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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十章 続・ハテノ男爵領再興記
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第225話 おんもに出たいと待ってたみたい…

 箱入り娘、もとい、箱入り息子のオランが何を思ったか唐突においらと一緒に暮らすと言ったの。

 

「いきなり何を言い出すのだ。

 王族がそんな勝手を許される訳が無いであろう。

 そちらのお嬢ちゃんにだって迷惑を掛けることになるのだぞ。」


「そうよ、オラン。

 それに、あなたがいきなり平民として生活するなんて難しいと思うわ。

 王宮の中で何不自由なく育って来たのですもの。」


 王様と王妃様が、オランの願いを却下し、思い直すように諭したんだ。


「嫌なのじゃ。

 私は、今まで、外の世界を見たことが無いのじゃ。

 父上はいつも言っておるのじゃ。

 王族は民が幸せに暮らせる国を造る責務を負っていると。

 でも、民がどのように暮らしているのか。

 民が何を望んでいるのか。

 それは、民の中に入ってみないと本当のところは分からないのじゃ。」


 お人形のように可愛いだけかと思っていたけど、オランって意外と自己主張が強いんだ。

 王様に対して面と向かって嫌と言い、反論していたよ。

 しかも、結構、良いことを言っているし…。


「あら、オランたら感心な事を言うのね。

 王族の心構えとしてはとても大切な事ね。

 それは自分で考えたの?

 それとも、誰かに教えてもらったのかしら?」


 王妃様も、オランの言葉に感心した様子でそんなことを尋ねたの。


「シトラス兄上が王宮を抜け出す時に言っていたのじゃ。

 風呂屋の待合室で市井の人々の話を聞くのも。

 風呂屋の帰りに酒場に寄って、市井の人々と酒を酌み交わすのも大事な仕事だと。」


 オランは得意げに披露したよ、シトラス兄ちゃんの入れ知恵だと…。

 どうやら、度々王宮を抜け出しているシトラス兄ちゃんに尋ねたことがあるみたい。

 ナイショで王宮を抜け出して何をしているのかと。


 その時シトラス兄ちゃんは、自分を正当化するため、人を疑うことを知らないオランに詭弁を弄したみたい。


「シトラス、お前とは一度じっくりと話をする必要があるようだな。」


 オランの返答を耳にした王様、凄い目でシトラス兄ちゃんを睨みつけていたよ。

 無垢な幼子を悪の道に引き摺り込もうと画策するから…。


 そんな王様とシトラス兄ちゃんは放っておいて、おいらは尋ねてみたの。


「オラン、ホントに平民として暮らしてみる覚悟があるの。

 平民には従者なんていないから。

 着替えも自分でしないといけいないし、洗濯なんかも自分でするんだよ。

 何よりも、自分で稼がないとゴハンが食べられないよ。」


 クッころさんなんか、いい歳して自分じゃ着替えもできなかったもんね。

 それどころか、シモの世話までさせようとしてたし…。

 

「やるのじゃ。

 市井の人々がどんな暮らしぶりなのか、身をもって知りたいのじゃ。

 私より年下のマロンが立派に生きておるのじゃ。

 私が出来ないのは恥ずかしいのじゃ。」


 こいつ、よっぽど王宮の外に出たいんだね。

 ネーブル姉ちゃんに着せ替え人形にされてるのに嫌気がさしたかな。反抗期?

 それとも、おいらを見て自立心が刺激されたのかな。


「そっ、じゃあ、おいらが出す条件を飲むなら、一緒に暮らしても良いよ。」


「良いのか? その条件とはどのようなモノであるか?」


「まずは、着替えや洗濯、自分の事は自分ですること。

 次に持ってくるモノは、剣一本と銀貨百枚だけ。

 他には着替えも何も持って来ないこと。

 王宮で着てる服なんか、街じゃ目立ってしょうがないからね。

 銀貨百枚というは街で暮らすのに必要なモノを揃えるギリギリのお金だよ。

 直ぐに稼がないと、お腹を空かせることになるからね。」


 本当は、お金は持ってくるなと言いたいけど。

 平民の着るごわごわの服でも、下着から一式揃えるとなると結構するからね。

 他にも暮らしていくためには、細々と必要な物があるし。


 おいらの条件を聞いて。

 最初に反応したのは、オランじゃなく、ネーブル姉ちゃんだったの。

 

