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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第3章 終わった機械と刻む歯車
74/293

74 遠くの強光と近くの弱光

―――パチ、——パチ・・・・


何かがはじけるような音がする。


それと同時に、何かいいにおいがする。

何かを焼くような匂いだ。


なんだろう?


それに対してそんな疑問を持ったボクは、ゆっくりと目を開け、体を起こした。


「お、起きたか。」


するとそこには、タクミがいた。


「え、—————————え?」

思考が停止する。


どうして彼がここにいるのかが、わからないからだ。


ここは街から大きく離れた場所にある洞窟だ。

そんなところに、どうして彼が来たのだろうか?それが全く分からない。


「まあとりあえず、腹減っているだろう?これ食えよ。」

彼はそう言って火にかけていた肉をこちらのほうに渡してくる。


ボクはそれを両の手で受け取った。


「えっと、どうして?」


それを口にするより先に、ボクは彼がここにいる理由を聞いた。


「どうしてもこうしてもあるかよ。そもそもどうしてはこっちの台詞だっての。どうしてお前はこんなところで寝てるんだよ!!」


少し怒ったような口調で、タクミはそう言った。


「えっと・・・えっと・・・」

返す言葉が浮かんでこない。

そもそも、自分でもどうしてこんなことになってしまったのか、よくわかっていなかった。


「まあいいや、ほら、話は食べてからだな。」

彼はそう言って自分の分の肉に手を付け始めた。


ボクも持っている肉に目を落とす。

とても、おいしそうだ。


外をちらりと見てみれば、今はもうすでに日が落ちて、今ここにある明りはタクミの前にある焚火の火だけだ。

洞窟の中で火を起こす―――ということに少し思うところがないわけではないが、今は非常にありがたい。


思えば、丸二日、何も食べていない。


きゅうぅぅぅ


それに気づいたとき、今になっておなかが鳴り始めた。


その音はとても大きく、タクミにも届いていることだろう。

ボクは急に恥ずかしくなって、持っていた肉を一心不乱にほおばった。



久しぶりに口に入れるものは、とても美味しく、なんだか救われたような気持になった。


ボクはその肉がなくなるまで、何にも気を止めることはなく食事を続けた。

そして全部食べ終わって――――


「ごめんなさい・・・・」


タクミに謝った。


「どうして謝るんだ?」

彼はわからない、といった様子でそう返してくる。


「だって、ボク、勝手に飛び出していって・・・」


「なんだ、そんなことか。何もなかったんだからそれはもういいだろ。」


「そんなとこ―――って、、、」

それはあんまりではないか?

今まで一緒に旅をしてきた仲間が居なくなったことをそんなこととあらわすのは、少しひどいのではないか?

そんな思いが心の中にたまってくる。


「それより、どうしてこんなところにいるんだ?というか、どうして昨日帰ってこなかったんだ?」


そこでタクミはもう一度、先ほどの質問をボクに投げかける。

その答えは―――――――――いや、本当はわかっている。


だけど、それを彼に伝えたほうがいいのだろうか?

自分が、まだ、リリスのことを受け入れ切れていないということを、目の前の男に伝えるのが正しいのだろうか?

