表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム攻略者とゲームの世界  作者: Fis
第3章 終わった機械と刻む歯車
68/293

68 必死な行動と予想外の行動


ガシャ、———ガシャ―――――

そんな音を立てながら体が動く。


気づけばそいつは鞄の中に押し込められていた。


どこへ向かっているのだろうか?


そんなことは全く考えない。

そいつの中にあったのは、ただただあの場所から連れ出してくれたことへの感謝であった。


もし、こうして運ばれていくことの結果が悲惨なことであるのだとしても、そいつは感謝することしかしていなかった。

そいつにとって、もうあの場所で動くこともできずに生き続けるのはそれだけの苦痛であったからだ。


ガシャ、————ガシャン、、


ゆっくりとそいつの体が横たえられる。

ここがどこなのかは分からないが、室内であることだけは感覚的に理解できていた。


そこは何の変哲もない部屋だ。

そいつは部屋の入り口がある方の逆側の壁に立てかけられていた。


体は動かない。

だが、気配だけは感じ取ることができる。


この場所には今、2人の人がいる。

その人たちが、自分をここまで運んできてくれた――――あの場所から連れ出してくれたのだ。


そいつはそう、認識する。


そして感謝を伝えたい、そう考える。


しかし――――感謝の言葉は発せられることはなかった。

声が、かつては出ていた声が出ないのだ。

それどころかもうすでにどこも動かない。


自分がここにいるということすら、伝えることができなくなっていたのだ。


そのことにそいつは深く絶望した。

自分を救い出してくれたものに、何も伝えることができない、ということに対する虚無感に苛まれていた。


あぁ、まって!!いかないで!!


その場にある――――いつの間にか4つに増えている―――気配が、この場を去ろうとしているのが感じられる。

そいつは必死に自分のことをアピールしようとしたが、声を出すことはおろか、動くこともできないガラクタに注意を向けるものはいない。


そしてこの場所から人の気配がなくなった。


場所が変わっただけで、元の状態に戻っただけだと、そう思った。

だが、そいつは初めのころとは違い諦めない心を手にしていた。


そうだ――何かを伝える手段があれば、今度はちゃんと見てもらえる。


そいつはそう考え、必死に体が動かせないか、何かできないかと考え、そしてあがいた。


誰もいない部屋で、ただ一人あがき続けた。

そしてついに――――――――――――そいつの目は再び光をとらえることに成功した。





「————もが、ふ、タクミ、朝d、、、」

「静かにしてください。」


朝、いつものようにノアの声が聞こえてくる――――と思ったが、今日聞こえてきたのはいつもとは少しだけ違った声だ。


何かあったのだろうか?


俺はゆっくりと体を起こし周りを確認する。

まず、隣のベッド、そこにはすぅすぅと寝息を立てるリリスの姿。


これはいつも通りだ。


そして次、じたばたしているノアとそれを押さえつけているシュラウドの姿・・・何をやっているんだこいつら?


「おはようノア、シュラウド、」


とりあえず、朝の挨拶は大切だ。

俺は抱いた疑問はいったん別の場所に置いておいて何かをやっている2人に声をかける。


「あ!!起きたんだねタクミ、朝だよ!!」

今日も元気なノア、


「起きてしまわれましたか。すみません、私が非力なばっかりに。」


「いや、非力とかはわからないんだけど、何をやっているんだ?」


「あなた様の眠りを妨げるものがいたため制圧を、と思ったのですが・・・」


なるほど、要するにノアがうるさかったから黙らせたんだな。

俺たちにとってはもはやいつものことくらいにしか感じないが、考えてみればこんな朝早くに騒がれるのは確かに煩わしいものになるのだろう。


「聞いてよタクミ!!今日ボクがこの部屋に起こしに来たら急に押さえつけられたんだよ。」


それをやっている本人は完全に悪意はなくやっているのし、朝早起きすることは悪いことでもないので文句は言いづらい。


「そうだな。シュラウドはこれからノアのモーニングコールは止めなくてもいいからそのつもりでな。」

別に俺は困っていないのだ。

それならノアの好きにさせてあげてもいいだろう。


それで苦情が来ても所詮はノアのほうに向かうだけなのだ。

俺に一切のダメージはない。


そう思ったので、俺はノアを止めなくていいことを伝える。


「そうですか。分かりました。」


シュラウドは俺の言うことを了承してくれる。

昨日会ったばかりだというのに、えらく素直だ。


人の命令に逆らわないように作られていたりするのだろうか?

