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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第3章 終わった機械と刻む歯車
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83 新案と旧作


「ということで、昨日俺たちも店を開いたんでよかったら立ち寄ってみてください。」


俺たちが店を開いた次の朝、俺たち以外誰もいない食堂で俺はイアカムに対して俺たちの店の宣伝をしておく。


「ん?昨日開いた店っていったらあれか?冒険者がいい性能の武器が安価で手に入るって騒いでいたやつか?」


「多分それだと思いますよ。」

俺は朝食として運ばれてきた焼き魚を口に運びながらイアカムの言葉を肯定する。

というか、冒険者でも何でもない人まで話が伝わるほど騒ぎになっているのか――――ん?いや別にイアカムは冒険者向けの食堂を開いているからそこまで不思議なことでもないのか?


どのルートから伝わったかは正確なところはわからないが、とにかく彼の耳に届くほど騒がれているみたいだ。


「そういえばシュラウド、昨日の利益ってどのくらい出たんだ?」


あれだけの人が来ていたのだから、それなりの利益は出ているはずだ。

実際、シュラウドが武器を増やすより先に購入者が減らすほうが多かったため最後のほうは供給が追い付かなかったりもしていたのだが、それでも売り上げ数はかなりのものになっていたと記憶している。



「えっと、・・・・確か約12万Gです。」


「ふむ、12万か・・・」

初日の利益としてはかなりのものではないだろうか?


「あ、すみません。少なかったですよね?皆様に手伝ってもらったのにもかかわらず申し訳ございません。」


「ああ!!いや、別に悪いとかいうわけではなくってな。というかむしろ上出来じゃないのか?」

流石に毎日12万ずつ増えていくわけではないだろうが、こうやって資金が増えていけば次第に良いものも作れるようになるし、プラスになっているだけで十分すぎるほどの成果だ。


俺としては赤字続きでも別に何もいうつもりはなかったのだけれど、シュラウドの経営能力は結構高いみたいだ。


「んー、少ないって感じるならもう少し値段上げてもいいんじゃないかな!!?だってあれと同じ強さの武器を手に入れるのってもっと高額になるはずでしょ?」


ノアの提案ももっともだったりはするのだが、シュラウドが昨日言ったみたいにあの商品の一番の特徴はその安価さだとも思うんだよなぁ。


果たして利益とは商品の色をつぶしてまで追い求めるものなのか?という疑問も残る。


「それだったらむしろ今の商品はそのままに、何か少し高額の商品を作るっていうほうがいいかもしれないな。」


「新しい商品ってことだよね?何かあてはあるの?」


「それなんだけどシュラウド、お前って渡した素材のうち魔石しか使ってなかっただろ?ほかの素材で何か作ってみたらどうだ?」

魔石ばっかり消費してもドロップ品である素材のほうは減らないし、そもそもその魔石も増える一方のためここは資源を有効に活用したほうがよさそうだ。



「なるほど、では今日はそうしてみようと思います。アドバイス、ありがとうございます。」

シュラウドは納得したようにうなずく。

アドバイスというほどのものでもない気がしたが、彼としてはそれでも参考になる部分があったみたいだ。


「じゃあさ!!最初はみんなの気を引きやすいものがいいよね!!?」

ノアが手を上げて、何かを言いたそうな様子でみんなの顔を見ている。


肯定してほしいのかな?


「まあ、そうだな。その系列の第一印象って結構大事だし・・・何か考えでもあるのか?」


「それならこの前のドラゴンの素材をふんだんに使って武器を作ろうよ!!」

俺が聞いてみると、ノアはその言葉を待ってましたという風にドラゴンの素材を使うことを提案してくる。


「流石にそれはもったいないんじゃないかしら?確かドラゴンの素材ってそれだけで高く売れるそうよ?わざわざ加工しなくとも売れるものを加工する必要ってあるのかしら?」


だがリリスがその提案を否定するような言葉を口にする。

ってか、ドラゴンの素材ってそんままでも売れるんだな。素材アイテムってどこで売ればいいのかいまいちよくわからなかったから今まで触っていなかったけど、これからはそこらへんも調査したほうがよさそうだ。


「いや、俺としてはノアの意見のほうに賛成だな。別に売れなくたって飾っておけばそれだけで宣伝効果も得られるだろうしな。」


見栄えのいいものはそれだけで店の看板になりうる。

別に今、お金に困っているわけではないしそもそもお金を集める必要もあんまりない。

いっぱいあれば便利だなっていうくらいだ。


「おおー!!タクミが初めてボクの意見のほうを肯定してくれたような気がするよ!!」

ノアは変なところで感銘を受けている。

まさか今回の意見も軽く流されるとでも思っていたのだろうか?


彼女はいつもどんな気持ちで意見を口にしているのか少し気になってきた。


「それでは、あれらの素材も自由に使ってもよろしいのですか?」

シュラウドがシステムメッセージのような口調で確認してくる。もちろんその答えはYESだ。


素材はため込んでいても仕方ないし、むしろあんまり多くため込みすぎると移動の際にリアーゼが大変になりそうだから使ってしまったほうがいいのだ。


「わかりました。では、今日からそちらのほうでも考えてみますね。」


「ああ、頼む。って、そっちのほうは作るのにどれくらい時間がかかりそうだ?」

魔石を武器に入れるのは全く時間がかからないが、1から武器を作るのはどうだろうな?