そんな疑問が浮かび上がる。


「それは・・・」

少しだけ、いたたまれない気持ちになってボクはタクミから目をそらした。


「ノア?」

急に目をそらしたボクに対し、タクミが問いかけるように声をかける。


―――――――・・・言おう。

正直に、ここでタクミに相談してしまったほうがいい。


少し考えた末、その結論に至る。


「あのね・・・ボク・・・」


ぽつり、ぽつりと自分の心の中を打ち明ける。

きっとこの気持ちも、タクミならどうにかしてくれるはずだ。


いつの間にか根付いてしまった目の前への男への信頼感を胸に、ボクは今、思っていることをすべてさらけ出した。









そして全てを離し終わった後、


「やっぱり、身勝手だよね?こんな子、パーティに入らないよね?」

下手な作り笑いを浮かべながらボクは目の前で真剣に話を聞いてくれたタクミに向かってそう言った。




ノアを迎えに来た。

彼女は街からそこそこ離れた洞窟の中にいた。


ここを探し当てるのは俺にとってはそこまで苦ではなかった。

彼女の目撃証言は、街から出た昼前を最後に途絶えていたのだ。


それもご丁寧に進んだ方向まで街の人から証言が取れた。


方向的に俺たちが昨日リリスの特訓をしていた山であることが分かり、俺はそのまま街を出た。


そこから先はノアがいそうなところをしらみつぶしに探しながら進むことを繰り返すだけだ。


ただ一つ、誤算があったとするならば、ノアが俺の想像より遠くに行ってしまっていたことだろう。

昨日の山を越えたくらいで見つかると思っていたのだが、どうやら見通しが甘かったみたいだ。


それでも俺は彼女を探し続ける。


もしかしたら、探している場所が見当違いの場所なのかもしれない。

あたりが暗くなり始めたところでそう思ったが、俺はこのまま探し続けないわけにはいかなかった。



そして俺は見事に探し当てた。

ある意味で予想通りに、彼女は洞窟の中で眠っていた。

その表情は安らかなものではなく、どこか苦しそうだ。


それを見た俺は彼女を起こそうとして――――やめる。

それより前に、やることがあった。


目撃証言が正しければ、ノアは昨日の午前中のうちに外に出た。

それから何も食べていないのだとしたら、かなり腹を空かせているだろう。


そう思い、街で買っておいた保存用の肉に火をかける。


ちなみにこの洞窟はどういうわけか風が巡っているため多少火を焚いても問題はない。


肉を調理し始めて少しあと、ノアが目を覚ました。

非常に疲れ切った表情でこちらを見ている。


俺はそんな彼女に向かって焼きあがった肉を渡した。

彼女はそれを受け取り、少しの問答の後、それを口に運んだ。


そしてすべてを食べ終わった後、ノアは俺にすべてを打ち明けた。


まだリリスを受け入れることができていないこと、リリスにつきっきりで全く構ってもらえないこと、自分のことをもっと見てほしいということ、また一緒に楽しく冒険がしたいこと――――他にも色々なため込んでいることを俺に話してくれた。


