80.先輩冒険者の洗礼
前回のあらすじ:バアル達は喧嘩を売ってきた上級冒険者に、謝罪の一環として街中を案内してもらう。街中でドワーフ達の文化の一端に触れたバアル達だったが、その中ではバアル達の関わった事件を調査している者達が会合を開いていた。
徐々に国家の上層部にその存在を認識され始めてきたバアル達。彼らは一体どうなってしまうのか?
カ「てか、作者が考え無しに私達を動かすからでしょう」
作「キャラは作者の脳味噌以上のスペック持てないんだよ!!」
『喫煙屋』を見学したバアル達は、その足でジェシカのお勧めの宿に連れて来て貰った。バアル達は都市の外縁部付近の、人通りが少なく、建物もまばらな地域に連れて来られた。
最初、上級冒険者が利用している、という事で豪華な宿を想像していたバアル達だったが、連れてこられたのはいたって平凡な宿だった。
木造三階立て、一階が食堂で二階以降が宿泊部屋という、どこにでも有りそうな宿『猛牛』がバアル達を出迎えた。
客も少なく、店内には二組のグループが見えるだけだった。
「これは……、何と言うか随分落ち着いた場所だな。見慣れ過ぎていて、違和感が無い類の落ち着きを感じる」
「気を遣った表現をどうもありがとう。確かに外見は、下級冒険者が利用しそうな宿であるのは認めるよ」
バアルが苦心して述べた感想だったが、その反応は予想出来ていたのか、ジェシカは特にもたつく事も無くさらりと謝意を示す。
「この宿は軍部から上級冒険者専用指定を受けた宿でね。軍に所属している冒険者はタダなんだ。本来はバアル達も泊まれないんだが、僕が口を聞けば大丈夫……何で皆回れ右してるんだい?」
バアル達は上級冒険者専用の件から、元来た道に方向転換しかけていた。バアルはジェシカに呼び止められて戻るのを止めると、後頭部をぽりぽり搔きながらぽつりと零す。
「いや……ジェシカが腹いせに、別の宿をまず紹介したのかと考えてな。俺達は中級冒険者だが、大丈夫なのか? それに何泊かしたいので、余り面倒な手続きが必要な場所は困る」
「……何だか僕の評価が微妙に低いね。もう悪戯したりしないから、まともに扱ってくれないかい?」
ジェシカは拗ねたように口を尖らせ、抗議する。バアル達も少し申し訳無い気分になり、軽く頭を下げて謝罪する。ジェシカはまだ不満そうだったが、それでも再度先に立って歩きながらバアルの質問に答える。
「じゃあ後ほど別の宿を紹介するから、とりあえずあそこでご飯にしよう。昼食代は追加で奢るよ。……でもバアルは気にし過ぎ思うんだけど……」
ジェシカは流し目でバアル達、中でもバアルとマグナダインを見た後、呟いた。
「だって君らなら、すぐにでも上級冒険者になれそうだからね」
そう言ってジェシカは宿の開け放してあった扉をくぐって行った。
「余り目立つのはなぁ……。資金集め的にも、今のところ中級冒険者くらいがいいんだが……」
「昇格試験は本人が望まなければ受けなくてもいいから、そこは心配しなくて大丈夫よ。と言うか、いつの間にかさん付けじゃ無くなってるわね」
「懐かれたんだろうか」
妙な事を言い出すバアルの横腹をエミリーは軽く小突く。それにバアルはくすぐったそうに笑った。
そんな事をしていると、中から急かすような気配を感じたので、バアルはようやく動き出して、扉をくぐる。バアルに倣い、他の面々も後に続いた。
彼らを出迎えたのは、複数の鋭い視線だった。その視線は直ぐに和らいだものの、バアル達を探る気配は隠そうともしていなかった。
エミリーとカミラは少々怯んだが、バアル達魔王組は一切の動揺を見せず、むしろ目が合った冒険者に会釈をする程余裕があった。
冒険者達は会釈をされると、挨拶を仕返して目線を外す。だがそれでもバアル達を探る気配は衰えない。
その最中、店員と話していたジェシカは、食堂の冒険者達に聞こえるように声を張り上げた。
「皆、中級冒険者のグループと食事を取らせて欲しい。これは私の我が侭だ。不満がある場合は僕に直接言ってくれ、出来る限り誠意を示そう」
