32.遺跡へ
今日は投稿できました。明日はどうか分かりませんが…。
カルニウェアンの行動と、トトの即決の合格宣言に、ハサンは最初呆然とし、次に大いに慌てた。
「トトさん、まだ始まっても居ないのに合格宣言なんてしてどうするんですか!?」
「もう終わったも同然です。彼女は明らかに私より格上の魔術師だ。中級冒険者としての資格は余り有る」
トトの言葉にヨハンもロニーも頷く。ハサンは尚もヨハン達と口論していたが、周りで見ていた中級冒険者達が全員賛同したので遂に折れた。その中級冒険者達は、バアル達が冒険者の宿『篝火』に来た時に居た冒険者達だった。また、カルニウェアンが本気で魔術を使うと、他の冒険者達の実力が見れない内に試験終了になる可能性がある、と言われたのが決めてだった。
「仕方有りません、今回は特例…いえ中級冒険者の方々の判断を信じましょう。では他に質問はありませんね?」
試験を受けに来た下級冒険者達はそんなんありかと言う顔をしていたが、先輩冒険者に楯突く事も出来ず黙ってしまった。その為か、不満の声と一緒に質問も飲み込んでしまい、結局何も聞けなかった。
「では、次に移ります。今回の試験監督をされるのはヨハンさん達のパーティーです。ヨハンさん達は基本的に手出ししません。もしヨハンさん達のパーティーに頼る事があったらその時点で試験終了、全員不合格となります。ただし、それまで、もしくはその後にヨハンさん達が合格を認めた場合は合格とします。また試験期間は明後日までとなります。質問はありますか?……ありませんね、では皆さん健闘されて下さい」
ハサンが開始を宣言すると、アランが試験を受けるパーティーの代表に集合をかけた。バアルと他二名のパーティーリーダーがアランの元に集まった。
「よろしく。俺はアラン、中級冒険者だ。慣例によって、下級冒険者のパーティーに所属する中級冒険者は中核の働きが出来ない。だからあんた達三人の中から全体を統括する代表を選出して貰いたい」
アランの言葉に三人は顔を見合わせる。まず声を上げたのは、魔術師風のローブを着た細身のエルフの男性だった。
「僕の名前はルークと言います。一応火、風、水の攻撃魔術が使える魔術師で、うちは戦闘に特化している面子が多いので、全体指揮をするよりはパーティーの指揮を優先した方がいいと思います。頭脳担当僕だけなんで」
ルークのパーティーは、ルーク以外全員人間の女性で、戦士二名、斥候一名という構成だった。
次に試験を受けるパーティーの中では唯一の女性リーダーが意見する。
「あたしはデボラ。戦士だ。うちは斥候一名、神官二名、後『仲介屋』が居る」
「『仲介屋』とは何だ?」
バアルの疑問にルークも同様に疑問を呈す。
「『仲介屋』は事務仕事から経理、物品の手配なんかの裏方を務める奴のことさ。破産した商人の息子でね、小さい頃からそこら辺の事務に関する知識や教育を受けてるんだ。結構重宝するよ」
デボラのパーティーには一人だけドワーフがおり、武器らしい武器を携帯しておらず、インク壺やメモ用紙を持っている事から、そのドワーフが『仲介屋』と予想がついた。
「戦闘よりかは遺跡まで行くための準備とか、怪我したときの治療を集中してやる事になると思う。大人数の統率は初めてだが、出来なくは無いと思う」
「ならば任せよう」
バアルが即座に賛成を示し、アランとルークも了承した。デボラは次々に指示を出し始めた。
「まず遺跡の位置についての情報収集だ。これは斥候の役職持ちに手分けしてやって貰おうと思う。斥候が居るパーティーは?」
アランとルークが手を上げる。
「じゃあうちの斥候が指示を出すから、それに沿って情報収集してくれ。他の奴らは西門付近で待機。あ、食料とかはうちの『仲介屋』に手配させるから、誰か荷物持ちで付いて行ってくれ」
「『荷物持ち』…」
アランがチラリとバアルを見る。バアルは心得たと言うように頷く。
「俺達が荷物持ちをしよう。最近荷車を買い換えたからな、四パーティー分の物資は載せれるだろう」
バアルの提案を、遠くの方で状況を見守っていたヨハン達が聞いて、ひどく勿体無い物を見たように顔を歪めていた。
「リーダーさん達は自分の所のパーティーにあたしの指示を伝えといてくれ。質問は無いね? じゃあ行動開始」
デボラの宣言の下、下級冒険者達は速やかに動き始めた。
……
「よっと…、これで全部か」
