第205話 ちゃっかり便乗してるの…
さて、大好評で領都の目玉の一つになった領主の館の公演会だけど。
ちゃっかり便乗して小遣い稼ぎをした人達もいたよ。
にっぽん爺とタロウ、それにシフォン姉ちゃん。
にっぽん爺がデザインしたライム姉ちゃんとクッころさんのステージ衣装。
それと、同じようなデザインの服を沢山作って売り出したんだ。
腰までスリットが入っていて、胸の上でゴムを使って留めるデザインの服ね。
ライム姉ちゃん達が身に着けている姿を目にした公演会のお客さんを当て込んだんだ。
ご丁寧に公演会の時間にあわせて、ライム姉ちゃんの屋敷の前で露店を広げたよ。
シフォン姉ちゃんが売り子さんをしてた、実際に売り物と同じ服を着て…。
あの服のデザインって、着る人の体型に比較的融通が利くみたいなの。
それで、年頃の娘さんの体型を想定してS、M、Lって三サイズ作ったんだって。
シフォン姉ちゃんが一人で作ったんで各サイズ十着ずつしかしできなかったって、にっぽん爺はボヤいてたけど…。
服に付けられてた値札を見て、おいらは逆のことを考えてたよ。
一着銀貨百枚もする服が、三十着も簡単に売れる訳ないじゃんって…。
この三人は何でこんなに強気な値段を付けたんだろうってね。
おいらが、シフォン姉ちゃんから聞いた話だと。
公演が終わる前から、道行く人の中にポツリポツリと足を止める人がいたらしいの。
刺激的な服を着たシフォン姉ちゃんに目を引き付けらたみたい。
長身で胸が大きくてウエストがキュッとしまっているシフォン姉ちゃんにピッタリのドレスだからね。
みんな、シフォン姉ちゃんに目を止め、並んでいる服を興味深げに見ていたらしいけど…。
値札を見るとそそくさと退散していっちゃうんだって。
でも、そのうち…。
「あの…、そのドレス、私が着てもずり落ちて来ないでしょうか?
私、お姉さんほど胸が大きくないもので…。」
キョロキョロと周りをみて、男の人がいないのを確認すると。
一人の若いお姉さんがシフォン姉ちゃんに、恥かしそうに尋ねてきたそうなの。
ゴムって物はおいら達しか知らないから。
シフォン姉ちゃんの大きな胸で、服がずり落ちないように留めていると思ったらしいの。
胸の小さな人が身に着けるとずり落ちちゃうんじゃないかと心配していたそうだよ。
「これね、ゴムって言う伸び縮みする素材を縫い込んでいてね。
ゴムの収縮で留めているから、胸の大きさに関係なくずり落ちて来ることはないわよ。」
シフォン姉ちゃんは、ゴムを縫い込んだ胸元の部分をビョーンって伸ばして見せたんだって。
手を放すと伸びた部分がピッタリ元の形の戻ったのを見て、そのお姉さんは驚いた顔をしたらしいけど…。
「これ、一着欲しいです。
家に帰ってお金を持って来るんで取り置きしといてもらえませんか。」
そう告げると、サイズを合わせて、好みの色のドレスを選んで足早に帰って行ったって。
しばらくして戻って来たお姉さんは、銀貨百枚を差し出して言ったらしいよ。
「今、付き合っている彼が煮え切らなくて…。
どうしたものかと思っていたの。
今晩こそ、この服を着て落として見せるわ。」
なんか、フンっと気合いを入れてたそうだよ。
それを聞いたシフォン姉ちゃん、カバンの中をゴソゴソと漁って。
「そういう事なら、これサービスしちゃうわ。
そのドレスの下にコレを着ければ効果抜群よ!」
売り物のパンツを一枚、オマケにと差し出したんだって。
布が少なくて、真ん中が割れている謎パンツ…。
せっかく領都に行くのだから、翌日広場で露店を出そうと思って持って来たそうだよ。
パンツを嬉しそうに受け取ったお客のお姉さん、いっそう気合を入れてたみたい。
そのお姉さんがヒントになって、ドレスと一緒にパンツも並べることにしたそうなの。
そのお姉さん以外にも、そういう需要があるんじゃないかってね。って、どんな需要よ。
結果から言うと、シフォン姉ちゃんの読みは当たっていて。
公演会終了前に、通りすがりの人が半分近く買っていっちゃったみたいだよ。
お客さんのほとんどは若いお姉さんで、みんなパンツとセットでね。
