第203話 さっそく役立ってるよ
ノーム爺が考えた新しい弓矢の試射をしてるとアルトから声が掛かったんだ。
「あれ、アルト、いつからそこにいたの?」
「さっき、シフォンの所へ行ったら、タロウが注文した道具を取りに行ったと聞いてね。
また、このスケベ爺がマロンに良からぬことを吹き込んだらいけないと思って来てみたのよ。
でも、それ、良いわね。非力な『森の民』の娘達に持たせるのに良さそうだわ。」
お風呂が大好きなノーム爺は、今でも三日と欠かさずギルドの風呂屋に通っているらしくてね。
しょっちゅうお気に入りの泡姫さんの話をするんだけど。
アルトは、おいらの前でもかまわずに風呂屋の話をするノーム爺を、気に入らないみたいなの。
おいらが、ノーム爺の所にいると聞くとすぐに飛んで来るんだ。
それはともかくとして。
アルトは、耳長族のお姉ちゃん達に狩りをさせたいそうなの。
非力で温厚な性格の耳長族は狩りが苦手なんだって。
確かに、ミンミン姉ちゃんが剣を振り回す姿なんて想像できないね。
なので、食事の中心は野菜や穀物で肉類を食べることは余りなかったようなんだ。
この辺は温暖な気候のおかげで、それでも飢えることは無かったみたいだけど。
やっぱり、栄養が偏っているみたいなんだって。
今、耳長族の里は、お腹に赤ちゃんがいるお姉さんが多いんだ。
父ちゃんが頑張ったことに加えて、『STD四十八』の連中と結婚したお姉さんもおめでただから。
そんな妊婦さんに栄養のあるお肉を食べて欲しいんだって。
最近は、興行の時に町で買って帰るようになったんで、食卓に肉料理が並ぶことも増えたそうだけど。
里の近くには、狩場が沢山あるんで、狩りが出来た方が食生活が豊かになるからって。
「取り敢えず、ゴムの方と弓の方、五十ずつ作ってもらえるかしら?」
アルトはいきなり凄い数の注文を出したんだ。
「作るのは良いが、タロウに作ったモノは銀貨十枚で請け負ったが…。
実際、それでは儲けが出んからのう。
弓の方は、銀貨二十枚は貰わんと割に合わんわい。」
弓の方は弟子だけでは作れなくて、ノーム爺が関わる部分が多いから値が嵩むそうなの。
ゴムの方は本体は簡単で弟子だけでも作れるけど、ゴムの調整が難しいんだって。
結局、ゴムの調整にノーム爺が関わることになるので銀貨十枚じゃできないって。
「良いわよ、『山の民』に仕事を頼むんだもの。
安くはできない事は分かっているわ。」
アルトはノーム爺の言い値で買い取ることにしたみたい。
もっとも、アルトもちゃっかりしてて、ゴムの実の『皮』を材料として大量に売り付けていたよ。
注文した時にアルトはノーム爺に言ってたの、新しい弓は売り物に出さないようにって。
これが武器として、人と人の争いに使われることになるとロクな事にならないから。
ノーム爺も、あんまり腕の見せ所もないし、大した金にもならないと言って承諾してくれたよ。
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「これ、本当に便利ね。
私でも簡単に狩りが出来るなんて嘘みたい。」
ノーム爺が作った新型の弓を手にして、ミンミン姉ちゃんが感心してたよ。
今日は、ミンミン姉ちゃんと一緒にカモ狩りに来ているの。
おいらが町の猟師さんに余り知られていない、カモ狩りの穴場に案内したんだ。
この間、タロウを連れて来た場所だよ。
この間、タロウがパチンコを撃った場所とほぼ同じ位置から矢を放ったんだけど。
ミンミン姉ちゃんの撃った矢は、岸に上がって身を休めているカモに命中して、一撃で仕留めたよ。
ノーム爺が言っていた通り、弓の素人でもかなり正確に標的に向かって飛んで行くみたいだね。
ゴムで玉を飛ばす道具と新型の弓を五十個ずつ手に入れたアルトはそれを耳長族の里に寄贈したの。
里の中に、専用の保管庫を作って誰でも使えるようにしたんだ。
自由に使って良いから、獲物を狩ってきて妊婦さんに栄養のあるモノを食べさせてあげなって。
ミンミン姉ちゃんもさっそく、カモ狩りをしてみることにしたんだ。
「でも、マロンちゃんが一緒に来てくれて、本当に助かるわ。