「そんな、無茶ですわ。

 銀貨百枚では、服の一枚も買えないじゃないですか。

 オラン、止めておきなさい。

 オランはお姉ちゃんが何時まででも護ってあげるから。

 大人しくここで楽しく過ごしましょう。

 着替えでも、湯浴みでも、全部お姉ちゃんがしてあげるから。」


 服の一枚も買えないって…。

 平民ならそれで、上から下まで買って、替えの服も用意できるって。


 オランの着替えや湯浴みの世話って、従者じゃなくてネーブル姉ちゃんがしているんだ。


 オランを溺愛しているネーブル姉ちゃんは、何とか引き留めようとするけど…。


「分かったのじゃ。

 平民と同じ暮らしをするからには、余分なモノは持ってくるなと言うのじゃな。

 剣を持って来いというからは、マロンと一緒に魔物を狩って稼げと。

 やるのじゃ、私はやって見せるのじゃ。

 そして、マロンと共に広い世界をこの目で確かめるのじゃ。」


 オランは愛らしい顔に、毅然とした表情を浮かべて言い切ったの。


「ほう、いつもは女の子のような顔をしているのに。

 珍しく男の顔つきになったな。」


 そんなオランに感心した王様はおいらの方を向いて。


「マロン嬢ちゃん、悪いがしばらくこ奴を預かっては貰えんか。

 せっかく、市井の民の暮らしに関心を持ったのだ。

 この機会に身をもって学ぶことは良い経験となろう。

 自分から言い出したことだ、泣き言を言うようなら蹴とばしてやってくれ。」


 おいらにオランを預けたいと言ったの。


「ふーん、良いんじゃない。

 十歳の子供としては良い心がけだと思う。

 上に立つ者にも、下々の者と同じ目線で物事を見る経験は必要だと思うわ。

 任せなさい、途中で挫けるようなら私が連れ帰ってあげる。」


 おいら達のやり取りを聞いていたアルトが、オランに好意的な姿勢を見せたんだ。


「アルトローゼン様が、そうおっしゃるなら安心です。

 ネーブルが甘やかし過ぎたもので、少々頼りない面もありますが。

 オランのこと、よろしくお願いします。」


 王様、アルトにも頭を下げていたよ。


      **********


 そんな訳で、帰り道はオランと同室になったの。

 おいらくらいのガキんちょなら、男女一緒の部屋でも問題ないだろうし。

 長旅なんで二人一緒の方が退屈しないでいいだろって、アルトが気を利かせてくれたんだ。


「マロン、凄いのじゃ。

 王宮があんなに小さいのじゃ。

 私には王宮がとてつもなく広く感じたのじゃが…。

 トマリの街の中じゃ、あんなちっぽけで。

 トマリも街ですら、この高さからみると大地の一画でしかないのじゃ。」


 アルトからあてがわれた『特別室』の窓から外を眺めて、オランは大はしゃぎだったよ。

 アルトは凄い速さで飛ぶから、あっという間に王宮が小さくなっていくの。

 それと同時に、王都トマリの全体が見渡せるようになって…。

 やがてトマリからも離れて、畑や牧草地が広がり、ポツリポツリと村や町が通り過ぎていくの。


 自分が今まで暮らしてた世界の狭さを、否が応にでも思い知らされちゃうよね。


「そんなに興奮してないで、こっちに来て座ったら。

 先ずは、新しいイナッカ辺境伯を送り届けにイナッカまで行くよ。

 アルトの速さでも四日掛かるんだ。

 ずっと窓にへばりついて興奮していると疲れちゃうよ。」


「でも凄いのじゃ。

 こんな景色を見たのは生まれて初めてなのじゃ。

 この景色を見られただけでも。

 私はマロンに出会えて幸いだったと思うのじゃ。」


 オランはシトラス兄ちゃんから町の様子を聞いて、常々王宮の外に憧れていたんだって。

 王様にも外に行きたいと漏らしていたらしいけど。


「王族が外へ出る時は、護衛やら従者やらを付けねばならん。

 それに、道行く者を退けたりもせねばならん。

 お前一人が動くために、多くの者に迷惑が掛かるのだぞ。

 軽々しく街へ出たいなどというものではない。」


 王様からは、そんな風に諫められていたそうなの。王族って面倒くさいね。

 だから、自由気ままに王宮を抜け出して出掛けて行くシトラス兄ちゃんが羨ましかったそうなの。


 大きくなったら風呂屋に連れて行ってくれると言う、シトラス兄ちゃんとの約束を心待ちにしていたんだって。

 純真無垢なオランが、シトラス兄ちゃんに毒される前に外に連れ出せて良かったよ。


 オランたら、おいらに出会えて幸いだったなんて言っているけど…。

 おいら、もしかしたらオランの平穏な日常を脅かした疫病神かもしれないよ。

お読み頂き有り難うございます。

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