「……おう、分かった」
「別に構わないよ」
バアル達は不満の声が上がると予想していたが、意外にも食堂の冒険者達はあっさり許可してくれた。文句は言わないが、バアル達への興味はいや増すばかりのようだ。
露骨な視線は無いものの、肌を伝わっていく上級冒険者達の探りを入れる気配に、しばしバアル達はむず痒い思いをする事になった。
バアル達もバアル達で宿の面々を見る。宿に居るのは六人。二人グループと四人のグループで食事中だったようで、どちらのテーブルにも湯気の立つ料理が並べられている。
「ほほう、料理は店の外観に似合わず洗練されているみたいですね」
「外観に関する感想は余計だ、お嬢。……だが一理あるな。軍事都市と聞いていたし、もっと野性味溢れる料理が並ぶかと思ってた」
カルニウェアンとマグナダインの脳内では、荒くれ者の兵士達の胃袋を満たす為に、山盛りのマッシュポテトと牛や豚の丸焼きがテーブルに鎮座する光景でも浮かんでいたのだろう。
しかし冒険者達が食べている料理は、サラダ、スープ、パン、メインに魚や肉料理とちゃんとしたコース料理だった。
テーブルに座っていた二人組みの冒険者の内の一人が、料理を見ているマグナダイン達に興味を引かれたのか話かけてくる。
「この宿は結構歴史が古くてね。昔から冒険者相手に商売しているから、上級冒険者の指定宿に認定されたのさ。野卑な料理からフルコースまで幅広く対応してくれるよ」
フォークでサラダを突いていたその冒険者は、長身で細身の人間の男だった。細身ではあるが、その服の下にはしなやかな筋肉が内包されており、豹を連想させる。彼は半身をずらして振り向き、人好きのする笑みをカルニウェアン達に向けてきている。
「わーそうなんだ。私、牛の丸焼きがいいなぁ」
「野卑過ぎるだろ。それに丸焼きにする設備が無ぇよ、多分」
食べきれないだろう、と言うツッコミで無い事に激しく違和感を覚えた男だったが、気にせず自己紹介する。
「俺はベニー・トルクマン。ベニーでいいぞ。『影踏み』でも通じるぜ。一応『斥候』になるのかな」
「へー」「へー」
淡白な反応しか返さない二人にベニーは困惑したが、それには頓着せず、カルニウェアン達も返礼する。
「ご挨拶が遅れて失礼しました。私はカルニウェアン、『魔術師』です。一応中級冒険者です」
「俺はマグナダイン、『剣士』だな。俺も中級だ」
「あ、ああ……どうも」
二人が頭を下げるが、ベニーの困惑は直ってなかった。その様子にベニーの前に座っていた背が低く、やたらとがっちりした体格の女性が吹き出した。
「ぷっ……。ベニー、あんたの知名度もあんまり高くないみたいね……」
「うっせえぞ、ナタリア! ……よし、お前も名乗って見ろよ」
苦々しい顔でベニーはナタリアを嗾ける。ナタリアはベニーの事は気にせず、マグナダイン達に挨拶する。
「あたしはナタリア。分かり難いだろうけど、ハーフドワーフね。『戦斧』って呼ばれる事もあるわ。役職は『戦士』」
ナタリアは、癖の強い肩口まで伸びた髪の毛を揺らしながら軽く会釈する。マグナダイン達は礼を返しただけで、やはり特別な感情は見られない。
ベニーが勝ち誇ったように鼻を鳴らす。
「ふんっ、やっぱりお前の知名度も大した事ないじゃ無いか」
「あたしは大して気にならないね。二つ名で呼ばれて喜んでる、どこかの兄ちゃんと比べてね」
澄ました顔で食事を続けるナタリアの正面で、ベニーは口の端をひくひく震わせながら固まっていた。
その背に今度はバアル達が自己紹介を浴びせる。
「煩悶中失礼する。俺はバアルだ、このパーティーのリーダーをしている『拳闘士』だ。同じく中級だ」
「アナトーと申します。『魔獣使い』ですわ。中級ですの」
「……ファフニール」
ファフニールは役職は名乗らずそのまま後方に下がる。それにまた虚を突かれた様に呆けるベニーだった。バアルはファフニールの気持ちも分かるので、恥ずかしがり屋なんだ、と代わりに謝罪する。