こんな大きなカモ、私一人じゃ絶対に持って帰れないもの。」
豚ほどの大きさがあるカモを『積載庫』に収めた、おいら。
それを目にして、ミンミン姉ちゃんはとっても喜んでたよ。
アルトが狩りの道具を寄付してくれたのは良いけど、…。
カモにしても、ウサギにしても大き過ぎて、狩っても持って帰るのが一苦労なんだ。
耳長族のお姉ちゃんは、カモ一匹持って帰るのに三人掛かりなの。
「そんなの気にしないで良いよ。
おいらの父ちゃんにも、これで栄養のあるモノを作ってもらうんだから。
ついでに、カモを解体しちゃうね。
えーと、お肉の他にレバーと産卵前の卵が食べられるみたい。
それと、羽毛がお布団に使えるらしいよ。
カモの羽毛で作ったお布団は軽くてフカフカだって。」
『積載庫』の機能って解体してくれるだけじゃなくて、加工もしてくれるんだけど。
羽毛は、ダニやノミを除虫して、消毒までしてくれるみたいだよ。
トレントから木炭を作ってくれたり、ホントお便利スキルだね。
「『積載庫』って本当に至れり尽くせりね。
あの大きさのカモを捌くのは大変だと思ったんだど。
その羽毛でミンメイにお布団を作って上げるとして。
うちには、もうすぐ生まれてくる子供が三人もいるから…。
布団を揃えるために、もう何羽か狩って帰りましょう。
カモ肉は燻製にしておけば、しばらく日持ちもするし。」
『積載庫』の機能に感心したミンミン姉ちゃん。
私も『積載量増加』を修得しようかしらって、呟いていたよ。
生まれてくる三人の子供ってのは、父ちゃんが孕ませた三人のお姉ちゃんの赤ちゃんのこと。
『STD四十八』とのお見合いの時、父ちゃんの方が好みだと言っていた三人のお姉ちゃんだけど。
最初、ミンミン姉ちゃんは、三人を父ちゃんのお嫁さんにするのを渋ってたの。
父ちゃんは自分のモノだと言って。
瀕死の父ちゃんを、たった一人で献身的に介護したんだからもっともな言い分だと思うけどね。
父ちゃんはそんなミンミン姉ちゃんに恩義を感じていたし。
何よりもミンミン姉ちゃんにべた惚れだったから。
ミンミン姉ちゃんの意向を尊重していたんだ。
でも、日に日に大きくなっていくお腹を抱えて、不便な生活をしてる三人を放っておくことは出来なくて。
結局、ミンミン姉ちゃんが折れて、三人を迎え入れたんだ。
今は、四人で仲良く暮らしているよ。
生まれたばかりの妹のミンメイも、三人のお姉ちゃんが子守りをしてくれるから。
こうして、ミンミン姉ちゃんは狩りに出て来れるんだ。
お嫁さんが三人も増えちゃった父ちゃんだけど。
何時までも、ミンミン姉ちゃんの世話になったままじゃ居れないって言って。
最近毎朝、おいらやタロウ、それに『STD四十八』の連中と一緒にトレント狩りに行くようになったんだ。
レベルが十一まで上がったおかげで、隻腕でもトレントくらいなら倒せるようになったよ。
片手で戦斧をブンっと振って、トレントを一撃で倒しているの。
シュガートレントなら、『スキルの実』の他に『シュガーポット』が採れるし。
最近は、本体も『木炭』にして高く売れるようになったから、一体倒せば結構良い稼ぎになるの。
「赤ちゃんが出来ると、色々物入りになるからね。
モリィシーがお金を稼いでくれるようになって、本当に助かるわ。
これも、マロンちゃんがモリィシーの体を治してくれたおかげね。」
ミンミン姉ちゃんが嬉しそうに言ってたよ。
耳長族はこれまで里の中に閉じこもって自給自足の生活をしていたんで、お金なんか必要としなかったけど。
やっぱり、それだと不便な事も多くて、特に赤ちゃんを育てるためにはあった方が良い物も多いんだって。
おいらの町の近くに里を移して、それを手にいれることが出来るようになるとお金が必要になったんだ。
それで、父ちゃんだけど…。
樹上生活をしている耳長族の家は広く出来ないんだ。
だから、大人五人が一緒に暮らすと凄く手狭らしいの。
「町がもう少し安全になって、耳長族が安心して住めるようになったら。
町に家族全員がゆったり暮らせる家を買うぞ。」
父ちゃんは、そんな目標を立てて頑張っているよ。
そしたら、おいらも一緒に暮らせるかな。
お読み頂き有り難うございます。
 