バアルが二つ目の水樽を荷車に載せると、それでちょうど荷車のスペースが無くなった。水樽の他には保存食の入った箱、薬草や工具等が入った箱が所狭しと並んでいた。それらの上にマグナダインが蝋を塗った布を被せ、雨避け対策を施す。きっちり入るスペース全てを使い切って荷車一台に荷物をもとめるのは『仲介屋』の腕の確かさを物語っていた。
「こんなもんだろう。四パーティー十七人分+試験監督三人分で計二十人分。……本当に人力で運べるとは思わなかったぞ」
『仲介屋』のドワーフ、ボリスが感心したように呟く。その目は、幾つもの店を巡り徐々に重さが増していく荷車を、平気な顔で引いて来たファフニールの姿を見ていた。
「『荷物持ち』の役職は伊達では無いな。馬やロバを雇わんでよかったからやすく上がったわい。あ、お前さん達の分は今請求しとこうか」
全パーティーの食料を手配したボリスの腕前は見事で、普段バアル達が食料を買う時よりも大分安くなっていた。バアル達の負担分は金貨一枚で済んだ。
「随分安いな?」
「馬を雇う必要が無くなったからな、その分はお前さん達の手柄だし、少しおまけしといたぞ。荷車もお前さん達のだしな。さあ行こうか」
ボリスはそう言って髭面を笑みの形にすると、率先して歩き始めた。
バアル達が西門に着く頃には昼になっており、情報収集していた斥候組も帰っていた。バアル達の帰還を確認したデボラは、バアルとボリスを呼ぶ。
「手配は済んだかい?」
「おお、二十人分の食料と医薬品、必要と思われる工具類を買い揃えた。格パーティーの分担金はこのメモに書いてある。バアル達の分はもう貰ったから大丈夫だ」
デボラはチラリとファフニールが引く荷車を見ると、キョトンとした顔になる。
「馬はどうしたんだい?」
「バアルのパーティーのファフニールが引いてくれる様だから借りんかった。実際平気な顔して引いてるぞ」
「にしても半日引っ張れば流石に疲れるだろう。代わりはいるのかい?」
「半日位なら余裕だ。あいつのスタミナは信じてやってくれ」
デボラはしばらく考え込んでいたが、時間が無いと判断したのか、了解した。
「分かったよ。じゃあ早速出発するから。道々リーダー連中には話があるんであたしの近くに集まっといてくれ」
デボラの号令の下、冒険者達は移動を始めた。
斥候役の三人が交代で先行して先導し、様子を見つつ冒険者達は移動していく。エレナも緊張の為動作の端々に荒らさが目立ったが、特に失敗も無く偵察出来ていた。冒険者一行は途中から街道を外れて広い森に針路を取った。
デボラは道中、バアル達リーダー三人と情報収集にて分かった事を説明する。
「まず目標の遺跡は竜戦争より以前からある古い館跡らしい。館と言っても敷地面積は相当広く、半径一kmはあるそうだ。館そのものは石造り、広さは敷地全体の半分位の広さがあるそうだ。冒険者ギルドで調査がされているが安全性は低めだそうだ」
「何故ですか?」
ルークが質問するが、デボラの歯切れは悪い。
「何でも調査は複数回に分けて行われたらしいが、毎回敵との接触があった」
「それは遺跡の調査範囲が異なっていたからでは?」
「いや、全ての調査で館全域が調査されている。非公式の調査、要は盗掘、もあったらしいが、その時も敵と遭遇したんだと」
「敵の種類は?」
アランの問いかけに指折り数えてデボラが説明する。
「冒険者風のゾンビ・スケルトン、狼などの野生生物、そして一番多いのが魔術による傀儡の類だ」
「具体的には?」
「『生きている鎧』、ストーン・ゴーレム、ガーゴイル、…位かな。もっぱら石材でできた傀儡が多いとのことだ。『生きている鎧』の遭遇例は二回だけだが、他はほぼ毎回遭遇している」
「撃破はしてるのか?」
「そう、そこが問題だ。全ての調査で敵の撃破はされていて、死傷者もでていない。けど毎度の如く出る、ってことは、館内部でゴーレム達が作り出されていることになる」
「そんな施設は……、まあ見つかっていないんだろうなぁ」
「その通り。ゴーレム作成の施設が在るはずなんだが、見つからない。だから何回も調査されてたらしいんだが…」
「事前に紋章を置きに来た際には遭遇しなかったんだろうか?」
バアルが首を捻るがそれにはデボラも正確な答えは示せなかった。
「遭遇したかも知れないし、しなかったかも知れない。そこまでは調べられなかった。恐らく中級冒険者が雇われて設置しに行ったと思うが、中級冒険者で最近死人が出たって話は聞かなかった。まあそれだけで敵が居ないと思うのは早計だろうがな」