ベニーは眼を瞬かせていたが、そ、そうかと頷くだけだった。
次に後ろに控えていた、エミリーとカミラが自己紹介をする。
「え、エミリーです! 『魔術師』です! しょ、初級冒険者です! よろしくお願いします!」
「カミラで~~~す! 吸血鬼やってま~~~す。役職は何だろね、色々出来るから『斥候』かな? ところで今穿いてるパンツ何色?」
「黒だが?」
「刺激的!?」 「ジェシカさん! 答えなくていいから!!」
ジェシカが横合いから割り込んで、カミラのセクハラに応えてしまう。それにカミラは鼻血を噴き、エミリーはカミラの後頭部を殴りつけつつ、ジェシカを諌める。
ジェシカはエミリーとカミラのやり取りを見ながら快活に笑うだけだった。カミラは噴き出た鼻血を勿体無いと舐めようとして、またエミリーに叩かれている。
高速で展開される漫才にベニーは終止呆然としていたが、別のテーブルから聞こえてきた大笑いの声に意識を呼び戻される。
大笑いしていたのは四人組のテーブルの面子だった。
「おいおい、ケティルの旦那。初級冒険者の無礼な態度に大笑いは無いんじゃないか? ここは怒鳴りつけてでも礼儀をだな……」
「喧しいなぁ、ベニー。お前だって初級の頃に、粋がってこの宿に突入してきた事があっただろうが。そんでワシを含めた先輩方に、よ~~く揉んで貰ったのを忘れたか? 少なくとも嬢ちゃん達はあの時のお前より面白いわい」
「ぐっ……!?」
恥ずかしい過去を指摘された上、過去の自分に駄目出しされ、二の句を告げられず三の句を飲み込むベニー。その前ではナタリアが横を向いて笑いを堪えていた。
ケティルと呼ばれたのは禿頭の老戦士だった。深い皺の他に深い傷痕も顔面に残し、豊かな髭を伸ばした筋骨隆々の大柄な体格をしていた。ドワーフの戦士の身長を人間+αサイズまで大きくしたような印象だ。
「あー……、俺の連れが騒がしくて失礼した」
バアルは一応そう言って謝罪し、頭を下げる。ケティルはふん、と鼻息を洩らし、ジョッキを呷る。
ケティルは空になったジョッキを、テーブルに叩きつける様に置く。実は不機嫌だったのかとバアルが顔色を窺うが、ケティルの顔はむしろ機嫌良さそうに緩んでいた。
「若いの、中々礼儀が成っているじゃないか。最近の冒険者にしては感心だな」
「……光栄だな。時に、お年を聞いても良いか?」
ケティルは、自慢気に髭を撫でながら、バアルの問いに答えた。
「今年で七十一だ。先祖にドワーフがいるからかも知れんが、人間でこの歳まで現役を続けられる奴は、そうおらんぞ」
バアルは心の中で、自らの年齢の三十五分の一程度のベテラン冒険者を、微笑ましく思っていた。顔には欠片も出さなかったが。
ケティルは上機嫌のまま、ジェシカにも話を振る。
「ジェシカ、中々面白そうな連中を連れて来たじゃないか。どこで拾ってきた?」
「捨て猫みたいに言わない方がいいよ、ケティルの御爺。ここのマグナダインは、少なくとも僕じゃ勝てない」
ジェシカの一言に、宿の中の空気が一瞬で張り詰めた。上級冒険者達から湧き上がった感情は、熱風が吹き付けてくるのにも似た圧迫感だった。
強い興味を示したのはナタリアとケティル、疑いと僅かな嫉妬を秘めた視線はベニー。それ以外は純粋な驚きの感情だった。
「ジェシカ……闘ったのか?」
「いや、手合わせはしていない。だがこちらの挑発を全て見切られた。動作の先読みで負けた相手とは絶対に戦うな、それが師匠の教えでね」
「うへぇ、余計な事言うなよジェシカさんよぉ……」
マグナダインは誰にも聞こえないように口中で毒づき、ジェシカに顔を向ける。ジェシカはしてやったりという顔で見返してきた。
今度絶対泣かしちゃると決意しながら、マグナダインは出来るだけ軽薄な表情を取り繕う。
「い、いやあ上級冒険者のジェシカさんに、そこまで言ってもらえるとは光栄だぜ。でも俺はまだまだ修行中……って!?」
ヒュッ カンッ! ヒュヒュンッ!!
