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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十章 続・ハテノ男爵領再興記
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第218話 ライム姉ちゃんの要求、アルトの要求

 うちの国の王はアルトの言葉に逆らえないと聞いて脱力した王様だけど。

 姿勢を正して、ライム姉ちゃんに問い掛けたの。


「では、卿の要求を聞くことと致そうか。

 卿は何を望む、イナッカ辺境伯領の割譲か、賠償金か?」


「いいえ、領地も、賠償金も不要です。

 私が要求するものは三つあるのですが。

 その前に、私の方からも陛下にお尋ねしたいことがあります。

 現在、陛下の御子は何人おられますか。

 その方々をご紹介いただきたいのですが。」


 王子、王女を紹介しろと言われて首を傾げた王様だけど。

 取り敢えずは、ライム姉ちゃんの要望に応えて紹介したんだ。


 王様の紹介によると、王子が四人、王女が一人で今全員がこの場に揃っているみたい。

 王様の後ろに設えられた椅子に並んでいる人達が王子、王女なんだって。

 王様に一番近いところに座っているのが、第一王子で既にお妃様を迎えているそうなの。

 第一王子の隣に座っている女の人がお妃様らしいね。


 そして、第二王子が二十一歳、第三王子が十九歳と続き、間に十五歳の第一王女を挟んで、一番下が十歳の第四王子だって。

 十歳の第四王子はおいらより一つ年上のはずなんだけど…。

 王家と言う温室育ちのせいかまだあどけない顔をしていて、金髪の可愛い男の子だったよ。


 ライム姉ちゃんは、紹介された王子王女を見詰めた後、王様に向き直り。


「では、私の要求をお伝えします。

 第一に、イナッカ辺境伯及びハテノ領に侵攻した騎士には命をもって償って頂きます。

 もちろん、その全員の『生命の欠片』はこちらで頂戴します。

 第二に、『トアール国』への永久不可侵を文書により誓約して頂きます。

 第三に、…」


 今回の侵攻に対する賠償要求を伝え始めたんだけど、最後の要求を言いあぐねていたんだ。

 ライム姉ちゃんがアルトに目配せすると、アルトは無情にも早く言えとせっつくような仕種を見せたの。

 そう、領地を出発した日にアルトに決断を迫った二つ目、ライム姉ちゃんが気乗りしてなかったこと。

 アルトにせっつかれて、ライム姉ちゃんは意を決したように言ったの。


「第三に、そちらにいらっしゃる第三王子を私の伴侶に迎えさせて頂きます。

 その際は、第三王子にはこの国の王位継承権を保持したまま婿入りして頂きます。

 反対にそちらの王家には、私の家の相続権の主張は放棄して頂きます。」


 アルトは、ライム姉ちゃんにシタニアール国の王家から人質を取らせたんだ。

 永久不可侵の誓約の担保としてね。

 相続権云々と言うのは、第三王子とライム姉ちゃんの子孫にはシタニアール国の王位継承権が残るという事。

 もちろん、世代を経れば、継承順位は繰り下がっていくけどね。

 もしシタニアール国の血筋が途絶えた時は、順位に従って王位継承権を主張できるようにするんだって。

 反面、ハテノ男爵領の血筋が途絶えた場合には、シタニアール国の王家にはその継承権を主張することを認めないの。

 これも、一方的に、ハテノ男爵家に有利な取り決めなんだね。


 ライム姉ちゃんは自分の婚姻をそんな風に決めるのには渋ったんだけど。

 これから領地の再興が順調に進めば欲深い貴族が良い寄ってくる恐れがあるし。

 国境を接するシタニアール国から再び侵攻される恐れもあるから。

 有利な条件でシタニアール国の王子と婚姻を結んでおけって、アルトに迫られたの。

 アルトは、『永久不可侵』の誓約書だけでは心許ないと思っているようなんだ。


「第一の要求については、異論ない。

 領土の分割も、賠償金もいらんと言うのだ、愚か者の命で済むのなら安いものだ。

 第二の要求は相互不可侵条約ではなく、一方的に我が国の誓約を求めるのだな…。

 戦に負けたモノは立場が弱いものだ…、戦などするものではないな。

 仕方あるまい、これも愚かな貴族を野放しにした余の責だと思って受け入れよう。

 第三の要求は…、人質を要求するとは如才ないことだ。

 分かった、要求は全て飲もう。」


 王様は、ほんのちょっとの時間考え込むと、要求を三つとも受諾したよ。

 シタニアール国の王族及び主要な貴族の生殺与奪の権利を奪われた状況で出された要求だからね。

 どんな厳しい要求が突き付けられるかと警戒してたらしいけど。

 この状況で突き付けられる要求としては、寛大なもので拍子抜けしたと言ってたよ。


         **********


