第232話 色々なことに興味津々みたいだね
公衆浴場の帰り道に市場に寄って、晩ごはんの総菜とパンを買って帰ってきたおいら達。
土間に置いたテーブルを囲んで晩ごはんにしようと思ったら。
「何なのじゃ、それは?
いきなり、この部屋全体が明るくなったのじゃ。
そんな明るいランプは、王宮でも見たこと無いのじゃ。」
土間はもう暗くなっていたんで、『妖精の光珠』を出したらオランはビックリしていたよ。
「これはアルトから借りている『妖精の光珠』だよ。
貴重な妖精族の秘宝の一つなんだって。
触ったらダメだよ。
おいら以外の人が触れると盗難防止機能が働いて酷い目に遭うから。」
子供の一人暮らしで火を使うのは危ないだろう。
そう心配したアルトが貸してくれたって、オランに説明したの。
「マロンは妖精の長殿に余程大切にされておるのじゃのう。
そんな貴重なモノを貸してもらえるなんて。
しかし、『妖精の光珠』とはよいものじゃのう。
まるで昼間のように明るくて、今が夜だと忘れてしまいそうじゃ。」
オランらは、『妖精の光珠』の明るさに感心すると同時に。
おいらが、アルトにとって特別な存在だと感じたみたい。
「うん、アルトには凄く助けられていると感謝してるんだ。
アルトがいなければ無事だったかどうかもわからないしね。
最近は色々な所へ連れて行ってもらえるから、とっても楽しいよ。」
「そうじゃのう、私も感謝しないといかんのじゃ。
妖精の長殿のおかげでここに来られたのじゃからの。
マロン、改めてこれから世話になるのじゃ。」
オランもアルトに連れて来てもらったことを思い出したみたいで。
トマリの町から、ここまでとても短時間、かつ快適に連れてきたもらったことを感謝していたよ。
アルトの『特別席』って、フカフカのベッドで、トイレとソファーまで付いているからね。
**********
夜も更けて、おいら達ガキんちょはお眠の時間になり…。
『妖精の光珠』の光を消して、ベッドに潜り込んだ後のこと。
「なあ、マロン、そなた、本当はウエニアール国の王族なのじゃろう。
ここで、平民として暮らしていて不満は無いのか?」
隣で横になっているオランが問い掛けてきたんだ。
ライム姉ちゃんの屋敷でその話をしていた時、『特別席』の中のオランにも聞こえていたみたい。
「多分聞こえていたと思うけど。
おいらが生まれてすぐに反乱があったって話だから。
王族として過ごした記憶なんてある訳ないじゃん。
物心ついた時には、父ちゃんと旅していて…。
おいらの記憶のほとんどはこの町にあるの。
だから、おいらには平民の暮らしが当たり前で、不満も何も無いよ。
記憶に無いんだから、王族に未練なんかある訳ないし。」
「そうじゃのう。
マロンは、自由に生きてきたようじゃし。
今更堅苦しい王宮で暮らせと言われても困ってしまうじゃろうか。」
「そうそう。
平民には、富も、地位もない代わりに、自由があるんだよ。
オランがいつまでここにいるかわからないけど。
しきたりに縛られた王侯貴族には無い自由を教えてあげるね。」
「そうか、それは楽しみじゃ…。」
オランも慣れない旅で疲れていたんだろうね。
会話の途中で寝落ちしちゃったよ…。
翌朝目を覚ますと、おいらの隣でオランがスヤスヤと寝息を立ててたの。
間近で見ると、金髪で均整がとれた卵型の輪郭のオランは本当に女の子みたい。
ネーブル姫が溺愛しているのも頷ける気がする。
気持ちよさそうに寝息を立てるオランを起こさないように、ベッドから抜け出して。
おいらは、前庭で『カタバミ』の魔物狩りをする事にしたんだ。
『金貨収穫量増加』のスキルの実をオランに知られないようにね。
前庭いっぱいに繁茂していた『カタバミ』だけど、オランが起きる前に何とか全部狩り終えたよ。
茂っていただけあって、スキルの実も万単位で手に入れることが出来た。
**********
『カタバミ』を狩り終えて、テーブルでスキルの実を摘まんでいると…。
寝ぼけ眼を擦りながら土間にやって来たオランが。
「マロン、おはようなのじゃ。
随分と早起きなのじゃな…。
うん? 何やら、甘い良い匂いがするが。
マロン、そなた、何を食べているのじゃ?」
おいらが手にしているイチゴもどきを指差して尋ねてきたの。
「これは、『野外移動速度アップ』のスキルの実だよ。
とっても甘くて瑞々しいの。
オランのスキルって今どうなっているかな?