三方向から風を切りながら飛来した何かを、マグナダインは最初の一つは叩き落し、残り二つは片手で受け止める。
叩き落したのは小さなフォーク、受け止めたのは銅貨と親指大の何かの種だった。
マグナダインは突然の事にベニー、ナタリア、ケティルに向かって抗議する。
「あんたら上級冒険者は、中級冒険者にちょっかい掛けずにいられんのか!? てかこの種、微妙に湿ってるんだけど!?」
「あ、それワシが食ってた果物の種」
「うわっ! ばっちい!?」
ケティルが含み針ならぬ含み種で吹いた種だった。マグナダインは慌てて種をカウンターに捨てる。店の奥から不機嫌そうなお婆さんの店員が現れ、種を回収して戻っていった。
その間でも、穴が開くほど真剣に、上級冒険者達はマグナダインの所作を見ていた。ついでに眼の端だけでバアル達も観察していた。
そして、ううむ、や、ほう、と呻きながら腕を組んだり顎を撫で始める。やはり眼は真剣なままだ。
激烈に嫌な予感がしながらマグナダインは、裁判長の沙汰を待つ囚人みたいな気持ちで周りを観察していた。
すると徐にナタリアとケティルが同時に立つ。二人は顔を見合わせると、睨み合う。
「おいナタリア、最初はわしに譲れ。年長者優先じゃ」
「何言ってるの、年寄りの冷や水って言葉もあるでしょ。爺様は座ってなさいな」
「待て、何をするつもりだ後両名?」
バアルが両者の間に割って入ると、至極当然とばかりに二人は言う。
「その小僧の実力を試してみたいんじゃ」
「マグナダインさん、いい反射神経してるから、ちょっと手合わせを」
「……金貨十枚で一時間貸し出し。いいか?」
「借りた」「借りるわ」
「待てや、くそ上司!?」
財布を取り出し始める二人を全力でマグナダインは止めた。そしてバアルに詰め寄ると耳打ちする。
「どう言うつもりだ、目立たないようにするのが鉄則だろうが!」
「お前が不用意に三つも打ち落とすからいかんのだろうが。最初のフォークだけ弾いて他は受けとけば、ここまで興味を引かんかっただろうに。もうこの際お前だけ目立て」
「てめぇ……!」
「おーいまだかー。最初はわしに決まったぞ」
「あーもー! コイントスはいつも爺に負けるから嫌だったのに!!」
後方では意気揚々と剣を取り出しているケティルと、その横で地団駄を踏んでいるナタリアが居た。その少し後方ではベニーが食事を止めて立っている。
ケティルの仲間達は、マグナダインに気の毒そうな顔を向けた後、食事を再開していた。神官らしき者は、祈るような、謝るような感じで手を合わせている。
外堀が完全に埋まった、とマグナダインは理解し、肩を落す。
「さあ、ちと裏庭まで顔を貸してもらおうか!!」
ケティルの大声が店に響いた。
……
午後になり、太陽も増々元気に陽光を降り注がせる中、冒険者の宿『猛牛』の裏庭では憂鬱そうなマグナダインと元気一杯のケティルが対峙していた。
裏庭にはテーブルも用意されており、ジェシカ含むバアル達はそこで料理を待っていた。
「さーーこれより『剣士』マグナダインと、同じく『剣士』ケティルさんの戦いが始まります! 実況は私、カルニウェアンが務めます。解説は、事の発端のジェシカさんにお願いしました!」
「いやあ、何だか照れるね。こう言うのは」
カルニウェアンの横では、妙に楽しそうにジェシカが笑っていた。マグナダインは欝な表情のまま、殺気の篭った眼差しをジェシカに向けている。
その視線を受け、ジェシカはむず痒そうに体を動かす。
「マグナダイン、そんな眼で見つめないでくれ……。僕も闘りたくなっちゃうだろう?」
「……正直こっちから売ってでも、闘りたい気持ちは有るんだがな……」
「おっと、料金は払ったんじゃから、一時間はワシの相手をしてもらうぞ」
