37.旅の道中2
前話のあらすじ:バアル達がアイウーズ市まで移動する最中に立ち寄った村で、遺跡で遭遇した『魔人剣』に再会する。だがブリジットの姦計により、アインはその村に有った岩に封印されてしまった。果たしてアインの運命は!?
リットの村を発ち、夕方まで移動を行ったバアル達は、野営の準備の為にテントの設営や焚火の準備をしていた。
すると歩いて来た道から微かな地響きと共に亡者のうめき声の様な声が聞こえて来た。
「マ~グ~ナ~ダ~イ~ン~殿! あんまりでは無いですかあああああ!?」
声と共に現れたのは、半身が刺さった岩を背負い、滝の様な汗を流しながら走ってきたアイン・フォークだった。
「うお!? 流石は古代の剣聖。あれ位じゃ封印にはならねぇか」
「折角マグナダイン様のお手を汚してまで封じ込めたと思いましたのに…。諦めの悪い男ですこと」
料理中だったマグナダインとブリジットは口ぐちに酷い事実を述べる。アインは滂沱と涙を流しながら抗議する。
「な、長い間封印されていて、人恋しさでトラウマに成りかけた我に、あの仕打ちはあんまりでしょう!? マグナダイン殿はもう少し人に優しくされた方が良いぞ!」
「あそこなら爺さんが話相手になってくれるって。あとアインの言動とか行動も少しは節度を持った対応をした方がいいぞ」
ドスンと音を立ててアインは背負っていた岩を下ろす。アインはそれにもたれかかって脱力し、その後土下座をしながらマグナダインに頼み込む。
「今までの非礼は謝ります。これからは無理に連れて行って等とも言いません。ですからせめてこの岩から抜いて下さい」
悲壮感たっぷりに拝み倒すアインを見て、マグナダインは隣のブリジットを横目で見る。ブリジットは溜息一つ吐くと頷いた。
「仕方ねぇな」
そう言って料理を中断し、マグナダインは岩に近づく。アインはその姿を確認すると砂漠でオアシスを見つけた様な顔で喜ぶ。マグナダインは岩に突き刺さっている『魔人剣』の柄を握ると引き抜こうとする。
「よっ…、あれ、抜けねぇぞ?」
マグナダインが何度か『魔人剣』を抜こうと試してみるが、剣はピクリとも動かなかった。
マグナダインは柄から手を離すと、微動だにしないアインに向きあい、バツの悪い表情で頭を掻きつつ謝る。
「悪い、俺は選ばれた人間じゃなかったみたいだ」
ドシャリ
アインは前のめりに崩れ落ちた。
……
他の作業をしていたバアル達も三々五々集まり、『魔人剣』の刺さった岩を囲む。岩の隣では体育座りしたアインが、膝に顔を埋めつつしくしく泣いていた。
バアルは確認するようにマグナダインに問いかける。
「マグナダインでも抜けなかったのか?」
「ああ。ファフニールとスコット、カミラはやってくれた。後嫌々ながらブリジットも試してみてくれたが、誰も抜けなかった」
マグナダインの後方ではブリジットが念入りに手を洗っており、先ほどまではマグナダインも手を洗わせられていた。
「後やって無いのはバアル、アナトー、カルニウェアン、そんでエミリーだ。一応抜けるかどうか試してやってくれ」
マグナダインの要請に応じて(バアル以外は)若干不満げに抜けるかどうか試してみた。結果は…、誰も引き抜けなかった。
「あー、あれだ。先端に岩が刺さっている剣てのも斬新じゃないか?」
「おそらく誰も使いこなせないでしょうね。斬撃武器と言うより殴打武器になってますし」
マグナダインの精一杯の慰めも、カルニウェアンの現実的指摘の前に脆くも崩れさった。アインは恨みがましい目でマグナダインを見ながら、地の底から響く様な声を出す。
「こうなったら、マグナダイン殿に責任を取って頂きたい…!」
「せ、責任を取る…!!」
カミラが何かしら妄想を始めたので、スコットはカミラがいつでも鼻血を吹いていいように布を用意し始める。
マグナダインはアインの抗議に渋い顔をしながら続きを促す。
「責任と言うが…、どうして欲しいんだ?」
「マグナダイン殿の剣にして頂く、とまでは言わない。だが代わりにマグナダイン殿の旅に同行する許可と、出来ればこの岩から我を抜ける様な人材の探索を手伝って頂きたい」
「ダメです! どうせマグナダイン様の傍に侍ればいつかは使って貰える機会があると考えているのでしょう! …この泥棒猫! 駄剣!」
ブリジットは猛抗議してアインのパーティー加入に反対する。これにはアインも大人しくしている事は出来ず、勢いよく立ちあがって激しい口調で喧嘩し始める。
