してきたんだ。

 目が血走って、鋭い前歯を剥き出してるの。


「おお! 本当に大きいのじゃ!

 見た目はウサギなのに、獰猛そうで可愛くないのじゃ。」


 ウサギよりもレベルの高いトレントと毎朝対峙しているためか。

 オランは、ウサギの大きさに驚きつつも、呑気にそんな言葉を口にしてた。

 クッころさんが最初にウサギに遭遇した時なんか、一目散に逃げ出したのにね。


 オランの言葉通り、モフモフで丸っこくて愛嬌のある体つきなんだけど。

 目が血走って、前歯を剥き出しにしているんで可愛く見えないんだよね。

 まあ、その方が倒す時に良心が痛まないで済むけど。


 おいらは、襲い掛かって来たウサギの魔物を錆びた包丁で一息に葬ったよ。

 倒したウサギを『積載庫』に収めていると。


「低レベルの魔物とは言え、相変わらず見事なモノじゃなぁ。」


「まあね、おいらの実力じゃなくて、『クリティカル』のスキルのおかげだけどね。」


「謙遜することは無いのじゃ。

 スキルを育てたのだって実力のうちなのじゃ。

 他者が『ゴミスキル』と見向きもしないスキルを極めるなど普通はできないのじゃ。」


 そんな風においらを称賛してくれるオラン。

 オランにはおいらのスキルの秘密は全部教えることにしたんだ。

 一緒に住んでると隠すのも大変だからね。


 他の人にはナイショにするという約束で、おいらの持っている『スキルの実』も分けてあげてるの。

 最初に分けた『野外移動速度アップ』の他に、『回避』と『クリティカル発生率アップ』も育成中だよ。


「さあ、ウサギのお肉も手に入ったし町へ戻ろうか。

 今日は、お肉屋さんに頼んで『ウサギ肉のロースト』を作ってもらうから楽しみにしてね。」


「ほう、今日はご馳走なのか。

 それは楽しみなのじゃ。」


 オランは言葉通り本当に楽しみそうな表情を見せていたよ。

 たまには美味しいモノも食べさせてあげないとね、いつも屋台メシばかりだから。

 オランは凄いと思う。

 最初に約束した通り、粗末な平民の食べ物でも不満を漏らしたことは一度もないんだ。

 「色々と初めて食べる物が多くて興味深い。」なんて言ってるしね。


      **********


 当初の目的通りウサギ肉を手に入れ、町へ戻る途中のこと。


 草むらからガサガサと何かが動く音がしたんだ。

 少し大きなモノが動いたような気配で…。 


「マロン、何かおるようじゃぞ。」


 オランも気付いた様子で、剣に手を掛けてたよ。

 しばらく、音のした方向を見ていたんだけどこちらを襲ってくる様子は無く…。


 おいら達は慎重に音のした場所を確認しに行ったの。

 放置して立ち去ろうとして、背後から不意打ちを食らったら堪らないからね。


 草むらをかき分けて進むと、…。


「また、ウサギの魔物なのじゃ。

 じゃが、まだ、子供のようじゃのう。

 しかも、怪我をしているようじゃ。」


 そこには、おいらやオランと同じくらいの背丈のウサギの魔物が蹲っていたの。

 おいら達に気付いたウサギの魔物は、前歯を剥き出しにして威嚇するんだけど…。


 他の魔物、もしくは熊のような大型の動物にやられたのかな。

 後ろ足に大きな引き裂き傷があって、ドクドクと血を流しているの。

 もう、こちらに向かってくる気力も残っていないみたい。


「可哀想なのじゃ。

 このまま、放っておくと何かに捕食されてしまうのじゃ。」


 ウサギに憐れみの情を示すオラン。

 そんなこと言うけど、おいら達もさっきウサギを狩ったばかりだよね。

 いつもなら、行き掛けの駄賃とこのウサギも狩るところなのだけど…。


 その時、おいらはふと思ったんだ、「こいつ、飼い慣らせないか。」と。

 以前、オランが大きなウサギにモフモフ出来たら楽しかろうと言ってたものね。

 魔物を飼い慣らすのは無理だと、アルトはその時に言ってたけど。

 子供のうちから躾ければいけるかも知れないとね。


「オラン、このウサギが暴れたら、その剣で斬り捨ててくれるかな。

 おいら、ちょっと試したいことがあるんで、そこまで手が回らないんだ。」


 おいらは、オランに何時でもウサギを斬り捨てられる体勢と取らせると。

 ウサギの後ろに回り込み、『妖精の泉』の水を傷口に注いだの。


 その瞬間。


「ウキュ!」


 と鳴き声を上げたウサギだけど。

 傷が治っていくと痛みが引いて安堵したのか、殺気立った気配が鎮まっていったの。

 と同時に、ウサギは地面に力なく伏しちゃった。


「なんか、衰弱しておるのじゃ。

 何処から逃げて来たのか知らぬが。

 怪我だけじゃなくて、体力も落ちているようじゃのう。」


 ウサギの様子を見てオランがそんなことを言ったけど。

 確かにこの辺には、ウサギを捕食するようなモノは出没しないね。

 もう少し西の方に行った水辺まで行かないと大きな魔物はいないもんね。


「お腹が空いて力が出ないのかも。

 何か食べさせてみようか。」


 おいらは『積載庫』の中を探り、おやつに食べようと入れといたモノを出したみたんだ。

 出したのは、『野外採集能力アップ』のスキルの実。

 普段、おやつはスキル育成を兼ねてスキルの実を食べることにしてるんだ。

 おいらが育てている『スキル』の実は全種類入れてあるけど。

 戦闘能力が上がるようなモノを迂闊に食べさせる訳にはいかないからね。

 懐かないで逃げられちゃったとしても、『野外採集能力アップ』だったら無害だからね。


 ウサギの前に『野外採集能力アップ』のスキルの実を置いてあげると。

 スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅いだ後、恐る恐る一口齧ったの。


「ウキュ。」


 小さな鳴き声を上げたウサギ、どうやら食べられると認識したみたいなの。

 あっという間に一つ食べちゃった。


「ウキュ、ウキュ。」


 すると、ウサギはおいらを見てそんな鳴き声をあげたの。

 もっと寄こせと催促しているみたい。


 おいらがまとめて十個ほど目の前に出してあげると。

 よほどお腹が空いていたのか貪りついたよ。

 

 ハムハムとスキルの実を齧るウサギ。

 おいらはその頭を撫でてみたんだけど、食べるのに夢中で嫌がる様子は見えなかったの。


 そのまま、スキルの実を全部食べ終わるまで撫で続けていると。

 お腹が膨れて満足したのか、ウサギは地面に丸くなって目を細めたの。

 撫でられて嫌がるかなと思ったけど、気持ちよさそうにおいら体に頭を擦り付けて来たよ。


「マロン、凄いのじゃ。魔物が懐いたのじゃ。」


 オランは驚嘆の声を上げると、おいらの隣に来て一緒にウサギを撫で始めたよ。


「柔らかいのじゃ、モフモフなのじゃ。」

 

 そんな感想を漏らしながら、オランは嬉しそうにウサギを撫でてたの。


 撫で続けていても、嫌がるどころか「ウキュ、ウキュ。」と気持ち良さげな鳴き声を上げるし。

 さっきから、おいらの体に頭をスリスリしているしね。

 怪我を治してあげたのが良かったのか、簡単に懐いちゃったみたいだよ。


 でも、このまま、町に連れ帰っても大丈夫かな?

お読み頂き有り難うございます。

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