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ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第3章 終わった機械と刻む歯車
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70 できないこととできること











「さて、まずは戦闘技能から試してみたいと思う。」


宿を出て真っ先に武器屋に向かった俺はシュラウドに向かってそう宣言する。


「はい、わかりました。では、何をしたらいいのでしょうか?」


「とりあえずはこの中から適当に武器を選んでくれるか?」

この世界の武器は高い、そのことはよくわかっているのだが、今回は奮発して購入してもいいだろう。


流石に、戦闘技能があるかどうかわからない奴に木の剣を渡すのもどうかと思うし多少は強めの武器を選んでもらったほうがいい。

シュラウドは店の中をくるっと一度その場で回ってあるものを見つけたように一直線で歩き始めた。


どうやら決まったみたいだな。


「タクミ様、これにしたいと思います。」


「え、っとこれって、」


「はい、あなた様が持っているのと同じものでございます。」


シュラウドが持ってきたのは木の剣だった。

もはや俺たちのパーティでは若干定番になりつつあるそれだ。


「いや、でもこれっておそらく最弱の武器だぞ?高いものでも何でもないし・・・」


「道具が主人より良いものを持つのはどうかと思いますので、これにしたいと思います。」


あ、そう?

まあ、本人がいいって言っているのだからいいのか?


「すみません、これを一つください。」

俺は木の剣を購入してシュラウドに渡す。


「ありがとうございます。大切にさせていただきますね。」


「いや、すぐにわかることだから隠さないけど、俺、いつもそれをポキポキ使い捨ててるからな?お前もそのくらいの気持ちで使ってくれ。」

たった300Gしかしない木の剣を大切に扱われると少しだけ心が痛む。


そうなりそうな気がしたのでそれをあらかじめ止めておく。


「まあともあれ・・・武器の購入も終わったことだし街の外に出ようか。」


「はい。了解です。」


「って、リリスは何をやっているんだ?」


「えっと、タクミがさっき武器を選べっていったから選んでるんだけど・・・」

それはシュラウドに言ったつもりなんだけど・・・今のリリスは宿で何かがあったらしく精神状態が非常によろしくない。


あんまり追い打ちをかけるのもよくないな。


「そうだったな。で、どれにするか決まったのか?」

別にリリスの筋力値だと武器を持たなくても十分なダメージが叩き出せそうな気がするが・・・そこは触れないほうがいいのだろうか?


まあ、ナメクジやミミズ型の魔物とかが出てきた時に触りたくないということがあってはいけないので、これはこれで正解なのかもしれない。


「私はやっぱりこういうのにしようと思うわ。」

リリスが棚に飾ってあった武器を一つ指さした。


そこにあったのは一本の槍だった。

俺はその槍のステータスを見ようとアイテムウィンドウを開く。



名前 鋼鉄の槍

効果 武器攻撃力+15

説明 何も言うことはない。槍と言ったらこれ、というくらいありふれた武器だ。

値段 130、000G


「やっぱりあの時使ってみて槍って結構私にあっている気がしたの。」

そういえば一度だけ使ったことがあったんだっけか?


それにしても13万か・・・多少懐が痛むが、まあシュラウドが予想外に安いものを選んだしこのくらいは大丈夫だろう。


「わかった。じゃあちょっと買ってくるよ。」

俺はその槍も購入、そしてそのままリリスに渡した。


「ありがとねタクミ!!このお礼はいつかさせてもらうわ。」

受け取ったリリスは嬉しそうにその槍を抱くように持っている。


じゃあ二人分の武器も買ったことだし、今度こそ街の外に魔物を倒しに行くとしますか。











ゲーム開始地点から結構離れてしまったため、街のすぐ隣とかでも強い魔物が出るのではないか?