「ええい、うるさい! 我はマグナダイン殿と話しているのだ! 妻だか何だか知らんがちと黙っておれ! 大体なんだ女のくせに本体はごつい両手剣じゃないか! お主本当は男じゃないのか!?」
憤怒を通りこして最早笑い顔にすら見える表情でブリジットは『いくさ丸』を構える。
「どうやら根元からぽっきり折って欲しいようですね…。二度と復活出来ない様に壊れた欠片は溶鉱炉に放り込んで差し上げましょう…」
「ふん、やれるものならばやってみろ! 『茨棒』!」
『魔人剣』の根元から出た茨はアインの手の中で一本の棒を形成するように巻き付き、締め上げる。手元の部分には棘が無いが、先端に行くにつれて茨の棘が凶悪な脅しをかけるように生えていた。
「貴様には剣など無くともこれだけで十分よ! さあ、尋常に勝負!」
ブリジットとアインが裂帛の気合の元斬り合おうとする瞬間、
「止めろ、二人とも」
素早く動いたマグナダインは手刀で二人の小手を撃ち、剣と棒を落とす。
「興奮しすぎだブリジット。アインもちょっと落ち着け、第一俺にお前を旅に加える許可を与える権限は……、何してんの?」
説教を始めたマグナダインは、感極まって頬を染めてもじもじするブリジットとアインを見て、話を中断する。ブリジットは懐かしむように、ほうと息を吐く。
「いえ、今マグナダイン様に小手を打たれ為すがままにされた瞬間、マグナダイン様の剣になった日の記憶が呼び覚まされまして…、快さに体が震えてしまいまして…」
アインは興奮したようにプルプルと震えながら自らの手を見ている。
「この剣聖たる我が、赤子の手を捻るようにあしらわれただと…。この感覚は…新しい!」
カミラは「うほ! イイ表情!」とか喜んでいたが、マグナダインは半分剣の人間達の感性と歓声に、ドン引きして絶句していた。その時間的空白にスコットが遠慮がちに発言する。
「あのー、アインさんを岩から出す方法が見つかったかもしれません」
その発言に皆の注目が一斉にスコットに集まち、その中のアインが半信半疑でスコットに尋ねる。
「一応聞くが…、どんな方法だ?」
スコットはさしたる迷いもなく、その方法を告げる。
「下の岩を壊してしまえばいいのでは?」
……
「よし、行くぞ!」
「頼んだぞ、バアル殿!」
バアルは拳を力強く握って『魔人剣』の刺さった岩の前で構えを取る。それをアインは手を祈るように組みながら、冷や汗をかきつつ見守る。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!」
「バアル、気合込めすぎ! もうちょっと力緩めていいから! 『魔人剣』ごと砕けちまいそうだ!」
「え、そうなの?」
アインはバアルの実力をよく知らないので、バアルの豪腕の威力を把握していなかった。しかし時既に遅く、バアルの気合は頂点に達していた。
「セイッッ!」
ドグォン!!
バアルの拳が岩を打った瞬間、爆音と共に岩ははじけ飛び、
「あああああれえええええええ……!?」
岩の破片と一緒に『魔人剣』、遅れてアインが空の彼方に飛んで行った。
「……、やり過ぎたか…」
「チッ、剣ごと破壊することは叶いませんでしたか」
バアルが後悔している中、マグナダインの隣に居たブリジットはあからさまに舌打ちして悔しがる。
その後、マグナダインの料理で腹を満たしたバアル達は、見張りのローテーションを決めてそれぞれ就寝した。…ボロボロのアインが戻ってきたのを見つけたのは、明け方の見張り当番だったファフニールだったそうな。
……
アインはバアルの許可を貰って旅に同行する事に決まった。ただしブリジットの要求により、マグナダインの三m以内に近づかない様に厳命されたが。
アインは半身である『魔人剣』を腰に差し、マグナダインに背負われた『いくさ丸』妬ましそうに見ながらバアル達と共に歩いていた。
「くうぅ、近くに至高の剣士が居るのに、その方に握って貰えないなど…、剣にとって最も辛いお預けだぞ!?」
「連れて行ってもらえるだけ有難いと思いなさい。バアル様が許されるならば、貴方など縦に二分割、横に四分割して差し上げたいくらいですのに…」
「八つ裂き宣言かよ。あー、アインよ、もうちっと大人しくしとけ。お前さん今一番立場弱いから」
マグナダインの忠告にぐぬぅ、と呻きながらもアインは大人しくなる。騒ぎが治まったと認識したバアルはカミラに今後の予定を確認する。
「カミラ、これから後三日でタナリンの町に着くのだったな。どういう町なんだ?」
カミラは日中特有の気だるい口調で答える。