デボラは油断しないように、と念を押す。だが場を無駄に緊張させないようにフォローも入れる。
「だけどゴーレム達はそこまで強くないらしい。下級冒険者でも対処は可能だったそうだからな。居る可能性が高いのは、匂い袋で集めれられた狼とかだろうしな」
「狼位だったら、この人数なら何とでもなるさ。まあ気を緩めず、しっかりきっちり仕事をこなそうや」
アランがニヤリと笑いながらそう言う。他の者達も笑い顔に自身を滲ませながら同意した。
その後、話は館についてからのフォーメーションや野営計画に移っていった。……そんなリーダー達の話し合いをヨハン達は注意深く見守っていた。
……
館までの道のりは木々が塞いでいたため、荷車をどうやって運ぶかが問題になったが、ファフニールは木々の根っこで凸凹した地面でもあっさり乗り越えて行くので大変スムーズに移動できた。
軽快に荷を落とさぬ用に荷車を傾けながら進むファフニールを、いつしか下級冒険者達は感心を通り越して恐れに近い目をして見ていた。
デボラは念の為、遺跡を囲む柵外に野営する事にした。到着した頃には日が大分落ちており、探索そのものは明日にする事になっていた。
それぞれのパーティーで野営の為に準備を始める。バアル達の二個のテントは女性陣に貸し出す事になった。アナトーが不満気な顔をしていたが、バアルの命令に従い何も言わなかった。
野営の準備が済むと、バアル他リーダーが再度集められた。
「今晩の見張りのシフトはさっき決めた通りに、斥候が三交代で見張って各斥候のパーティーが追加で二名見張りをするように。バアル達は一人ずつ適当に見張りを出してくれ」
「分かった。明日はどうするんだ」
「斥候三名で手分けして館の周囲の状況確認。その後問題無ければ、ルークのパーティーを先頭に遺跡に侵入して探索を行う。ルークの後ろは私達、その後ろがアラン、最後尾はバアルのパーティーが担当してくれ」
「荷物はどうする?」
「過去の記録によると、館全体を回るのは敵との戦闘も含めて二、三時間程度で終わったらしい。一応動物避けの香を炊いておくから、問題無いだろう」
デボラの計画に特に異論は無かったのか他三人は了承した。デボラはそんなバアルを見ながら遠慮がちに声をかける。
「最後尾で不満は無いのか?」
「別に問題は無いぞ。後ろからの襲撃は任せろ」
役割を理解していたか、とほっとするデボラ。ルークは申し訳なさそうにバアルに謝る。
「すいません、最後尾は大体試験監督と一緒になるから、緊張するわバックアタックの警戒をちゃんとしてるか位しか評価点が無いから…、厳しいですけど頑張ってください」
「問題無いぞ」
バアルは何の気負いも含みも無くキッパリと言い切ったので、ルークの方がたじろいでしまった。
その後は見張り以外は各自自由に休む事になった。マグナダインが夕飯の調理を買って出たので、暇だったレジーナと、ルークのパーティーから一名女戦士が手伝いを申し出た。
「あ~~…、ちょっと待ってな……」
マグナダインはそう言うと大急ぎで森の中に姿を消した。何やらブツブツと呟く声が聞こえ、時折マグナダイン以外の声も聞こえた気がする。十分後位に戻ってきたマグナダインは大分憔悴していたが、剣を荷車の荷台にまるで隠すように置くと、調理を始めた。
マグナダインの調理風景を見たレジーナと戦士の女性は口々に本場の料理人の様だと褒め、手元をよく見ようと近づくが、その度に何かの殺気を感じたそうな。
マグナダインの作った料理は他の冒険者達にも好評で、ヨハン達は冗談交じりに合格をやってもいいぞ、と言って皆の笑いを誘った。それにマグナダインは乾いた笑みを浮かべ、調理前より更に疲労した表情でボソリと呟いた。
「今度から集団行動の時は料理しないようにしよう……」
幸いその声は誰にも聞こえなかった。バアル達には何となく予想が付いていたが。
……
その夜は問題なく過ぎ、次の日の朝、バアル達は行動を開始した。
遠目から見た館は石造りで三階建ての豪奢な見た目だったが、所々倒壊しており、侵入できそうな部分がいくつも見つかった。
まず、斥候三名が館の周囲を偵察し、状況確認を行った。だが帰ってきた斥候の一名は浮かない顔をして戻ってきた。
その顔を見て、嫌な予感を感じつつデボラは何があったか確認する。