マグナダインの前では、ケティルが準備運動代わりに大剣を振り回している。大の大人より優に頭二つ分は大きいケティルの身長、それより少し短い程度の長大な剣にも関わらず、振り回すケティルの姿勢に揺らぎも乱れも無い。
ケティルは剣を振り回す手を止め、剣を地面に突き刺すと、マグナダインに語りかける。
「小僧、貴様今幾つだ?」
「俺? ……えーと、二十八……」
「ふむ。わしが冒険者になったのは、貴様がまだ生まれても無い、十五の頃だ」
「さいですか……」
気の無い返事を返すマグナダイン。
尚マグナダインの本当の年齢は、八十八歳であり、冒険者になったのは十三歳である。生まれても無いのはケティルの方だった。
「それから数々の冒険を行い、戦場を流離った。わしが上級冒険者になったのは三十も半ばの頃だった」
「それは結構早いんですか?」
話を聞いていたカルニウェアンは、隣のジェシカに話しかける。ジェシカはそうだね、と頷く。
「十分早いと思うよ。昔はもっと上級冒険者になるのは難しかったと聞くし、今でも平均すれば大体三十後半から四十歳代が多いだろうね」
「ちなみにジェシカさんの年齢と、上級冒険者になった歳は?」
「今二十一歳だよ。上級冒険者になったのは、二年前だね」
「そこっ! 嫌味を振りまくんじゃない!」
ケティルの怒声が響くが、カルニウェアンとジェシカはニヤニヤ笑って物ともしない。間を崩されたケティルは、うおっほんと大きく咳をしてまたマグナダインに語りかける。
「だが、小僧の力量は二十八歳の頃のわしを超えてると言っていいだろう。誇るといい、お前の潜在能力は十分高い」
「そらどーも」
ぼりぼり頭を搔きながらマグナダインは一応礼を言う。
だがケティルは両方の口の端をぎりりと吊り上げると、獅子も逃げ出しそうな凶悪な笑みを浮かべる。
「だが、今ならどうかな? 貴様の腕はワシに届くか? 同じ大剣使い同士として、ワシはそれを知りたい」
「……」
もうマグナダインは何も言えなかった。事ここに至って、上級冒険者達の性質の悪さが骨身に染みてきた。
そこにカルニウェアンがまた実況を入れる。
「ジェシカさん、上級冒険者の方々は皆こんな戦闘狂なんですか?」
「はっはっは、人を狂戦士みたいに言わないでくれ。単に実力が有りそうな人間と戦ってみたい人が、前衛系の冒険者に多いだけだよ」
「だからって、いきなり小細工を弄して仕掛けてきたり、物投げつけたりするか?」
「言葉で交渉するより、話が早いだろう?」
マグナダインが指摘するも、全く動じないジェシカ。ケティルとナタリアもうんうん頷いている。
「……もっと礼節を尊重しようぜ……」
「何を固い事を言う取るんだ。それでも冒険者か?」
こっちの世界では冒険者に成り立てだし、それを言われると困るなぁ……
複雑な心境でマグナダインは胸中で呟いた。
ケティルは突き刺していた剣を引き抜き、担ぎ上げるような構えを取る。そして興奮気味に、睨みつけるようにマグナダインを見据える。
「抜け小僧! お前の実力がどの程度か、ワシが見極めてやる!!」
それに対し、マグナダインは大きく息を吸って長い溜息を吐く。そして、バアルの方を半眼で見ると、口の動きだけでこう伝えた。
本気でやるぞ
それにバアルは少しの間考えたが、やがて許可を出すべく頷く。バアルも、マグナダインのストレス解消の機会を与えようと考えたのだ。
バアルの了解を確認したマグナダインは、『いくさ丸』の柄に手を掛け……
ドス
地に突き刺す。
「……何のつもりだ小僧?」
憤怒を隠さず、ケティルは低い声音でマグナダインを咎める。マグナダインは柔軟体操しながら平然と応える。
「重いから置いてんだよ。……どうした? 俺はもう抜いたぜ?」
未だ柔軟体操を続けながらマグナダインはそう宣言した。
ケティルはマグナダインの挑発を受け、頂点に達した怒りのまま、静止状態から一気に最高速度まで加速して突撃する。
ゴウッッ!!