「タナリンの町は東西を山に挟まれた町で、基本的にセプロン市とアイウーズ市を繋ぐ町でしかありません。タナリンの町から北は、アイウーズ市まで土壌がそこまで良くないので、作物が取れにくいんですよね~。代わりに東西の山から産出される金属や石材を集積して、他へ送る場所として町が出来ました。工房や溶鉱炉もある、工業町って感じですかね」
「鍛冶師はいるのか? 我の半身が一部傷ついているので修理を頼みたいのだが」
アインが会話に加わってきたが、カルニウェアンがアインの望みを否定する。
「貴方腐っても魔法の剣でしょう?普通の鍛冶工に『魔人剣』を直せるとは思えませんが」
「何だと? 鍛冶師と言ったら魔法剣位直せるだろう?」
アインが納得せずに反論する。それを聞いていたエミリーは少し考えて自身の推論を述べる。
「ひょっとして、アインの出身のイース王国では、鍛冶師は皆魔法のアイテムを直せたの?」
「その通りだ。……なんだ、他の国の鍛冶師は魔法の物品も直せないのか?」
可哀想な者を見る目で皆から見られて、アインは自身の常識と現実の乖離に気付き、顔を赤らめる。
「く、もうよい! よく考えれば市井の鍛冶師に我が半身を預けるなど出来ぬわ。それに男の傷は勲章とも言うしな、この傷は残しておこう!」
「傷有りの剣とか値段下がりますよねー」
カルニウェアンの皮肉によって心にまで傷を負わされたアインは黙り込んでしまう。話が一段落したので、バアルは更にカミラに話を振る。
「ならば次はアイウーズ市だな。どんな都市なんだ?」
「アイウーズ市は神竜王国との国境にある都市からほど近い位置にある市なので、昔から前線都市へ送る物資を生産、集積する都市です。最近物流は専らセプロン市から送られてきた食糧を各地に輸送する中継都市になっています。長い事神竜王国との諍いが無いんでここ十数年は景気が悪いって言われていますね。ああ、都市の東側に湖がありまして、その近くで取れる葡萄を使ったワインが名産の一つです」
「我が国との戦争で潤う都市もあったんですねぇ」
スコットは何やら感慨深げだった。エミリーはちょっと怯えながらスコットに話しかける。
「その、スコットさんは戦争していた私達が憎くないの?」
スコットはエミリーの顔を見ながら虚を突かれたように目を軽く見開く。そして首を捻りながら考え込み、雨垂れの如くポツリポツリと言葉を出す。
「そうですね…。私は、我が国とエロハイム共和国がまだ小競り合いをしていた頃から生きていますが、親族は誰も戦いの犠牲になっていませんし…、特に憎しみは無いですね」
「そうなの? でも他の同胞は犠牲になってるでしょう?」
「ええ。でもドラゴン族って戦死者を悼む者って少ないんです。弱いから負けて死んだ、って考えが根底にあるんでしょうね。何せ強さ至上主義みたいなところが有りますから」
強いならば敵でも敬意を表する部分がドラゴンにはある、とスコットは補足した。エミリーは何となく理解したように首肯する。
「そうなのね…、じゃあスコットさんは私達と仲良くできるの?」
「うーん…。交流が始まって間も無いですからねぇ…、何とも…。ああこんな言葉がありましたね」
スコットは少し茶目っけのある笑顔でウィンクをする。
「『まずはお友達から始めましょう。』」
「エミリーちゃんは渡しませんよ!」
カミラが超特急でスコットとエミリーの間に割り込む。
「エミリーちゃんはマグナダインさんに惚の字なんですから、モーションかけるのは止めて…へぶしっ!?」
エミリーの金属製の短杖で横っ面を強かに殴打されたカミラは、きりもみ回転して地に伏せる。エミリーは更にカミラに短杖を叩きつけ追撃する。
「いらんっ! 事をっ! 言うのはっ! このっ! 口かっ!」
「痛い、痛いよ、エミリーちゃん。お姉ちゃん壊れちゃう!! 後、叩いてるのは口じゃ無くて頭!」
興奮するエミリーはマグナダインの手によって止められた。
「はいはい、そこまでにしとけ。もう十分カミラは罰を受けたろ。カミラもエミリーをからかうのはほどほどにしとけ」
「本気だったのに~…」
シャー! と猫が威嚇するような声を上げながら短杖を振り回すエミリーを巧みに押さえながら、マグナダインはカミラとエミリーを引き離す。エミリーはしばらくもがいていたが、マグナダインに抱えられている事を自覚すると、更に暴れ出した。
「ちょ、ちょっと降ろしてよ! もうっ! 離しなさい!」
「分かった分かった。もうカミラを殴るなよ」