パンツなんか二、三枚まとめて買って行ったそうだよ。
若いお姉さんにとって、銀貨百枚って大金だと思うんだけど…。
残った服も、公演会が終ると全部売れちゃったよ。
ライム姉ちゃんやクッころさんが着ていたドレスにはみんな関心あったみたいなの。
…本当に見えないのかって。
ステージ衣装と同じデザインと聞き、シフォン姉ちゃんが実際に着ているのを見て…。
奥さんや恋人に着せて楽しむと言って買って行く人が多かったよ。
もちろん、パンツとセットでね。
中には娘に着せて楽しむと言っていた人もいたみたい…。
公演会が終って、おいらもアルトと一緒に外に出て来ると。
シフォン姉ちゃんが、残ったパンツを一生懸命売っているところだったの。
ドレスの方は早々に売り切れちゃったんだけど、パンツはいっぱい持って来たんでまだ残ってたの。
それをお客さんがひっきりなしに買って行くものだから、シフォン姉ちゃんは大忙しだったよ。
結局、その日のうちにパンツも売り切れちゃって、広場で露店を出す分は残らなかった。
「あんた達、本気でこの辺りの風紀を乱すつもりなのね…。」
際どいドレスやらパンツやらを売っている三人を前にして、アルトは呆れてたよ。
ちなみに、後日、同じようなデザインの服を作って欲しいって注文があったみたいだよ。
領都にあるギルドの風呂屋から、泡姫さんの制服に使いたいんだって。
デザイン担当のにっぽん爺も、縫製担当のシフォン姉ちゃんも臨時収入が出来たってホクホク顔だった。
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際どいデザインのドレスやパンツはともかくとして…。
シフォン姉ちゃんが作っているトランクスって呼ばれる男物のパンツ。
紐で縛らなくて良い事が受けて、ヒット商品になったんだ。
おいら達の町の広場で露店を出していて毎回売り切れるもんだから。
アルトとシフォン姉ちゃんが組んで、試しに領都の服屋に卸してみたんだ。
そしたら、町に住む人達だけじゃなくて、木炭の買付けに来た人も便利だと言って買って行くみたいなの。
シフォン姉ちゃんが作ったトランクスは、ちょっとした特産品になっているらしいよ。
それで服屋からの注文が増えちゃって、シフォン姉ちゃん一人じゃ作るのが間に合わなくなっちゃったの。
アルトと相談したシフォン姉ちゃんは、耳長族のお姉ちゃん達に手伝ってもらう事にしたんだ。
材料を耳長族の里に届けて、里の中で作ってもらうの。
里の中で仕事をして現金収入が得られるようになったんで、みんな喜んでいたよ。
トランクスって作るのは簡単だけど、肝心のゴムがおいら達しか手に入らないからね。
他の人がマネがしたくても出来ない状況で、今のところシフォン姉ちゃんの独占状態なの。
だから、耳長族のお姉ちゃん達への給金の支払いも良いらしいんだ。
アルトも、耳長族の里が豊かになるって喜んでいたよ。
ただ…。
「『ゴムの実』の果肉が『積載庫』に沢山溜まっちゃってね。
別に場所を取る訳じゃないから構わないんだけど…。
何か、良い利用方法が無いかと考えていたのよ。
それで、一つ思いついたことがあって。
試してみたいから、あなた達、ちょっと付き合いなさい。」
おいらが父ちゃんの家で妹のミンメイをあやしていると、アルトが来て言ったの。
今、色々なモノを作るのに使っているゴムって、『ゴムの実』の『皮』の部分だからね。
『皮』を沢山使うと言うことは、当然『果肉』部分が残る訳だけど…。
ゴムの実の果肉って、ご禁制の品なんだ。
強力な発情作用をもたらす天然の媚薬で、風紀を乱すからって。
そんなモノが出回ったらいけないと言うことで、全てアルトの『積載庫』の中に封印してあるの。
トランクスの増産に加えて、ギルドの風呂屋からの際どいドレスやパンツの注文なんかもあって。
このところ『皮』の部分を大量に使っているからね。
危ない『果肉』がアルトの『積載庫』の中に沢山溜まっているみたいなの。
アルトはその利用方法を考えたと言うけど、一体何につかうんだろう?
お読み頂き有り難うございます。




