第211話 今度は戦争だって…
ダイヤモンド鉱山が閉山になってから途絶えていた『シタニアール国』との交易。
それが再開して、ますます町は賑わうようになったよ。
交易に訪れる商人の目的は、『トレントの木炭』や『山の民』の作品の買い付けなんだけど。
雑貨屋の若旦那が吹聴してくれたみたいでね。
町に数日留まって、『STD四十八』の興行とギルドの風呂屋には必ず立ち寄るようになったの。
もちろん、滞在日数が増えれば、宿屋や酒場、それに屋台とかにもお金を落としてくれるからね。
町の人や冒険者ギルドの連中も大喜びだよ。
それから、騎士団が増員になったんだ。
シタニアール国から交易に来る商人が増えたんで、それまで手薄だった西の街道を警備する必要が出て来たし。
領都もおいらの住む町も、他所からのお客さんで人が増えているものだから一小隊では警備に不安が出てきたの。
それで、思い切って二十人増員して、五十人体制になったよ。
幸い、クッころさんが主宰していたお茶会サークル『騎士を夢見る乙女の会』がそのくらいの人数だったんで。
最初の三十人に加えて、『騎士を夢見る乙女の会』を総動員することになったんだ。
領都とおいらが住む町に一小隊ずつ警備を増やし、西の街道の巡回警備に二小隊を当てたんだ。
美人揃いの騎士による巡回警備も領民の人気があるんで、騎士の増員はみんなからも歓迎されていたよ。
ある日、おいらが『STD四十八』の興行の集金係をするためにアルトと一緒に広場にいると…。
「敵襲!敵襲!」
そんな聞きなれない言葉を必死に叫びながら。
街道の巡回に出ていた騎士のお姉ちゃん達が、馬で町に走り込んできたの。
「敵襲って、戦争なんて無縁のこの町じゃ耳にした事のない物騒な言葉ね。」
アルトはそんな呟きをもらすと、騎士団の詰め所に足を向けたんだ。
詰め所には、息を切らした騎士のお姉ちゃんが十人いて。
ちょうど、この町の警備当番に当たっていた『花』小隊のペンネ姉ちゃんに報告しているところだった。
「西側の街道から、武装した集団がこちらに向かって来ます。
その数約五十騎、全て騎兵、騎士だと思われます。」
どうやら、本当に敵襲かどうかは分からないみたい。
武装した騎士が物々しい雰囲気が迫って来て…。
とても、穏便に交易をしに来た様子には見えなかったらしいの。
それで、町の人達に警告するため、『敵襲』と叫びながら町に戻って来たそうだよ。
「至急、町の門を閉ざして!
私達は、町の外、騎馬で迎え撃ちます!」
ペンネ姉ちゃんが、他の騎士の指示を飛ばしたんだけど…。
「ちょっと、待って! 私に考えがあるわ。」
アルトが騎士団の話し合いに口を挟んで、立ち上がろうとしたお姉ちゃん達を止めたんだ。
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そして、少し時間が経って…。。
町の門は閉ざされて、おいら達は町の外に出ているの。
おいら達の町がどうなっているかというと。
辺境の町なので、立派な城郭都市という訳にはいかないけど。
魔物除けのために、町の周りに空堀が巡らされ、その内側に低い土塁が築かれているの。
更には、土塁の上に形ばかりの木の板塀が造られている。
町の入り口は、西側と南側の二ヶ所だけで、南側は閉ざされたままなの。
ダイヤモンド鉱山へ続く道にある門だからね。
アルトは、騎士団のみんなにどんな提案をしたかというと…。
騎士団のお姉ちゃん達は馬には乗らずに、門を出たすぐそこに並んでいるよ。
アルトは、そこに並ぶ全員にゴムを使って玉を飛ばす道具を持たせたんだ。
そして、小隊長のペンネ姉ちゃんとおいら、それにタロウはと言うと…。
向かってくる軍勢を迎え撃つように、騎士団のみんなより前に立っているの。
ゴムで玉を飛ばす道具の射程ギリギリのところにね。
「なあ、なんで俺が、敵かも知れない軍団の前に立たないといけないんだ?