スキルが全部埋まっているか。
『野外移動速度アップ』のスキルが生えても良ければ食べても良いよ。」
スキルの空きがなければ、別のスキルの実を食べてもタダの果物だからね。
一旦生えたスキルを別のスキルで上書きすることは出来ないから。
「私は、『攻撃力アップ』と『防御力アップ』を持っているのじゃ。
他二つは空いておるのじゃ。
お父上は、残り二つは自分の判断で選べと言っておったのじゃ。
今のところ、特にこれと決めたスキルは無いのじゃが…。
それ、美味しそうじゃのう。」
『攻撃力アップ』と『防御力アップ』って、さすが王族だね。
聞いた話だと、両方とも一つで銀貨十枚もする希少スキルだよ。
もっとも、売っているところを見たこと無いけど。
それはともかくとして。
朝ごはん前でお腹が空いているのか、オランはおいらが手にしたイチゴもどきを見て唾を飲んだの。
「しばらくここで暮らすなら『野外移動速度アップ』のスキルはお勧めだよ。
おいら、『野外移動速度アップ』はレベル八まで上がってるから、二百%アップになってるの。
同じレベルの平均的な人の三倍の速さで移動できるから。
オランも持っていないと、おいらに付いてくるのが大変だよ。」
「ふむ、足が速くなるのか…、悪くは無いのじゃ。
平民は馬車や馬に乗らず、自分の足で移動するのじゃろう。
別に他に欲しいスキルがある訳ではないし…。
何より、美味しそうなのじゃ。」
あまり深く考えないで、美味しそうかどうかで決めるって…。
そういう姿勢、おいら好きだよ。美味しいかどうかって大事なことだもんね。
「そう、じゃあ、召し上がれ。」
おいらがイチゴもどきを盛った木の器を差し出すと、オランは一粒手にして口に運んだの。
「美味しいのじゃ。
とっても甘いのじゃが、少し酸味があるので後味もサッパリいてるのじゃ。
これなら、幾つでも食べられるのじゃ。」
『野外移動速度アップ』の実って、おいらのこぶしくらいの大きさがあるんだけど。
一つをペロッと平らげたオランは、さっそく二つ目に手を伸ばしていたよ。
これなら、レベル五くらいまでなら二、三日で上げられそうだよ。
「ところで、アルトが迎えに来たら日課のトレント狩りに行くんだけど。
オランはどうする? ここで留守番をしてる?」
「なに、トレント狩りとな。
私も行くのじゃ、連れて行って欲しいのじゃ。」
おいらの生活に興味津々のオランならそう言うと思ったよ。
「おいらが一緒だから、危ないことは無いと思うけど。
万が一何かあったらいけないから、これあげとくね。
おいらにとっては端数みたいなものだから、遠慮しないで良いよ。」
「はぁ? マロン、何を言っておるのじゃ?
これは『生命の欠片』じゃないのか?
こんなに沢山、赤の他人においそれと渡すモノじゃないのじゃ。」
レベル十相当分の『生命の欠片』を積み上げると。
オランはそんな貴重なモノは受け取れないと言ったの。
『生命の欠片』は親から子に与えられるモノで、それ以外だと稀なんだって。
騎士の叙任を受けた者が王から下賜されるとか。
お嫁入りした奥さんが持参金の一部として持ってくるとか。
「そんな王侯貴族の習慣は気にしないで良いよ。
今言ったように、トレントの狩場は危険なところだから。
ある程度のレベルがないと連れてけないよ。」
オランはさっき二つスキルを持っていて、二つ空いているって言ってた。
取得できるスキルが四つということは、レベルが十未満だということ。
レベルが十上がる毎に、覚えられるスキルが一つ増えるからね。
トレントってレベル三、四の魔物だけど。
槍のように尖った鋭い枝が四本とか、八本とか、素早く同時攻撃してくるからね。
経験を積んでいないと、攻撃を躱すのにレベル十くらいの身体能力がないと心許ないんだ。
だから、レベル十になるのに必要な数の『生命の欠片』を出したんだ。
今となっては、そのくらいは本当に端数だから。
「そうなのか?
そう言うのであれば、有り難くもらっておくのじゃ。
レモン兄上も、妖精の長殿から沢山頂戴しておったが…。
こんな貴重なモノを、ホイホイとやり取りするマロンたちの価値観が良く分からんのじゃ。」
おいらやアルトは、高レベルの魔物をちょくちょく狩っているからね。
普通じゃ考えられないくらい、『生命の欠片』に余裕があるんだ。
オランは戸惑いつつも、お礼を言って『生命の欠片』をその身に取り込んでたよ。
「凄いのじゃ、体の芯から力が湧き出てくるようなのじゃ。
おお、レベルが十まで上がっておるのじゃ、マロン、有り難うなのじゃ。
…、ところでマロン、さっき、『生命の欠片』をどこから出したのじゃ?」
えっ、今頃になってそれを聞く?
お読み頂き有り難うございます。