暴風を纏ってケティルが真っ直ぐにマグナダインに近づく。しかしケティルも冷静だった。初撃は大剣のリーチを利用し、マグナダインの素手の間合い外から攻撃したのだ。
通常なら後ろか横に避ける。それならば追撃する。
勇気と戦術眼のあるものならば、逆に前に飛び込み素手で攻撃してくるだろう。ケティルは接近戦の心得もあり、その行動も予測していた。迎撃は可能と判断している。
マグナダインはそのどちらの行動もしなかった。
バンッ!
何かを叩きつける音が響く。
そしてケティルは意識が飛ぶ。攻撃されたのでは無い。精神的衝撃で忘我の境地に至ったのだ。
「やっぱりちと重いね」
マグナダインは、両手でケティルの大剣を挟みこむように、受け止めていた。
真剣白刃取り。
武の達人なら、出来なくは無いだろう。刃を恐れぬ勇気、相手の動きを見切る観察眼、そして卓越した反射神経があれば出来る。
だが、ケティルの大剣の一撃はそんなに生易しいものでは無い。幅広に作られた大剣は通常のものより重く、大槌並の重さがある。
それをケティルの膂力で真上から大上段で振り下ろしたのだ。その一撃は岩をも切り裂いただろう。
そんな一撃を受け止めた。両手で挟んで。ケティルだけでなく、魔王と四天王以外全員が、我を忘れた。
剣を受け止めてから時間にして二秒、マグナダインは自身のぼやきの終了と共に、その姿をかき消した。
ケティルの意識が戻ったのはその更に半秒後、長年の経験が危険信号をケティルに発したおかげだった。
だが遅かった。
パンッ!
ケティルの足元が弾ける音がし、彼の巨体が宙に浮く。着地の瞬間受身を取れたのは、ケティルの長年の経験故だろう。
だが、愛剣の行方までは気が回らなかった。
ブンッ!
ケティルの愛剣は、彼の横に立っていたマグナダインの手に有り、その切っ先は元の主人の首に突きつけられていた。
最後に、マグナダインは至極冷静な顔でケティルを評す。
「まあまあなんじゃねぇの? 体は良く動くようだし、勘もいい。後は慢心をちょっと削れ。自分の剣を受け止める奴もいる、その認識だけでもっと強くなれるぜ」
「……あっ……」
太陽の逆光で見えないマグナダインの顔に、ケティルはかつての自分の師匠の面影を幻視していた。誰も何も言えなかった。
ファフニールの水を啜る音だけがその場で唯一の音だったかも知れない。
……やっべー……、ブリジットめっちゃ怒ってる……。どうしよう……
勝利を手にしたマグナダインの心中は、マグナダインに置き去りにされた『いくさ丸』、その柄元の宝石から発せられる、仄暗い光に支配されていた。
……
「あっ!? 今マグナダイン殿の手が、奴以外に取られた気がする!!」
「うわっ!? 急に喋り出さないで下さいよ!!」
遠くの街角では、スコットと彼の腰に刺さっていた『魔人剣』の会話が、街の人を不気味がらせていた。
編集者は偉大なり。
ほんと後で読み返して、何でこいつらこんなに迂闊なんだろうと思う事しばしばです。作者がノータリンなだけなんですけどね……。ちなみに、タイトルの『先輩冒険者』はマグナダインの事です。
そして日常編がまた長引きそうな予感。開き直るか、巻くか、それが問題だ。
次回投稿は、また未定です。早ければ今週土曜日かなぁ……。