「どうした、何かあったのか?」
斥候は淀みなく、不安が漏れ出さない様に淡々と答える。
「狼の集団らしき足跡があった。数は二~三十頭だと思う。足跡は全て館の方に向かっていて戻ってきた足跡は確認出来なかった。恐らく匂い袋に釣られたんだと思う。足跡の状態からして昨日か一昨日来たようだな」
敵の存在が示唆された事により、冒険者達に緊張が走る。数の上ではほぼ同数だが、初めての集団行動による連携の不安が皆の心にまとわりつく。
「狼か、ならうちのアナトーに任せようか」
バアル達を除いて。
「? そう言えばバアルのパーティーのアナトーって『魔獣使い』なんだっけ。一人で狼の群れをどうにかできるのかい?」
「ああ、太鼓判を押すぞ」
デボラはしばし悩んでいたが、こっそりヨハン達の様子を見て、何かを期待するようにバアル達の話し合いを見つめる様から何か感じ取ったのか、バアルの案に賛成した。ただし、いつでもアナトーをフォロー出来るように、ルークとバアルのパーティーを後ろに控えさせた上で、という条件を付けたが。
「そういう訳で、アナトー、狼たちを余所へやってくれ」
「かしこまりましたわ、バアル様」
遜ってバアルに接するアナトーを、他の冒険者は奇異の眼で見ていたが、当人はどこ吹く風と、颯爽と歩き出した。それにルークとバアルのパーティーが続く。
アナトーが館の正門近くまで来ると、館の一階部分に開いた穴から狼の集団が出てきた。
ルーク達が臨戦態勢を取ろうとするが、アナトーはそれを手で制し、狼の群れに近づく。
狼達は、最初ルーク達を見て唸り声を上げていたが、アナトーの接近に気付くと、アナトーの接近に合わせ徐々に静かになっていく。その尻尾は唸り声に反比例して速度を上げて振られ、アナトーが目の前に来ると千切れんばかりの速度になった。
「おはよう。この群れのリーダーは誰?」
アナトーが子どもに問いかけるように狼の群れに話しかけると、中から一際大きな雄の狼のが進み出てきた。尻尾は軽くであるが振られており、その眼は警戒心ゼロ、親愛度MAXの色が浮かんでいた。
アナトーはそんなリーダーの目線に合うように膝を付くと、説得し始めた。
「ごめんなさいね、今からこの館の中に入って調査したいの。昼過ぎまでには終わると思うから、少しの間どこかに行っててくれる?」
ウォン!
全く問題有りません、とばかりに元気よく狼のリーダーは吠える。アナトーはそんなリーダーの頭を優しく撫でて微笑む。
「ありがとうね」
アナトーに撫でられたリーダーは耳を垂れ、蕩けそうな面相で気持ち良さそうに唸る。…後ろの狼達は嫉妬の眼でリーダーを睨みつけ始めた。それに気づいたアナトーは順番に他の狼を撫で始めた。
ウォン! ウォン! ク~ンク~ン…
鼻を鳴らし、媚びるているようにも見える様子で狼達は次々と撫でられていく。まるで配給を待つ列の如くきっちり並んで順番を待つ狼達を、ルーク達そして遠目から見ていたデボラ達は唖然とした表情で眺めていた。
最後の狼を撫で終わると、狼達は何度もアナトーの方を振り返りながら名残惜しそうに森へ去って行った。
アナトーは振り返ってバアルの前まで来ると、頭を垂れて報告する。
「狼の群れ、無事に退去させました」
「うむ、ご苦労」
そう言ってバアルはアナトーの頭を撫でる。すると、アナトーは待ってましたとばかりに極上の笑みで喜びを表現する。
その笑みに思わずルークが見とれてしまい、仲間の女性陣から突っつかれるという一幕もあったが、冒険者達は、無事に障害の排除に成功したことを喜んだ。
一旦戻ってきたバアル達をデボラは労う。
「いや、大したもんだね。野生の狼をあんな風に手玉に取るとは!」
「恥ずかしながら、私の唯一の特技ですので…」
そうアナトーは謙遜するが、周りの冒険者達は全員アナトーに一目置いた。
そして、後ろの方からヨハンの声が発せられる。
「アナトーさんの動物使いの能力、確認したぜ。文句なしに合格!」
「え、あ、ありがとうございます」
アナトーは突然の合格宣言に少し戸惑ったが、はにかみつつ礼を言う。そのはにかむ様子にバアル達以外の男は皆デレっとした表情を浮かべては女性メンバーに正気に戻された。…一部女性も見とれて居たが。
「よし! じゃあ次は本番の遺跡探索だ!」
デボラの号令が森に木霊し、昇格試験の第二ラウンドが開始された。