リリスのスライムで大部分を補ったとは言えども、一応は機械だしな。


俺の疑問をよそに、シュラウドはノアを開放している。


「はぁ、まったくひどい目にあったよ。」

服についてしまった埃を払いながらノアが俺のほうを見た。

完全に俺が悪いと言いたげな表情だ。


「おい、なんで俺なんだよ。」


「いや、だってタクミがあらかじめこういう事態を想定していなかったのが悪いんじゃないかと思ってね?」


あーはいはい、そうですね俺のせいですね。

半ばあきらめて俺はため息をつく。


こんな状況を想定しておかないほうが悪いとか、ノアは俺を何だと思っているのだろうか?

孔明か何かか?


でもさすがの孔明も初めて見る機械の挙動を完璧に予測するのは無理なんじゃないか?


そう思いながら俺はベッドから足を下ろして立ち上がった。


外を見るともうすでに太陽が上がり、多少の薄暗さは残っているものの早朝、という範囲は抜けているように思えた。

これはいつものノアのモーニングコールが少なかったからかな?


ともあれ今は大体朝の6時前後というところだろう。

大体健康的な人間が起きてくる時間帯だ。


「せっかく起きたことだし、今日の行動を開始するとするか。」

俺は一度大きく背伸びをして今日やるべきことを整理する。


「あ!!ボクは昨日できなかった街を見て回るのをやりたいよ!!」

そういうとノアは早い者勝ち!!とでも言う風に真っ先に意見を出してくる。


別に意見を聞く、なんて言った覚えはないが、今までのことを振り返ってみるとこんな風にノアが出した案は大体採用されていることが多い。


というのも他の者は具体的な案が出てこない為自然とその提案に乗るしかなくなるのだ。

だが、それは他にやることがない場合の話。


今日の俺にはやりたいことがある。


「ああ、それは俺抜きでやってもらってもいいか?シュラウドのことをちょっと色々試してみたいんだ。」


こいつはさっき、予想外の行動をとっていた。

放っておけばまた何か予測できないことをやってくれるに違いない。


今回みたいな何でもないような場所でなら構わないが、肝心な場所で何かをやらかされても困る。


ある程度こいつの行動を予測できるようになっておかなければ、いつかは痛い目を見る。

そう思ってのことだ。


「ん?そういえばずっと気になってたんだけど、これって森で拾ってきたあれだよね?ボクの記憶が正しければ確か動けそうにないほど壊れていたと思うんだけど、どうして治ってるの?」


説明していなかったが、普通に接していたからすべてわかっている者だと思っていた。

だが、昨日起こったことを考えてみればここまで至った経緯を予測するなんて不可能だったな、と意識を改め説明することにする。


「これは昨日部屋に戻った時にちょっとだけ動いていたから、足りない部分や動かない部分をリリスに直してもらってな。」


「ええ!?そんな特技あったの!!?」


「ああ、思ったより何でもできそうな感じだったな。」

あのスライムがあれば、もしかしたら腕とかなくなった人とかも治せるんじゃないか?

と、思えるくらいには万能に見えた。


「そうなんだ・・・そうなんだね・・・」

ノアがなぜか一気に元気をなくす。


どうしたのだろうか?


「ともあれ、そういうことだから今日は俺はパスで、観光に行くなら3人で行ってくれ。」


「うん、わかったよ。リアーゼちゃんといってくる」


ノアはそういうと俺の部屋から出ていってしまった。

自分の部屋に戻ったのだろう。


最後、少しテンションが下がっていたように見えるのが少しだけ気になる。

それにノア、最後リアーゼと行ってくるって言ってたよな?


リリスはどうするつもりなのだろうか?


「あ、シュラウド、今日はお前の性能をチェックしたんだけど、いいかな?」


「はい、問題ありません。よろしくお願いします。」


よし、本人の了承も取れたことだし、今日はシュラウドの性能チェックだ!!


こいつが何ができるかによって今後に何か響くかもしれないな。

俺は今日の予定を思い浮かべながら少しだけ胸を躍らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