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ゴミスキルだって、育てりゃ、けっこうお役立ちです!  作者: アイイロモンペ
第十章 続・ハテノ男爵領再興記
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第201話 タロウの依頼

「アルト様、有り難うございます。 

 アルト様のおかげで、私も晴れて正規の役人に登用されました。

 やっと、歩合制の給金から解放されて、俸禄を頂ける立場になれました。」


 ピカピカのカウンターの前で嬉しそうにしているのは、役場のお姉ちゃん。

 ここは辺境の町の目抜き通りにある建物の一階、新たに移転した役場の事務所なんだ。


 ノーム爺が『山の民』の里に一旦帰った後、アルトはすぐさまライム姉ちゃんの所に行ったの。

 トレントの木炭を売った代金の三割を渡して、ライム姉ちゃんに伝えたんだ。

 今後定期的に、『山の民』が辺境の町へトレントの木炭を買いに来ることを。

 それで、一々アルトが対応するのも面倒なので、辺境の町にトレントの木炭の販売所を作って欲しいと。


 アルトから要求を聞いたライム姉ちゃんだけど、新たに人を雇うお金も無ければ、アテもないで。

 結局のところ、今、歩合制で雇っている役場のお姉ちゃんを昇給させて、木炭の販売に充てることにしたんだ。

 木炭の販売をするに当たって、役場の場所も鉱山住宅の一画から目抜き通りに移したの。


 場所は、冒険者ギルドが新規開店した『山の民』の作品専門店の隣の建物。

 『山の民』の作品も、『トレントの木炭』も高価な品物なんでね。

 防犯のため、二つのお店の前に騎士団のお姉ちゃんが警備に立つことにしたんだ。

 お店が二つ並んでいれば、一ヶ所に立っていれば良いからね。


 木炭の販売所がある建物は、一階が役場兼木炭の販売所と騎士団の駐屯所になっていて。

 二階が、役場のお姉ちゃんと騎士団のお姉ちゃんの宿舎になっているの。


 元々、大きな商会が商いをしていた建物だそうで、内装もとても立派なんだって。

 役場のお姉ちゃん、自分に与えられた部屋がとっても気に入ったようで。

 まるで貴族にでもなった気分だと言って、ご機嫌だったよ。


 ちなみに、新しい役場の建物も隣の『山の民』の作品専門店も両方とも、にっぽん爺の所有物ね。

 にっぽん爺は、良い借り手が付いたとホクホク顔だったよ。

 これで、今後の生活は安泰だって。


 それから、一月ほど経って、ノーム爺が引っ越してきたの。

 もちろん、『山の民』から大量の作品を預かって来たんだけど…。


「いやぁ、儂が人の町に工房を移すと言ったら、こいつらが付いて来ちまってな。

 まあ、邪魔になる者でも無し、これからよろしくしてやってくれ。」


 何と、ノーム爺は長老の一人に選ばれるだけあって、『山の民』の里でも腕利きの鍛冶師らしいんだ。

 おいらが魅入られちゃった包丁、あれもノーム爺の作品だと言ってたもんね。


 それで、里に弟子が三人いたそうなの。

 もう一人前と言うことで、弟子を卒業させて里に置いてくるつもりだったらしいよ。

 でも、当の三人は、まだまだノーム爺の教えを請いたいと願ったそうで。

 ここまで、ついて来ちゃったみたい。


 ノーム爺の買い取った工房の建物は凄く大きくて、居室も沢山付いているからね。

 まあいいやって、ノーム爺は連れて来ることになったらしいの。


「トンだ、よろしく。」


「チンあるね、よろしくするヨロシ。」


「カンや、よろしゅうな。」


 三人とも、十年以上ノーム爺のもとで修行して全員二十歳過ぎらしいけど…。

 背丈がおいらより少し高いだけなんだ。

 そこに年相応のヒゲ面が付いているもんだから、違和感ありありだよ。


 そんな訳で、三人の弟子たちも加わって、ノーム爺の工房は操業を始めたの。


      **********


 ノーム爺の工房だけど、看板にこんなことが書いてあったんだ。


 『各種、道具や武具の注文承り(ます)