「それなら1つ作るのに10時間ほどいただければ問題なくできるかと思います。」


「ふむ、10時間か。それなら店のこともあるし大体1、2週間くらいでできそうか?」


「いえ、夜は寝ていませんので、2日もあればできるかと思われます。」

ん?シュラウドって夜寝ていなかったのか。

いつも夜中は全く動いている気配はないからてっきり彼も寝ているものかとおもった。


「そうか、じゃあそれで頼むな。」

その言葉を締めとして、朝の会議は終わった。













そして――――――


「ノア―!!そっちのお客さんの対応を頼む!!」


「わかったよ!!ボクに任せといてー!!」


「あ、リリス!!そこの魔石箱をちょっと奥のほうにしまっておいてくれないか?」


「ええ、了解したわ。」


「タクミお兄ちゃん!!木の武器、買ってきましたよ!!」


「それはシュラウドの後ろにある箱に種類ごとに分けて入れといてもらえるか?」


「はい!!」


俺たちはシュラウドの店の手伝いをしていた。

理由は単純明快、多くの客が来てシュラウドが捌ける量を明らかに超えていたからだ。


彼らは朝っぱら、開店時間を少し過ぎたあたりから店に押しかけ、シュラウド特性の武器を買い漁っていっていた。

見覚えのある顔はいなかったように思えるので、おそらくほとんどが新規の客なのだろう。


そして一部、見覚えがある奴は確か昨日品切れで買えなかった奴らだ。


「いらっしゃいませー。」

店に入ってきた客を視認した俺はそう声を上げる。

今日はリアーゼが補充係、俺とノアとリリスが接客、そしてシュラウドには武器の強化を最優先でやってもらうことにしていた。

俺としては接客はあまりやりたいものではなかったのだけれど、効率を考えたら仕方のないことだったりする。


「そういえば、お客さんはどうしてこの店へ?」

俺はカウンターの処理をしている最中、ちょくちょくこの質問をはさみながら業務に取りかかっていた。


忙しい今だが、そんな中でも情報収集は忘れてはいけない。


「俺は安くていい武器が手に入る店があるって聞いたからだな。冒険者ギルドの中で自慢して回っている奴がいたんだよ。」

そこで聞いた内容は、大体がこんなものだった。

これについてはイアカムが聞いていた噂というやつと同じものだろう。


やはり値段か?人は値段が低くて性能が良ければこうやってすぐに買いに来るものなのか?



思えば、前の世界でもセールの時になると普段はおとなしい人が豹変するというのはよくある話だった気がするな。


「そういえば兄さん。」

そんなことを考えながら俺が仕事を続けているとふと、俺に話しかけてくるものがいた。


「はい?どうかされましたか?」

当然、俺に話しかけた人を俺が知っているわけもない。今日、初めて見たばかりの顔だ。


「こんな話を聞いたんだが、どうやらこの店、『メルクリウス』に目をつけられているって話だぞ。」


「『メルクリウス』?って何ですか?」

名前からすると大きな商人の組合か何かかな?

確か俺の記憶ではメルクリウスというのは商人や旅人の守護神の名前だった気がする。


こうやって直接元ネタとなったものの名前を出してくれるとそれが何かが予想しやすくて助かるな。


「ん?兄さん知らないのか?いいか?『メルクリウス』っていうのは―――――」

そこから少しの間、その人は俺にその商会のことについて話してくれる。


その集団が主に冒険者向けの商品を取り扱っていること。

昨日、そこでシュラウドから商品を配られたものがその商会の商品は高すぎるということを大声で話したこと――――――ついでにこの店の場所も


そのせいでその場にいた客がこっちのほうに流れてきたこと。


そしてその客の一部がその情報をまた流し始めたこと。

そうして連鎖的に俺たちの店に今までその店がこつこつ集めてきた顧客たちが流れていったみたいだ。


「ということはお客さんも?」


「おうよ!!なんたってこの店の商品は安いからな!!」

元気よく頷くその男は楽しそうな表情を浮かべていた。


「でも気をつけろよ?恨みをかってしまってるかもしれないから、近いうちに何かを仕掛けてくるかもしれないな。」


「それは・・・ご丁寧にありがとうございます。助かりました。」

これは本当に助かった。

男の口調からその『メルクリウス』というのは結構大きな集団のようだし、知らない間に準備をされて一方的に叩かれたりしたらひとたまりもなくこの店はつぶされてしまうかもしれない。


彼の情報提供がなければ危なかったところだ。


「あ、情報量として、これはサービスしておきますよ。」

俺はその感謝の気持ちを込めて、男に代金の半分を返して商品を受け渡した。


「お?いいのか?ありがとよ!!」


俺の手から商品を受け取った男は満足した顔でこの店から出ていった。




んー――、『メルクリウス』ねぇ・・・


俺はこれから来るであろう厄介ごとのことを、考えずにはいられなかった。

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