マグナダインの手から逃れたエミリーは、カルニウェアンの隣まで走って行き、興奮と恥ずかしさで真っ赤に染まった顔をフードで隠す。一連の流れを見ていたスコットは頬を掻きながら困ったように呟く。
「異文化コミュニケーションって難しいですね」
困り顔のスコットにバアルは笑いながら訂正する。
「あれは異文化と言うより異年代だな。思春期の人間の行動は時に俺の様な古い者の想像を超える時がある」
スコットも苦笑して同意する。
「なるほど。確かに最近の我が主と似た様な部分も感じられます」
そんな会話をしているバアル達の間に、カミラがフードの汚れを払いながら近づいて来た。
「言い忘れていましたけど、今日の野営地は森の中になると思います。そこまで深い森じゃないんですけど、野盗の類が居る可能性があるんで気を付けて下さい。…まあこの面子だったら心配いらないでしょうけど」
「野盗ですか…、荒事は苦手なんですけどねぇ」
スコットは眉を顰めつつも緊張の感じられないまったりした口調で宣う。
「貴方の場合は真の姿を見せるだけで結構です。夜なら私も存分に力が振るえますからね。…この際血の補給をしておくのもいいかも…」
ジュルリと涎を啜るカミラ。カミラの事をセクハラ以外は普通の女の子と思っていたバアル達は今更ながら、カミラが吸血鬼だった事を思い出す。
「カミラ…、道中で旅の従者を増やされたりしても困るぞ?」
「え? …ああ、私が血を吸っただけじゃ相手を吸血鬼にする事はできませんよ。なんか色々儀式が必要らしいです。私は知りませんが」
「ああ、ならいいんだ。そこは俺の世界と一緒なんだな」
「へえ、バアルさんの世界でもそうなんですか…、ちなみにどうやって吸血鬼かするんですか?」
「紅茶を一杯、綺麗なティーカップに入れて、その水面に満月が映り込むようにし、『チチンプイプイ、吸血鬼にな~れ。』と言いながら紅茶を飲み干し、その後に吸血鬼に血を吸われると吸血鬼化するらしい」
「メ、メルヘ~~~ン!?」
カミラが驚きの叫びを上げる。スコットは笑いと困惑と渋面を混在させた顔で問う。
「…それどこ情報ですか?」
「カルニウェアンだが?」
「カーーーール!!」
アナトーが叫びながらカルニウェアンに向かって走り出す。だが既にカルニウェアンは『飛行』の魔術を発動させ、宙に浮いていた。上空からカルニウェアンは勝ち誇った顔で自らの悪事をばらす。
「ふっふっふ、三年越しのいたずらが遂に実りましたか。中々機会が無くて私も忘れそうでしたよ。しかし、ようやく公衆の面前で、バアルに十代女子のお呪い的な事を言わせることに成功しました」
「カール! 悪ふざけも大概にしなさい!? 降りてきて謝らないと後で酷いわよ!?」
「ふっ、アナトー、貴女は大切な友人ですが、この私のいたずら心を抑える事はできません。それにアナトーは優しいですからね。時間さえ置けば許してくれる事は分かっています」
うぬぬ、とアナトーは悔しげに呻くしかできない。そこにマグナダインからの援護が来た。
「今日の夕飯、カールお嬢はお代り禁止な。てか人数分しか作らねぇ」
「うえ~~ん、バアル~、マグナダインがいじめる~」
ふわふわとバアルに近づいて来たカルニウェアンだったが、今回はバアルも擁護してくれなかった。
「後いくつ悪戯を仕込んでいる? それを吐けば今回の事は許そう」
「くぅ!? そんな私ですら正確に把握していない事を交換条件にするなんて、バアルはいつからそんな鬼畜になったんですか!」
「俺は元々魔王と呼ばれていた存在だぞ? …と言うか本当にどれだけ仕込んだんだ!?」
唖然とするバアル達。エミリーは小走りにバアルに近づき、躊躇しつつもバアルを慰める。
「その、バアル達には助けてもらったし…、バアルが何か間抜けな事言っても出来る限りフォローしてあげるからね…」
カミラとスコットも同情するようにバアルを見ながら頷く。その視線に羞恥心を刺激されたのか、珍しくバアルは顔を赤らめ、俯きながら足を速める。
カルニウェアンも悪い事したと思ったのか魔術を解除して大地に降り立ち、マグナダインに殊勝な事を言う。
「…今日のお代りは二杯、いや三杯で我慢します」
「今日のお嬢の夕飯はパンだけな。反省しとけ」
だがマグナダインの審判は厳しかった。
バアル達の旅はまだまだ平和だった。
また数日投稿できないと思います。今度は少し長いかも知れませんので、一週間以上投稿が遅れそうな場合は活動報告で連絡します。