 ライム姉ちゃんの要求を受諾すると、王様はアルトへ問い掛けたんだ。


「それで、アルトローゼン様は、どのような事を要求されるので?」


「私も幾つか要求したいことがあるけど。

 第一に、これと同じ内容の勅令を直ちに公布しなさい。

 これは、現在トアール国で出されている勅令よ。

 内容は、耳長族に対する一切の危害を禁止するものなの。

 この国でも、耳長族に対する拉致、暴行等を厳しく取り締まって欲しいのよ。

 耳長族の人達が安心して出歩けるようにね。

 そこに転がっているスケベ親父みたいに、『性奴隷』にしようなんてもってのほかよ。」


 アルトは耳長族の人達が出来るだけ多くの場所で安心して出歩けるようにしたいと言っていたよ。


 この国でも、もう長いこと耳長族は確認されていないみたい。

 今いない者に関する勅令を出せとの要求だもんね、実害がないと王様は躊躇なく受け入れたよ。

 王様が受諾した時に、謁見の間に集まっていた貴族の一部から舌打ちが聞こえたけどね。

 イナッカ辺境伯じゃないけど、おいらの町の噂を聞いて耳長族を手に入れたいという輩がいたみたい。


「二つ目の要求も耳長族に関するものよ。

 先ずは、耳長族に人間族と同じ権利を与えなさい。

 王侯貴族の正妻になる権利及び正妻となった耳長族の子が家督を相続する権利も含めてね。

 そして、この二人の婚姻を承認するのよ。」


 アルトはそう告げると、イナッカ辺境伯の三男さんとお嫁さん候補の耳長族のお姉ちゃんを出したの。


「あっ、あの娘、耳長族…。」


「おおう、噂通りに美しい。」


 謁見の間にいる貴族の中からそんな声が漏れていたよ。


「この者達はいったい?」


「イナッカ辺境伯の三男坊よ、この子が次のイナッカ辺境伯よ。

 長男、次男が廃人になってしまったんで繰り上がったの。

 隣の耳長族の娘が次期辺境伯夫人ね。

 あんたは、彼女をイナッカ辺境伯の正妻と認め。

 彼女の儲ける子にイナッカ辺境伯の継承権を認めれば良いの。」


「ちょっと、待ってくれ。

 アルトローゼン様は、イナッカ辺境伯家の存続を要求なされるのか。

 余に無断で他国に攻め入ったうえ、返り討ちにあい、挙げ句国を滅亡の危機に晒したのだ。

 本来であれば、領地没収の上、お家取り潰しなのであるが。」


「ダメよ、イナッカ辺境伯家は存続させてもらうわ。

 責任は、そこに転がっているスケベ親父一人に取らせれば良いでしょう。

 イナッカ辺境伯家を取り潰して、またぞろ欲深い貴族が転封されてきても困るからね。

 次期辺境伯には、耳長族を正室に迎えてもらい、耳長族の庇護者に加わってもらうの。

 ここにいる三男坊はそれを誓ってくれたからね。」


 アルトはライム姉ちゃんに加えて、イナッカ辺境伯にも耳長族の保護を手伝わせようと考えているんだ。

 そのために、言うことを聞きそうにない長男と次男を排除したんだものね。

 気が弱くて、覇気のない三男さんをアルトは気に入ったみたいなんだ、御し易そうだって。

 お取り潰しになって、他所から貴族が送られてくるとどんなのが来るかわからないからね。


「分かったから、そう睨まんでくれ。

 アルトローゼン様に睨まれたら、生きた心地がせんわ。

 そこに転がる愚か者一人の命くらいでは気が済まんが。

 仕方がない、要求を飲もう。」


 アルトが絶対に譲らないという姿勢を見せていたんで、王様は渋々要求を飲んだよ。

 玉座から引きずり降ろされて、首に剣を突き付けらたんだもんね。

 その原因を作ったイナッカ辺境伯家には、腸が煮えくり返るくらいの憤りを感じていただろうね。

 もしかしたら、一族郎党を根切りにするくらいは考えていたのかも。


「そうそう、忘れていたわ。

 この国では、女王、女領主は認められているのかしら。

 もし、認められていないなら認めてちょうだい。

 継承順位は男児と同等、つまり男女関係なく長子優先ね。」


 耳長族は何故か男の子が生まれ難く、女の子の割合が圧倒的に高いから。

 男の子しか家督を相続出来ないと、お家が断絶しちゃうかもしれないもんね。


「分かった、それもアルトローゼン様の意向に従うこととする。

 その者を次期辺境伯と認め、隣にいる耳長族の娘を正室に迎え入れる事を承認する。

 また、その娘の産む子についても性別を問わず、辺境伯家の継承権を認めよう。」


 耳長族の性質にあまり詳しくないようで、王様はアルトの要求を飲んじゃったの。

 おいら、宰相あたりが王様に進言するかと思っていたんだけど…。

 意外と知られていないようで、誰も王様に注意しなかったよ。

 

 まんまと、アルトの罠にハマっちゃったよ。

お読み頂き有り難うございます。

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