 それを目にして、タロウがさっそくノーム爺に相談しに行ったよ。


「なあ、爺さん、こんなのを作って欲しいんだが出来ねえか?」


 タロウが何やら面白いモノを作ってもらうと言うんで、おいらも付いて行ったんだ。


「何だコレは? こんな奇妙なモノ見たことないぞ。」


 タロウが持って来た絵を見て、ノーム爺は首を傾げたんだ。

 絵が下手な訳じゃないよ。

 タロウ、絵も苦手だって言って、絵が得意なにっぽん爺に描いてもらったからね。


「これな、スリングライフルって言って、ゴムの力で玉を遠くへ飛ばす道具なんだ。」


「ゴムだと? 何じゃ、それは?」


 ゴムを見たことのないノーム爺は、オウム返しに尋ね返してきたの。

 それじゃあ、実際に見てもらった方が早いと言うことで、工房の庭に出てきたんだ。


 タロウは、一歩、二歩と数えながら十五歩進むとそこに木の板を立てたんだ。


「俺の一歩って、確か七十センチくらいだから、これで十メートルくらいだろうな。」


 そんな独り言を呟きながら、おいら達の所へ戻って来たタロウ。

 立てた木の板の方へ向き直ると、腰に付けていたパチンコを手にして…。

 シュパッと、小石を撃ち放ったの。


 スキル『命中率アップ』をレベル十まで極めたタロウは、『必中』のスキルを手に入れたんだ。

 『必中』は、標的まで届きさえすれば、確実に命中するお便利スキルだよ。


 勢いよく飛んだ小石は、パチンと音を立てて木の板に命中したよ。


「このビョーンと伸び縮みする紐がゴムと言うんだ。

 さっき見せた絵は、パチンコの飛距離を伸ばして、玉の威力を増す道具なんだ。

 このパチンコでは、あの距離を飛ばすのがやっとだし。

 あの距離でも、カモを仕留めることが出来ないんだよ。」


 以前、パチンコを使ってカモを狩りに言った時に言ってたね。

 パチンコじゃ、カモを気絶させることは出来るけど、仕留められないって。


「ほう、ゴムって素材は初めて目にしたが。

 中々、面白い素材であるな…。

 しかし、カモを取るなら弓じゃいかんのか?

 『必中』のスキルがあるなら弓の方が良い気がするが…。」


 ノーム爺がもっとな疑問を口にしたんだ。


「いや、『必中』のスキルは飛距離までは伸ばしてくれないし。

 あれ、絶対に当たるという訳でもないんだよ。

 実は俺、試してみたんだがな…。

 明後日の方向へ飛ばすと流石に当たってくれないんだ。

 最低限、飛距離と大まかな方向があってないと働かねえんだ。」


 今まで、弓なんて触ったことも無かったと言うタロウ。

 武器屋の裏庭で、試し撃ちをさせて貰ったんだって。

 結果は惨憺たるもので、まともに飛ばないし、飛んでも明後日の方へ行っちゃうらしいの。

 それで、弓を使うの諦めたらしいんだ。


 その点、パチンコは全くの素人でも方向と飛距離はそれなりに出せるから良いらしいよ。

 ただし、飛距離はゴムの張力に依存するらしいし、方角は構えた手がどの程度固定できるかによるみたい。

 パチンコの飛距離と方角の正確性をアップさせたのが、スリングライフルらしいの。


「なんだ、若いの、弓もまともに扱えんのか。

 情けない奴め。」


 話を聞いたノーム爺は、タロウを憐れみの目で見ていたよ。


「放っておいてくれ!

 それで、頼まれてくれるのか?」


「そうじゃのう、ゴムと言う素材は面白いし。

 まだ、注文も入ってなから、やってみるかのう。

 素人でも簡単に鳥打ちができるようなれば喜ばれるだろうしな。

 猟師には恨まれるかも知れんが…。」


 そこは大丈夫じゃないかな。

 猟師や弓兵以外で『命中率アップ』のスキルを持っている人なんてまずいないし。

 いわんや、『必中』まで育てている人なんて皆無だから。

 幾ら素人でも簡単に扱えると言っても、鳥にあてるのは無理だと思うから。 

 

 そんな訳で、ノーム爺のこの町での初仕事はタロウからの依頼になったんだ。

お読み頂き有り難うございます。

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