そういうのは騎士団の役割だぞ。
俺は一般人なんだからな。」
おいらの横で、タロウが愚痴を零しているけど。
「何言っているの、あんたはマロンの護衛よ。
以前私に誓ったでしょう、何があってもマロンを護るって。
それに、一応、この面子ではあんたが二番目の戦力なんだからね。」
そう言えば、タロウがアルトからレベルを分けてもらう時に誓わされてたね。
たしか、スタンピードの時だっけ…。
「ひでえ、そんな昔の事、まだ有効なのか!」
いや、いや、まだ一年くらいしか経っていないから…。アルトにとってはつい昨日のことだよ。
そうこうしている間に、物々しい集団がやって来たよ。
野盗の集団には見えないキチンとした装備を整えていて、明らかに何処かに所属する騎士だね。
「あなた達はいったい何者ですか?
ここへ何の用かしら?
親善使節にしては、物騒な格好をしていますけど。
武装した大軍で、他領に入ることはマナー違反ですわよ。」
武装した騎士の集団を前に、ペンネ姉ちゃんが誰何すると…。
「何だ、この小生意気な口を利く娘は?
いっちょう前に、騎士服など着て剣をぶら下げているが。
騎士ごっこの最中か?
俺達は、子供の遊びに付き合っている暇は無いんだ。
ケガをしたくなけば早く道を開けろ。」
先頭にいた騎士のオッチャンは全く取り合う様子が無かったよ。
ペンネ姉ちゃん、見た目、十四、五にしか見えないから。
「失礼ですわよ。
私は、ここハテノ男爵領騎士団、『花』小隊の小隊長ペンネ・ド・パスタ。
所属、目的の分からぬ武装集団をこれより先に通す訳には参りません。
改めて問います、あなた方の所属と目的を明かしなさい。」
でも、ペンネ姉ちゃんは、毅然とした態度で再度誰何したんだ。
「何? この領地では女を騎士にしているのか。
ダイヤ鉱山が潰れて貧乏をしていると聞いたが…。
女に騎士の真似事をさせるほど金に困っているってことか。
まあ良い、それなら教えてやろう。
俺は、ソボー。イナッカ辺境伯領の騎士団長をしている。
イナッカ辺境伯の命により、この町、我々がもらい受ける。
大人しく、明け渡すのならお前たちは見逃してやろう。
町の住民の安全も保障してやる。」
いきなりやって来て、町をもらい受けるって…。
このオッチャン、何を勝手な事を言ってるんだろう。
『見逃してやる』とか、『安全も保障してやる』とか、偉そうに言っているけど。
自分達が負けるとは欠片ほども思っていないんだね。
「それは、この町を占領すると言う事でしょうか。
他国の町に侵攻してきたのでしたら、戦争になりますが…。
それでよろしいですか?
責任は『シタニアール国』の国王に取って頂くことになりますよ。」
ペンネ姉ちゃんは優しいね、アルトの矛先が王様に向かうことを警告してあげたんだ。
「無知な小娘が何をぬかすか。
戦争になどなる訳が無かろう。
この国の王に、我が国と刃を交えるほどの気概など無いわ。
あの弱腰王の事だ、こんな辺境の町一つ失ったところで泣き寝入りするに決まっているわ。」
うん、あの王様ならきっとそうだろうね。
あの王様って、本当に周りの国から舐められているんだ。
でも、この国の王様が矢面に立つ前に、オッチャンがここで負けることを心配した方が良いのだけど…。
その辺は全然考えていないんだんね、自分が負けたら王様に迷惑を掛けるのに。
ほら、おいらの隣で、アルトが愉快そうに笑っているよ。
シタニアール国の王様に責任を取らせる気満々だね。
お読み頂き有り難うございます。