ノアはそんな自分を身勝手だといって笑った。


作り笑いも――――強がりもいいところだ。

全く笑えていない。


いつもの彼女の笑い方ではない。


「全く、あほかお前は」

俺はそんなことを言ったノアのあまたに手刀を落とす。


「いた・・・」

彼女はそれを受けた場所を抑えながらこちらを見た。


「確かに最近、お前とはあんまり遊んだりできなかったけどな、別にお前をいらないとか思ったことはないぞ。」


「でも、タクミはボクを投げやりに扱ってたじゃない!!」

先ほどのしおらしい態度からは想像もつかない声が、ノアから発せられる。

彼女は最近の自分への扱いが気に入らなかったみたいだ。


確かに、最近はノアはやりたいことをやろうとしても他のことを優先させられてできないことがある。


「むしろなんで自分がいらないと思ってるんだよ!!」

それに対抗するかのように、俺も少し声を大きくしてノアに向かって怒鳴った。


「だってタクミ、昨日は嘘をついてまでボクを遠ざけてたじゃない!!あれってボクが邪魔だったってことでしょ!!?」


「嘘!?何のことだよ!!?」


「ボク知ってるんだよ!!タクミが昨日あの人形の機能を確かめると偽ってあの女と一緒に魔物退治に行ってたこと!!」


「はあ!?あれは時間が余っただけだからリリスの要望を聞いただけであってな!!」


「その証拠はどこにあるのさ!!!」

ノアは叫ぶ。


まるで先ほどの告白で吐き出しきれなかった黒いものをすべて体の外に押し出すように・・・


「証拠もなにもあるか!!俺がそう言ってんだよ!!」


俺が言っているから正しい。それは理不尽極まりない暴論だ。

絶対王政もいいところな台詞だ。


俺が一番嫌いな、理不尽な行為だ。

だが、俺は今、こういわずにはいられなかった。


証拠なんてない。

信じてもらうしかないのだ。


「じゃあ逆にボクが必要って証拠はあるの!!?」


「さっきから証拠証拠って、小さな子供か何かかよ!!というかお前は俺たちの仲間だから必要に決まってんじゃねえか!!」


「え・・・っと・・・」

そこでノアの動きが止まった。

先ほど必死に声を張り上げたからか、俺たちは少し肩で息をしながら互いの顔を見合わせた。


「だってボク、何も取柄なんてないよ?それでも必要なの?」


「ああ?そんなこと思ってたのか?というか取柄がないなんて誰が決めたんだよ。」


「だってボク、あの女みたいに何でもできないし、リアーゼちゃんや人形みたいにしっかりもしてないよ?」


「あの女、人形、じゃなくてリリスとシュラウドな。いい加減仲間を名前で呼ぶことを覚えやがれ。」


「う、うん、、、、でもボクは・・・」


「さっきからだって、とかでも、とか多いんだよお前は!!いつものノアならそんなこと笑って誤魔化すようなことだろうが!!」


「だってボクは悪い子で、いいことなんて何もしてないんだよ?」


「それこそ笑い飛ばしてやれよ。俺たちは悪魔と一緒に歩いているんだぜ?美徳に対する信仰心なんて笑顔で蹴飛ばしてやれ。それに、それを言うなら俺だって同じだ。」


「タクミが?」


「ああ、だって俺は世間一般で見れば悪魔を連れまわる悪い奴なんだろ?それに比べたらお前のなんてかわいいものだぜ。」

そう言って俺は彼女の悩みを笑い飛ばす。

そして俺は洞窟の外に目を向ける。


太陽はもうすでに完全に沈んでおり、空は真っ暗だ。

だがしかし、その代わりに月や星が夜の世界を照らしていた。

空気が澄んでいるのだろうか?その光は現実よりはっきりと視認することができる。


「なあ、ノア、今、空を見てどう思う?」


俺は何でもないような話をするような口調でノアにそう問いかける。

話はまだ終わっていない。

そう言いたげな顔をしていたが、問いかけられた彼女は仕方がないといった様子で洞窟の中から空を見る。


「空?暗いって思うだけだけど・・・それがどうしたの?」


「暗い空で輝く星ってさ、綺麗に見えないか?」


「うん?まあ綺麗は綺麗だね。」


「でも、どうしてあれが綺麗に見えるかってこと、考えたことあるか?」


「何でって・・・・単純に暗い中で光ってるからじゃないの?」

ノアは単純な答えを口にする。

いつもの彼女ならここでもっとロマンチックなことのひとつでも言いそうなのだが、今回そんな台詞を口にするのは俺のほうだった。


「俺はな、多分あれが自分で輝いているからだと思うんだよ。」


「自分で?」


「そう、暗い世界の中で、たった一つ、その身を燃やしながら光を放ち続ける。俺たちはそんな光を見てるんだ。」

この世界の住人に、星のことに関する知識がどのくらいあるかはわからない為、そのことをノアがどのくらい理解しているのかはわからないが、俺はそのまま話を続ける。


「やっぱさ、自分で光ってるものってさ、どうしても人は惹かれるんだよ。」


「でも、ボクは別に光ったりしてないよ?もし、そう見えたとしてもそれはボクの光じゃない・・・」

俺の言葉を聞いたノアが悲観的な意見を述べる。


「別に、それでいいんじゃないか?ほら、今度は月のほうを見てみな?星と比べて大きく輝いているだろ?」

俺は空で輝く月を指さしながらそう言った。

「それは・・・そうだね。他のより、綺麗に見えるよ」


「でもあれな。別に光ってるわけじゃないんだぜ?」


「え・・?」


「月の光ってのはな、太陽の光を反射しているだけだから、あれ自体は光ったりしていないんだ。でもああやって大きく見えるのは、単純に距離が近いからだな。」


「っと、それって・・・」


「別に貰い物の光だってさ、近くにあれば何よりも強く輝いているように見えるだろ?ノアだってそれでいいじゃないか。」

俺はそう言って話を締めくくった。

若干、話をうやむやにして丸め込んだ感がある終わり方だが、それはそれでいいと思う。


弱い光だったとしても、確かに光っているのだ。

それは見るものが見てやれば――――――美しい。


「それじゃあ、今日はもう寝ようぜ。そして明日朝起きたらみんなが待ってる場所に帰ろう。」


「うん・・・わかったよ。おやすみタクミ」


「おやすみノア」

俺はそう言って焚火の火を消す。


そして火の後始末を完璧にやったことを確認してから横になった。


「あ、ノア、明日の朝、いつも見たく俺のことを起こしたくれるんだろ?期待してるぜ。」

寝付く前に一言、暗闇の中で俺はそう呟いた。

彼女からそれに対する返事が返ってくることはなかったが、その代わりに



すぅ、すぅ、


という、安心しているかのような寝息が俺の耳に届いてきた。



当初の予定としてはノアの家でエピソードはもっと引き延ばすつもりだったんですが・・・

第3章が機械人形の話のためサクっと解決のほうに向かわせるよう予定変更しました。

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