73 違う朝となかった朝
朝が静かだ。
そんなことを思うのはいつぶりだろうか?
思えば、この世界に来てからは一度も思ったことのないことかもしれない。
朝が静かなだけで、何か、違和感を覚える。
違う、これではない。
これは、自分たちの朝ではない。
俺たちの夜明けは、もっと騒がしいものだったはずだ。
早朝、まだリリスが眠っている間に目を覚ました俺は、そのまま彼女を起こさないようにこっそりと部屋を出る。
「全く、あいつはどこに行ったんだか・・・」
俺はいつもの朝を取り戻すべく、薄暗い空の中に飛び出していった。
◇
リアーゼと別れた後、ノアは一人、街の外を歩いていた。
目的はない。
自分の気持ちを紛らわすように意味もなく歩いているだけだった。
気づけばもう、街があんなに小さく見える。
結構遠くまで来ているみたいだ。
目の前には大きな山が見える。
引き返すならこの辺りが丁度いい。
だが、そんな判断は今のノアにはできなかった。
目の前に山があるから――――その勢いで彼女はその山を登り始める。
周りに魔物の気配はほとんどない。
ここいらの魔物はどこか別の場所、ある一つの場所に集まっているみたいだった。
単なる好奇心だった。
彼女は魔物たちが集まっていく方向にゆっくりと歩きだす。
そしてそこで見たのは―――――
「リリスーーー後ろから来てるから一応、気を付けてな――」
「ちゃんとわかってるわよ。もう、タクミは心配性ねー」
「あー、ちょっとそこ、もうちょっと意識してー」
「はいはい、わかったわ」
リリス1人に戦闘をすべて任せて、後ろから指示を出すだけのタクミの姿だった。
魔物をすべて1人で倒すことを強要させられているリリスだが、その姿は本当に楽しそうで、次々と迫りくる魔物たちを屠るその姿は、まるで舞を舞っているかのようであった。
なんだか・・・・楽しそうだ。
その時、ノアはいたたまれない気分になり、そこにいられる心境ではなかった。
彼女は楽しそうに魔物を倒しまくる彼らから目をそらすように全力で走って山を下りた。
どうして?
どうしてあの場所に自分がいないのだろうか?
「はぁ、、、、はぁ、、、」
肩で息をする必要があるくらい、全力で走る。
どのくらいは知っただろうか?
ノアの頭の中は別のことでいっぱいだったため、そんなことすら思い出せない。
気づけばまた、街から遠く離れた場所についていた。
もうすでにこの位置からでは街の姿を見ることはできなくなっている。
空を見上げるともうすでに日が傾いており、茜色の光を放っていた。
「ここ・・・どこだろう?」
がむしゃらに走ってきたため、ここがどこであるのかは彼女自身よくわかっていなかった。
ただ、ひとつ確実にわかることは街からだいぶ離れた場所であるということだけだった。
「あ・・・早く帰らないとみんなが心配する・・・・」
次第に暗くなっていく空を見ながら、そんな呟きをこぼす。
「心配・・・する?」
だが、そんな呟きに対してさえ、彼女は疑問を抱いてしまう。
本当に、彼らは自分を心配してくれるのだろうか?
そう思うと、あの場所に戻る必要性すら感じなくなってくる。
「あ、洞窟・・・」
そこで前を見てみると、小さな洞窟が目に入った。
彼女はその中を覗き込む。
中はそこまで広くはない。
そして何もいない。
「・・・・今日はここで夜を過ごそうかな?」
もう外は暗い。
そんな中を歩き回るのが危険だと、流石に今の状態でも理解できる。
だから彼女は、この場で一夜明かすことを決心する。
洞窟の中はひんやりしていて、心地いい。
これなら夜、寝苦しいと感じることもないだろう。
ノアは床の具合を確かめるべく、一度横になる。
多少硬いが、大丈夫そうだ。
彼女はそのまま目を閉じる。
当然だが、聞こえてくる音はない。
強いて言うなら風の音くらいだ。このくらいなら、問題なく眠ることができる。
「おやすみ。」
彼女は誰に言っているかもわからない、眠りの挨拶を済ませ、そのまま夢の世界へと落ちていった。
目が覚めると、もうすでに日が高く昇っていた。
いつもならこんな時間に目覚めることなどないのだが、昨日は慣れない環境で眠ってしまったから、うまく寝付くことができていなかったのだろうか?
そんな疑問はあるがさほど気にしない。
彼女は一度眠い目をこするようにしながらあたりを見渡した。
「あ、そうだった。」
昨日あったことを思い出した。
彼女はそのまま体を起こし、一度伸びをする。
そして今日何をするかを考える。
別に、やりたいことはない。
いや、街の観光を昨日できなかったから、それをやりたいというのはある。
だが、ここがどこだかよくわからないし街に戻るのは彼らに会いそうで何か気が引けた。
今はそれよりも―――――
「おなか、すいたな・・・」
この飢えを満たすことが先決だ。
何か食料を手に入れなくては、このまま飢えて死んでしまう。
考えてみれば、昨日は昼から何も食べていない。
腹が減るのも、仕方がないことだ。
彼女は洞窟から出て、あたりを見渡し何か食べられそうなものはないかと物色する。
だが、ここは街から遠く離れた場所にある洞窟。
そんな場所に食べられるものなんてほとんど存在しない。
木を見てみれば多少食べられそうな実がついているのがみえる。
だが、あんなもので今の飢えを満たすことができるとは思えない。
その為無駄な体力を使ってまであれに手を伸ばすことはしないほうがいいだろう。
何か他に―――できれば一気に腹を満たせる肉類は落ちていないものだろうか?
そう思いあたりを見渡すが、そんなものはどこにもない。
この場で食べられそうな肉といえば――――魔物くらいか?
しかし魔物は絶命した瞬間にその体を灰に転じさせる。
その為、あいつらを食べるとなると生きたまま、その身を貪らなければならない。
流石に、そこまでの狂気を犯すほど追い詰められてはいない。
「なにもないなぁ」
そのことを確認した後、彼女はとぼとぼと洞窟の中に戻る。
そして再び、これからどうしようか?
という疑問を自分に問いかける。
普通なら、このまま彼らのもとに戻るのがいいのだろうが――――なんだか今は戻りにくい。
理由はわからないが、とにかく今、あの場所に戻るのは不可能だと思われた。
結局彼女は、この場所でこうやって身を丸めることくらいしか、やることはないのだ。
だが、このままではいずれ飢えて死んでしまう。
いつかは街に戻らないといけないのだ。
ただ問題は、そのいつかがいつ来るかどうかというはなしだ。
ノアの頭には街に変えるか否かということしかなかったが、そもそもこの場所は彼女にとって知らない場所。
帰ろうと思ってすぐに帰ることができる場所ではない。
そのことが完全に頭から抜けているノアは、どのくらいなら耐えることができるか、なんてことを考え始める。
このまま彼女を放置してしまえば、いつかはその命が尽きてしまうことは明白だった。
「今日はもう、やることはないかな・・・」
考えても、やるべきことは見つからない。
そう結論付けたノアは再び眠りに入るべく、体を横にした。
彼女の耳には、吹き込む風の音しか、届いていなかった。
昨日更新できず、本当に申し訳ないと思っています。