そんな不安が少しだけ俺の中にあったのだが、それは杞憂だったようだ。


街の外に出た俺たちの目に映ったのは、俺がこの世界に来て初めて目にした魔物であるゴブリンだった。

よし、あれなら何か間違いがあっても死んでしまう――――ということはないはずだ。

それに、木の剣の攻撃力でも十分倒せるレベルの敵でもある。


「シュラウド、いけそうか?」


静かに俺は隣で緊張の面持ちをしているシュラウドにそう尋ねる。


「分かりません。全力を尽くすつもりではあります。」


「わかった。危なくなったら俺かリリスが助けてやるから、お前は何も気にかけることなくあのゴブリンと戦ってくれ。」


「はい、了解しました。」

その言葉とともに、シュラウドはゴブリンに近づいて行った。

その足取りは普段と変わらない自然なものだ。


このような場に慣れている――――そう感じさせるような足運びでもあった。



そしてついにシュラウドがゴブリンの目の前までに迫る。


その距離まで近づけば、知能の低いゴブリンでも流石にシュラウドに気が付いたみたいだ。

唸り声のようなものを一度上げ、シュラウドを威嚇する。


ゴブリンは手に持っていた錆びついた斧を掲げ、シュラウドのほうに走っていった。

短足ということもあってその動きはかなり遅い。


シュラウドは近づいてくるゴブリンに向かって持っていた剣を振る。

しかし、その攻撃は見事に空を切る。


躱された――――――というよりは距離が足りなかったような感じだ。


ゴブリンは目の前を通る剣に少しだけ驚いたような態度を示したが、すぐに攻撃を続行する。

斧を持ち、姿勢を低くしてさらに距離を詰める。

そして持っている斧を下から上へと振り上げた。


シュラウドはそれを木の剣で受け止める。

しかし斧が衝突したときの衝撃でその剣は宙にはじかれてしまった。


くるくると空中を舞う木の剣、それは俺たちが立っている場所まで飛んでくる。


「あ、あれはやばい奴だな。」


「私がこれの試用もかねて助けてくるわね。」

そんな短いやり取りの後にリリスが今にもシュラウドを叩き壊そうとしているゴブリンに元に走っていった。

リリスは一瞬でその距離を詰めた後、鮮やかな動きで槍を突き出した。


それは吸い込まれるようにゴブリンの頭に突き刺さる。


「おお、自分であっているといっただけはある動きだな。」

頭部を貫かれたゴブリンはその体を灰に変えその場に魔石を残す。

そのことを確認した二人が俺のところまで戻ってくる。


「どうでしたか?」

というのは先ほどの戦いへの感想を求めているのだろう。


「うーん、シュラウドは少なくとも戦闘型ではなさそうだな。」

距離を見誤ったり攻撃の衝撃を真正面から受けたりととても戦闘ができるタイプの動きではなかった。

戦闘に特化したロボというわけではないみたいだ。


「そうですか。それは残念です。」

シュラウドは落ち込んだようにそう言った。


別に機械は機能以上のことができるはずはないから別に気落ちする必要はないんだけどな。

無機質な口調に比べて案外表情豊かな奴だ。


「まあ気にしても仕方はないさ。次いこうぜ。」


俺は落ちている木の剣を拾い上げようとしたところ――――



「あ、これ壊れてしまってるな。」

その木の剣に大きくひび割れが入っていることに気が付いた。

もうこれは使えそうにないな。


「———?壊れてしまったのですか?」


「ああ、そうみたいだ。まあ、気にすることはないさ、たった300Gだ。」


「ちょっと貸してもらえますか?」


「ん?まあ一応お前のものだしな。返すよ。」


「ありがとうございます。あ、リリス様、先ほど落とされた魔石は回収しないのですか?」


「ええ、別に私には必要ないもの。」


「それでは、あれ、いただきますね。」

ん?魔石なんて回収して何を―――――ってあれか?

俺が考え付いた可能性を証明するように、シュラウドが動いた。


彼は落ちていた魔石を拾い上げると、そのまま木の剣に押し当てた。


そしてそのまま魔石は木の剣に吸い込まれていく。


見てみると、木の剣に入っていたヒビはいつの間にかなくなっていた。


それを見て俺は確信した。



シュラウドは生産系の能力を持った機械であると――――そして、いままでため込み続けてきたあのアイテムたちが輝く時が来たのだと。


思ったより早くシュラウドの性能が割れたため、今日の予定が空いてしまった。

だが、それならそれでいい。


これから少しだけ、忙しくなりそうだな。


俺は自分でも気づかない間に少しだけ邪悪な笑みを浮かべていた。

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